第32回 核燃料取扱主任者試験 放射線の測定及び放射線障害の防止に関する技術

第32回 核燃料取扱主任者試験 放射線の測定及び放射線障害の防止に関する技術

第1問

次の各問に計算過程を示して答えよ。

(1) 作業室の床面が239Pu酸化物で一様に汚染している。 ZnS(Ag)表面汚染検査計を用い,スミヤ試料を測定をしたところ,21 cpmであった。 作業室床面の汚染密度(Bq/cm2)を求めよ。 ただし,汚染検査計の測定効率を20%,自然計数率を1 cpmとする。 また,スミヤ試料の拭き取り面積を100 cm2, 拭き取り効率を10%及び自己吸収率を90%とする。

解答例

試料の係数率nn=21、自然係数率nb=1、計数効率=η、自己吸収率=εとすればスミヤ試料の放射能Aは


A=(n _ n - n _ b) / ( 60 \times \eta / 100 \times (1 - \varepsilon / 100) )

A=(21 - 1) / ( 60 \times 0.2 / 100 \times (1 - 0.9) ) = 16.66

拭き取り面積をD,拭き取り効率Sとすれば汚染密度AsはA/DS 
As = 16.66 / (100 \times 10 / 100) = 1.66 \textrm{Bq/cm} ^ 2

(2) 23892Uはα壊変とβ壊変により.最終的には20682Pbになる。 α壊変とβ壊変の数はそれぞれ何回か求めよ。

解答例

α壊変では質量が4,原子番号は2減少し、β壊変では質量は変わらず原子番号が1増える。 23892Uと20682Pbの質量の差は32であり32の質量変化に必要なα壊変の数は8回である。 8回のα壊変で原子番号は16減少するが、23892Uと20682Pbの原子番号の差は10であり、 16との差6回のβ壊変が必要になる。

答.α壊変8回,β壊変6回

(3) 6 gの60Coがある。半減期(5.26年)を経過するまでに放出するγ線の数はおよそ何本か求めよ。

解答例

半減期経過後には3 gの60Coが崩壊する。60Coの原子量を60とすれば3 gの60Coの 原子数は3/60×6.022×1023になり3×1022の崩壊が起き、また60Coは1崩壊に付2本のγ線を放出するので 6×1022本のγ線が放出される。

(4) 作業室内の空気が水蒸気状トリチウムによって,一様に汚染している。 冷却凝縮捕集方法(コールドトラップ)によって採取した空気中の水試料を液体シンチレーション測定装置で測定したところ, 5×104 Bq/gであった。作業室内の空気中トリチウム濃度(Bq/cm3)を求めよ。 ただし,この時の作業室内の平均相対湿度は50%であり,採取時間中の平均飽和水蒸気密度は2×10-5 g/cm3とする。

解答例

作業室内の平均水蒸気密度は2×10-5×50/100で1×10-5 g/cm3、 水の放射能濃度は5×104 Bq/gであるから空気中のトリチウム濃度は1×10-5×5×10-4=5×10-1 Bq/cm3

第2問

次の各文章には1箇所ずつ誤りがある。誤りを含む下線部の番号を指摘して,その理由を簡単に記せ。

(1) 放射線測定装置と測定対象核種に関し,①窓なしガスフロー比例計算管比例計数管では210Po,239Puを, ②高純度Ge半導体検出器では60Co,24Naを,③表面障壁型半導体検出器では,137Cs,241Amを, ④GM検出器では32P,90Srを測定できる。

解答例: ③ 137Csはβ,γ放出体であり、表面障壁型半導体検出器の様な有感厚さの薄い検出器は測定に向いていない。

(2) 3H, 14C, 32P, 35S, 45Caのうち, ①放出される放射線エネルギーの最も高い核種は32P, ②半減期の最も短い核種は35Sである。 また,③γ放出体及びβ放出体はなく,④同位体効果の最も大きい核種は3Hである

