第33回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第33回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第1問

アクチノイド元素の性質に関する次の各小問中の空欄に入る適切な言葉,式等を入れよ。

(1) 金属ウランの室温での結晶構造は[①斜方晶]であり,1132℃の融点までの間に[②2]回結晶構造が変わる。

(2) UO2, PuO2の結晶形はともに[③蛍石]である。 ウラン,プルトニウムの酸化物はウラン,プルトニウムが多くの原子価を取ることのために[④不定]性が顕著であり, UO2UO[⑤2+x]の領域が広く,PuO2ではPuO[⑥2-x]の領域が広い。

(3) UO2化学結合はほぼ[⑦イオン結合]性であるのに対して,UCの化学結合は[⑧金属結合共有結合が混じった結合]である。 また,UCの熱伝導度がUO2のそれより大きいのは,UO2の場合は[⑨フォノン]伝導が主であるのに対して, UCの場合は[⑩電子]伝導が主になっているからである。

(4) UF6は約[⑪57]℃で昇華する。この性質を用いて,遠心法ウラン濃縮で用いられている。 UF6はガラスと反応しないが,水蒸気がある場合には反応式[⑫UF6+2H2O→4HF+UO2F2]によって, [⑬HF]が生成するので容器として用いることはできない。

(5) ウランを酸に溶解後アンモニア水を溶かすと[⑭重ウラン酸アンモン]が沈澱する。 この反応はウランの精製や再転換で用いられる。 (newclears注:重ウラン酸アンモニウムまたは重ウラン酸アンモン((NH4)2U2O7) はウランの化合物の一つで、ウランを精製する際のイエローケーキ(ウラン精鉱)に含まれる。 また、MOX燃料を製造する際の中間生成物である。英名のAmmonium diuranateからADUと呼ばれることもある。出典wikipedia

(6) アクチノイド元素は原子番号の小さい順に示すと, Ac,[⑮Th],Pa,[⑯U],[⑰Np],[⑱Pu],[⑲Am],Cm,Bk,Cf,Es,Fm,Md,No,Lr となる。 Pu, U, Cmの空気に接触している水溶液中で最も安定な原子価はそれぞれ,[⑳4],[(21) 6],[(22) 3]である。

(7) ウランは空気と接している海水中では[(23) UO2(CO3)34-]の化学形で存在しており, 酸化性酸性水溶液中での[(24) UO22+]の化学形とは異なる。

(8) UO3より金属ウランを製造するには,UO3をまず[(25) 水素]で還元し,HFガスによってUF4とした後, CaやMgによって[(26) UF4+2Mg→U+2MgF2]の反応式で表される反応でウラン金属に変える。

第2問

軽水炉用核燃料の挙動に関する次の小問に答えよ。

(1) 高燃焼度化に伴って問題となる燃料挙動について列挙し,その対策を簡単に説明せよ。

解答例

① FPガス放出量の増大…大粒径ペレットの採用、 初期加圧量の増大(BWR)、 プレナム体積増加(PWR)

② 被覆管の腐食と水素吸収の増大…新合金の開発

(2) 冷却水の温度より燃料ペレット中心温度を計算により評価する際に考えなくてはならない熱移行プロセスについて簡単に説明せよ。

解答例

冷却水──被覆管表面……対流熱伝達(PWR)、沸騰熱伝達(BWR)
被覆管外面──内面……固体熱伝導
被覆管内面──ペレット表面……ギャップガスの熱伝導、固体間の熱伝達、輻射熱伝達、(ギャップ熱伝達と総称される。)
ペレット表面──ペレット中心……固体熱伝導(ただし実際にはクラック形成による気体熱伝導も含まれている。)

第3問

二酸化ウラン燃料に下記の化合物を添加し,軽水炉で燃焼させるとする。 化合物を添加していない二酸化ウラン燃料と比べ,それぞれの化合物を添加した二酸化ウラン燃料の 化学的・物理的性質はどのように変化すると考えられるかについて簡潔に論ぜよ。

(1)Nb2O3, (2)Gd2O3, (3)PuO2, (4)Al2O3+SiO2

解答例

(1) Nb2O3 大粒径ペレットを作っても、クリープ率を大きめにすることができ、 被覆管に比べてペレットの強度が強く成りすぎるのを防止できる。

(2) Gd2O3 融点が大きく低下する。低温での熱伝導度が低下する。また添加量が大きいと割れやすくなる。 ガドリニウムの熱中性子吸収断面積が大きいため可燃性吸収体(バーナブルポイズン)と働き、 燃料集合体の運転初期の余剰反応度を低減させる。

(3) PuO2 融点、熱伝導度が低下する。また、クリープ率等、格子欠陥濃度に比例する現象が促進され、 その結果FPガス放出率も若干増加する。

(4) Al2O3+SiO2 粒界に第二相として析出し、特に大粒径ペレットを作った場合のクリープを促進する。

第4問

以下に示す各物性値の定義,室温におけるUO2の各物性値のおおよその値とその単位について記述せよ。 また,核燃料物質UO2の物性値はどのような温度変化を示すか。 横軸に温度,縦軸に各物性値をとり,その概略図を示せ。 そのように描いた理由についても簡単に説明せよ。

