第51回 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

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第51回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第1問

次の文章は、ウラン、トリウム、プルトニウム同位体又は化合物について述べたものである。 文章中の空欄に入る適切な語句、数値、化学式又は核種を番号とともに記せ。 なお、同じ番号の空欄には、同じ語句、数値、化学式又は核種が入る。

(1) 天然ウランに含まれるウラン同位体のうち、アルファ崩壊半減期が最も短いのは[①U-234]である。 U-233は天然には存在せず、天然のトリウム同位体である[②Th-232]を原子炉で照射すると 中性子捕獲と[③ベータ崩壊]により生成する。 U-233のアルファ崩壊半減期は、[①U-234]よりも[④短い]。

(2) 金属ウランを硝酸に溶解した際にウランの最も安定な価数は[⑤6価]であり、 イオンの化学式は[⑥UO22+]と表され、名称を[⑦ウラニル]イオンという。 一方、トリウムの硝酸溶解液中で安定なイオンの化学式は、[⑧Th4+]である。

newclears注: 硝酸中で、6価のウラニルイオン(UO22+)が、 4価のウラナスイオン(U4)よりも安定であるという明確な証拠が見つからない。

(3) ウランの硝酸塩水溶液にアンモニア水を添加すると、 [⑨黄]色の重ウラン酸アンモニウム(ADU)の沈殿が得られる。 ADUの化学式は[⑩(NH4)2U2O7]と表される。 ADUを空気中800℃程度で加熱すると[⑪三酸化ウラン]が得られ、 さらに水素気流中同温度で加熱すると[⑫二酸化ウラン]が得られる。

newclears注:

  • 2UO2(NO3)2 + 6NH3 + 3H2O → (NH4)2U2O7 + 4NH4NO3
  • (NH4)2U2O7 → 2UO3 + 2NH3 + H2O
  • (NH4)2U2O7 + H2 → 2UO2 + 2NH3 + 3H2O

(4) UO2をUF6に転換する際には、 まずUO2と[⑬フッ化水素]ガスを反応させてUF4を得る。 固体のUF4の外観は[⑭緑]色である。 次にUF4と[⑮フッ素]ガスを反応させてUF6が得られる。 1気圧、常温でUF6は固体であるが、[⑯56.5]℃で昇華して気体となる。

newclears注:

  • UO2 + 4HF → UF4 + 2H2O
  • UF4 + F2 → UF6

(5) 取り出し燃焼度45 GWd/tHMの軽水炉使用済UO2燃料には、 金属元素1 tあたり約[⑰10]kgのPuが含まれる。 質量数238から242までのプルトニウム同位体のうち、 熱中性子に対する核分裂断面積が大きいのは[⑱Pu-239]と[⑲Pu-241]である。 また、プルトニウム同位体組成において含有率が二番目に多いのは[⑳Pu-240]である。

参考資料: 鈴木達也長岡技術科学大学)、使用済み燃料の処理・処分の観点からの核燃料サイクルにおける高速炉の意義と高速炉使用済み燃料再処理の技術動向と課題 使用済燃料の組成.png

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使用済燃料の組成

第2問

UO2不定比組成領域を表すUO2+x(x≧0)に関して、以下の問いに答えよ。

(1) UO2の単位格子に過剰の酸素原子1個が格子間原子として入り得るとすると、 xのとり得る最大値はいくらか記せ。

未解答・・・

(2) 高温で平衡状態にあるUO2+x のx 値は、保持温度T(K)と標準状態1 atmに対す る酸素分圧PO2(atm)の関数の値により一義的に定まる。 UO2+xの酸化状態を記述する指標となるこの関数の名称を記せ。 また、この関数を気体定数R、温度T、酸素分圧PO2を用いて式で記せ。

【解答例】

酸素ポテンシャル  \Delta \bar{G_{O2}}

 \Delta \bar{G_{O2}} =RT \ln P _ {O2}

newclears注: 正直なところ、酸素ポテンシャルについての理解が不十分なので これが正答かどうかは自信がない。酸素ポテンシャルとは何なのだ?