解答例: ② 35Sの半減期は87.5日、32Pの半減期は14.3日で、32Pの方が短い。

(3) 90Srは食物摂取により体内に入ると,①主に骨に蓄積され,②体外に排出されにくい。 ③半減期は約30年で,④娘核種は安定同位体である

解答例: ④ 娘核種の90Yは半減期64.1時間のβ放出体である。

(4) 個人線量計としてTLD,ガラス線量計は①再使用が可能であるが,フィルムバッジは再使用できない。 ②測定範囲もTLD,ガラス線量計がフィルムバッジより優れている。 しかし,③TLD,ガラス線量計フェーディングという点で,フィルムバッジに劣っている

解答例: ③ ガラス線量計フェーディングは無視出来る。

(5) 原子力施設から排出される気体状放射性廃棄物の風下地表面上の空気中濃度は, ①排気筒の高さ, ②風向,風速, ③降雨, ④温度,湿度及び ⑤大気安定度によって影響される。

解答例: ②温度、湿度により、風下地表面上の空気中濃度は影響されない。

第3問

使用済核燃料の再処理施設に関して,次の各問に答えよ。

(1) 臨界モニターの具備すべき性能を4つ挙げよ。

解答例

  1. 高レベルの高速中性子線、高エネルギーのγ線にも応答すること
  2. 時定数が短いこと
  3. 他の警報と明確に識別できること
  4. 誤動作防止方式であり、停電の影響を受けないこと

(2) 再処理施設から大気中に放出される131Iに関して,下記の①~④の事項を簡単に説明せよ。

① 排気中濃度のモニタリング方法
② 環境への放出低減対策
③ 人体への摂取経路
④ 人体への選択的に沈着する組織

解答例

① 排気を活性炭含侵濾紙でろ過し、定期的に濾紙を交換し、濾紙上の131IをNaI(Tl) またはGe検出器付のγ線スペクトロメーターで測定する。

冷却期間の長い使用済核燃料を再処理する。 オフガスをアルカリ洗浄、活性炭カートリッジ、銀ゼオライトカラム等で処理して、 オフガス中の131Iの濃度を下げる。

③ 空気中を拡散した131Iが牧草に沈着し、牛により摂取、ミルクとともに経口摂取。 空気中を拡散した131Iが野菜に沈着し野菜とともに経口摂取。 ガス状131Iを直接吸入。

甲状腺

第4問

以下の(1)~(10)の問について適切な答えを1つ選べ。

(1) 次の核種のうち同じ放射能量(Bq)を体内に摂取したとき,最も危険性の高い核種はどれか。
59Fe
90Sr
3H
35S
40K

(2) 次の身体組織のうち放射性感受性の最も高いものはどれか。
① 皮膚
② 消化管
③ 神経
④ 造血組織
⑤ 脳

(3) 次の核種のうち年摂取限度が最も小さいものはどれか。
238U
239Pu
137Cs
85Kr
131I

(4) 次の核種のうち体内に摂取されたとき有効半減期が最も短いものはどれか。
60Co
59Mn
137Cs
90Sr
131I

(5) ヒトが中性子線を被ばくしたとき,直後の体内に生成している主な放射性核種は次のどれか。
90Sr
137Cs
24Na
32P
40K

(6) 次の臓器・組織のうち,γ線によって1 Svの全身均等被ばくしたときに急性障害として最も早く変化の観察されるものはどれか。
① 赤血球
② 毛髪
神経細胞
④ 血小板
⑤ 白血球

(7) プルトニウムが吸入摂取された場合に,肺から吸収された成分が体内で沈着しやすい組織・臓器の組合せはどれか。
① 骨と肝臓
② 腎臓と膵臓
③ 牌臓と甲状腺
④ 生殖腺と胃
⑤ 小腸と筋肉

(8) 日本人が自然放射線によって年間に受ける平均被ばく線量に最も近い値はどれか。
① 0.1 mSv
② 0.5 mSv
③ 2 mSv
④ 10 mSv
⑤ 50 mSv

(9) トリチウム水(HTO)の有効半減期は約10日である。摂取後,体内量がおおよそ1/1000になるために必要な日数はどれか。
① 10日
② 50日
③ 100日
④ 500日
⑤ 1000日

