第32回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第1問

核燃料物質の性質に関する以下の文章の空欄に入る適切な語句又は数式を番号とともに記せ。

UCやUNなどの[①岩塩 (NaCl)]型結晶構造(格子定数をaとする。)を有する核燃料において, 最近接原子間距離をr,原子のジャンプする頻度をfとすれば,原子の自己拡散係数Dは [②D=(1/3)r2f]で与えられる。また,格子定数aとrとの間には[③a=2r]の関係がある。 UCやUN内における原子の拡散機構としては,Uは[④陽イオン空格子]機構により,CやNは[⑤格子間]機構により,拡散すると言われている。

一般に,核燃料UO2の粒成長は拡散係数が[⑥遅い]イオンである[⑦陽イオン]の拡散により, 酸化は[⑧速い]イオンである[⑨酸素]の拡散で支配される。 照射下におかれた二酸化ウラン燃料中のウランの拡散係数は未照射材と比べて,[⑩増大]する。

第2問

軽水炉において,二酸化ウラン燃料をMOX(混合酸化物)燃料に変えて使用するときの注意点及び物性への影響を, 以下に示す項目に関し,具体的に述べよ。

(1)核特性
(2)融点
(3)酸素ポテンシャル
(4)クリープ

解答例

(1)核特性
プルトニウムの各核種は、ウラン核種に比べて中性子吸収断面積(核分裂断面積を含む)が大きく、核分裂あたりの中性子数が多い。 従ってプルトニウム炉心には、制御棒等、制御手段としてウラン炉心の場合より大きい中性子吸収能力が要求される。 さらに239Puには、核分裂断面積が単純な1/v特性に従わない、遅発中性子割合が小さい、等の制御をより困難にする要素もある。

(2)融点
PuO2の融点(通常の酸素圧力下では実現されないが)はUO2の融点より300℃程度低い。 UO2-PuO2固溶体の融点は、PuO2割合に従って単調に低下するが、 MOX燃料ではPu割合が小さいために、高速炉用MOX燃料でもその低下量は100℃程度以下である。

(3)酸素ポテンシャル
PuO2はPuの最終酸化物であり、酸素分圧(酸素ポテンシャル)がUO2に比べて大きい。 MOX固溶体の場合も、酸素分圧は高くなる傾向にある。

(4)クリープ
上記の、酸素ポテンシャルが高いという性質は、格子欠陥濃度が大きいことに関連し、 従って格子欠陥の移動が関係する現象はUO2に比べて活発になる傾向がある。 クリープはその一例であり、クリープ速度は大きくなる。

第3問

アクチノイド元素の水溶液化学についての次の各文章について,正しいものについては○印を, 誤っているものには×印をつけ,誤りを理由をつけて指摘せよ。

(1) アクチノイド元素はランタノイド元素と同じくIIIA元素に属するので水溶液での化学的性質はランタノイド元素と同じである。

解答例:×
アクチノイド元素はグループ3 アクチノイドグループ、ランタノイド元素はグループ3 ランタノイドグループに属し、 Am以上のアクチノイド元素の水溶液中の化学的性質は比較的ランタノイド元素のそれに類似するが、 Pu以下のアクチノイド元素の水溶液中の化学的性質は対応するランタノイド元素の水溶液中の化学的性質と全く異なる。

(2) ウランを硝酸水溶液に溶かすとUO2(NO3)2(ウラナス)となる。 これをFe2+により還元するとU(NO3)4(ウラニル)となる。

解答例:×
ラニルイオン(UO22+)、ウラナスイオン(U4+)になる。

(3) アクチノイド元素は4f電子の遍移による光の吸収のため水溶液中で次のような変化に富む色が見られる: Th4+(無色),U4+(赤色),UO22+(緑色),Pu4+(無色)

解答例:×
U4+(青緑),UO22+(黄色),Pu4+(褐色、濃い硝酸中で緑)

(4) アクチノイドイオンはpHが高くなると加水分解しやすい。 加水分解のしやすさは次の順である: M4+>M3+>MO2+>MO22+

解答例:×
M4+>MO22+>M3+>MO2+

(5) Pu4+はFe2+によってPu3+に還元されるがU4+によってはPu3+に還元されない。

解答例:×
U4+によってPu3+に還元される。

(6) プルトニウムを硝酸水溶液に溶かすとPu4+のみができる。

解答例:×
Pu3+,Pu4+,PuO22が共存する場合がある。

(7) UF6よりUO2に再転換する方法の一つであるADUプロセスはUF6を水溶液に溶解後, アンモニア水を加えADU(UO2(OH)2)として沈澱を作り,ろ過後ばい焼してUO2の粉末を作るものである。

