第33回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の取扱いに関する技術

第33回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の取扱いに関する技術

第1問

下表は軽水炉及び高速炉使用済燃料から抽出したプルトニウム同位体組成の一例である。 これらのプルトニウムの取扱いに関して次の問に答えよ。

炉型別のプルトニウム同位体組成(重量%)

同位体 軽水炉Pu 高速炉Pu
238Pu 2 0.03
239Pu 63 74
240Pu 19 22.7
241Pu 12 2.8
242Pu 4 0.47

(1) ガンマ線による外部被ばく管理上はどちらのプルトニウムがより厳しくなるか。 対象となる核種を挙げて説明せよ。

解答例:

軽水炉Pu。 238Pu及び241Puの娘核種から放出されるγ線が、外部被曝管理上最も厳しい。 これらの核種の含有割合は軽水炉Puのほうが大きい。

(2) ガンマ線線量当量の低減のために取られる対策を3つ記せ。

解答例:

  1. 作業時間の短縮。
  2. 作業場所、機器等に適合した遮蔽材料を設ける。
  3. グローブボックス内の清掃、ハウスキーピング。

(3) 中性子線発生の原因を2つ挙げよ。また,その中性子線遮へい法を記せ。

解答例:

原因:酸素原子との(α,n)反応及び自発核分裂

中性子遮蔽法: 中性子エネルギーが1 MeV以上であるため、水、パラフィンなどで中性子の減速を行い、 カドミウムなどの中性子吸収剤を配置する。しかし、グローブボックス中のプルトニウムの遮へいでは、 臨界管理や防火管理上の問題から、水やパラフィンは用いることができないので、 アクリル板が一般に使用されている。また、遮蔽材を厚くすると作業性が悪くなることから、 グローブボックスの遮へいは困難で、作業者を線源から遠くに離すことが重要である。

(4) 中性子線による外部被ばく管理上はどちらのプルトニウムがより厳しくなるか。 対象となる核種を挙げて説明せよ。

解答例:

軽水炉Pu。 中性子の発生は偶数核種の238Pu, 240Pu, 242Puが中心であり、特に、 238Puと242Puの中性子発生量が大きい。 偶数核種の割合は軽水炉Puで25%、高速炉Puで23.5%であり、238Puと242Puの含有割合も軽水炉Puのほうが大きい。

(5) 臨界管理上はどちらのプルトニウムがより厳しくなるか。その根拠も併せて記せ。

解答例:

計算結果によれば、軽水炉Puのほうがより厳しい。理由の提示は難しい。

解説: 仮にPu濃度50 g/・の硝酸プルトニウム水溶液を考えてk∞を計算したところ、 軽水炉Puの同位体組成の場合k∞=l.488、 高速炉Puの同位体組成の場合k∞=l.459になった。 与えられた同位体組成からこの大小を見分けることは極めて難しい。 この問題では、核分裂プルトニウム(239Puと241Pu)の比率の大小関係から、 臨界安全上どちらが厳しいのかを問いかけていると考えられる。 この意図に沿って解答するなら、解答は「高速炉Puのほうがより厳しい。理由は、核分裂プルトニウムの比率が、 軽水炉Puで75%、高速炉Puで77%で、高速炉Puの方が大きい。」となる。 しかし、吸収断面積の大きい240Puの効果とその比率を考慮すると、上記のような計算結果を得ており、 短時間の間に直観的に解答することは極めて難しい。

第2問

この流れ図は再処理工程の概略を示したものである。以下の問に答えよ。

使用済燃料
一時貯蔵
せん断
溶解
分離第1サイクル
分離第2サイクル
┌─────────── ┴──────
プルトニウム精製サイクル ウラン精製サイクル
プルトニウム溶液蒸発濃縮 ウラン溶液蒸発濃縮
脱硝
プルトニウム製品貯蔵 ウラン製品貯蔵

(1) 使用済燃料受入後,一時貯蔵を行うが,この目的は何か。

解答例:

  1. 半減期が8.05日のI-131の崩壊により再処理工程内での気体状および溶解した放射性ヨウ素の量が問題とならない程度まで減少する。
  2. 半減期が6.75日のU-237が崩壊するため、燃料再処理により回収され精製されたウランを遠隔操作で取扱う必要がなくなる。 また、U-237の高い放射能が存在すると回収されたウランの核分裂生成物からの除染の度合を検査するときの障害となることもある。
  3. 核分裂生成物の放射能及び発熱が減衰するため輸送が簡単となり、 また放射能の低下により燃料再処理で用いられる有機溶媒の放射線損傷が少なくなる。
  4. 半減期が5.27日のXe-133が崩壊消滅するので、Kr-85だけが燃料再処理から放出される放射性希ガスとして残る。

