第34回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の取扱いに関する技術

第34回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の取扱いに関する技術

第1問

核燃料の加工に関して述べた次の文章の空欄の部分に適切な化学式又は語句を番号とともに記せ。 また,以下の問に答えよ。なお.同じ番号の空欄には同じ化学式又は語句が入る。

濃縮工場から供給された低濃縮ウランは[①UF6]の化学形を持ち,気体状であるので, 原子炉燃料とするために粉末状の[②UO2]に変換される。この工程を[③再転換]という。 [③再転換]プロセスは湿式法と乾式法に大別されるが,我が国では[④湿式法]が主流である。 湿式法のうち,ADU法は[①UF6]と水との加水分解反応により,[⑤ラニルイオンUO22+, UO2F2)]を含む水溶液とし,これにアンモニアを加え, [⑥重ウラン酸アンモニウム((NH4)2U2O7)]を沈殿させる。この沈殿を,ろ過,乾燥,ばい焼,還元し,[②UO2]粉末に変換する。 一方,乾式法は高温の反応炉において[①UF6]と水蒸気又は水素・酸素との気相反応により直接[⑦ウラン酸化物]を生成させ, さらに水素還元を行うことで[②UO2]とするプロセスである。いずれの方法においても,反応副産物である[⑧フッ化水素(HF)]に対する対策が重要である。

(1) 湿式法の長所及び短所をそれぞれ2点づつ挙げよ。

解答例
長所: 1.広範な実績がある。 2.高純度のウラン製品を得ることができる。

短所: 1.プロセスが複雑である。 2.各工程から廃液が出るため廃棄物量が多くなる。

(2) 乾式法の長所を2点挙げよ。

解答例
1.廃液発生量が少ない。
2.プロセスが単純なため大型設備を必要としない。
3.水を用いないため、臨界安全上の燃料取扱制限値を湿式法に較べて大きくできる。
参考文献「動力炉 燃料・材料ガイドブック」p.221、日本原子力産業会議(1998)

(3) 湿式法と乾式法共に,ばい焼・還元を行う過程で水蒸気を加える。この目的は何か。

解答例
高温加水分解によりフッ素の含有率を50ないし60 ppmまで減少させるため。
参考文献「原子力化学工学第II分冊、核燃料・材料の化学工学、清瀬量平訳、日刊工業、s59.3.30. p.158

(4) 水素還元を行う過程で,火災・爆発防止のために用いられるガスについて述べよ。

解答例
アルゴン、ヘリウム、窒素等の不活性ガスで水素による爆発限界濃度以下に希釈して用いる。

第2問

核燃料サイクルに関して,以下の問いに答えよ。

(1) 軽水炉使用済燃料を再処理して得られる回収ウランを再濃縮した低濃縮ウランの同位体組成例を下表に示す。これをもとに以下の問いに答えよ。

再濃縮ウラン
(μg/g全U)
232U 0.014
233U 0.034
234U 1350
235U 4.5×104
236U 2.1×104
238U 残り

ア) 天然ウランを濃縮した低濃縮ウランと比べ,放射線防護上最も注意しなければならない核種はどれか。その理由も簡単に述べよ。

解答例
U-232。U-232の娘核種であるTl-208の高エネルギーγ線(2.61 MeV)による外部被曝が問題となるため。
参考文献「回収ウランのUF6転換試験 公開資料 PNC TN6410 91-37」

イ) U-236の影響について簡単に述べよ。

解答例
中性子吸収効果がある他、回収ウランのα放射能にも寄与する。

(2) 使用済燃料を再処理して得られる回収プルトニウム同位体組成例を下表に示す。これをもとに以下の問いに答えよ。

回収プルトニウム
(重量%)
238U 0.7
239U 67.4
240U 22.2
241U 6.9
242U 2.8

ア) 核分裂プルトニウム量は何重量%か。

解答例
67.4wt%+6.9wt%=74.3wt%。

イ) Pu-238の影響について簡単に述べよ。

解答例
α線および崩壊熱の大部分はこの核種の寄与による。 (α,n)反応により、回収プルトニウム中性子発生に最も寄与する。

ウ) 分離後数年が経過した際,放射線防護上最も注意しなければならない核種はどれか。その理由及び対策を簡単に述べよ。

解答例
Pu-241。半減期14.9年でβ壊変した娘核種からのAm-241から60 keVのγ線が放出される。 対策は、含鉛アクリル等による遮へい。 多量のPuを扱う場合には前もってAmを化学分離で除去する。

エ) プルトニウム核種から放出される中性子線のしゃへい方法を述べよ。

解答例
パラフィン、水、グラファイトなど原子番号の小さい元素でできた物質を用いて、中性子を減速、炭化ホウ素等により遅中性子を吸収する。 減速遮蔽する。遮蔽材と中性子との主たる相互作用、すなわち(n,γ)反応、で生じた二次γ線の遮蔽には、原子番号の大きい物質である鉛や鉄を用いる。

