第24回 核燃料物質の取扱いに関する技術

第24回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の取扱いに関する技術

第1問 次のフローチャートは,開封容易な輸送容器を用いて,「核燃料物質等の工場又は事業所の外における運搬に関する規則」 第13条の2に該当する使用済(又は照射された)燃料の輸送作業の一部を示したものである。以下の問に答えよ。

①輸送容器の装荷前準備 ②収納物(使用済燃料)の確認検査
┌──── ┘              ↑
③輸送容器への使用済燃料装荷
線量当量率測定
⑤輸送物の試験・検査←─── ───── ──────⑪官庁による確認検査
⑥標示
├─────────────
施錠 及び⑧封印
├─────────────
⑨車両への荷付←────── ───── ───────────────┘
⑩車両による陸上輸送

(1)上記フローチャートの空欄の④,⑦及び⑧の工程を記せ。

(2)①の工程において,輸送容器の設計に適合するように輸送容器が維持・管理されていることを示す検査が実施される。 それに関して,輸送容器に必要な検査項目を2つ示せ。

解答例(①輸送容器の装荷前準備)

  • 外観検査
  • 気密漏洩検査
  • (吊り上げ検査)
  • (作動確認検査)

(3)⑤の工程において,運搬に関する規則上,必要な輸送物の検査項目を3つ示せ。 但し,問題(2)の①の工程の検査項目とは重複しないこと。

解答例(⑤輸送物の試験・検査)

  • 重量検査
  • 線量当量率検査
  • 温度測定検査
  • 表面密度検査
  • 収納物検査
  • 未臨界検査

(4)⑨及び⑩の工程においてそれぞれ留意すべき事項を簡単に説明せよ。

解答例

⑨車両への荷付

運搬中において、移動、転倒、転落等により核燃料輸送物の安全性が損なわれないように積み込む。

⑩車両による陸上輸送

車両の速度、伴走車の配置、車両編成、駐車及び一時保管をする際の見張人の配置等の保安措置を遵守する。

[註:放射性物質等の輸送法令集,日本原子力産業会議〕

第2問 次の文章の空欄の部分に最適な語句又は記号及び文章を番号とともに記せ。

(1) 天然ウランは,235U, 238U及び [(234U)] の混合物である。 238Uは [(4n+2(ウラン))] 系列,235Uは [(4n+3(アクチニウム))]系列である。 再処理回収ウラン中には,天然ウランには存在しない [(232U)] や [(236U)] のウラン同位体が混在する。 [(232U)] は72年のα崩壊半減期を有し,α崩壊により [(228Th)] となり, 以降は [(4n(トリウム))] 系列に従って崩壊し,最後に安定な208Pbとなる。 この崩壊系列の中の212Biと [(208Tl)] は高エネルギーγ線を放出するので回収ウラン取扱には被ばく防止策が必要な場合がある。 [(236U)] は [(中性子吸収断面積)] が大きく,235Uの実効濃縮度を低下させるので,回収ウランを含む燃料の設計においては注意すべき核種である。

