第50回 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

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第50回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第1問

以下の(1)から(5)の文章は、酸化物燃料の性質について述べたものである。 文章中の空欄に入る適切な語句、数値、あるいは化学式を番号とともに記せ。

(1) UO2の結晶構造は[①蛍石]型の[ ②面心立方]晶で、室温での格子定数は[③0.547]nm、 理論密度は[④10.96]g/cm3である。 単位格子1個にUO2として[⑤]個分の原子が含まれる。 熱膨張が等方的で融点まで相変態がないことと、融点が[⑥2800]℃と高いことから、 核燃料として優れたセラミックス材料と言える。 (参考

(2) 室温から1500℃程度の温度範囲において、UO2燃料ペレットの熱伝導率は温度上昇とともに [⑦減少]する。 これは、熱伝導の支配的キャリアである[⑧フォノン]が 温度上昇とともに衝突・散乱される頻度が増え、 [⑨平均自由行程]が短くなるためと解釈される。

(3) UO2の特徴的な性質の一つにUO2+xで表される 酸素の[⑩不定比組成]領域があり、 これが燃料としての物性や照射時のふるまいに大きく影響する。 xに相当する過剰の酸素原子は、結晶格子中に[⑪格子間]原子として存在する。 熱力学的平衡状態にあるxの値は、雰囲気中の酸素分圧と温度の関数によって定まる。 この標準ギブスエネルギー変化に相当する熱力学量を[⑫酸素ポテンシャル]といい、 酸化物燃料の酸化状態を記述する上で重要な指標である。

(4) UO2+x(x>0)において、xの値の増大とともに、格子定数は[⑬短く]なり、 理論密度は[⑭大きく]なり、融点は[⑮?]くなり、熱伝導率は[⑯低く]なる。 一方、UO2-x(x>0)は、約1200℃以上の極低酸素分圧条件下でのみ存在し、 これを室温まで急冷した際にはUO2.0と[⑰?]に二相分離する。

(5) PuO2は、空気中の高温加熱においてもPuが[⑱]価よりも高次の酸化状態を取ることはない。 (U,Pu)O2±x で表される混合酸化物(MOX)燃料において、 O/(U+Pu)比が2.0より小さい領域では、主に[⑲?]が3価に還元されている。 MOX燃料の製造においては、O/(U+Pu)比を2.0より[⑳小さい]側に調整する。

第2問

軽水炉UO2燃料の燃焼時のふるまいに関して、以下の問いに答えよ。

(1) 燃焼中の燃料ペレットの「焼きしまり」に関して、 ①どのような機構で起こる現象か、 ②燃焼の初期と高燃焼度のどちらで起こるか、 ③これによる悪影響は何か(2つ)、 ④焼きしまりを軽減するために採用された燃料製造時の改善策は何か、 それぞれ簡潔に記せ。

【解答例】

①燃料を照射すると、核分裂のために燃料中の[格子欠陥]が増大し、 燃料構成原子の[自己拡散]の促進およびそれに伴う[焼結]の促進、 [気孔]の収縮・消滅などが起き、これらが焼きしまりの原因と考えられている。 (セラミックス燃料は、一般に理論密度より[低い]密度まで焼結された状態で装荷される。 照射中に[高温と照射損傷]のために焼結過程が再開されて、体積が減少することがある。)

②[照射初期]に起こる。

③焼きしまりにより、[線出力密度]の増大、[軸方向ギャップ]の形成による出力スパイク、 軸方向ギャップ部での被覆管の[つぶれ]、ペレット-被覆管ギャップの[増大]などが引き起こされる。 (ペレットの焼きしまりが増大すると、非加圧燃料棒においては、ペレットと被覆管の間にすきまが生じて、 被覆管がつぶれ、軽水炉では局所的な出力増加が起こり、 冷却材喪失事故の際にはペレットの蓄積エネルギーが増加するのでECCSの性能が低下する。)

④燃料ペレットを理論密度の[95%以上]にすると焼きしまりは防止でき、 被覆管に[ギャップガス]として[He]を封入すれば熱伝導率の低下が防げる。 (現在では、ペレットの高密度化(理論密度の95%以上)と焼結温度の改良、予加圧型PWR燃料棒の採用などにより、 焼きしまりに伴う問題は解決されている。)

(2) 核分裂生成物(FP)による燃料ペレットのスウェリングに関して、 ⑤固体FPスウェリング、 ⑥FPガススウェリングが、 それぞれどのようにして起こるか簡潔に記せ。

