第35回 核燃料取扱主任者試験 放射線の測定及び放射線障害の防止に関する技術

第35回 核燃料取扱主任者試験 放射線の測定及び放射線障害の防止に関する技術

第1問

次の文章の空欄にあてはまる適切な語句又は数値を番号とともに記せ。 (なお,同じ番号の空欄には同じ語句又は数値が入る。)

(1) 放射線を検出するのに最も簡単な検出器の一つには,中心に細い線を張った[①中心電極]をもつ気体を充満した[②ガス入り計数管]である。 これは[③電離]作用により[②]内を通過する[③]放射線が気体の分子または原子と衝突して, その通路に沿って多数の[④]イオンと[⑤電子]との対を生じる。 このとき[①中心電極]を陽極とし,外壁を陰極にすると[①]には[⑤電子]が集まり,[⑥電流]が流れることになる。 電極に集められる[⑦電荷]は,[①]と管極間の電圧に依存する。 検出器の中で放射線によって作られる[⑧陽イオン-電子対]については電圧が低いと[④]イオンと[⑤電子]は両極に達しないので, この領域を[⑨再結合]領域と呼ぶ。 また,両極の電圧が高いと[⑨再結合]は無視できる量となる。 このとき作られた[⑧陽イオン-電子対]は全て電極に集められるので印加電圧に関係なく[⑩一定値]を示す。

(2) 10 MeVの入射荷電粒子が電離箱の中でエネルギーを完全に失って停止したとすると, 粒子が電離箱内の気体で一つの[⑧陽イオン-電子対]を作るのに要する平均のエネルギーを34 eVとすると, 粒子によって気体中に毎秒約[⑪0.3×106※]個の[⑧]が作られる。 したがって,外部回路に流れる平均電流は[⑫5×10-14](C/s)である。
また電離箱と外部の回路との全静電容量を50 pFとすると外部回路に現れる電圧パルスの大きさは[⑬0.001]Vである。 [④]イオンと[⑤電子]の移動速度は,気体の種類,圧力及び印加する電界強度に関係している。
[③電離]物質として気体のかわりに半導体を使う放射線検出器を半導体検出器という。 この検出器は荷電粒子が半導体の中を通過すると[③電離]作用によって[⑥電流]の運び手となる多数の[⑭伝導体(又は、自由)]電子と[⑮ホール(又は、正孔)]を生成する。

※解説:問題の設定がおかしい。毎秒10 MeVの荷電粒子が入射するとしなければならない。

第2問

放射能測定に関して,次の各文章で下線部の語句が正しく使われていれば○印を,違っている場合は×印を付け適切な語句を番号とともに記せ。

(1) 放射線による化学作用を利用したものにフリッケ線量計及びセリウム線量計があり.主に個人線量計として取り扱われる。

解答例:× 高線量(化学)

(2) 数え落としは計数損失ともいわれ,測定器がもつ不感時間のために計数されずに数え落とされる現象をいう。

解答例:

(3) フェーデング現象はフィルムバッジのほかチェレンコフ検出器にみられる。

解答例:× 熱ルミネッセンス線量計

(4) 光電ピークの低波高側に伸びた部分はコンプトン効果によるものである。

解答例:

(5) 検出器の近傍でガンマ線がしゃへい体などの周囲の物質と光電効果を引き起こすと, しゃへい体の物質特有の制動エックス線が発生する。

解答例:× 特性エックス線

(6) 一定の距離を中性子が飛行する時間を測定し,その速度からエネルギーを決定する方法に飛行時間(TOF)法がある。

解答例:

(7) ガンマ線スペクトルの測定においてエネルギー分解能は, 高純度のGe半導体検出器よりNaI(Tl)シンチレーション検出器のほうが優れている。

解答例:× 劣っている

(8) 放射性核種から放出されるベータ線のほとんどが4~7 MeVのエネルギーの範囲にあり, 空気中の飛程は5 cm程度であるため液体シンチレーション検出器を利用して測定すると100パーセントの計数効率が得られる。