[註:原子力化学工業 第II分冊 核燃料・材料の化学工学,清瀬量平訳,日刊工業新聞社

[註:原子力化学工業 第III分冊 使用済燃料とプルトニウムの化学工学,清瀬量平訳,日刊工業新聞社

(2) Puはα放射体であるが、大多数のPu同位体及び一部のPu崩壊生成物は,それぞれ中性子線及びγ線を放出する。 γ線の主な放出源は241Puの娘核種である [(241Am)] と237Uである。 これらは,共に約 [(60)] keV の最大γ線強度を持つが,237Uは208 keVにもかなり強いγ線強度を有している。 Puから放出される中性子線は [(自発核分裂)] によって生じるもの及び酸素やフッ素などの軽元素との [( (α,n) )] 反応によって生じるものがある。 [(自発核分裂)] によって生じる中性子の大部分は,[(238Pu)],[(240Pu)] 及び [(242Pu)] のPu同位体に起因している。 Pu同位体組成は燃料の燃焼度によって著しく異なる。 燃料の高燃焼度化に伴いPu同位体のうち,[(239Pu)] は相対的に減少するものの,γ線中性子線の主要な放出源となるPu同位体は増加するため, Pu取扱施設で使用されるPuからの線量当量率は高燃焼度化に伴って一層高くなると予想される。 γ線及び中性子線による被ばくの低減対策として,いくつか考えられるが,代表的なものとして, [(グローブボックスの窓面等に遮へいを設ける、もしくはセル化を図る。)], [(遠隔操作を行う。)] 及び [(作業の効率化を図り、作業時間を短縮する。)] の3つが挙げられる。

[註:原子力化学工業 第III分冊 使用済燃料とプルトニウムの化学工学,清瀬量平訳,日刊工業新間社]

第3問 臨界に関する,次の問に答えよ。

(1) 過去に発生した核燃料施設における臨界事故として,核分裂数が1018程度のものが主であるが, 核分裂数が1018である臨界反応が生じた際に発生するエネルギーは,1 kWの電熱器を何時間使用した時に発生するエネルギーに相当するか, その時間を計算により有効数字1桁まで求めよ。

参考:1 eV = 1.6×10-19 Joule, 1 W = 1 Joule/sec

解答例

発生するエネルギー 200 MeV×1018 = 200×106×1.6×10-19×1018 Joule = 3.2×107 Joule

電熱器の発熱量 1 kW = 103 Joule/sec,

従って 3.2×107 Joule / 103 Joule/sec = 3.2×104 sec ≒ 9 時間。

[註:核燃料工学,三島良績編著,同文書院

(2) 再処理施設の溶解槽における臨界管理の方法として,どのような管理方法が考えられるか,5つ記せ。

解答例

  1. 用いる装置、機器、容器等の形状及び配列を制限する「形状寸法管理」
  2. 溶液中の核分裂性物質の濃度を制限する「濃度管理」
  3. 取り扱う核分裂性物質の量を制限する「質量管理」
  4. 同位体の組成を制限する「同位体組成管理」
  5. 適切な中性子吸収材を用いる「中性子吸収材管理」

[註:核燃料の臨界安全,(財)原子力安全研究協会・核燃料施設臨界安全管理編集委員会

第4問 放射性物質の閉じ込め機能に関する,次の問に答えよ。

(1) プルトニウムを含む溶液及び高レベル放射性液体廃棄物を取り扱う施設での換気系における負圧管理及び放射性物質の除去の2 点について, どのような配慮をなすべきか,これらの目的のために設置する機器を例示しながら述べよ。

解答例

  • 管理区域内に多重障壁を設け、排風機ファンを用いた強制換気方式により、各障壁で区分された内部 (グローブボックス・セル等、作業室・工程室等、管理区域内廊下等)を常時その外部より負圧に管理する。
  • 排風機ファンには非常用電源を設け、外部電源喪失時においても負圧を確保させる。
  • また、排気系には高性能エアフィルタ、洗浄塔等の放射性物質の除去を目的とした濾過装置を設ける。

(2) また,上記の施設における液体の漏洩に対してどのような対策を講ずべきか,この目的のために設置する機器を例示しながら述べよ。

解答例

  • 放射性物質を収納する系統及び機器は、放射性物質が漏洩し難い構造であること。
  • また使用する化学薬品等に対して、適切な腐食対策が講じられていること。
  • 液体を収納する系統及び機器は、原則としてセル等に収納されること。
  • セル等は、液体状の放射性物質が万一漏洩した場合にも、その漏洩を検知し漏洩の拡大を防止すると共に、 漏洩した放射性物質を安全に移送及び処理できる設計であること。