(1) 定圧モル熱容量(Cp), (2) 線熱膨張係数(α), (3) 熱伝導率(λ), (4) ヤング率(E)

解答例

(1) 定圧モル熱容量(Cp)

 C _ p = \frac{dH}{dT}

ここで、Cpは、定圧モル熱容量、Hはエンタルピー、Tは温度。

約 64 J/(K mol)

UO2はイオン結晶であり、格子熱容量が主である。 このうち調和項の寄与は室温よりやや高温で飽和するが、膨張項とショットキー熱容量の寄与によりその後もやや増大する。 さらに高温では、格子欠陥生成、電子・ホール対生成の寄与により熱容量が増大する。 (概略図省略。温度300K程度のときCp~60 J/K mol、温度上昇に伴いCpも増大するが室温よりやや高温で飽和、 さらに高温ではCpもさらに増大し、3000K程度で200 J/K mol程度となる。)

(2) 線熱膨張係数(α)

 \alpha = \frac{1}{L _ 0} \frac{dL}{dT}

Lは試料長さ、L0は初期長さ、Tは温度。

約 1.0×10-5 /K

線熱膨張係数は、温度依存性が小さい。ただし、高温では格子欠陥生成によりやや増加する。 (一般には、Gruneizenの式により、(線)熱膨張係数は熱容量に比例する。 このため、熱容量と同様に高温で飽和する。) (概略図省略。温度300K程度のときα~1×10-5 /K、温度依存性が小さいので温度上昇してもαはごくわずかに増加するのみだが、 高温になるにつれ増加度合いが大きくなり、3000K程度ではα~2×10-5 /K程度になる。)

(3) 熱伝導率(λ)

 Q = -\lambda \frac{dT}{dx}

熱伝導率λは上の式で定義される。ここで、Qは単位時間に単位面積を過ぎる熱量を表し、dT/dxは温度勾配である。

約 8 W/mK

2000K以下の温度範囲では、UO2フォノンによる熱伝導が主であり、 1/(AT+B)の依存性で温度が上がるにつれて熱伝導率は低下するが、 2000K以上では、電子の寄与が大きくなり増加する。 (概略図省略。温度300K程度ではλ~10 W/mKで、温度が上がるにつれてλは減少するが、2000K以上では増加に転じる。)

(4) ヤング率(E)

応力σと歪みεの間には比例限界内でフィックの法則が成り立ち

 \sigma = E \varepsilon

の比例関係が成り立つ。このEをヤング率という。

約 2×1011 N/m2

ヤング率は、結晶格子の結合力に比例する。温度の上昇とともに結晶の結合力は減少する。 (概略図省略。温度300K程度ではE~2×1011 N/m2程度で、温度上昇とともにEは減少し、 3000K程度では2×1011 N/m2強となる。)

第5問

核燃料物質に関連して,次の事項を簡単に説明せよ。

(1) 応力腐食割れ
(2) 熱拡散
(3) 阻止能
(4) スウェリング
(5) リム効果

解答例

(1) 応力腐食割れ: 腐食性の環境下で引張応力がかかった場合に割れが進行する現象で、合金において一般的に見られる。 軽水炉燃料では、被覆管がハロゲンFP蒸気の存在下で割れを起こすといわれている。

(2) 熱拡散: 動的に熱が伝わる現象。比熱と密度が比較的一定値に近いため、 熱拡散率の相対変化は熱伝導度の相対変化とほぼ同ーである。

(3) 阻止能: 放射線が物質中を通過する場合に、単位通過距離あたりに失うエネルギー量。線減弱係数ともよばれる。

(4) スウェリング: 材料がふくれる現象。FPによる燃料ペレットのスウェリング(固体スウェリングと気体スウェリング)、 ヘリウムガスによる被覆管のスウェリング等がある。

(5) リム効果: 軽水炉燃料で燃焼度が進むと燃料ペレット周辺部(リム部)に 燃焼度とポロシティ率の高い領域が出現する現象をリム効果と呼ぶ。 これは、238-Uの共鳴吸収によりプルトニウムが蓄積し、局所的に燃焼度が高くなるためであり、 組織変化としては、UO2結晶が細粒化して、高圧のFPガスを含む粗大化した気泡を取り囲み 高いポロシティ率を持つリム組織が生じる。リム組織は、ポーラスな構造から熱伝導率が小さいと推定され、 また多量のFPガスを含むため、その熱特性やFPガス放出挙動が高燃焼度燃料挙動に大きな影響を与える可能性があり、注目されている。

出典

谷内 茂康; 佐藤 忠; 須賀 新一; 小室 雄一; 内田 正明; 中島 邦久; 中村 仁一; 雨澤 博男; 大村 英昭; 湊 和生; 武田 常夫; 櫛田 浩平; 傍島 眞 核燃料取扱主任者試験問題・解答例集,1999~2003年, JAERI-Review 2003-025,https://doi.org/10.11484/jaeri-review-2003-025