第32回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の取扱いに関する技術

第1問

この流れ図はウラン精製過程の概略を示したものである。以下の問に答えよ。

鉱石
 ↓
酸侵出
 ↓←H2SO4
[①UO2(SO4)
 ↓
溶媒抽出
 ↓←0.05M-HCl
[②UO2Cl2
 ↓
電解
 ↓
[③UCl4
 ↓
フッ化
 ↓←HF
脱水
 ↓
[④UF4

(1) 流れ図の中の①から④までの空欄に最適なウラン化合物の化学式を記入せよ。

参考文献三島良績、他、「核燃料工学」、p.153、同文書院(1982)

(2) ①の物質を取り扱う際の注意点を放射線防護の観点から簡潔に述べよ。

解答例

天然ウランに対する一般的な放射線防護に関する注意点を述べる。 天然ウランの比放射能が低いため、外部被曝管理は問題ない。 しかし、体内に摂取された場合は、放射性物質としての内部被曝管理が重要となる。 したがって、天然ウランが粉体あるいはガス状として存在する工程の汚染管理は重要で、取扱いはできるだけフード内で行うようにする。

しかし、この問題設定で対象となっているUO2(SO4)34-は、 液体中に存在するイオンであるので問題作成者の意図する解答とは違うであろう。

(3) 溶媒抽出過程で用いられるパルスカラム法について簡単に説明せよ。

解答例

塔状円筒の途中に有孔板を置いて比重の小さな有機相の上昇に際していったん保持し、 圧カパルスを与えることによって細かく分散した溶媒が水層の中を有孔板の間隔を水相を通って上昇する。 パルスカラムは他の型の接触器よりも性能が格段と改善されており、また、装置も単純かつ信頼性が高い。

参考文献:「原子力化学工学第II分冊、核燃料・材料の化学工学、清瀬量平訳、日刊工業、s59.3.30. p.66~69

(4) ④の物質は濃縮のためUF6に変換される。その化学反応式を示せ。

解答例

UF4 + F2 → UF6

(5) UF6の取り扱い上の注意点を述べよ。

解答例

UF6は、常温・常圧下では無色透明の固体であるが、低圧にしたり温度を高めると容易に気化し、高温・高圧化では液体となる。 UF6は、三重点(64℃、1138 mmHg)以上の温度と圧力下で液化し、UF6シリンダーに充填されてウラン濃縮工場に出荷される。

UF6シリンダーなどの容器に充填されたUF6を加熱液化する場合には35%程度の体積膨張があるので 液圧破裂を避けるためには、過充填を避けるように注意する。

UF6は液化してUF6シリンダーに充填されるが、シリンダー運搬時にはシリンダー内のUF6は固体となっており、 重心位置が空シリンダーと大きくズレている場合が多いので、転倒防止に注意する。

UF6は、水とは烈しく反応する。このとき
UF6 + 2H2O → UO2F2 + 4HF
の反応によって有害なフッ化水素を発生するので取り扱いには注意する。

ガラスに対しては、水分が存在すれば次の反応によって
UF6 + 2H2O → UO2F2 + 4HF
SiO2 + 4HF → SiF4 + 2H2O
SiF4UO2F2が生成する。 また、UF6は金属と反応してUF4を生成するが、純金属ではAl, Ni, Cuなどが比較的耐食性が高い。 通常の有機溶媒に対して激しく反応し、また、通常のゴムは気体UF6によって火を発して作用する場合があるので パッキングとしてはフッ素樹脂系あるいは金属系のものが用いられる。

参考文献:「燃料サイクルフロントエンドI ウラン資源・ウラン精錬およびウラン濃縮 教育資料1 PNC TN8420 91-009」p.26、27

第2問

プルトニウムの取扱いに関して以下の問に答えよ。

(1) 混合酸化物(MOX)を調製する方法として共沈法と機械混合法がある。 それぞれについて,概略を説明し,長所及び短所を挙げよ。

解答例

共沈法は原料となる硝酸プルトニウムに硝酸ウラニルを加えておいて、 この液にシュウ酸を加えて、U, Puの混合シュウ酸塩を同時に沈殿させ、これをばい焼して混合酸化物を作る方法である。 長所は、機械混合法に比べて微細によく混合している利点がある。 機会混合法はUO2とPuO2とを別々に作っておいて、それらの粉末をボールミルなどで機械的に混合する方法である。 相互の粉末の粒度が適当であれば十分よく混合できるがその条件を整えるのが難しい。しかし共沈法よりコストは安い。
参考文献:「原子炉燃料、菅野昌義 著、p.180 東京大学出版会 1976」

