第31回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第1問

定比からのずれ(x)が増加すると、二酸化ウランUO2+x(x≧0)の下記に示す諸物性はどのような変化をすると考えられるか。 横軸に x を、縦軸に各物性をとり、その概略図を描け。 また、そのように描いた理由を説明せよ。

  1. 酸素ポテンシャル
  2. 酸素の自己拡散係数
  3. 密度
  4. 熱伝導率

解答例

(1) 酸素ポテンシャル(概略図は省略)

格子欠陥濃度に依存して[増大]するが、特に x の小さい領域で顕著である。

(2) 酸素の自己拡散係数(概略図は省略)

格子欠陥濃度に[比例する]と考えられるが、十分に定量的なデータはない。

(3) 密度(概略図は省略)

焼結温度を変えることで x を制御すると、このように x と共に密度は低下する。 雰囲気を変えると逆に増加するというデータもある。(無意味な設問である。)

(4) 熱伝導率(概略図は省略)

特に x の小さい領域で低下する。

(newclears注:ただし、元の図は定比からのずれ x の増加と共に熱伝導率が低下するグラフとなっている。 以下はhttps://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11101343891より引用: UO2燃料の熱伝導率が、温度の上昇に伴って小さくなるのはなぜか? 熱伝導の機構には 1. フォトンによるもの、2. 電子によるもの、3. 輻射によるもの、4. 対流によるもの、が働いている。 UO2はセラミックス材料なのでフォノンによる寄与が大きいが、UO2は300℃以上からUやOのイオンの入っていた場所に空孔が入りやすくなる。 これはウランと酸素の状態図から分かる。また、このように欠陥が入ったり組成比が整数比から幅をもって存在するような物質を不定比性化合物という。 フォノンとは原子の振動なので、その途中に空孔があると、うまく振動を伝えられないので熱の伝達が悪くなる。 そしてUO2は高温になるほど空孔がたくさん入るので、その分、熱が伝わりにくくなるという機構が発生する。)

第2問

軽水炉燃料の高燃焼度化において検討すべき重要な項目を二つ以上あげ、その要点を300字程度で説明せよ。

解答例

① [FPガス放出量]の増加

FPガス生成量は燃焼度に比例して[増大]する。 従ってガス放出率が一定であっても放出量は[増大]するが、高燃焼度化に伴って放出率も一般に[増大]する。 (放出率はもともと一定になるべき量ではない。 拡散モデルの考え方によれば、FPガスは一時的に燃料中に保持されるだけであるから100%放出に向かって増大すべきものである。) さらに高燃焼度では、低温のペレット外周部においてUO2結晶が[細粒化]して、 高圧のFPガスを含む粗大化した気泡を取り囲み高い[ポロシティ率]を持つリム組織となる。 しかし、このリム部においては、[大部分のFPガス]は、組織中に保持されていると見られる。 放出されたFPガスは燃料棒の[内圧]を増大させる。

② 被覆管の[腐食]と[水素化]の促進

高燃焼度下では、被覆管の外面の腐食量は燃焼度に比例して、または加速して[増大]する。 これに伴って内圧を支えるべき金属部が[減少]するばかりでなく、腐食に伴って吸収された水素が[ジルコニウム水素化物]を作り、被覆管を脆化させる。

第3問

Purex法再処理工場で使用済燃料よりウラン、プルトニウムをそれぞれ単独に分離するとする。 これはどのような方法によって行われるか。 ウラン、プルトニウム核分裂生成物の化学的性質に基づき説明せよ。 また、この分離プロセスにおいてアメリシウムネプツニウムはそれぞれどのような挙動をするか理由を附して説明せよ。

解答例

ウランは硝酸中で[6]価、プルトニウムは[4]価が比較的安定であり、共に3Mの硝酸溶液から、[30%TBPドデカン溶媒]に抽出され、 1価のアルカリ元素、2価のアルカリ土類元素、3価の希土類元素、その他の核分裂生成物の大部分、 及び3価の陽イオンとして存在するアクチノイド元素は抽出されないため分離される。 有機相をウラン4価あるいはヒドラジンを含む3M硝酸と接触するとプルトニウムは[3価に還元]され、水相に逆抽出されウランと分離される。

(newclears注:ウラン4価(ウラナスイオン)を利用した還元の反応式は、
2Pu4+ + U4+ + 2H2O ←→ 2Pu3+ + UO22++ 4H+
である。ヒドラジンについては見つけられていないので参考までに硝酸ヒドロキシルアミンを用いた還元の反応式を示すと、
2Pu4+ + 2HONH3+ ←→ 2Pu3+ + 4H+ + 2H2O + N2
である。ウラナスイオンの方が反応速度が大きく確実に還元できるが、ウラン取扱い量が増えるという欠点があり、これを補う形で硝酸ヒドロキシルアミンが用いられている。出典:AESJ核燃料サイクル