[註:原子力安全委員会安全審査指針集,科技庁原子力安全局 原子力安全調査室,大成出版社〕

第5問 核燃料物質の取扱いに関連して次の事項を簡単に説明せよ。

  1. IFR (Integral Fast Reactor) 燃料サイクル
  2. 被覆燃料粒子製造用流動床
  3. 核分裂電離箱 (Fission Chamber)
  4. NRTA (Near Real Time Materials Accountancy)
  5. 放射性廃棄物処分におけるナチュラル・アナログ研究

解答例

(1)「IFR (Integral Fast Reactor) 燃料サイクル」

米国から提案された新しい金属燃料FBRサイクルであり、小型のタンク型の炉心を用いて再処理をオンサイトで行うという概念に基づいている。 IFR燃料サイクルでは、燃料の再処理に高温冶金法を、成型加工に射出成型法を採用しているのが特徴で、 それに伴い工程の簡素化、建屋ならびに機器の小型化、廃棄物量の低減化が期待される。 研究開発は、主に米国アルゴンヌ国立研究所(ANL)で実施されている。

(註:常磐井他,金属燃料FBRサイクル-開発の現状と課題-,原子力工業,33 (5) (1989)〕

(2)「被覆燃料粒子製造用流動床」

被覆燃料粒子製造工程において、化学蒸着 (CVD) を応用した方法を用いて燃料核に熱分解炭素 (PyC) あるいはシリコンカーバイド (SiC) を被覆するための装置である。 ラッパ状の黒鉛反応管に燃料核あるいは被覆途中の粒子を装荷し、約1500℃に加熱した反応管の下部ノズルから粒子流動ガスおよび原料ガスを吹きつけ、 原料ガスから熱分解した炭素あるいはシリコン原子を、流動している粒子上に蒸着させる。

[註:核燃料工学-現状と展望,「極限燃料技術」研究専門委員会,(社)日本原子力学会

(3)「核分裂電離箱 (Fission Chamber)」

中性子検出用の測定装置の1つであり、電離箱の一方の電極に酸化ウラン等を塗布した形が典型的なものである。 中性子核分裂を引き起こし、その結果生じた核分裂片の電離作用により中性子を検出する。 動作が安定なため、原子炉制御等に用いられる。 電極に塗布する核分裂性物質は熱中性子用には233U, 235U, 239Pu等が、高速中性子用には238U, 237Np, 232Th等が使用される。

[註:詳解放射線取扱技術,日本原子力産業会議〕

(4)「NRTA (Near Real Time Materials Accountancy)」

バルク施設に対する物質計量管理の一種で、核物質の移動の検認の他に、実在庫検認が工程内の計測器類を使用して、当工程の操業を阻害することなく頻繁な間隔で行われるようなシステムを言う。 NRTAの目的は、データが逐次得られる特徴を生かして、統計検定法を用いながら探知の感度と適時性を改善することにある。

[註:JAEA保障措置用語集,科技庁原子力安全局保障措置課監修,(財)核物質管理センター

(5)「放射性廃棄物処分におけるナチュラル・アナログ研究」

放射性廃棄物地層処分に関連して、人工バリア、天然バリア中の放射性物質の移行を自然界に存在する地層等を利用して調べる研究である。 放射性物質の移行については、研究対象となる時間軸が非常に長くなるため、実験室での研究には限界がある。 ところが、例えば処分環境に類似した自然環境を選び、その中での何千年あるいは何億年にわたる物質移行を調べることで、放射性廃棄物処分の安全性が評価できる可能性がある。

[註:原子力化学工業 第IV分冊 燃料再処理と放射性廃棄物管理の化学工学,清瀬量平訳,日刊工業新聞社

出典:

内田 正明; 吾勝 永子; 荒井 康夫; 湊 和生; 末武 雅晴; 高田 和夫; 井川 勝市, 核燃料取扱主任者試験問題解答例集, JAERI-Review 94-001, 1994年, http://dx.doi.org/10.11484/jaeri-review-94-001