共沈法は、再処理工程で得られる硝酸プルトニウムからADU法で水酸化物を得るところでUF6より作った フッ化ウラニル(UO2F2)を溶液にまぜ、いっしょに混合物として沈殿させて混合酸化物粉末を得る方法である。 均ーに混ぜる点では、この方法がすぐれているが、水を使った方法であるため臨界管理が厳しくなり単位作業量が小さくなり不利である。
参考文献:三島良績編著「核燃料工学」p.183 同文書院 (1982)

(2) プルトニウム燃料製造施設ではウラン燃料製造施設にはない,厳しい管理が必要となる。 それらのうち,次のア~ウについて取るべき対策を示せ。

ア.包蔵性管理
イ.外部被ばく管理
ウ.臨界管理

解答例

ア.第31回第5問(5)より転載

包蔵性管理

プルトニウム利用にかかわる安全確保は、プルトニウムを閉じ込めて取扱い(包蔵性管理)、 体内に摂取されないようにすることが基本である。 その閉じ込めの機構を確実にするため、施設及び設備の設計や管理に多重防護の概念が採用されている。

すなわち、第一に粉末やペレット等の固体状の取扱いはグローブボックス等に閉じ込め、 液体などはステンレス鋼の容器や配管で隔離して、作業者が素手で直接接触しないようにした形で取り扱われることになる。

第二に、グローブの破損等で1次の閉じ込め機構から、プルトニウムが万ー作業環境に漏洩した場合でも汚染の拡大を防止するため、 建物内の空気の気流が汚染度の高い方向に流れるように大気に対して負圧管理がされている。

第三に、排風機の故障・異常に対して、予備の排風機及び非常発電機の設置の義務 が課せられていて、 周辺環境にプルトニウムが漏洩することを確実に防止している。 参考文献:原子力百科事典 ATOMICA、プルトニウムの毒性と取扱い (09-03-01-05) https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_09-03-01-05.html

イ.外部被ばく管理

Puの放出するα線β線はあまり問題とならない。 238Pu, 240Pu, 242Pu等の偶数核種の自発核分裂及び(α,n)反応に伴って発生する高速中性子、 及び236Pu, 238Pu及び241Puの各娘核種(237Uや241Am等)からのγ線に対する被曝対策が必要である。 中性子の遮蔽にはアクリル板やポリエチレン板を用いる。 γ線の遮蔽には鉛ガラスを用いる。Puを多量に取り扱う大型施設では、自動化による外部被ばく防止が図られている。 参考文献「動力炉 燃料・材料ハンドブック」、p.265、日本原子力産業会議 (1998)

ウ.臨界管理

プルトニウムの臨界量はウランに較べて小さいので、より厳しい臨界管理が求められる。 1バッチ当りの取扱量を少なくする必要がある。

239Puの最小臨界量は溶液で0.51 kg、金属で5.6 kgであり、 235Uのそれは溶液で0.82 kg、金属で22.8 kgであり、それぞれウランの場合の60%及び25%である。

MOX燃料の場合、MOX中の239Pu, 241Pu, 235Uの総量を制限値以下とする。 参考文献「動力炉 燃料・材料ガイドブック」、p.265、日本原子力産業会議 (1998)

第3問

以下の臨界防止に関する文章中の空欄の部分に記入すべき最もふさわしい数値または語句を記せ。

(1) ウラン-233水溶液の最小臨界質量は[①(エ)0.59]kg, ウラン-235水溶液の最小臨界質量は[②(オ)0.82]kg, プルトニウム-239水溶液の最小臨界質量は[③(ウ)0.51]kgとされている。

(2) 臨界量は核分裂性物質がどのような幾何学的形状に置かれているかにも依存する。 無限円筒を仮定した場合,ウラン-233水溶液入り容器直径の最小臨界値は[④(ケ)11.2]cm, ウラン-235水溶液入り容器直径の最小臨界値は[⑤(サ)13.8]cm, プルトニウム-239水溶液入り容器直径の最小臨界値は[⑥(コ)12.4]cmとされている。

(3) 臨界となる可能性は核分裂性物質自身の量や特性のみならず,その周囲の条件,すなわち非核分裂性物質との相互作用にも依存する。 そのような物質として特に大切なのは,中性子に対して[⑦(ト)減速効果]や[⑧(ナ)反射効果]をもっている場合である。

(4) ウラン水溶液の場合に4因子公式を当てはめれば,水対ウラン比が大きくなるにつれて主として[⑨(ス)共鳴を逃れる確率]が大きくなり, 逆に[⑩(ソ)中性子利用率]が小さくなる。