(3) 図1は、1400℃における酸素分圧(常用対数値)とx値の関係を表すグラフである。 同温度において、UO2をアルゴンと酸素の混合気流(大気圧、0.1 体積%O2) 中に保持した場合、平衡状態でO/U比はいくらになるか、小数点以下2桁まで数値を記せ。

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図1 1400℃における酸素分圧とUO_(2+x)のx値の関係

未解答・・・

(4) 図1において、同じ酸素分圧のまま保持温度を下げると、O/U比は増大するか、減少するか、 簡潔な理由とともに記せ。

【解答例】 同じ酸素分圧のまま保持温度を下げると、O/U比は増大する。 (参考文献:酸素分圧の制御・測定と熱力学的性質、辻利秀

(5) x値の増大とともに、以下の①から④の物性値はそれぞれ増大するか、減少するか記せ。

格子定数 ②熱伝導率 ③電気伝導率 ④熱クリープ速度

【解答例】

格子定数
未解答・・・

②熱伝導率
O/U比が増加すると過剰酸素がフォノン伝導に対する不純物散乱中心としてはたらくため、 熱伝導率は急激に減少する。 (第35回性質第4問)

③電気伝導率
電気伝導度はO/U比の増加に伴って増加する。 (内藤奎爾、核燃料セラミックスの高温熱伝導度、窯業協会誌75 6 1967)

補足:金属においては熱伝導率と電気伝導率には正の相関がある。 しかし金属以外の物質では、一概に相関があると言えない。 これは、熱伝導は自由電子による熱の伝搬と格子振動による熱の伝搬に分かれ、 金属以外では自由電子がそれほど多くないことが理由と言える (参考)。 UO2燃料はセラミック燃料である。

④熱クリープ速度
O/U比が増大するとU空格子点が増大し、U原子の拡散が促進されるため、 クリープ速度は増大する。 (第35回性質第4問)

図1 1400℃における酸素分圧とUO2+xのx値の関係

図1 の数値データ出典: K. Hagemark and M. Broli, “Equilibrium oxygen pressure over the nonstoichiometric uranium oxides UO2+x and U3O8-z at higher temperatures,” Journal of Inorganic and Nuclear Chemistry, vol. 28, pp. 2837-2850 (1966).

第3問

軽水炉において、二酸化ウラン(UO2)ペレットでは、 燃焼の進行とともにその形態や組織が変化し、燃料のふるまいに影響を及ぼす。 このようなペレットの形態や組織の変化を総称して、リストラクチャリングと呼ぶ。 リストラクチャリングに関する以下の問いに答えよ。

(1) リストラクチャリングに含まれる具体的な現象を4つ答えよ。

【解答例】

UO2ペレットには燃焼の進行とともに[ペレットの割れ]と [並び換え(リロケーション)]、 および[粒成長]が起こり、ペレットの形態や組織が変化する。 これを総称してリストラクチャリングと呼ぶ。 このほかに、照射欠陥の蓄積に起因した[リム組織の形成]も広い意味ではリストラクチャリングという。

(2) リストラクチャリングが発生するメカニズムを、150字程度で述べよ。

【解答例】

照射中、UO2ペレットは核分裂により発熱する。 一方、UO2の熱伝導率は高くないことから、 ペレット内には大きな[温度分布]が生じる。 この[温度分布]にしたがい当然 [熱膨張]が発生し、 円柱状のペレットの中心部が高温で周囲が低温であるため、 [熱膨張]を拘束する[熱応力]が発生することになる。 この[熱応力]により、ペレット内に割れが発生する。 ペレットの表面が破壊応力に達するに必要な線出力は約33 W/cmと評価されており、 ペレットは照射開始と同時に割れ、その割れ数は線出力とともに増加することになる。 ペレット中心温度が1,800℃の場合、温度勾配に沿った気孔の移動によって[柱状晶]領域が形成される。 一旦ペレットに発生した割れは、1,250~1,500℃以上の高温領域では消滅(ヒーリング)する。 割れが消滅した領域でも、出力下降時にUO2の熱収縮による引張応力が発生し 再度ペレットに周方向の割れが発生する。
照射初期に割れたペレットの破片は、被覆管とペレットのギャップ部へ移動し、 [リロケーション]が起こる。 ペレット内に生じた割れ空間は、被覆管とペレットのギャップ部が詰まることによって相殺される形となる。 ギャップの変化は、UO2ペレットの温度やPCIに大きな影響を与える因子となる。 (太字部分で134字。出典:atomica 燃料ペレットの照射挙動に関する研究)