(3) 実験室規模でウランやプルトニウムの精製を有機溶媒により行う場合,火災防止の観点から採られる対策を3点挙げよ。

解答例
1. 容器から溶媒が漏えいし難い構造をしている。
2. 漏えいが発生しても直ちにこれを検知する機器を設置する。
3. 溶媒を加熱使用する場合は、50℃以下に制御する。
4. 着火源となるような機器は近くに設置しないとともに静電放電を防止するため機器等を接地する。
5. 火災検知器を設置するとともに、流入する空気を遮断できる防火ダンパ及びガス消火装置を設置する。

第3問

以下の問に対して,それぞれ重要な項目を5種類記せ。

1) プルトニウムを取り扱うグローブボックスの包蔵性を確保,確認するために,製作据え付け時に行う試験・検査項目及び運転(供用)中に行う保守・点検項目

解答例
*製作・据付け時の試験・検査項目
配置・員数検査、寸法検査、負圧維持機能検査、気密検査、材料検査、外観検査、 安全機能検査(負圧破壊、負圧超過、温度上昇時の警報発信の確認)、系統検査(主要配管の系統を確認)

*保守項目
定期的にグローブ、HEPAフィルターの交換

*点検項目
グローブ等の汚染検査、線量当量率測定、外観検査、フィルターの差圧確認、 負圧警報作動試験、気密検査、温度上昇警報試験、換気風量測定

2) ウラン燃料加工施設の運転管理において,爆発事故を防止するために実施する管理項目及び点検項目

解答例
*管理項目
1. 爆発限界以下のガスを使用する。
2. 難燃性の溶剤を使用する。
3. 使用温度を限定する。
4. 可燃性ガスを使用する付近で電気部品などの着火源を置かない。
5. 静電放電を防止するため機器等を接地する。
6. 可燃物をできるだけ少なくする。

*点検項目
1. 可燃性ガス検知器の作動試験
2. 温度上昇検知器の作動試験
3. 加熱源(電気炉等)の遮断試験
4. 流入する空気を遮断できる防火ダンパの作動試験
5. ガス消火装置の作動試験

3) 核燃料取扱施設において,施設者が実施すべき計量管理活動

解答例
Puの計量管理は「いつ、どこで、どういう状態で、どれだけの」Puが存在しているかを把握する「在庫管理」と、 このPuが「いつ、どこで、どういう状態で、どれだけ、何の目的で」移動したかを把握する「流れの管理」の2つからなる。

4) 使用済み燃料溶解液からPu,U及びFP等を分離精製する装置の名称とその特長

解答例

ミキサセトラ みきさせとら
mixer-settler。多段槽型抽出器のことである。溶媒抽出装置のひとつで、形状は箱型である。 再処理工程ではウランとプルトニウムの分離・精製工程で使用されることが多い。 有機相と水相を撹拌羽根によって撹拌・混合するミキサ部と、両相を静置して分離するセトラ部で1段が構成され、 これを水平方向に複数段並べることによりひとつの装置となる。 有機相と水相はミキサセトラの内部を逆方向に流れ、ミキサ部で溶媒抽出が行われる。 操作の安定性に優れ、再処理工場での使用実績も多いが、装置内での滞留時間が長いため溶媒が分解しやすい、処理容量を大きくすることが難しいという欠点がある。 atomica

パルスカラム ぱるすからむ
脈動抽出塔のことである。使用済核燃料の再処理工程で使用される溶媒抽出装置のひとつで、 形状は円筒状あるいは円環状で、高さは10 m以上になることもある。 内部は小孔の開いた目皿などを水平に配置することによって区切られ、上部から供給された水相は下方へ、下部から供給された有機相は上方へ移動する。 このときポンプなどで脈動を与えて両相の分散混合を図ることにより、溶媒抽出が行われる。 パルスカラムは、装置が単純なため保守が容易なこと、処理能力が大きいこと、滞留時間が短いため放射線による溶媒の分解が少ないことなどの利点がある。 atomica

遠心抽出器(えんしんちゅうしゅつき)
高速回転場を利用して油水を混合して微小な液滴を生成、二相間での物質移動を行わせ、 ついで遠心場を利用してエマルジョンの高速沈降を行わせる分離装置。 小型化・自動化が可能、インベントリーが小さい、接触時間が短く溶媒損傷を低減できる、等の特長から、 次世代の核燃料再処理用抽出装置として、各国で技術開発が進められている。 原子力委員会用語解説