解説:(1)及び(2)は、"Nuclear Safety Guide," TID-7016 Rev.1 (1961)のTable Iからの出題である。

(4)は以下のように説明できる。

f:熱中性子利用率[-]、
Σa(F):燃料(ウラン)領域の巨視的吸収断面積[cm-1]、
Σa(M):減速材(水)領域の巨視的吸収断面積[cm-1]、
A:水対ウラン原子個数比

f=\frac{ \Sigma _ a (F) }{ \Sigma _ a (F) + \Sigma _ a (M) }
=\frac{1}{ 1+\Sigma _ a(M) / \Sigma _ a(F) }

=\frac{1}{ 1+ (\sigma _ a(M)\cdot N(M))/(\sigma _ a(F)\cdot N(F)) }
=\frac{1}{ 1+ \frac{ \sigma _ a(M) }{ \sigma _ a(F) }\cdot A }

上式から、A→大によってf→小になることが分かる。 より詳細には、杉暉夫、「原子炉物理演習」、改訂第3版の例題6.4参照。

第4問

以下の(1)から(10)の文章について,正しいものには○,誤っているものには×をつけ,誤りの場合にはその理由を簡単に述べよ。

(1) 製錬工程や再処理工程で用いられる溶媒TBPは引火点が約300℃で可燃性である。 このように可燃性薬品を用いる場合には,火災・爆発防止のため,引火源を排除し,あわせて引火点以下に温度を維持する必要がある。

解答例:× 引火点は約150℃

(2) ウラン235の最小臨界質量は金属ウランよりウラン水溶液の場合の方が小さい。 これは中性子が減速され核分裂を起こしやすくなるからである。 このため,臨界安全上は乾燥系に加えて溶液系の最小臨界量を知っておくことが重要である。

解答例:○

(3) プルトニウムを大量に取扱う施設では外部被ばく低減のためガンマ線に加えて中性子線遮ヘい対策も重要となる。 中性子線はその透過力が強いため,遮へい材料としては,鉛,鉄等の厚い層が要求される。

解答例:× 遮蔽材としては、水、パラフィン

(4) 燃料加工工場から輸送される軽水炉用ウラン燃料は通常L型輸送物となるが, MOX燃料の場合はプルトニウム同位体のA2値が極めて小さいため,通常A型輸送物となる。

解答例:× ウラン燃料はA型、MOX燃料はB型輸送物

(5) 核分裂性輸送物に適用される特別の試験条件中の耐火試験では,火災に巻き込まれても輸送物が健全性を失わないことを証明するため, 輸送物を平均火災温度,500℃の熱的環境に少なくとも30分間おくことが要件となっている。

解答例:× 耐火試験温度は800℃

(6) 使用済燃料中に含まれるヨウ素のうち約75%が長半減期129Iであり,131Iは半減期が約8日で貯蔵期間中に殆ど壊変してしまう。 ヨウ素は反応性か大であるので,アルカリ水溶液による洗浄や銀による固定が行われている。

解答例:× 約75%ではなく大部分。129I以外のヨウ素はすべて再処理前に崩壊してしまう。 参考文献:「原子力化学工学第IV分冊、燃料再処理と放射性廃棄物管理の化学工学、清瀬量平訳、日刊工業、s58.12.29、p.233」

(7) 見かけ上の不明物質量(MUF)は,核燃料物質の実在庫量とすべてのわかっている損耗や移動を計上して確定した量と, それに対応する帳簿在庫量の差であり,正または負のいずれかの値をとる。

解答例:○ 下記解説参照

(8) Purex法による再処理工程において,有害な核分裂生成物はほぼ全量がヘッドエンドプロセスや共除染工程で除去されるので, これ以降の工程では特に除去処理を行う必要はない。

解答例:× 共除染工程後の有機相の中で不純物として着目される元素はジルコニウムルテニウムテクネチウムネプツニウムである。

(9) プルトニウム取扱い用グローブボックスは閉じ込め機能を確保するため,停電による外部電源喪失時を除いては, 常に室内に対して約30 mmH2O程度の負圧に維持されてなければならない。

解答例:× 外部電源喪失時には非常用発電機を働かせて

(10) 高レベル廃液のガラス固化において一時期リン酸ガラスが検討されたものの現在は主にホウケイ酸ガラスが選択されているが, その主な理由としては,廃棄物成分の許容含有量が比較的高く熱や放射線に対する抵抗も高いためである。

解答例:○ 下記解説参照

解説

(7) 帳簿在庫量BI、実在庫量PIとするとMUFは
MUF=BI-PI
MUFは秤量誤差、計測誤差、分析誤差から生じる量と測定できない工程上あるいは実験上消耗する量 (取扱中の粉末がグローブボックス内壁面や内装設備等に付着した量)の合計である。 したがって、MUFは実際にロスした量を表すものでないことに注意を要する。 参考文献:プルトニウムの安全取扱い技術、核燃料工学短期講座 No.22、1999年 阿部治郎 日本原子力研究所 国際原子力総合研修センター 東海研修センター p.28,29

