第36回 核燃料物質の取扱いに関する技術
核燃料物質の取扱いに関する技術
第1問
核燃料施設の安全管理に関して,以下の問に答えよ。
(1) 文章中の空欄に入る適切な語句を番号とともに記せ。
核燃料施設における平常時の安全性は,一般公衆に対する[①内部被曝],放射線業務従事者に対する[②内部被曝] 及び[③外部被曝]の防止に大別できる。 核燃料施設は装置,セル(フード,グローブボックス),建屋等の[④多重障壁]を有するとともに, 内部を[⑤負圧に]して放射能の漏洩を防止する。 気体状の六フッ化ウランを取り扱うウラン濃縮施設では,[⑥機器(装置)]あるいは[⑦系統(配管)]内への閉じ込めが基本であり, 漏れ出たウランは[⑧コールドトラップ]及び[⑨ケミカルトラップ(NaFなど)]で捕集される。 プルトニウムを取り扱う加工施設ではウラン加工施設と比ベ,しゃへい,特に[⑩中性子線]のしゃへいに注意が必要である。
解説: ①については、排気中の放射性雲、地表に沈着する放射性物質、排水中の放射性物質、 保管廃棄施設の放射性廃棄物等からの外部被曝も考えられるが、核燃料物質が主たる汚染物質であるとするならば 内部被曝がより問題になると考えられる。
⑩では、中性子線とγ線のどちらを解答とするか、迷うところである。 一方を選べば他方は重要視しなくてよいともなりかねない。 迷った末に中性子線を解答とした。 理由は、Am-241のγ線が1 mm厚程度の鉛板で、簡単に遮蔽できてしまう (Pu-239、U-237以外のγ線強度は2桁以上減衰してしまう)のに対して、 中性子線を遮蔽するには、分厚い水やパラフィンなどが必要で、グローブによる作業性が悪くなるばかりでなく、 臨界管理および防火上からも好ましくないため中性子線の遮蔽には特に注意が必要になると考えるからであります。 ただし、γ線に関しても、半減期14.4年のPu-241のβ崩壊によって生成するAm-241のγ線量は 時間と共に増大するため特に注意が必要で、γ線による被曝低減のために 定期的に陰イオン交換法などによるPuの精製を行い、Amを除去しなくてはならないといった規定がある。 この問題で想定しているPu取扱量ははっきりしないが、おそらくkgオーダーの取扱量として 出題者は問題を作成しているであろうから、Pu取扱量にほぼ比例して線量が増大する中性子線のほうが、 解答としてより好ましいのではないかと考える。
(2) 以下の場合に採られる適切な対策及び安全管理を右欄に示すものから選びその記号を番号とともに記せ。 安全管理に対して該当する項目が複数ある場合には,それらをすべて挙げよ。
(a) 平常時に,一般公衆の内部被ばくを防止するために採られる対策及びそのためになされる安全管理(3項目:①,②,③)
(b) 平常時に,放射線業務従事者の外部被ばくを防止するために採られる対策及びそのためになされる安全管理(3項目:④,⑤,⑥)
(c) 火災・爆発に関する異常・事故を防止するために採られる対策及びそのためになされる安全管理(1項目:⑦)
- ソ、 化学的制限値の維持、Ⅵ 工程安全管理
(d) 臨界に関する異常・事故を防止するために採られる対策及びそのためになされる安全管理(3項目:⑧,⑨,⑩)
- ウ、 空間線量率の監視、Ⅲ 放射線モニタリング
- セ、 核的制限値の維持、Ⅳ 臨界安全管理
- タ、 人的操作の確認、Ⅶ 人的安全管理
解説: この問題はできがよくない。 問題中では「安全管理」なのに、選択肢の枠の左上では「管理法」と書いてあって、時間に余裕がないと混乱する。 より強く指摘すべき点は、複数の専門家に解答を求めたが、必ずしも良い一致をみなかったことである。 安全管理については複数の項目を選ばなければならない場合もあり、これが解答のバラツキを一層助長した。 このような結果にもとづく解答例であることを断っておく。
第2問
核燃料施設の臨界管理について,以下の問に答えよ。
(1) 次の文章中の(イ)から(チ)のかっこの部分の中から適切な語句又は数値を選び,記号ともに記せ。
① 安全取扱質量限度値は,誤って核分裂性物質を(2倍)量装荷しても 臨界に達しない量として定められている。