原子力化学工学第IV分冊」では、放射能と崩壊熱の減少以外の理由として 「この程度の冷却期間(150日)をとる他の理由はトリチウム、Kr-85、及びI-131以外の全ての気体状核分裂生成物を 考える必要のないレベルまで減衰させ、半減期が8日のI-131の放射能を制御しうる程度まで減衰させ、 半減期2.35日のNp-239を完全にPu-239に壊変させ、さらに半減期6.75日のU-237を完全に崩壊させることである。」

参考文献:「原子力化学工学第III分冊、使用済燃料とプルトニウムの化学工学、清瀬量平訳、日刊工業、s59. 8.20、2.2 使用済ウラン燃料の再処理前貯蔵期間 p.26~28」

(2) せん断,溶解工程で発生しオフガスに移行する物質や核種のうち,主要なものを4つ挙げよ。

解答例:

燃料の粉塵、Kr-85、I-129、トリチウム14CO2、NOxから4つ。

参考文献:鈴木篤之、他、「核燃料サイクル工学」、p.84、日刊工業新聞社(1981)

(3) 分離第1サイクルではウランとプルトニウムが抽出される。この工程は何と呼ばれているか。 また,このときのウランとプルトニウム原子価は何か。

解答例:

共除染工程。 ウランは6価(UO22+)、プルトニウムは4価。

参考文献:鈴木篤之、他、「核燃料サイクル工学」、p.96-97、日刊工業新聞社(1981)

(4) 核燃料溶液を取扱う工程で用いられる臨界管理の方法を述べよ。

解答例:

臨界管理は質量制限、体積制限、形状制限、濃度制限、及び中性子毒物添加等の方法により行われる。 一般的にいって、実験室規模の操作やフード内で少量ずつ核燃料を取り扱う場合には、質量制限法が用いられる。 パイロット規模の場合には、全装置について形状寸法制限法が用いられる。 大容量の核燃料の処理を行う施設では、核燃料の種類や濃縮度に応じた形状寸法制限法と濃度制限法とを併用する必要があることが多い。 原理的に形状寸法制限法が最も確実な方法である。 濃度制限法の信頼性はプロセス制御計測系等による工程管理に依存する。 質量制限法は作業管理に頼ることになりやすく、人為的誤操作等があり得ることを考慮しなければならない。 質量制限法では、既に容器に核燃料が一定量あるにもかかわらず、 次のバッチ操作時に誤って核燃料を装荷してしまった場合(二重装荷)の可能性も考慮して制限値が決められることもある。

参考文献:鈴木篤之、他、「核燃料サイクル工学」、p.200、日刊工業新聞社(1981)

(5) ウラン製品の貯蔵に際し被ばく防止の観点から留意すべき点を2つ挙げよ。

解答例:

極微量含まれる核分裂生成物からの放射線とU-232の娘核種であるタリウム-208の高エネルギーγ線(2.61 MeV)。

参考文献:「回収ウランのUF6転換試験 公開資料 PNC TN6410 91-37」

第3問

次の図は,プルトニウム溶液を貯蔵する環状槽の製作工程の一例である。 空欄の部分の製作時の試験・検査の名称と目的,方法について説明せよ。

記号 検査の名称 目的 方法
A 材料検査 環状槽の構成材料が定められた材質であることの確認 材料メーカ等が発行したミルシート等により、材料の成分及び機械的強度等が規格に合致していることを確認
B 溶接施工検査 溶接部の開先が溶接施工法で定められた形状、寸法であることの確認 開先角度,ルート間隔,目違い等が定められた形状・寸法であることを計測治具を用いて測定
C 浸透探傷試験 溶接部の溶接欠陥の検査 ⑦検査物の表面に有色の染色浸透液を塗布すると、欠陥がある場合には浸透液が毛細管現象により欠陥の中に浸透する。次に表面の余分な浸透液を除去したのち、現像液を塗布することによる着色の有無によって微細な欠陥を肉眼で発見できる。
D X線透過試験 溶接部の溶接欠陥の検査 溶接部のX線透過写真フィルムを現像して、欠陥の有無を判定する。
E 寸法・外観検査 槽の寸法,形状及び有害な傷等の確認。溶接部の形状,有害な傷等の確認 ⑨外観により形状、有害な傷のないことを確認。計測機器を用いて寸法を測定し、定められた寸法であることを確認する。
F 耐圧・漏洩検査 環状槽が定められた強度及び気密性を有していることの確認 環状槽内を加圧して加圧した際に形状の変化がないこと及び加圧後の槽内の圧力変化により定められた気密性を有していること確認する。
データ 素材 検査の名称
判断
A 材料検査
処理
切断・加工
判断
B 溶接施工検査
処理
溶接・組立
判断
C 浸透探傷試験
判断
D X線透過試験
判断
E 寸法・外観検査
処理
溶接・組立
判断
C 浸透探傷試験
判断
D X線透過試験
判断
E 寸法・外観検査
判断
F 耐圧・漏洩検査
処理 梱包・出荷