MUFの用語説明 atomica

Material Unaccounted For (在庫差)簿在庫と実在庫との差。 MUFは次の式で計算される。 MUF=PB+X-Y-PE。 帳簿在庫は、前回の棚卸しの時に確認された実在庫(前収支期間の期末実在庫であり当該収支期間の期首在庫:PB)と その実在庫が確定された後に生じた在庫変動(増加分の合計:Xと、滅少分の合計:Y)との代数和であり、 施設内に在庫するはずの核物質量を示す。 この量から期末実在庫(実際の測定及び推定によって確定された在庫:PE)を差し引いた値が、在庫差(MUF)となる。 PBは、先の実在庫を使用するが、XとYはMBA(Material Balance Area 物質収支区域)の全てを受入れたあるいは払出した核物質を測定した値を使用する。

(10) ホウケイ酸ガラスは核分裂生成物含有率20ないし25w/oがほぼ上限とされている。 また、ホウケイ酸ガラスは、リン酸ガラスよりも熱伝導度、軟化点、融点が比較的高い。 放射能が十分含まれているとリン酸ガラスは500℃で強い失透を示し耐浸出性の劣化が起こるが、 同条件下でホウケイ酸ガラスは7ヶ月の間失透を起こさなかった。 参考文献:清瀬量平訳、「原子力化学工学第IV分冊、燃料再処理と放射性廃棄物管理の化学工学」、日刊工業新聞社、s58.12.29. p.186~200 (1983)

第5問

核燃料物質の取扱いに関して次の事項を簡単に説明せよ。

(1)振動充填燃料
(2)遠心法ウラン濃縮の長所と短所
(3)即発臨界と遅発臨界
(4)大気圧比較法による気密検査
(5)パッシブ中性子

解答例

(1)振動充填燃料
被覆管に振動を与えながら、UO2やPuO2の粒子を充填して製作する燃料のことである。 粒子製造法としてゾルゲル法による球状粒子製造法とロシアで開発された乾式再処理からの塊状粒子製造法がある。 ペレットを必要としないので、ギャップコンダクタンスの問題が解消される。

工程が簡単で、ダストの発生が避けられ、被ばくの点でも有利なので、高速炉燃料のMOX燃料には、この製作方法の採用が期待されている。 核分裂生成物を閉じ込める能力は、振動充填燃料よりもペレット型燃料の方が勝る。 充填時の均一化や充填密度の向上が課題である。

参考文献 辻本日東実編、「核燃料取扱主任者試験問題集」、p.取-39、通商産業研究社 (1982)

(2)遠心法ウラン濃縮の長所と短所
遠心ウラン法では、理論的には単位分離パワー当たりの電力消費は拡散法の1/7から1/10に少なくする可能性がある。 しかしながら遠心機1台の製作費を低下させることおよびきわめて多数の高速回転機群の運転管理と保守法が遠心法ウラン濃縮経済の要因である。 参考文献 三島良績、他、「核燃料工学」、p.167、同文書院 (1982)

(3)即発臨界と遅発臨界
核分裂によって発生する中性子は、分裂後すぐに発生する即発中性子と、しばらくしてから発生する遅発中性子の2種類がある。 即発中性子と遅発中性子の両方の寄与によって臨界に達した状態を遅発臨界と呼ぶ。 この時keff=1.0である。 遅発中性子の寄与なしで、即発中性子のみで臨界に達した状態を即発臨界と呼ぶ。 この時keff=1.0+βeffである。 ここで、βeffは実効遅発中性子発生割合である。

(4)大気圧比較法による気密検査
大気圧比較法は、大気圧にたいしグローブボックス内を数100 Paほど負圧にひき、 気密状態にした時のグローブボックスと大気圧との差圧の時間変化を測定し、 測定中の温度変化や気圧変化を補正した上で漏れ率を算出する方法である。

(5)パッシブ中性子
核燃料から自然に放出される中性子を計測して、その属性を推定する方法である。 一例として核査察では、自発核分裂によってPu燃料試料から放出される中性子を計測して、 予め分かっているPuの同位体組成を参照してPu重量を推定することが行われる。

中性子源からの中性子を試料に照射して、何らかの反応を強制的に起こさせ、 その結果生じる中性子を測定して試料の属性を知る方法を、アクティブ中性子法という。)

出典

谷内 茂康; 佐藤 忠; 須賀 新一; 小室 雄一; 内田 正明; 中島 邦久; 中村 仁一; 雨澤 博男; 大村 英昭; 湊 和生; 武田 常夫; 櫛田 浩平; 傍島 眞 核燃料取扱主任者試験問題・解答例集,1999~2003年, JAERI-Review 2003-025,https://doi.org/10.11484/jaeri-review-2003-025