第34回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第34回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第1問

H He
Li Be B C N O F Ne
Na Mg Al Si P S Cl Ar
K Ca Sc Ti V Cr Mn Fe Co Ni Cu Zn Ga Ge As Se Br Kr
Rb Sr Y Zr Nb Mo Tc Ru Rh Pd Ag Cd In Sn Sb Te I Xe
Cs Ba Hf Ta W Re Os Ir Pt Au Hg Tl Pb Bi Po At Rn
Fr Ra Rf Ha

1. 上記周期律表中のイおよびロの位置の元素系列に関する以下の問いに答えよ。

(1) イに入る元素の系列を何というか。また,この元素系列に含まれる元素はいくつあるか。

解答例

ランタニド、15個

(newclears注: 周期表において、原子番号57のランタンから原子番号71のルテチウムまでの15元素 (La, Ce, Pr, Nd, Pm, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Lu)をランタノイドという。 ランタノイドとはランタンもどきを意味する造語であるため、ランタン自身を含んだ呼称としては本来は不適切で、 ランタンを含んだ場合はランタニド、除いた場合はランタノイドと呼び分けられたことがあった。 現在では区別することなく「ランタノイド」が推奨されている。出典:wikipedia

(2) イの元素系列に属する元素を3個選び元素名と元素記号で示せ。 また,この系列では原子番号の増加とともに,主としてどの軌道に電子が入るか。

解答例

ランタン (La)、セリウム (Ce)、ネオジム (Nd)、4f軌道

(3) イの元素の系列の中で,中性子吸収断面積が大きくポイズンの役目をする元素を2個あげよ。

解答例

ガドリニウム (Gd)、ジスプロシウム (Dy)

newclears注:下表によれば、サマリウム (Sm)やユーロピウム (Eu)も解答候補になると思われる。

表:ランタノイドの熱中性子(速度2200 m/sec)の吸収断面積 (出典:大友正一、更田豊治郎、熱中性子吸収断面積及び散乱断面積(表)、JAERI 6010、1962年、 ※はhttps://www.nist.gov/ncnr/neutron-scattering-lengths-listより。)

La 9.3 b
Ce 0.73 b
Pr 11.6 b
Nd 46 b
Pm ※168 b
Sm 5,600 b
Eu 4,300 b
Gd 46,000 b
Tb 46 b
Dy 950 b
Ho 65 b
Er 173 b
Tm 127 b
Yb 37 b
Lu 112 b

ポイズン poison 中性子をよく吸収して核分裂連鎖反応を弱め、原子炉の反応度を低下させるような中性子吸収断面積の大きい物質をいう。 出典:atomica

(4) ロに入る元素の系列を何というか。また,この元素系列に含まれる元素はいくつあるか。

アクチニド、15個

(newclears注: 周期表において、原子番号89のアクチニウムから原子番号103のローレンシウムまでの15元素 (Ac, Th, Pa, U, Np, Pu, Am, Cm, Bk, Cf, Es, Fm, Md, No, Lr)をアクチノイドという。 アクチノイドのうち、アクチニウムを除く、原子番号90から103までの14元素をアクチニドと呼ぶ。 出典:日本原子力研究開発機構 地層処分技術に関する研究開発 用語集 ※ランタノイドの項で引用した説明(oidはもどきを意味する)と矛盾する。 いずれにしても、現在は区別せず「アクチノイド」が推奨されている。)

(5) ロの元素系列に属する元素を3個選び元素名と元素記号で示せ。 また,この系列では原子番号の増加とともに,主としてどの軌道に電子が入るか。

トリウム (Th)、ウラン (U)、プルトニウム (Pu)、5f軌道

(6) ロの元素の系列の中で,マイナーアクチニド(MA)と言われている元素を3個あげよ。

ネプツニウム (Np)、アメリシウム (Am)、キュリウム (Cm)

(newclears注:アクチノイドのうち、存在量が突出しているウランと核燃料など用途が確立されたプルトニウムを、メジャーアクチノイドと呼ぶ。 アクチノイドに属する超ウラン元素のうちプルトニウムを除いたものをマイナーアクチノイドと呼ぶ。出典:wikipedia

2. 上記周期律表を利用して酸化物燃料中に生成する核分裂生成物(FP)の存在状態について以下の問いに答えよ。

(1) 気体状又は揮発性FPとして存在する代表的な元素をそれぞれ3個ずつ挙げよ。

解答例:Kr, Xe, I, Br

(2) 金属折出物を作るFPとして存在する代表的な元素をそれぞれ3個ずつ挙げよ。

解答例:Ru, Rh, Pd

第2問

軽水炉燃料の被覆管のPCI破損が問題になって以降,燃料ペレットおよび被覆管の高性能化さらには高燃焼度化を目的として, 国内外で成されてきている種々の試みについて説明せよ。