【解答例】

FPは、Xe, Krなどのガス状のFPと固体FPとに分類され、それぞれ燃料のスエリング、すなわち燃料の[体積増加]の要因である。 固体FPの燃料中での化学的挙動としては、希土類元素のように[燃料中に固溶]するもの、 Mo, Tc, Ru, Rh, Pdのように[金属析出物を形成]するもの、 アルカリ土類元素を含む[酸化物析出物を形成]するもの等に大きく分けられる。 これら各相の体積と核分裂収率とから固体FPによる燃料のスエリングが求められるが、 Cs, I, Te等の化学形は酸素ポテンシャルに強く依存することなどから単純には計算できず、 信頼性の高いモデルは開発されていない。

(固体FP[の生成]により、また高温では気体FP[による気泡の成長]により、 [燃料の体積が増大]するのをスエリングという。燃焼度が高くなるほど顕著になる。)

(3) 固体FPのうち、 ⑦Zrや希土類元素、 ⑧白金族元素(Ru、Rh、Pd)は、それぞれ燃料中でどのような化学形で存在するか記せ。

【解答例】

希土類元素やZrは[酸化物]としてUO2と[固溶体]を作る。

⑧MoやRuなどの貴金属元素は[合金]を作って[白色金属粒]として析出している。

(4) 燃料中に生成するPuについて、 ⑨ペレット径方向の分布の特徴と、 ⑩そのような分布になる理由を簡潔に記せ。

【解答例】

⑨35 GWd/tのBWR燃料では、ペレット最外周部のPu-239の蓄積量は 平均値の[約2~3倍]に達している(参考)図の縦軸ラベルが0.5. 1.0, 15, 20となっているが、おそらく0.5, 1.0, 1.5, 2.0の誤り。

軽水炉燃料では、燃焼に伴ってU-238の[熱外中性子の共鳴吸収]によりペレット外周部で Pu-239が局所的に蓄積する、いわゆる核的リム効果によって、リム組織の局所燃焼度がペレット平均値より[高く]なる。

第3問

軽水炉で使用されている制御棒の、 (1)形状・大きさ、 (2)炉心での装荷位置、 (3)制御材の材質について、 沸騰水型原子炉(BWR)と加圧水型原子炉(PWR)の特徴を答えよ。 解答は、次の表の空欄に記載されている記号とともに記せ。

【解答例】 沸騰水型原子炉
(BWR)
加圧水型原子炉
(PWR)
(1)形状・大きさ BWR)断面が[十字]型の板。板の長さは[4m程度]、幅は[10cm程度]。 (PWR)直径[10mm程度]、長さ[3m程度]の丸棒。
(2)炉心での装荷位置 BWR)[4体の燃料集合体の間に挟まる形。 (PWR)[燃料集合体内に分散して挿入される形。
(3)制御材の材質 BWR)ステンレス細管に[B4C粉末]を充填、板状に並べて制御板にする。緊急時には[ホウ酸水]を注入。長寿命制御材としてHfを。 (PWR)[ホウ酸]を冷却材に溶かし通常運転の制御。Ag-In-Cd合金やUO2-Gd2O3固溶体も。

エネ百科:燃料集合体の構造と制御棒

第4問

沸騰水型原子炉(BWR)ならびに加圧水型原子炉(PWR)の燃料被覆管に使用されている ジルコニウム合金について、以下の問いに答えよ。なお、最近開発・実用化が進められている新合金 (MDANDA、ZIRLO 等)は対象外とする。

(1) BWR用燃料被覆管に使用されているジルコニウム合金の名称と、 合金に含有されている四つの添加元素を答えよ。 添加元素は元素名と元素記号の両方で答えること。