解答例:× アルファ線

(9) カロリーメータ法は10 MBq以上の放射能において物質に吸収された熱量を測定することによって吸収線量の絶対測定が可能である。

解答例:

(10) 同時計数回路は2つの入力端子をもち,これらに同時に入力があった場合は出力信号を出さずに, 一方の端子のみ入力があった場合には出力信号を出す。 主にバックグラウンド計数を低減するために使用される。

解答例:× 逆同時計数回路

第3問

ある実験室で実験者の一人がPu-241から分離して得られたアメリシウムを誤って吸入摂取してしまった。 肺モニタにより胸部計測の結果,肺中にAm-241を100 Bq検出した場合, 吸入摂取日が測定日の1日前として摂取量を求め,計算過程を示して実効線量を求めよ。
ただし,新呼吸気道モデルではアメリシウムは全ての化合物について,その吸入速度はタイプMに属し, アメリシウムの空気力学的放射能中央径(AMAD)は5マイクロメートルとする。
その場合の酸化アメリシウム1 Bqを吸入摂取したときの胸部残留曲線から1日後の胸部残留率を求めた値は0.058とし, 実効線量係数は2.7×10-2 mSv/Bqとする。
また,実験室はアメリシウムによって汚染しているため,汚染の除去として主要な注意事項を5つあげよ。

解答例

吸入摂取量=100 Bq/0.058=1.72×103 Bq
実効線量=1.72×103 Bq×2.7×10-2 mSv/Bq=46 mSv
答 46 mSv

汚染の除去で主要な注意事項
(1) α線は飛程が短いので、α線測定用のサーベイメータまたは表面汚染モニターで検査面との距離(1 cm程度)を離さないように念を入れて測定する。
(2) 汚染場所が分かるように印を付け、標示をする。場合によってはロープ等をはり、立ち入りを制限する。
(3) 汚染除去に際しては、粉末状の場合は、再浮遊をできるだけ少なくするようにする。 拭き取り紙等を水で濡らし、覆うようにして拭き取る。 粉末が飛散して汚染が拡大しないように中心に向かって拭き取る。
(4) 中性洗剤、EDTAなどのキレート剤などを用いて除染する。 除染は、温和な除染剤から、必要に応じて次第に浸漬性の強いものを試みる。
(5) 放射性廃棄物はポリエチレン袋などに密封し、廃棄物の分類に従って容器に納める。

第4問

次の文章中の空欄にあてはまる適切な語句を下欄から選び.番号とともに記号で記せ。 (なお,同じ番号の空欄には同じ語句が入る。)

放射線防護剤とは放射線の生物効果を減少させる化合物である。 放射線防護剤を用いて照射したときと,用いずに照射した時とで同じ生物効果を生じる放射線線量の比を[①線量減少比 (DRF)]という。 防護剤の作用機序は[②フリーラジカル]を除去してその有害作用から細胞を守ることである。 SH化合物であるシステインと[③システアミン]は初期に見出された防護剤であるが,毒性が強いことが問題である。 すなわち放射線防護に必要な量のシステインを摂取すると[④造血臓器 嘔吐※]等の副作用が生じる。 一方,[⑤アミフォスチン (WR2721)]はより有効であり,マウスの[⑥LD50/30M]に対する[①線量減少比 (DRF)]が理論的最高値3に近いことから, [⑦間接作用]に優れた防護効果をもたらすことが示され,放射線治療でも用いられている※。 [⑧グルタミン※]も同じく放射線の[⑨生物学的効果比 (RBE)]を修飾することからX線については放射線防護剤の効果が得られる。 放射線防護剤の効果は,放射線のLETが増大するに連れて[⑩小さく]なる。