(3) 下の図中、右側に拡大した図は、リストラクチャリングが生じたUO2 ペレットの 断面組織の概略を示したものである。この図中に示された領域ア、領域イ、領域ウの 名称を答えよ。解答は、例のように示すこと。

newclears注: 著作権上の都合により、問題に用いられている図が省略されてしまっている。 照射前のUO2ペレット断面組織は全面が均質な組織であるが、 高出力(線出力950 W/cm、燃焼度680 MWd/t)で照射されたUO2ペレットの断面組織は どのようなものになるか? …という問題。 おそらく、等軸晶、柱状晶、燃料中心空孔を問う問題だろう。

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図2

【出典】 ・(公財)原子力安全研究協会 実務テキストシリーズNo. 3、軽水炉燃料のふるまい ・H.Stehle, Atomwirtschaft Atomteck. , 15, 450(1970)

https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_06-01-01-01.html

第4問

軽水炉の通常運転時、燃料被覆管の外面は、高温高圧の水と反応し、 ジルコニウムが酸化されるとともに水素が発生する。 発生した水素の一部は被覆管内部に吸収されるが、その量が固溶限を超えると、 ジルコニウム水素化物が析出するようになる。 ジルコニウム水素化物には、水素含有量の違いによって、結晶構造の異なるδ相とε相が存在する。 ここで、以下の問いに答えよ。

(1) 下線で示した反応を、化学式で表記せよ。

【解答例】

Zr + 2H2O → ZrO2 + 2H2

(2) δ相ジルコニウム水素化物とε相ジルコニウム水素化物のそれぞれについて、 室温におけるおおよその水素含有量を、H/Zr(原子比)で答えよ。

未解答・・・

(3) δ相ジルコニウム水素化物の結晶構造について述べた以下の文章中の空欄に入る語句を答えよ。

δ相ジルコニウム水素化物は、[ア 蛍石]型の結晶構造をとる。 この構造は、ジルコニウム原子が構成する[イ 面心立方]格子内に、 水素原子が構成する[ウ 単純立方]格子が含まれるものである。

参考:松永純治,Measurements on residual strain of zirconium hydride, 2014B0298, J-PARC MLF Experimental Report

(4) 被覆管中に析出するジルコニウム水素化物が、被覆管に対して及ぼす影響を100字程度で述べよ。

【解答例】

燃料棒の製造段階で燃料棒内に水分が混入していると、水分が被覆管内表面と局所的に反応して水素化物を形成する。 水素化物は非常に脆いので、水素化物形成の成長によって被覆管が破損することがある。

補足: 1960年代~70年代においては、水素化は燃料棒破損の大きな要因のひとつだったが、 ペレット製造にあたり、ペレット密度を上げて吸蔵する水分を少なくして、ペレット充填時の乾燥を充分に行うことで、 これ以後この現象は発生していない。

また、燃料の高燃焼度化における課題としても、水素脆化は被覆管脆性破損の重要な因子となり得る。 ジルカロイ燃料被覆管においては、燃焼度を伸長させた場合、水側腐食量の増加が見込まれる。 水側腐食によって生じた水素はジルカロイに吸収されるが、溶解度が小さいために水素化物として析出しジルカロイの延性を低下させる。 高燃焼度ではさらに中性子照射量の増加に伴う照射欠陥も増加するため、 水素化物は照射欠陥と相まって脆化を促進させる可能性もある。

参考:atomica 軽水炉(PWR)燃料の損傷, 永瀬文久他,ジルコニウム合金の水素脆化に関する研究の現状と課題,JAERI-Review 95-012

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ジルカロイ被覆管内の局所水素化破損進行

第5問

核燃料とアクチノイド元素に関して、以下の問いに答えよ。

(1) 核燃料を原子炉で使用すると、運転終了後も熱が発生する。 ①この熱は何と呼ばれているか。 ②その熱はどのようなメカニズムにより発生するか。 ③その発熱量は1年以上運転した原子炉(ウラン酸化物燃料の軽水炉)の停止1秒後、 1日後、30日後、1年後に、原子炉運転時の発熱量に比べてどの程度になるか。 百分率(%)、有効数字1桁で答えよ。