② 核分裂性物質を工業的規模で多量に取り扱う場合,容器の直径や寸法を限度値以下にする (形状安全管理)が用いられる。
③ 臨界安全管理で用いられる二重偶発性原理とは,起こりそうもない独立した (2つ)の事象が同時に発生しない限り安全であるという考え方である。
④ 水溶液系において,235Uの最小臨界質量は239Puの最小臨界質量のおよそ (1.6)倍,233Uの最小臨界質量は239Puの最小臨界質量のおよそ (1.2)倍である。
⑤ 臨界警報装置は,その3つの検出端のうち(2つ同時に)信号を検知した場合にのみ, 警報を発するようにする。
⑥ 水溶液系での臨界事故では,放出されるエネルギーは初期バーストのあと, (低いレベルで継続する)
⑦ 燃焼度クレジットとは,核燃料の燃焼に伴い,核燃料の反応度が (減少する)ことを考慮することである。
解説: ①から⑦の中の4問は、第26回の第4問の(1)から(5)の中の4問と類似である。
(2) 燃焼度クレジットの原因となる要因を2つ挙げよ。
解説:核燃料が燃焼すると、すなわち燃料の燃焼度が増えると、U-235の量が減少する一方でPu-239の量は増加する。 前者は反応度を下げ、後者は反応度を上げる方向にそれぞれ寄与する。 2つの効果を合計すると、反応度を下げることになる。 核分裂生成物は中性子を吸収する性質が強く、その増加は反応度の低下を招く。 なお、問題中の「原因となる要因を…」という表現は、日本語として正しくない。 受験者を惑わせる。 たとえば「前問⑦における反応度変化の理由を2つ挙げよ。」とでもすべきである。
(3) 核燃料施設における単一ユニットでの臨界を防止するために講じられる対策を5つ挙げよ。
解答例: 形状寸法制限、質量制限、容積制限、溶液濃度制限、中性子吸収材の使用
解説: 「ウラン加工施設安全審査指針」の指針10.からの出題と考えられる。
(4) 臨界防止のため中性子のしゃへいに用いられる物質を2つ挙げよ。
解説:
コンクリート、水、パラフィンのうち2つを挙げればよい。
なお、問題中の「しゃへい」という表現はふさわしくない。
「隔離」とでもすべきである。
(5)
これまでに報告されている水溶液系の臨界事故では,およそ1018個の核分裂が起きている。
このとき放出されるエネルギーがすべて,瞬時に吸収されるとしたとき,
そのエネルギーで1 m3の水の温度はいくら上昇するか求めよ。
ただし,水の比熱容量は4 J/K,1核分裂当たりの放出エネルギーは200 MeV,電子の電荷は1.6×10-19とする。
解説: 問題中の表現「水の比熱容量4 [J/K]」に従うと、後述の式の単位の整合がとれなくなる。 そのためここでは、「水の比熱 4 [J/g・K]」と考えることにする。 もう一つ、「電子の電荷は1.6×10-19 Cとする。」について考える。 問題作成者は、この情報をもとに1 [eV] = 1.6×10-19 [J]であることを導かせることを課したのであろうが、 そうまでする必要があるのか疑問である。
定義によれば、1 [V]の電位差の場において、1 [C]の電荷を移動する時に得られるエネルギ (あるいは、要する仕事)は1 [J]である。 これと同じ電位差の場において、1.6×10-19 [C]の電荷を持つ電子を移動する時に得られるエネルギは 1.6×10-19 [J]で、これを1 [eV]と表現する。 以上のことから、水の温度の上昇T [K]ないしT [℃]は、次のようにして求められる。
T=[1018 (fission) × 200×106 (eV/fission)× 1.6×10-19 (J/eV)]÷[4 (J/g・K) ×1 (g/cc) ×106(cc)]
従って T=8ケルビン
(newclears注:比熱(比熱容量ともいう)の単位は、一般に [J/(g・K)] が使われる。 一方、単位に [J/K] を使うのは、熱容量である。 単位の次元からも分かるように、比熱は物質1 gを対象とし、熱容量では任意の量を対象とする。)
第3問
核燃料加工施設における核燃料物質の取扱いに関して,以下の問に答えよ。
(1) MOX(混合酸化物)燃料製造施設のペレット製造工程について, 軽水炉に供給される低濃縮二酸化ウラン燃料の製造工程との違いを, ペレット中の核分裂性物質濃度の管理の観点で説明せよ。