第4問

次の文章中の空欄にいれるべき適当な語句等を記せ。

(1) フランスの臨界安全の手引き(CEA-R3114)によれば,質量制限による安全管理の場合, 二重装荷が単一の偶発事故により起こりうるならば,安全係数として[①0.43]を用いることとされている。 これは,臨界質量算出の計算誤差を[②15]%と見込んでいるためである。 また,相互千渉を無視できるとして扱うことができる一例として,
1. 厚さ[③30]cm以上の水
2. 最も接近したユニット間の隔離距離[④4]m以上
3. 球又は円筒で,中心もしくは軸間距離が半径の和の[⑤6]倍以上との記載もある。
上述の前半の二重装荷の考え方を国内の安全審査指針に照らせば, 起こるとは考えられない[⑥独立した事象]が[⑦同時]に起こらない限り臨界に達しないものと同じ解釈である。

解説: ①から⑤までは、CEA-R3114の日本語版からの出題である。 ①及び②は第2巻第IV.2節(p.41)から、③、④及び⑤は第2巻第I.1節(p.39)からの出題である。 仏語で書かれた原本はもちろん、日本語版を所蔵している組織等は限られており、問題の引用元として適切ではない。 加えて、解答として求められている各数値は、一つの文献に記載されている値に過ぎない。 物理定数のようなものとは性格が異なる。記述式は酷である。 この文献を実務で十分に使い込んだ技術者以外に、正解は書けない。

(2) MOX燃料加工施設の安全管理上特に留意すべき事項は,包蔵性管理,遮へい,[⑧被曝], [⑨放射性廃棄物放出],[⑩放射線監視]であり,燃料製造上留意すべき特質は[⑪臨界管理]がある。 このうち,包蔵性管理は,ウラン加工施設に比べ管理の厳しさが10の5乗オーダー厳しい。 これは,酸化物の場合,プルトニウムの[⑫濃度]がウランのそれとほぼ同じ程度(約1/3)であるのに対し, プルトニウムの[⑬放射能]がウランのそれと比較し10の5乗オーダー大きいことによる。

(3) MOX燃料加工施設では,ウラン加工施設に比べプルトニウムの包蔵性管理を厳しく行うため, 施設全体で[⑭負圧]の管理を行い,空気は更衣室⇒廊下⇒[⑮工程室]⇒[⑯グローブボックス]⇒排気筒と流れるように設計される。 排気系に取り付ける高性能粒子用フィルタは,JIS Z 4812により,捕集効率は,[⑰0.15]μmの粒子に対し, [⑱99.97]%以上であり,また,標準風量に対し,初期の圧力損失は250 Pa以下であることが規定されている。 また,試験用の粒子としては,[⑲ジオクタルフタレート(DOP)]が一般的に用いられており,捕集効率は白色光源, またはレーザを用いた[⑳光散乱]式粒子計数器により測定される。

HEPAフィルタ: High Efficiency Particulate Air Filter の略である。 日本語では、超高性能エアフィルタといい空気あるいは排気中に含まれる微粒子を高性能で捕集するフィルター。 原子力施設では頻用される。一般には定格風量に対し、粒径0.15 μmのジオクタルフタレート(DOP)粒子を99.97%以上の効率で捕集するものをいう。 (出典 atomica)

第5問

核燃料物質の取扱いに関して,次の事項を簡単に説明せよ。

(1) 封じ込め/監視。
(2) 管理区域に入域する場合に,遵守すべき事項。
(3) 放射性廃棄物処分における浅地埋設。
(4) フッ化物揮発法。
(5) 減損ウランと回収ウラン。

解答例:

(1) 封じ込め/監視。
核物質計量管理の補助的手段である。 例えば、検認対象となる核物質の容器自体やその貯蔵場所の出入り口に封印を一旦施せば、 封印が破られない限り、計量をしなくても、核物質の量は変わらないと判断できる。 封印の他に、監視装置を用いることもある。