多段向流接触器(向流接触 こうりゅうせっしょく)
ある放射性物質などを含む流体と他の抽出溶媒などの流体を接触させつつ互いに逆方向に流す (この操作により放射性物質を抽出する)方法を向流接触(抽出法)という。 ある流体と他の流体または流れの間に電熱や物質の移動を連続的に行わせるために、 両流体を直接または間接的に接触させつつ逆方向に流す場合を向流といい、同方向に流す場合を並流という。 並流の場合は装置の入口において流体の推進力が最大で徐々に減少し出口で最小となる。 これに対し、向流の場合は推進力の分布は装置の各部で比較的均ーとなる。 さらに装置出口の両流体の状態に関して、たとえば熱交換の場合に向流では低温流体の出口温度を高温流体の出口温度より高くすることが可能であるが、並流ではできない。 ウランの精錬、再処理などに利用される。 atomica

電解還元抽出接触器(電解採取法)
溶液中のイオンを分離する方法の一つ。金属の選鉱・精錬に用いられている。 溶液中に二つの電極を挿入し、通電することにより、イオンが還元され陰極(カソード)表面に析出する。 定電流電解法では基本的に標準酸化還元電位の貴なイオンが優先的に析出するので、他元素イオンから分離することができる。 高レベル廃液からは、硝酸酸性が高いにも拘らず、白金族(Pd、Ru、Rh)、Te、Se、Ag等のイオンが析出してくる。 硝酸溶液からはRe(VII)も析出するので同属のTc(VII)の分離も可能と考える。 本プロセスでは基本的に化学試薬は必要ないので、二次的廃棄物は発生しない。 原子力委員会用語解説

イオン交換カラム(イオン交換 いおんこうかん)
不溶のイオン結合化合物を含む固体を電解質溶液に触れさせるときに、固体内のイオンと溶液中のイオンとが入れ代わる現象をいう。 陽イオン交換と陰イオン交換の二通りある。この現象を利用すると、電解質中に存在する有用物質の捕捉や不要物質の除去が可能である。 原子力の分野でイオン交換反応は、原子炉冷却水中の放射性物質(イオン)の分離・除去、放射性廃棄物からの同位体の分離、 使用済核燃料再処理施設における分離・精製、ウランの採鉱などに用いられている。 放射性廃棄物の地下埋設・処分において、イオン交換反応は、人工的な施設(人工バリア)から漏れてくるかもしれないイオン (放射性物質を含む)の移動を、その周囲の岩盤・土壌が阻止する能力(天然バリア)の一つとして、期待されるものである。 atomica

第4問

以下は,臨界安全管理の基本的考え方を示す文章である。空欄の部分に適切な語句を番号とともに記せ。 なお,同じ番号の空欄には同じ語句が入る。

(1) 臨界安全管理の基本は,[①技術的に想定]されるいかなる場合でも臨界を防止することである。 このため,施設の臨界安全性を[②設計],製作,施工及び[③運転]の各段階で十分な安全裕度を見こんで確保する。 基本的には,[②設計]において臨界安全性を担保し,製作,施工において[④設計条件]が満たされていることを確認し, [③運転]において設計どおり臨界安全を維持できるように[⑤管理]する。

(2) [⑥単一ユニット]とは,一組の臨界管理因子について核的制限値が設定できる核燃料物質取り扱い上の1つの単位である。 二つ以上の[⑥単一ユニット]及び反射体,しゃへい体等からなる体系を複数ユニットという。 臨界安全確保のためには,[⑥単一ユニット]間の[⑦中性子相互干渉]を考慮し,[①技術的に想定]されるいかなる場合でも臨界にならないように [⑥単一ユニット]の配置及び中性子しゃへい材の配置等が決められなければならない。
[⑥単一ユニット]の臨界安全性は,ユニットに含まれる核燃料物質及びその他の物質の種類,量,[⑧物理的化学的形態]等を考慮し, 指定されたユニットの[⑨形状]や寸法のもとで核的に安全であることを平常時ばかりでなく[⑩異常]時をも含めて確認する。 複数ユニットの臨界安全性を確認するには,ユニット間の距離或いはしゃへい材厚さを考慮し, [⑦中性子相互干渉]効果を平常時ばかりでなく[⑩異常]時をも含めて評価する。

(3) 未臨界を計算により確認する場合には,計算に使用するデータ及び手法の[⑪信頼性]を考慮し十分に[⑫安全裕度]を見込んで評価する。 この場合,使用するデータ及び計算手法に関しては,評価対象系と類似の物理体系の[⑬実験データ]との比較によりその信頼性を十分確かめておくべきである。 なお,評価対象系と同一の物理体系について実施された[⑬実験データ]が入手できる場合は,その[⑬実験データ]により直接臨界安全性を評価してよい。