解答例: UO2燃料製造工程では、燃料加工工程に供給される前段階に、 ウラン原料の濃縮度が調製されているため、特段のウラン濃縮度の調製は不要である。 一方、MOX燃料製造工程では、燃料加工工程中においてプルトニウム原料、 ウラン原料及び工程中で発生するMOX回収粉末を各々分析して組成の確認を行い、 燃料仕様で定められたプルトニウム富化度とするために、各原料の混合割合を決定し、 これに基づき秤量、混合する。 原料の混合方法には、湿式法と乾式法の2つがある。 通常は、臨界管理上有利な後者により混合される。 この方法による混合では、プルトニウムスポットと呼ばれるプルトニウム濃度の高い塊が、 混合された原料粉末に発生することがある。 プルトニウムスポットでは、均一混合された部分に比べて局所的な発熱が生じ、 被覆材(管)の破損にもつながる恐れがあることから、厳密な管理が必要になる。 比放射能が強いため、完全な密封状態での取扱いが必要となる。 プルトニウムスポットの検査方法としては、αオートラジオグラフィー法が一般的である。
(2) MOX燃料製造施設におけるMOXを取り扱う設備・機器及びそれを収納するグローブボックスの安全管理に関して, 以下の事項について説明せよ。
① ペレット焼結工程に関して,焼結炉内に水素ガスを供給する際の水素ガスによる爆発の防止の観点で, 設計上措置すべき事項。
解答例:
- 水素を取り扱う設備は、適切に接地すること。
- 水素ガスが漏洩した場合においてそれが滞留しない構造とすること。
- 換気設備等により、漏洩ガスを排除すること。
- 防爆型機器の採用により、着火源を排除すること。
- 漏洩検知器が漏洩を検知した場合に、水素の供給を停止できること。
- 水素の供給不能状態を検知し、自動的に不活性ガスに置換する機構を設けること。
- 運転時に空気混入を防止するため焼結設備の内部を正圧に保持すること。
- 焼結設備から排出される水素を滞留することなく安全に排出するための措置を講じること。 具体的には、換気装置又は排出口にパイロットバーナ等を設け、水素を燃焼させることなど。
- 焼結設備の内部で水素を燃焼させるものは、燃焼が停止した場合に水素の供給を自動的に停止する構造とすること。
- 水素の爆発下限値を考慮して、焼結雰囲気として数%水素-不活性ガスの混合ガスにて焼結を実施する。
② MOXを取り扱う設備・機器を収納するグローブボックス内の火災防止の観点で,設計上及び管理上措置すべき事項。
解答例:
設計上措置すべき事項
- グローブボックスの構成部材は、可能な限り不燃性又は難燃性材料とする。 また、火災の発生を防止するため、あるいは万一火災が発生した場合にその拡大を防止するため、 グローブボックス内温度上昇警報設備を設け、 消火措置として自動的に不活性ガスをグローブボックス内に放出する消火設備用のノズル・配管設備等の設計対策を行う。
- 焼結設備その他の加熱を行う設備は、当該設備の熱的制限値を超えて過熱されるおそれがないように インターロックを設けること。
管理上措置すべき事項
- グローブボックス、オープンポート及びフード(グローブボックス等)内で
アルコール等の引火性液体を取り扱う場合は、次の事項を遵守すること。
(a) グローブボックス等内で着火源(裸火、電熱器等)を使用しないこと。
(b) グローブボックス等内に備えてある金属消火剤がすぐ使用できる状態になっていること。
(c) 引火性液体をグローブボックス等へ入れる場合は、可能な限り少ない量とすること。
(d) グローブボックス等内では、引火性液体の蒸気がグローブボックス等の床面に集まり爆発限界になりやすい。 よって、引火性液体は、1回の使用量を制限する。 - グローブボックス等内で発する設備機器等の近傍には、 火災又は爆発するおそれのある引火性液体及び可燃物等は置かないこと。
- グローブボックス等内に入れる可燃物(可燃性溶剤、紙等)は、最小限にとどめること。
- グローブボックス等内で発生した可燃性廃棄物は、金属製の容器に収納すること。