(10) 実効線量当量Hは,H=D・Q・N,で定義され,Qは線質係数,Nはその他の修飾係数である。Dは次のうちのどれか。
① 局部線量
② 預託線量
③ 遺伝線量
④ 照射線量
⑤ 吸収線量

第5問

放射線防護に関連する次の用語について,簡単に説明せよ。

(1) 放射線に誘発される染色体異常
(2) 放射性核種222Rn
(3) 内部被ばく防護の三原則
(4) 確定的影響
(5) 放射線測定装置の窒息現象

解答例

(1) 放射線に誘発される染色体異常
放射線によって、他の外的因子によって起きるのと同様な染色体異常が生じる。 異常には、構造異常と数的異常がある。 構造異常は染色体の切断が前提であり、切断の仕方、その後の経過により 1. 切断部分が接合して.正常な染色体になる。 2. 一本の染色体が二箇所切断し、間が欠けてしまった異常、中間部が逆に接合した場合がある。 前者の場合細胞分裂が正常に行われず、細胞が死滅する可能性が高く、 後者の場合、細胞分裂は正常に行われるが、奇形が生じる可能性がある。 数的異常は細胞分裂の過程で、染色体の分離に異常が生じて起き、染色体の数の異常は、遺伝病の原因になる可能性がある。

(2) 放射性核種222Rn
ウラン-238の崩壊系列に属する半減期3.8日のα放射体でラジウムの娘。 希ガスであるため空気中に漏洩して、吸入摂取される。 自身及び崩壊系列に属する核種のα線により、肺の細胞に損傷を与え、肺がんを引き起こすリスクをもたらす。 ラドン濃度の高い所では空気呼吸器の使用や換気を行う。

(3) 内部被ばく防護の三原則
内部被ばくを防止するためには、皮膚傷口からの摂取の防止、吸入摂取の防止、経ロ摂取の防止を図る事が原則である。

  1. 皮膚、傷口からの摂取の防止
    怪我、傷が露出部にある場合、放射性物質を取り扱わない。 ゴム手袋の着用。 表面汚染の防止。

  2. 吸入摂取の防止
    呼吸保護具を使用する。 放射性物質の取扱をフード、グローブボックスの中で行う。 実験室の空気中放射能濃度の監視と汚染防止。

  3. 経口摂取の防止
    管理区域内での喫煙、飲食、化粧の禁止。 ロを使う実験操作を行わない。 ゴム手袋を着用し、手の汚染を防止する。 表面汚染検査を励行し、手、機器、汚染の無い事を確認する。

(4) 確定的影響
影響の重さの程度が線量の大きさと共に変化するもので、しきい線量が存在しうる様な影響。 放射線による骨髄細胞の減少、不妊、皮膚の障害、脱毛、白内障など。 組織を構成する多数の細胞の内のかなりの割合細胞が損傷した場合のみ発生する。

(5) 放射線測定装置の窒息現象
GM計数管を用いたサーベイメーターや計数装置は、分解時間が100-500μ秒と長いため、 入射放射線量が高くなると数え落しを起こす、更に入射放射線量が多くなると計数率が減少し、 極端な場合、計数しなくなってしまう。電気的に窒息現象を防止する装置もあるが、 100 mSv/h以上の高線量の場合注意が必要。また、加速器からのパルス状放射線の測定についても窒息現象が生じる可能性があり、 短いパルス運転ではシンチレーションサーベイメータのような比較的短い分解時間のサーベイメータでも窒息現象を起こすことがある。

出典

谷内 茂康; 佐藤 忠; 須賀 新一; 小室 雄一; 内田 正明; 中島 邦久; 中村 仁一; 雨澤 博男; 大村 英昭; 湊 和生; 武田 常夫; 櫛田 浩平; 傍島 眞 核燃料取扱主任者試験問題・解答例集,1999~2003年, JAERI-Review 2003-025,https://doi.org/10.11484/jaeri-review-2003-025