【解答例】

① 崩壊熱

放射性物質α線β線、あるいはγ線などの放射線を放出して崩壊するが、 このエネルギーは周辺の物質に吸収されて、最終的には熱に代わる。 したがって原子炉の運転を停止しても、核分裂生成物のうち放射性の核種が崩壊熱を放出する。 (atomica)

③ ※原子炉運転時の発熱量を100%としたとき。 出典:原子力産業新聞2011年3月17日第2566号,日本原子力産業協会。 1年後の発熱量はnewclears独自調査による。

経過時間 発熱量※
1秒 6%
1時間 2%
1日 0.7%
30日 0.2%
1年 0.02%

図:吉田正軽水炉燃料崩壊熱のふるまい,日本原子力学会誌 Vol. 53, No. 8 (2011)

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U-235のFP崩壊熱
(2) 原子炉運転中の二酸化ウラン燃料中に生成する次の元素(Kr、Ru、Nd、I、Ce、Np、Ba、Xe)を、 ①気体状のもの、②揮発性のもの、③固溶体としてペレット中に存在するもの、 ④金属析出物をつくってペレット中に存在するもの、⑤別の酸化物相をつくってペレット中に存在するもの に分けよ。

【解答例】 全ての元素については調べ切れていない。一般論を以下に転載する。 出典:岩田修一,原子炉内で起こる化学反応,化学 66 (2011) 6

〈~103MWD/MTM〉

  • MOBILE F.P.: Xe, Kr, Cs, I, Te
  • SOLID F.P.: Ba, Zr, Mo, Ru, Nd
  • 不揮発性の固溶核分裂生成物が二つの相、すなわち金属(Mo, Ru, Rh, Pd)と高温領域では(Ba, Sr)ZrO3 とに集まり始める。 Ndと過剰Zrは固溶して燃料とともに残存する。
  • 揮発性(可動性)の核分裂生成物は細孔移動、開いているチャネル、およびクラックを通じて中心、燃料被覆管ギャップに掃かれる。 反応性のある揮発性のもの(Cs, I, Te)はたがいに影響し、低温領域に移動するあいだは燃料と相互分布する。

〈~104MWD/MTM〉

  • 揮発性の核分裂生成物は径方向に低温部に移動しギャップに、軸方向の移動によりUO2ブランケットに蓄積する。 金属製の核分裂生成物は中心空洞に集積する。
  • IとTeがヨウ素イオン、テルルイオンとしてCsと結合する。

〈~105MWD/MTM〉

  • Cs, Te, Iが燃料と被覆管のギャップで濃縮される。Moも存在する可能性。

(3) アクチノイド元素はPuあたりを境として、その原子番号から大きく2つのグループに分けることができる。 このことに関して、次の問いに答えよ。

① 小さな原子番号アクチノイド元素と大きな原子番号アクチノイド元素の例を 元素記号でそれぞれ3つずつ記せ。ただしPuを除く。

【解答例】 アクチノイド一覧。上段 原子番号,下段 元素記号

89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103
Ac Th Pa U Np Pu Am Cm Bk Cf Es Fm Md No Lr

語呂合わせ(出典:鉄平塾

灰汁取りパスタが売らんナポリのプルッとアメリカできゅうりをバクリと狩り、愛してる不満でノーロール

② 小さな原子番号アクチノイド元素と大きな原子番号アクチノイド元素の 最も安定な原子価における相違点について説明せよ。

【解答例】

アクチノイドは、5f軌道の電子が占有され始める元素のシリーズで、 4f軌道が詰まり始めるランタノイドと化学的性質が類似する。 ただし電子の詰まり方はランタノイドとはやや異なり、 アメリシウムより軽い方の元素では6d軌道にも電子が入り込む。 そのため、ランタノイド及びアメリシウムより重いアクチノイドでは典型的な原子価が3価であるのに対して、 アメリシウムより軽い方では3-6価の原子価を取る。 (Wikipedia)