- グローブボックス等内の金属消火剤が吸湿固化していないことを定期的に確認すること。
- ヒータ部が露出した電熱器を使用しないこと。
(3) MOX燃料製造施設におけるMOXのグローブボックス内での取扱いに関して, グローブボックス作業者のγ線による手部被ばくを低減するために措置すべき事項について説明せよ。
解答例:
- 作業環境の線量率の低減のため、グローブボックス等内の整理整頓、清掃を定期的に行うこと。
- グローブボックス等内で発生した廃棄物は、定期的に整理、排出すること。
- グローブボックス等作業は、計画的、能率的かつ慎重に行うこと。 また、身体防護具(含鉛手袋)を着用し、被ばくの低減に努めること。
(4) MOX燃料製造施設におけるグローブボックスの閉じ込め機能について説明し, グローブボックス作業開始前の日常点検として実施すべき事項について説明せよ。
解答例:
閉じ込め機能
プルトニウムは、内部被ばく防止の観点から、ウランに比べて極めて高いレベルで厳重な閉じ込め対策
(包蔵性管理)が要求される。
グローブボックス内の負圧は、グローブボックスの給気と排気のバランスにより維持される。
排気は、排気口から排風機の強制排気により、給気は給気口から工程室内の空気がダンパーを介して吸引され、
グローブボックス内の負圧がつくられる。
グローブボックスの給気口と排気口には、プレフィルタと高性能(HEPA)エアフィルタが備えられている。
高性能エアフィルタは、給気口に1段、排気口以降の排気系統に2または3段が設置され、
環境への漏洩防止をより確実なものにしている。
高性能エアフィルタの性能は、0.15 μm径の粒子に対して99.97%以上の補集効率となっている。
グローブボックスの漏洩率は、グローブボックスの設置時に使用前のリーク率検査として、
1時間につき0.1体積%以下の気密性を有していることを確認している。
なお、万一、グローブが破損や抜けた場合でも、グローブボックスの開口部(ポート)
における空気流入風速が約45 m/sec以上の風量を確保できる設計としている。
(newclears注:風速45 m/sは、速すぎてかえって危険とされる数値のはずである。 0.5 m/secの誤りだと思われる。)
作業開始前の日常点検として実施すべき事項
グローブボックス等の始業前点検の項目は以下の通り。
① グローブボックスの負圧
- 点検方法:負圧
- 判定基準:負圧が規定値の範囲内であること
② グローブ
- 点検方法:目視
- 判定基準:亀裂、ピンホール、変色がないこと。取付け状態が正常であること。
③ 温度上昇警報
- 点検方法:目視
- 判定基準:温度が出力されていること。
④ 負圧警報
- 点検方法:目視
- 判定基準:負圧が出力されていること。
(5) ウラン燃料製造施設で非密封のウランを取り扱う区域において,ウランによる作業環境の汚染防止のために, 設計上措置すべき事項について説明せよ。
解答例:
ウラン加工施設の基本設計において非密封のウランを取扱う区域、すなわち第1種管理区域では、
- ウランを収納する設備・機器が飛散や漏洩のない構造
- 局所排気系や第1種管理区域の給排気設備の設置
- 床・壁の表面はウランが浸透しにくく除染が容易なものとする
さらに非密封のウランを取扱う区域において法令に基づいて設計上措置すべき事項は、
- フードの開口部は風速を適切に維持する
- 換気設備の換気能力
- 換気設備は逆流しない
- ろ過装置の場合、機能を維持しうるものであり、汚染の除去又は取り替えが容易な構造とすること。
参考資料: 「ウラン加工施設安全審査指針」の指針4.「閉じこめの機能、1. 作業環境の汚染防止に対する考慮」、 「加工施設の設計及び工事の方法の技術基準に関する規則」第七条、第九条、第十条
解説: 上記(4)は第35回の第2問の(4)と類似である。 (5)は第35回の第2問の(1)と類似である。
第4問
核燃料サイクル施設における核燃料物質の取扱いに関して,以下の問に答えよ。
(1)
ウラン濃縮用六フッ化ウランを製造する転換施設において,
二酸化ウラン粉末から六フッ化ウランガスを製造する以下の工程について,反応の概要を説明し,
使用される反応装置を挙げよ。