(イ)小さく (ロ)グルタミン (ハ)腸死 (ニ)間接作用 (ホ)システアミン (ヘ)嘔吐 (ト)DNA損傷 (チ)消化器官 (リ)フリーラジカル (ヌ)アスコルビン酸 (ル)脱毛 (ヲ)LD50/30M (ワ)塩素 (カ)直接作用 (ヨ)造血臓器 (タ)ミソニダゾール (レ)大きく (ソ)線量減少比 (DRF) (ツ)アミフォスチン (WR2721) (ネ)生物学的効果比 (RBE)

※newclears注
システインが高い放射線防護作用を示すことが発見されたが,吐き気や嘔吐などの有害作用が明らかとなった.」
「アミフォスチンは低血圧を引き起こすため投与量が制限されることとなり,広く放射線防護薬として臨床で使われるには至っていない.」
システアミンもよく知られた放射線防護薬である。 参考文献
L-アスコルビン酸(ビタミンC)は,薬剤自体は抗酸化能力をもつが,マウスの生体内において放射線防護効果は見られなかった (むしろ腫瘍組織においては放射線増強効果として作用した)。 参考文献
放射線増感剤は,低酸素状態にある癌細胞にも放射線が有効に働くことをねらったもので,ミソニダゾールが試みられている。 参考文献
グルタミンについては適当な文献が見つからない。

第5問

次の事項について簡単に説明せよ。

(1) チェックポイント制御
(2) アポトーシス
(3) 染色体異常
(4) 線量・線量率効果
(5) 逆線量率効果

解答例 (1) チェックポイント制御
細胞はG1→S→G2→M→G1の細胞周期を繰り返して増殖するが、この順序は厳密に守られている。 細胞周期におけるチェックポイント制御は、このイベントが順序どおり正しく行われることを保証する監視機構の働きをいう。 例えば、ある種の酵母において、X線を照射するとG2期からM期に入る際のチェックポイント制御が働いて、 細胞周期の進行が止まり、時間かせぎをしているうちにX線で損傷したDNAが修復され、そこでまた細胞周期が再開する。 この酵母のある変異種では、この機構を欠いたものがあり、M期に進行して異常分裂し、 低線量のX線でも死んでしまったという発見からこの機構が定義された。

(2) アポトーシス
損傷を受けた細胞が積極的に自己を排除するために起きる細胞の死をいう。

(3) 染色体異常
染色体の数や構造に変化が見られることをいう。発育不良や奇形の原因ともなる。

(4) 線量・線量率効果
線量あるいは線量率が変化すると放射線の生物学的効果が異なることをいう。
解説:低線量・低線量率の放射線リスク推定は、高線量・高線量率の実存データからの直線外挿より低い値になる。 ICRP Publication 60では、低LET放射線被ばくのとき、0.2 Gy以下か、それ以上では0.1 Gy/h以下の線量率の場合に限り、 線量・線量率効果係数2を勧告し、直線外挿リスクに比べこの係数だけリスクを低く見積っている。

(5) 逆線量率効果
高LET放射線(とくに核分裂中性子)は低線量率あるいは分割によって初から有効性が増大することがある。 このような場合、高線量率よりも低線量率で最初の勾配がもっと急である。 これは、逆線量率効果と呼ばれる。
解説:放射線防護の上から注目すべきRBEの最大値RBEMは、 低線量率・高LET反応の最も急な勾配と低線量率・低LET反応の最も緩い勾配の比で与えられる。 (参考図、ICRP Publication 60 附属書B、B64項より)

f:id:newclears:20191128225953p:plain 高LET放射線に対する生物学的効果比(RBE)を求めるときの概念図

出典

谷内 茂康; 佐藤 忠; 須賀 新一; 小室 雄一; 内田 正明; 中島 邦久; 中村 仁一; 雨澤 博男; 大村 英昭; 湊 和生; 武田 常夫; 櫛田 浩平; 傍島 眞 核燃料取扱主任者試験問題・解答例集,1999~2003年, JAERI-Review 2003-025,https://doi.org/10.11484/jaeri-review-2003-025