第25回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第1問

以下の計算をせよ。結果は有効数字2桁まで記せ。

(a) TBPをドデカンで希釈(有機相)し,2M硝酸溶液(水相)間のU(VI)の分配比(有機相中のU(VI)濃度/水相中のU(VI)濃度)を計ったところ,10.0であった。 いま,U(VI)1.0×10-2モルを含んだ2M硝酸溶液1000 mLに,このTBP-ドデカン溶液100 mLを加えて,よく振りまぜた。 このとき有機相に移ったU(VI)のモル数を求めよ。 ただし,両相は硝酸濃度に関して予め平衡に達しているものとする。

解答例

有機相に移ったU(VI)のモル数をxとすると、分配比が10.0であることから、


\frac{ x/100 }{ (1.0\times10^ {-2} - x) / 1000 } = 10.0


∴ x = 5.0\times10^ {-3}

答え 5.0×10-3モル

[参考書の紹介]

(b) 定比組成の三酸化ウラン (UO3.00) の一定量をとり,水素気流中で加熱,還元して,定比組成の二酸化ウラン (UO2.00) とした。 この反応中,生じた水蒸気のみをトラップに捕集したのち,200℃,1気圧として体積を測定したところ,500 mLであった。 初めの三酸化ウランのモル数を求めよ。 ただし,水蒸気は理想気体と考え,必要であれば気体定数を8.2×10-2 L・気圧・K-1・mol-1とおいて計算せよ。

解答例

この反応は、下式で表わされる。


\textrm{UO} _ {3.00} + \textrm{H} _ 2 \to \textrm{UO} _ {2.00} + \textrm{H} _ 2 \textrm{O}

反応前の三酸化ウランのモル数は、反応で生じる水蒸気のモル数に等しい。 したがって、水蒸気のモル数(三酸化ウランのモル数)を n とすると、理想気体の状態方程式により、


n = PV/(RT) = 1\times0.5/(8.2\times10^ {-2}\times(200+273)) = 0.0128...

答え 1.3×10-2モル

[参考書の紹介] ・菅野昌義、“原子炉燃料”(東京大学出版会、1976)

第2問

次の文章中の空欄の部分に記入すべき語句,化学式,あるいは数値を記号とともに記せ。 ただし,⑫と⑮には,酸化,あるいは還元のいずれかの語句を記入せよ。

(a) トリウムの窒化物には[①ThN]と[②Th3N4]の二つがある。 このうち[②Th3N4]は[③定比]組成の化合物で電気伝導率も低く,[④イオン]結晶と考えられる。

ウランの窒化物では[⑤UN]とU2N3の二つがよく知られている。 そのほかに,[⑥UN2]を合成したという報告もあるが,N/U原子比として1.84程度以上の窒素を含んだ化合物は得られず, この相の存在は確認されていない。

U2N3にはα相とβ相の2相がある。 α相の結晶系は[⑦体心立方]晶系で,N/U原子比が1.54から1.75位までにわたる広い不定比領域がある。 ネプツニウムプルトニウムアメリシウムのように原子番号が大きな元素では,窒素/金属の原子比が[⑧1]の窒化物のみが得られる。 アクチノイドの一窒化物(MN,Mはアクチノイド)の製法には大別して二つのものがある。 一つは[⑨金属]あるいは水素化物を加熱し,ここに窒素あるいはアンモニアを流して反応させる方法である。 もう一つは,酸化物と[⑩炭素]の混合物を高温に加熱し,ここに窒素あるいはアンモニアを流して反応させる方法である。

(b) 重ウラン酸アンモニウム((NH4)2U2O7)を空気中500℃に加熱すれば[⑪UO3]が得られる。

二酸化ウランを空気中で次第に温度を上げていけば,200℃ぐらいから[⑫酸化]による重量の増加がはじまる。 昇温速度を一定に保ち,重量増加を温度に対してプロットしてみると,200から400℃の間に[⑬U3O7]相の生成による重量増加の停滞がみられる。 温度をさらに上げ,700から800℃とすれば,化学式が[⑭U3O8]のように表わされる酸化物になる。 これを二酸化ウランに[⑮還元]するには,[⑯真空中]あるいは[⑰H2]のようなガス気流中で加熱すればよい。

二酸化ウランをアルカリ金属あるいは[⑱アルカリ土類]金属のような陽性金属と高温で加熱すれば,金属ウランが得られる。 もっとも,この方法では二酸化ウランよりも,[⑲UF4]を出発物質とした方が効率がよい。 金属ウランを得るのに,別のよく用いられる方法は,[⑳溶融塩電解]法である。

[参考書の紹介] ・菅野昌義、“原子炉燃料”(東京大学出版会、1976) ・長谷川正義、三島良績(監修)、“原子炉材料ハンドブック”(日刊工業新聞社、1977)