解答例:×
ADU (NH4)2U2O7ろ過ばい焼してU3O8とし、 さらにH2気流中で加熱してUO2粉末を作る。

第4問

軽水炉UO2燃料ペレットを50,000 MWD/t程度まで燃焼させたときの組織変化について説明せよ。

解答例

燃料ペレットの組織変化は、燃焼度の大小よりも線出力密度による差が大きい。 PWR、BWRともに炉心平均の線出力密度は180 W/cm程度であるが、軸方向に分布があり、 さらにBWR燃料では燃料棒毎の差が大きいので、最高位置では400 W/cm程度に達する。 炉心平均出力程度では、燃料中心温度は1000℃に達せず、ペレットに割れが生じて断片が移動する(リロケーション)以外は、 おおむね焼結時の組織が保存される。

最高出力位置では、中心温度は1500℃近くに達し、中心付近では結晶粒成長(等軸晶)がおこり、 また中心に製造時気泡、FP気泡が集まって中心孔ができることがある。

このような組織変化は、燃焼度の増大と共により低温側(外側)に移動すると考えられるが、 燃焼度の効果は温度の効果ほど大きくない。 また、50,000 MWd/tまで照射する間には燃料体のシャフリングが行われ、 そのモードにより温度が大きく変わるので、燃焼度効果を論ずるのは困難である。

なお、軽水炉燃料で燃焼度が約40 MWd/kgUを超えるとペレット外周部(リム部)の100-数100 μmに燃焼度とポロシティ率の 高い領域が出現し、これをリム効果と呼ぶ。 これは、238-Uの共鳴吸収によりプルトニウムが蓄積し、局所的に燃焼度が高くなるためであり、 UO2結晶が細粒化して、高圧のFPガスを含む粗大化した気泡を取り囲み高いポロシティ率を持つ組織となる。 このリム組織は、局所燃焼度約70 MWd/kgU以上で温度約1100℃以下で生ずる。

第5問

核燃料物質に関連して,次の事項を簡単に説明せよ。

(1)岩石型燃料
(2)累積焼鈍パラメータ
(3)二酸化ウランの相合蒸発と非相合蒸発
(4)照射成長
(5)ウラン廃棄物

解答例

(1)岩石型燃料
プルトニウムを燃料物質とし、親物質を含まない自然界に存在する安定な岩石類似化合物で構成された、ワンススルー型の燃料。 親物質を含まないためプルトニウムの高い燃焼率が達成できプルトニウムの効率的な削減が可能なこと、 使用済燃料も安定な岩石類似化合物の集合体となるため直接地層中処分が可能であること、 核拡散に対して高い抵抗性があること等の特徴を有する。 燃料候補材としては、安定化ジルコニア、スピネル、アルミナ等が検討されている。

(2)累積焼鈍パラメータ
被覆管の熱処理履歴を一元的に表す指標として提案されたものであり、以下のように定義される。 
\sum A _ i = \sum t _ i \cdot \exp( -Q / RT _ i)
ここでΣAiは累積焼鈍パラメータ(h)、tiは加熱保持時間(h)、Qは活性化エネルギー、Rはガス定数、Tiは加熱温度である。 この累積焼鈍パラメータは被覆管の金属間化合物の平均粒径と相関を持っており、被覆管の耐食性とも相関を示す。 このため被覆管の耐食性を調整するための指標として用いられている。

(3)二酸化ウランの相合蒸発と非相合蒸発
二酸化ウランはO/U=2の時に固相の組成と気相の組成が一致し、相合蒸発となる。 一方O/Uが2からずれている場合は固相の組成と気相の組成は一致せず、非相合蒸発となり、 蒸発の進行とともに固相の組成が変化する。過定比UO2+xでは気相のO/U比は固相のそれより大きく、 蒸発の進行とともに、固相の組成は定比組成に近づく、逆に亜定比UO2-xでは 気相のO/U比は固相のそれより小さいのでやはり、蒸発の進行とともに、固相の組成は定比組成に近づく。

(4)照射成長
ジルカロイ被覆管は、高速中性子の照射を受けると長さ方向に伸びる。 これを照射成長という。 これは、ジルコニウムは六方晶でありその底面は被覆管の軸方向と平行であるが、 照射により六方晶のc軸方向に収縮し、a軸方向に拡がるためである。 この照射成長量は、高速中性子照射量、従って燃焼度にほぼ比例する。

(5)ウラン廃棄物
原子力発電所で使用する核燃料の加工施設、濃縮施設等から発生する放射性廃棄物をいう。 再処理による回収ウランや劣化ウランは含まれない。 ウラン廃棄物は、ウランの転換・成型加工、濃縮等に伴って発生する半減期が極めて長いウラン及びその娘核種を含んでいること、 放射能レベルが極めて低い廃棄物が大部分を占めること等の特徴を有しており、 段階管理を伴わない簡易な方法による浅地中処分を行うことが検討されている。

出典

谷内 茂康; 佐藤 忠; 須賀 新一; 小室 雄一; 内田 正明; 中島 邦久; 中村 仁一; 雨澤 博男; 大村 英昭; 湊 和生; 武田 常夫; 櫛田 浩平; 傍島 眞 核燃料取扱主任者試験問題・解答例集,1999~2003年, JAERI-Review 2003-025,https://doi.org/10.11484/jaeri-review-2003-025