(2) 管理区域に入域する場合に,遵守すべき事項。
管理区域に立ち入る場合、
1. 個人線量計を着用する。
2. 保護靴、保護衣等の防護具を着用する。
3. 所定の出入口から立ち入る。
4. 作業に直接必要のない物を持ち込まない。
5. 掲示板などに記載されている放射線管理データ及び注意事項を確認する。
6. 線量当量率、表面密度及び空気中の放射性物質の濃度により、作業時間を調整するなどして、被曝低減に努める。
7. 区域管理者の許可を得るとともに、区域放射線管理係から立入時間の制限及び着用すべき防護具等の助言を受ける。

管理区域から退出する場合、
1. 手を洗い、ハンドフットクロスモニタ等により手、足及び衣服等の表面汚染検査を行う。
2. 着用した保護衣及び保護靴を脱ぎ、所定の場所に戻す。
3. ハンドフットクロスモニタ等の警報が発生した場合には、区域管理者及び区域放射線係に連絡する。汚染が発見された場合、汚染が除去されるまでは、管理区域から退出しない。
4. 所定の出入口から退出する。

常時立入者以外のものに対する追加注意事項。
1. 区域管理者の許可を得る。
2. 見学者等を管理区域に立ち入らせる場合には、必要な指示を与えるとともに、職員等である放射線業務従事者が付き添う。
3. 管理区域出入管理記録に所属、氏名、着用する個人線量計等必要事項を記入させる。

(3) 放射性廃棄物処分における浅地埋設。
低レベル放射性廃棄物の処分方法には海洋投棄、地中埋設、地層埋設等がある。 地中埋設は浅地埋設(処分)ともいわれ、トレンチピットを設けて廃棄物を収納し、不透水性の土壌で上部を覆う方法である。 降雨量が少なく、地下水の流れる滞水層から離れた地点を選定することが大切である。 但し、ある程度自然環境条件が良好でなくても、人工構造物を強化することによって対応できる利点がある。 参考文献:鈴木篤之、他、「核燃料サイクル工学」、p.122、日刊工業新聞社(1981)

(4) フッ化物揮発法。
乾式再処理法の一つ。 適切なフッ化剤を用い照射済燃料のフッ化を行い、生成したウラン、プルトニウム及び核分裂生成物のフッ化物を 沸点の差、あるいは化学的性質の差を利用して分離する。 参考文献:三島良績、他、「核燃料工学」、p.226, p.233-234、同文書院(I972)

フッ化物揮発法、 ふっかぶつきはつほう。 使用済燃料の乾式再処理法の一つで、U、Puなどの核燃料物質や、いろいろな核分裂生成物のフッ化物の揮発性の差を利用して、核燃料の除染、回収を行う方法である。 (出典 atomica)

(5) 減損ウランと回収ウラン。
減損ウラン、 げんそんうらん(出典 atomica)。 わが国の発電用原子炉では一般にウラン235の濃縮度が3%前後のウランを燃料として用いている。 原子炉で使用済みとなった燃料は、再処理工場において溶解され、燃え残ったウランと生成されたプルトニウムが回収される。 このときのウランの濃縮度はほぼ0.5%前後で初期濃縮度から低下しており、これを減損ウランと言う。 減損ウランは、再濃縮して利用できる他、プルトニウムと混合して軽水炉や高速炉に再利用される。 わが国では濃縮カスケードの廃材から得られる劣化ウランとは区別して用いているが、区別しないで用いられることもある。

回収ウラン、 かいしゅううらん。 使用済燃料から再処理によってUとPuを分離精製して回収したウランのことをいう。 天然ウランには、燃料となるU-235が0.72%しか含まれていないが、使用済燃料には燃焼度にも依存するが約1%のU-235が残っているため 分離回収して濃縮し再利用する価値がある。 他にU-232やU-236を含み燃料物質としての性質や外部被ばくなどの問題に留意する必要がある。

劣化ウラン。 U-235の同位体存在比が天然のものよりも少ないウランをいう。 天然ウランの同位体組成は、U-234が0.0057%、U-235が0.714%、U-238が99.3%である。 このウランを軽水炉の燃料として使用するためには、U-235の割合をおよそ3から5%に高めたウラン、すなわち濃縮ウランを必要とする。 この濃縮ウランを製造すると、U-235の割合が0.2%程度のウランが残る。このウランを劣化ウランという。 劣化ウランは、高速増殖炉の燃料の親物質として使用できるので、廃棄物になるわけではない。

参考文献:原子力百科事典

出典

谷内 茂康; 佐藤 忠; 須賀 新一; 小室 雄一; 内田 正明; 中島 邦久; 中村 仁一; 雨澤 博男; 大村 英昭; 湊 和生; 武田 常夫; 櫛田 浩平; 傍島 眞 核燃料取扱主任者試験問題・解答例集,1999~2003年, JAERI-Review 2003-025,https://doi.org/10.11484/jaeri-review-2003-025