解答例

PCI破損対策、および高燃焼度化のための対策で最大のものは、燃料棒を細径化することであった。 これは、同じ炉心出力密度の条件下で、細径化することによって線出力密度を下げることができ、 燃料温度を下げることができるからである。この他、PCI破損がとくに問題となったBWR燃料では、 ジルコニウム・ライナー被覆管の採用、ペレット端面形状の変更などの対策がとられた。
高燃焼度化に関連しては、被覆管の腐食と水素吸収を抑制するための新合金の開発、 FPガス放出率の低減化のための大粒径ペレットの採用、等が試みられている。

第3問

Purex法再処理工場での元素の化学挙動に関する次の問に答えよ。

(1) FPはU+Puからどのような方法により分離されるのか,それぞれの元素の化学的性質より説明せよ。

解答例

大部分のFP、1価のアルカリ元素、2価のアルカリ土類元素、3価の希土類元素等は 3M硝酸溶液から30%TBPドデカン溶媒に抽出されず、6価のウラン、4価のプルトニウムは抽出されるので、 ウラン、プルトニウムから分離される。

(2) PuとUの分離はどのようにして行われるのか,それぞれの元素の化学的性質より説明せよ。

解答例

6価のウラン、4価のプルトニウムを含む30%TBPドデカン溶媒をウラン4価またはFe 2価あるいはヒドラジンを含む3M硝酸溶液と接触させると プルトニウムは3価に還元され、硝酸溶液に逆抽出される。 ウラン4価は一部のものがウラン6価に酸化されるが、どちらも30%TBPドデカン溶媒に抽出され、プルトニウムから分離される。

(3) Cmはこれらの分離プロセスにおいてどのような挙動をするのか,Cmの化学的性質より説明せよ。

解答例

Cmは、主として3価の原子価で存在し、(5価以上の原子価を取らず)TBPとあまり強い錯形成を行わないために、 TBPと強い錯形成を行うU,Pu,Np等との溶媒抽出による分離が可能である。

第4問

UO2,UCの熱伝導度の概略を横軸に温度をとって図示せよ。 また,UO2とUCの熱伝導度の異なる理由を説明せよ。

解答例

(概略図省略。 UO2は、室温付近で熱伝導率が10 W/mK程度で、温度上昇に対して熱伝導率は低下し、1000 K程度で5 W/mK程度、 2000 K程度まではほぼ一定で、それ以上ではわずかに増加し3000 K手前では7 m/K程度になる。 UCは、室温付近で22 W/mK程度、温度上昇に対して、800 K程度まではわずかに減少して20 W/mK程度、それ以上では増加に転じ 2600 K程度では24 W/mK程度になる。)

UO2はイオン結晶で、その熱伝導率は低温側では主にフォノン伝導であり1/(AT+B)の依存性で温度が上がるにつれて熱伝導率は低下する。 一方、2000 K以上では、電子の寄与が大きくなり増加する。

一方、UCは高い電気伝導度を持ち金属的な性質を示し、熱伝導は電子伝導が主である。 このため、UCの熱伝導度はUO2に比べて高温側でほぼ一桁大きい。 電子伝導は温度に対してほぼ一定であるため、UCの熱伝導度の温度依存性は小さい。

第5問

核燃料および被覆管に関連して,次の事項を簡単に説明せよ。

(1) 被覆粒子燃料
(2) ラドン
(3) 不定比性
(4) 金属燃料
(5) 照射硬化と照射脆化

解答例

(1) 被覆粒子燃料
高温ガス炉用に開発されてきた燃料で、微小球の燃料核(通常UO2)を熱分解炭素や炭化ケイ素で多重に被覆したものである。

(2) ラドン
ラジウムの娘核種で気体元素である。アルファ放射性をもつ。

(3) 不定比性
無機化合物で構成元素のモル比が簡単な整数比にならない現象をいう。 一般にセラミックス燃料は高温で不定比性を示すが、これは格子欠陥濃度が増すためで、 格子欠陥に関連した物性値は不定比性によって変化する。

(4) 金属燃料
ウラン単体,U-Pu合金または、金属を加えた合金を用いた燃料。 原子力の初期には、動力炉でも使われたが化学反応性、寸法安定性などの問題から、現在では一部の研究炉でウラン・アルミ合金燃料等が使われている。 また、高速増殖炉燃料として、U-Pu-Zr合金の研究も実施されている。

(5) 照射硬化と照射脆化
一般に材料は中性子照射を受けることによって、強度が増す。これを照射硬化という。 同時に破断に至るまでの伸び量が減少する。これを照射脆化という。

出典

谷内 茂康; 佐藤 忠; 須賀 新一; 小室 雄一; 内田 正明; 中島 邦久; 中村 仁一; 雨澤 博男; 大村 英昭; 湊 和生; 武田 常夫; 櫛田 浩平; 傍島 眞 核燃料取扱主任者試験問題・解答例集,1999~2003年, JAERI-Review 2003-025,https://doi.org/10.11484/jaeri-review-2003-025