6価に酸化]されたウランは有機相に抽出される。 6価のウランを含む有機相から[希硝酸]でウランを逆抽出し、ウランを単離する。 アクチノイド元素で[3]価が安定なアメリシウム有機相に抽出されず、他のFPと共に水相に留まる。 ネプツニウム5]価は有機相に抽出されず、水相に留まるが、酸化、還元条件により6価のネプツニウムが生成し、 有機相中に抽出され、ウラン-プルトニウム分離工程で5価に還元され、プルトニウムと共に水相に移行する。

第4問

軽水炉燃料を原子炉にて30GWD/t程度燃焼させた場合、次のFPはどのような形で燃料中に存在するか。 簡単に理由を附して説明せよ。

  1. Ce
  2. Pd
  3. I
  4. Kr
  5. Ru
  6. Ba
  7. Cs
  8. Pr
  9. 3H
  10. Sr

解答例

(1) Ce、(6) Ba、(8) Pr、(10) Sr:[酸化物]を形成する。

(2) Pd、(5) Ru:貴金属元素であり、[合金相]を形成する。

(3) I:[CsI]を形成する。揮発性である。

(4) Kr:希ガスであり、一部が原子状に固溶するほか、一部は[流界気泡※]を形成し、一部はプレナム部に放出される。
※newclears注:[粒界気泡]の誤りか

(7) Cs:[CsI]を形成する他、燃料中低温部で[ウラン錯酸化物]を作る。

(9) 3H:[被覆管中]に移行する。

第5問

核燃料物質に関連して、次の事項を簡単に説明せよ。

  1. プルサーマルMOX燃料
  2. 照射下での粒成長
  3. 高温ガス炉燃料
  4. イエローケーキ
  5. 劣化ウランと減損ウラン

解答例

(1) プルサーマルMOX燃料

UO2-PuO2混合酸化物燃料であるが、軽水炉で使用するため、 核分裂性のプルトニウム (239Pu、241Pu) 含有割合をウラン燃料の濃縮度[とほぼ同じ程度]とする。 このため全体のプルトニウム含有量は[6%程度]とする。 このため物性的にはウラン燃料と大差ないが、核的には中性子吸収断面積が[大きい]など、原子炉制御上の問題は増大する。

(2) 照射下での粒成長

核燃料は一般に焼結で製造され、[10ミクロン]程度の結晶粒径をもっているが、照射下で高温条件におかれると、結晶粒の成長がおこる。 UO2の場合、その下限温度は[1200]℃程度であり、その場合の結晶粒は正多角形的な形状をもっていることから、[等軸晶]とよばれる。 (なお、高出力下で[2000]℃に近い温度領域ができると、半径方向に長く伸びた結晶粒が形成されて、柱状晶とよばれるが、 実用燃料がこのような温度条件で使用されることはない。)

(3) 高温ガス炉燃料

高温ガス炉は実用されておらず、歴史的に種々の設計が考えられ、それに伴って燃料も種々のタイプが考えられた。 いずれも[黒鉛]を構造の主体にするという点では共通している。 日本で試みられているのは[被覆粒子燃料]とよばれるもので、UO2の微少な球形粒子を黒鉛、炭化ケイ素などで 被覆した燃料球を黒鉛マトリックス中に散在させたものである。

(4) イエローケーキ

ウラン鉱石の粗精錬後の製品の総称であり、[6]価のウランが一般に黄色を呈することからその名がある。 具体的な化合物名としては、[重ウラン酸アンモニウム]である。

(5) 劣化ウランと減損ウラン

天然ウランを濃縮する工程で、[廃棄物]として生ずる235Uをほとんど含まないウランを劣化ウランという。 濃縮ウランを原子炉中で燃焼させることにより、濃縮度が天然ウラン(0.71%)以下に低下したものを[再処理により回収した]場合、これを減損ウランという。 なお、濃縮度が天然以下であるかどうかで区別しない場合には、一般に回収ウランとよばれる。

出典

谷内 茂康; 佐藤 忠; 須賀 新一; 小室 雄一; 内田 正明; 中島 邦久; 中村 仁一; 雨澤 博男; 大村 英昭; 湊 和生; 武田 常夫; 櫛田 浩平; 傍島 眞 核燃料取扱主任者試験問題・解答例集,1999~2003年, JAERI-Review 2003-025,https://doi.org/10.11484/jaeri-review-2003-025