第3問

次の文章中の空欄の部分に記入すべき語句,記号または数値を記せ。

(1) アクチノイドは,原子番号89の[①Ac]を起点として,以下,原子番号順に [②Th],[③Pa],[④U],[⑤Np],[⑥Pu],[⑦Am], Cm,Bk,Cf,Es,Fm,Md,No,Lr の15元素から構成されるが,核燃料としては[②Th],[④U],[⑥Pu]などを含む物質が用いられる。 アクチノイドの電子構造は,ランタノイドのようなf電子逐次充填系列を形成せず,5f,[⑧6d],7s電子から構成され, この電子構造を反映して磁気的には[⑨常磁性],原子価については[⑩3~7価],イオン半径については[⑪アクチノイド収縮],などの特性を示す。 また,アクチノイド微粉末は,[⑫発火性]であるため,その取り扱いに注意が必要である。

(2) [④U]および[⑥Pu]の融点は[⑬1132℃],[⑭640℃],室温における結晶構造は,[⑮斜方晶],[⑯単斜晶]であるが, 商用炉で利用されている二酸化ウラン燃料の融点は,[⑰O/U比],[⑱微量の不純物]によって異なり,ほぼ[⑲2850℃],結晶講造は[⑳面心立方晶]である。

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第4問

二酸化ウランにおいて,その不定比性が固体物性におよぼす影響について300字程度で説明せよ。

解答例

融点は、O/U比が2.00から増加しても減少しても、低下する。 熱伝導度は、O/U比が2.00から増加すると、過剰酸素がフォノンによる熱の伝導を妨げるために、著しく低下する。 O/U比が2.08では、2.00の場合の約50%である。 O/U比が1.9~2.00の範囲では、熱伝導度には顕著な差がないとされている。 機械的特性については、O/U比が2.00から増加すると、縦弾性係数は減少し、曲げ強さは増加する。 クリープ速度は、O/U比が2.001から2.01に増加すると数倍に増加し、2.001から2.1に増加すると数10倍に増加する。

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第5問

核燃料に関連して次の事項を簡単に説明せよ。

  1. 酸素ポテンシャル
  2. 水素化ウラン
  3. FPガス
  4. 焼きしまり
  5. 照射クリープ

解答例

(1)酸素ポテンシャル

酸素ポテンシャルとは、 RT \ln (p _ {O2} / p^ {\circ} _ {O2})で定義される。 ここで、R:ガス定数、T:絶対温度、pO2:酸素分圧(MPa or atm)、p°O2:標準状態の酸素圧(0.101 MPa or 1 atm)である。 熱力学的には、ある元素が酸化物になるにはある一定の酸素ポテンシャルか必要である。 酸化物燃料においては、酸素ポテンシャルに応じて、燃料、核分裂生成物、被覆管などが核分裂により解き放たれる酸素と結合するので、酸素ポテンシャルはそれらの化学形を知るうえで重要な指標である。

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(2)水素化ウラン

水素化ウランとしては、100℃以上で生成するβ-UH3と低温型のα-UH3の2つが知られている。 β-UH3の比容積はα-Uの1.77倍であり、金属ウランが水素化ウランになると著しい体積膨張を示す。 水素化ウランは、室温では極めて低い平衡水素圧を有し、数100℃においては比較的高い平衡水素圧を有するので、水素の一時貯蔵材料として優れている。 とくに、トリチウム生産プロセスにおけるトリチウム吸蔵・精製材料として、また、核融合炉燃料サイクルにおけるトリチウム貯蔵材料として検討されている。

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(3)FPガス

核分裂生成物 (fission product, FP) のうち、核分裂収率約25%であるXe、Krなどの希ガスをFPガスと呼ぶ。 これら希ガスは化学的に不活性であり、マトリックスに対する溶解度が小さいので、気孔として成長したり、拡散して結晶粒界に気泡として析出する。 粒界気泡は、成長、連結してトンネルを形成し、FPガスはこのトンネルを通って燃料ペレットから放出される。 FPガスの放出は、ペレット-被覆管のギャップ熱伝達率を低下させる。 また、マトリックス中のFPガスおよび粒界気泡は、燃料のスエリングの要因の1つである。

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(4)焼きしまり

照射中に燃料ペレットが収縮する現象を焼きしまりという。 燃料を照射すると、核分裂のために燃料中の格子欠陥が増大し、燃料構成原子の自己拡散の促進およびそれに伴う焼結の促進、気孔の収縮・消滅など起き、これらが焼きしまりの原因と考えられている。 焼きしまりにより、線出力密度の増大、軸方向ギャップの形成による出カスパイク、軸方向ギャップ部での被覆管のつぶれ、ペレット-被覆管ギャップの増大などが引き起こされる。 焼きしまりの程度は、1700℃、24時間の炉外加熱による熱的焼きしまりの測定により評価できる。

[参考書の紹介〕

(5)照射クリープ

照射下におけるクリープ速度は炉外における値よりも増大する。 熱クリープが起こらないような1000℃以下の低温においては、熱中性子束および応力に比例し、ほとんど温度に依存しないクリープ速度を示す。 これを照射誘起クリープ (irradiation induced creep) という。 また、熱クリープが起こる高温においては、照射下におけるクリープ速度は炉外における値よりも大きく、これを照射加速クリープ (irradiation enhanced creep) という。

[参考書の紹介]

出典: 内田 正明; 吾勝 永子; 荒井 康夫; 湊 和生; 末武 雅晴; 高田 和夫; 井川 勝市, 核燃料取扱主任者試験問題解答例集, JAERI-Review 94-001, 1994年, http://dx.doi.org/10.11484/jaeri-review-94-001