① HFフッ化工程
② F2フッ化工程
解答例:
① HFフッ化工程
HFガスによりUO2からUF4を生成する。
運転温度は、400から600℃であり、流動床型反応炉やロータリーキルンが用いられる。
② F2フッ化工程
UF4とフッ素ガスとの反応により生成させる。
UF6の転換には、流動床型反応炉やフレームタワー型反応炉が用いられている。
流動床型反応炉の運転温度は、400から540℃程度である。
発生したUF6ガスは、コールドトラップに送られ0から50℃の温度で冷却、固化される。
参考文献: JNC公開資料「ウラン採鉱から濃縮・再転換まで」W6413 2003-001
(2) 六フッ化ウランの取扱いに関して,以下の文章の空欄に入る適当な語句を番号とともに記せ。
「六フッ化ウランは,シリンダーに充填され保管されている状態では[①固体]であるが, 密閉した系内で加熱し,液化する際には[②体積膨張]によりシリンダーやバルブの破損の可能性があるので, シリンダーヘの過充填防止など作業上の注意が必要である。 また,万一空気中に漏洩した場合には,空気中の[③水]との反応により[④UO2F2]と[⑤HF]が生成し, 吸入した場合には人体障害を起こす。」
(newclears注:出典では①の解答例は「個体」となっていたが、「固体」の誤記と判断した。 ④のフッ化ウラニルは次の反応式で生成される。 UF6+2H2O→UO2F2+4HF)
(3) 濃縮施設において天然ウランをガス拡散法や遠心分離法により濃縮する場合, 所定の濃縮度まで分離操作を何回も繰り返す必要がある。 多くの単位分離器を連結したカスケードの種類である「理想カスケード」,「方形カスケード」, 及び「ステップカスケード」について,それぞれ説明せよ。
解答例:
理想カスケード
n段目の分離機のテイル濃度とn-1段目のフィード濃度が同じであるため
混合損失がなく循環流量も最小になるカスケードのこと。
方形カスケード
同じ大きさの分離機で構成され、各段の流量が同じカスケードのこと。
方形カスケードは混合損失が大きく、循環流量も多くなる。
循環流量が多いためガスを循環させるためのエネルギー消費が大きくなるが、
分離機の設計製作面で低コスト化がはかれる。
ステップカスケード
大きさの異なる方形カスケードを組み合わせて、理想カスケードに近づけたものをいう。
大中小の3種類程度異なる大きさの分離機によってカスケードを組むとすれば、
分離機の設計製作費もあまり増加せず、しかも理想カスケードに近い循環流量の方形カスケードを組むことができる。
参考文献: 公開資料「燃料サイクルフロントエンドⅠ ウラン資源・ウラン精錬およびウラン濃縮 教育資料1 PNC TN8420 91-009」
(4)
ピューレックス法の使用済燃料の再処理施設で発生する高レベル放射性液体廃棄物を貯槽にて安全に保管する上で,
以下の項目について設計上措置すべき事項を説明せよ。
① 崩壊熱
② 放射線分解
解答例:
① 崩壊熱
崩壊熱により溶液が沸騰するおそれのある場合は、例えば、
電源系統を含め独立2系統の冷却水系により冷却し、冷却能力の喪失による溶液の沸騰を防止する。
さらに、電源の信頼性を向上させるため非常用の発電機からも受電できる設計とする。
このほか、常時、空の予備貯槽を用意しておき、万ーの場合にはこの貯槽に溶液を移し変えることができるようにしておく。
② 放射線分解
溶液の放射線分解で発生する水素濃度が可燃限界濃度(4%)に達する場合は、
圧縮空気系から空気を供給するか、排風機による排気等により水素を可燃限界濃度未満に抑制する。
(5) ピューレックス法の使用済燃料の再処理施設において,放射性液体を取り扱う塔槽類等をセル内に設置する際に, 閉じ込めの観点で設計上措置すべき事項を説明せよ。
解答例: 放射性液体を内蔵する系統および機器は、原則として、セル等 (セル、グローブボックス及びこれらと同等の閉じ込め機能を有する施設)に収納する。 また、万ーの放射性物質の漏洩を考慮し、セル等には、ステンレス鋼製の漏洩受け皿、漏洩検知器を設置し、 漏洩液の性状に応じた適切な移送先に移送処理ができる設計とする。
第5問