(4) [⑭核的制限値]とは,臨界安全管理を行う体系の未臨界確保のために臨界管理因子に対して設定する値である。 この値は具体的な機器の設計及び運転条件の妥当性の判断を容易かつ確実に行うための,寸法,濃度等, 直接的に計量可能な値または間接的に管理可能な値であり,最大許容限度以下に設定され, これを超えた機器の製作並びに平常時における運転条件の設定は許されない。 [⑭核的制限値]の例としては,[⑮質量]制限値,[⑯寸法]制限値,[⑰容積]制限値,濃度制限値,体数制限値,配列制限値,立体角制限値などがある。

(5) 臨界警報装置は,臨界事故が発生した場合に,従事者に[⑱警告]を発することにより, 迅速に退避させて[⑲被曝]を低減するために設置される。 臨界事故時に発生するガンマ線あるいは中性子を検出する測定系と臨界事故の発生を周知する[⑳警報機]からなる通報系からなり, 設置にあたっては設置区域,検知すべき臨界事故の特性,臨界警報装置の配置について検討する必要がある。

解説:①から⑰は、臨界安全ハンドブック第2版、JAERI 1340 (1999)のp.7-9からの出題である。 ⑱及び⑲は、おなじくp.173からの出題である。

第5問

核燃料物質の取扱いに関して次の事項を簡単に説明せよ。

(1) 溶融塩電解法
(2) 二重偶発性の原理
(3) 乾式貯蔵
(4) 可燃性放射性廃棄物を処分するまでの手順
(5) プルトニウム取扱施設の設計で考慮すべき核物質防護上の要件

解答例

(1) 溶融塩電解法
使用済金属燃料を陽極(+)、固体(鉄の棒)あるいは液体カドミウムを陰極(-)として、 溶融塩中で電気分解を行うことにより、陽極からU、TRUが溶融塩中に溶解し、陰極に析出する。 この際、各金属の還元されやすさの違いによって、固体陰極ではUが、液体カドミウム陰極ではU、TRUが、 夫々選択的に析出するために、FPと分離して回収することができる。 原子力委員会用語解説

(2) 二重偶発性の原理
臨界安全管理の手法の一つである。 この手法は、起こるとは考えられない独立した2つ以上の異常な事象が同時に発生しない限り臨界事故が発生しないような設計を要求する。

(3) 乾式貯蔵
使用済燃料の貯蔵法には湿式(水中)と乾式(気体中)がある。 湿式貯蔵は数十年の経験があり、安全に貯蔵する技術も確立されている。 しかし、運転経費がかさむ、放射性廃棄物が多い、などの理由により経済性に難点がある。 特に貯蔵期間が長くなればこの欠点がさらに大きくなる。 乾式貯蔵はこれらの欠点を解消するために開発された方式であるが、歴史が浅く、安全性、経済性が実証された方式であるか否かは議論が分かれるところである。
乾式貯蔵は不活性ガス・炭酸ガス・空気雰囲気で気体雰囲気中で使用済燃料を貯蔵する方式である。 貯蔵施設の形式で分類すると、キャスク貯蔵、サイロ貯蔵(コンクリートキャニスタ)、ボールト貯蔵、およびドライウェル貯蔵がある。 atomica

(4) 可燃性放射性廃棄物を処分するまでの手順
1. ポリ塩化ビニル(PVC)バックに溶封した後、指定容器に封入する。
2. 放射性廃棄物中に含まれる主要な核種及び放射性物質の量を測定又は推定する。
3. 容器表面の線量当量率を測定する。
4. 容器の表面密度を測定する。ただし、汚染されていないことが明らかなポリエチレン袋、 ポリエチレンシート等によって包装したものについては、表面密度測定を省略することができる。
5. 放射性廃棄物の表示(性状、内容物等)
6. 焼却処分するまでは、不燃性の材料による区画または不燃性の容器を設けている所定の廃棄物保管場所に保管する。

(5) プルトニウム取扱施設の設計で考慮すべき核物質防護上の要件
1. 核燃料物質の防護のための区域(防護区域)を定め、その区域をコンクリート等の堅固な障壁で区画する。
2. 防護区域の周辺に周辺防護区域を定め、その区域を柵等の堅固な障壁で区画する。
3. 上記2区域を巡視する。
4. 上記2区域への人、車両、物品等の出入りを管理する。
5. 防護区域の核燃料物質を管理する。

解説「原子力関係規制法令集」の各事業規則の(防護措置)の条項を参照した。 実際には全部で15の要件が記載されているが、常識的には上の5項目程度で十分と考える。

出典

谷内 茂康; 佐藤 忠; 須賀 新一; 小室 雄一; 内田 正明; 中島 邦久; 中村 仁一; 雨澤 博男; 大村 英昭; 湊 和生; 武田 常夫; 櫛田 浩平; 傍島 眞 核燃料取扱主任者試験問題・解答例集,1999~2003年, JAERI-Review 2003-025,https://doi.org/10.11484/jaeri-review-2003-025