核燃料物質の取扱いに関して次の事項を簡単に説明せよ。
(1) かご型コンテナ(バードケージ)
(2) TRU廃棄物
(3) 減容処理
(4) 直接線とスカイシャイン線
(5) ウラン再転換工程におけるAUC法とIDR法
解答例:
(1) かご型コンテナ(バードケージ)
臨界安全管理のための工学的手法の1つである。
核燃料を含む単ーユニット群の間の中性子相互干渉を抑えるために、
各ユニットをバードケージと呼ばれる強固な籠の中に収める。
こうすることで、籠が妨げとなって、各ユニットが不用意に密接して体系が臨界になることを避けられる。
(2) TRU廃棄物
再処理工場またはMOX燃料加工工場から発生する低レベル放射性廃棄物の一種である。
この廃棄物にはTRU核種が含まれる。
TRUとは transuranics または transuranium の略称である。
原子炉運転中に主に238Uが中性子を吸収してβ崩壊を繰り返し、
ウランより高い原子番号をもつ元素になった種々の核種を指す。
TRU核種が放射性であり、α核種が多いのが特徴である。
別解答: 原子力発電所からの使用済燃料を再処理すると、核分裂生成物の核種(FP)の他 いろいろな高レベル放射性廃棄物が発生する。 この中で原子番号がウラン(U)より高いネプツニウム(Np)、プルトニウム(Pu)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm) 等の核種群の放射性廃棄物は、アルファ線を放射する核種であり、 かつ半減期が非常に長いので、廃棄物処理処分の観点から他の核種群と区別して、TRU(超ウラン)廃棄物と呼んでいる。 (引用先:原子力百科事典 ATOMICA)
(newclears注:引用先ではなくて引用元ではないか。)
(3) 減容処理
放射性廃棄物を貯蔵や処分するまえに、濃縮(水分を蒸発させる)、焼却(布、プラスチックを灰にする)、
切断(放射性のある部分とない部分を分離する)、圧縮(金属片をおしつぶす)、溶融(金属片、粉末を溶かす)
などして体積を減らし、貯蔵や処分を容易にすること。
(引用先:原子力百科事典 ATOMICA)
(4) 直接線とスカイシャイン線
直接線は、線源から直接的に評価点に到達する放射線のことである。
スカイシャイン線は、天井方向に透過した放射線のうち、上空で大気分子との衝突で散乱されて
再び地上に到達する放射線のことである。
原子力施設の敷地境界での線量は、スカイシャイン線と直接線を合算したものとして評価される。
(5) ウラン再転換工程におけるAUC法とIDR法
AUC法
UF6を炭酸ガス(CO2)とアンモニアガス(NH3)と共に水中に吹き込み、
次式の反応によりAUC((NH4)4UO2(CO3)3)を生成する。
UF6 + 5H2O + 10NH3 + 3CO2 → (NH4)4UO2(CO3)3 + 6NH4F
沈殿したAUCはろ過され、流動床型反応炉にて以下の反応によりUO2に分解される。
(NH4)4UO2(CO3)3 → UO3 + 3CO2 + 4NH3 + 2H2O
一次粒子の結晶は大きく、粉末の流動性に優れているため、予備成形や粘結材の添加などによる造粒工程は不要。 焼結性に優れ、低温で焼結可能。
IDR法
UF6ガスを水蒸気およびH2と反応させることによって直接UO2粉体を製造する方法であり、
ロータリーキルンが用いられる。以下にIDR法の反応式を示す。
UF6 + 2H2O → UO2F2 + 4HF
すなわち、
UF6 + 2H2O + H2 → UO2 + 6HF
一次粒子が非常に微細であるためペレット成形前の造粒工程が重要。 活性で焼結性が良いため密度調整のためポアフォーマが添加される。
参考文献:「燃料サイクルのあらまし」残念ながらリンク切れ
谷内 茂康; 中村 仁一; 天谷 政樹; 中島 邦久; 小室 雄一; 中島 勝昭; 小林 泰彦; 佐藤 忠; 須賀 新一; 野口 宏; 笹本 宣雄; 櫛田 浩平 第36回核燃料取扱主任者試験問題・解答例集,2004年, JAERI-Review 2004-020, https://doi.org/10.11484/jaeri-review-2004-020