【解答例】
名称[ジルカロイ-2]([ZrTN 802 D, Zry-2])
Sn 錫(すず)
Fe 鉄
Cr クロム
Ni ニッケル

(2) PWR用燃料被覆管に使用されているジルコニウム合金の名称と、合金に含有されている三つの添加元素を答えよ。 添加元素は元素名と元素記号の両方で答えること。

【解答例】
名称[ジルカロイ-4]([ZrTN 804 D, Zry-4])
Sn 錫(すず)
Fe 鉄
Cr クロム

軽水炉用燃料被覆管の生産

(3) 純ジルコニウムジルコニウム合金となることで、結晶構造、融点、耐腐食性、 比熱、熱伝導率がどのように変化するか(あるいは変化しないか)答えよ。

【解答例】

結晶構造
ジルコニウムの常温で安定な結晶構造は[六方最密充填構造]で、862℃以上で[体心立方構造]へ転移する。

融点
ジルコニウムの融点は[1850℃程度]。ジルカロイでは、種類によるが、純ジルコニウムよりも融点は[低く]なる。

耐腐食性
ジルコニウムには耐食性があり、空気中では酸化被膜ができ内部が侵されにくくなる。純ジルコニウムでは、酸化が進行すると、黒色酸化膜が徐々に白色の酸化膜に変化し、剥離、脱落して[重量減少]が生じる。これを[異常腐食](あるいは[加速腐食])という。ジルカロイでは通常使用時にはこのようなことがないが、ジルカロイ使用の要注意点と考えられている。

比熱
ジルコニウムの比熱は、常温で[276 J/(kg・K)]程度である。ジルカロイでは常温で[288 J/(kg・K)]程度に上がる。

熱伝導率
ジルコニウムの熱伝導率は、常温で[23 W/(m・K)]程度である。ジルカロイでは常温で[12 W/(m・K)]程度に下がる。

参考 鈴木元衛、斉藤裕明、軽水炉燃料解析コードFEMAXI-IV(Ver.2)の詳細構造とユーザーズマニュアル~2.4.2 ジルカロイ被覆管物性値
鈴木元衛、古田照夫、軽水炉燃料被覆管の腐食研究の現状と今後の方向

第5問

核燃料やアクチノイド元素に関する次の問いに対して回答せよ。

(1) MOX燃料におけるプルトニウムスポットについて答えよ。 ①どのような現象か。 ②燃料挙動にどのように影響するか。 ③これを減らすために使われている方策は何か。

【解答例】
①燃料の製造工程で、プルトニウムとウランの酸化物をそれぞれ粉末にして混合するとき[プルトニウム粉末に大きな粒子が残ったまま]燃料を製造し、原子炉で燃焼させると、プルトニウムはウランより[反応率が高い]ので天井の大きな出力分布(スポット)が生じる。
②ほかの部分より[核分裂]が多くなり、[核分裂]により生み出される[気体]の放出率が高くなることが考えられる。また、プルトニウムスポットでの[局所的な出力増加(温度上昇)]により、出力が急激に増加した場合、燃料の壊れ方に影響を及ぼす可能性がある。 (九州電力プルサーマル計画)
③現在の製造工程では、[混合後さらにすりつぶして、]大きな粒子が残らないようにしている。 (atomica)

(2) プルトニウム同位体Pu-239とPu-240について答えよ。 ①それぞれの核種の原子炉内での主な生成メカニズムはどのようなものか。 ②それぞれの核種は核的性質においてどのような違いがあるか。

【解答例】
①天然ウランの99.3%を占めるU-238に中性子が当たると[U-239を生成するが、間もなくβ線を出してNp-239に、引き続き]Pu-239に変わる。 このPu-239に[さらに中性子が当たると、多くは核分裂するが一部は]Pu-240に変わる。
②Pu-239はU-235と並んで[高い核分裂]を有する。 Pu-240はU-238と同様に、熱中性子が当たっても核分裂しないが、中性子を吸収するとPu-241に変わり、この核種は[再び核分裂]になる。この意味でPu-240のような核物質を[核燃料親物質]と呼んでいる。

(3) ウラン238(U-238)の放射性壊変について答えよ。 ①最終的に生成される鉛の安定同位体核種は何か。 ②その核種になるまでに、アルファ崩壊およびベータ崩壊を何回ずつ経験するか。 ③重要な放射線被ばくの原因となる気体状の生成核種は何か。

【解答例】
①[鉛206]。 ウラン系列(もしくはラジウム系列、4n+2系列)は、U-238から[Pb-206]までの崩壊過程のことである。
アルファ崩壊を[]回、ベータ崩壊を[]回 (ウランの原子番号は[92]、鉛の原子番号は[82]である)。
③ [ラドン222]。天然に存在する放射線による被ばくの中では、[ラドン]及びその子孫核種による被ばくの割合が一番大きいといわれている。子孫核種である放射性のポロニウム218や更に壊変した鉛214等は固体状であるため、一旦吸い込むと、肺胞や気管支壁面に付着し、体外に排出されにくい。(環境省、身の回りの放射線

(4) 核燃料加工施設における六フッ化ウランUF6について答えよ。 ①どのような用途に用いられるか。 ②その用途で用いられるためのUF6の持つ有利な点を2つ挙げよ。 ③水蒸気と接触したときの反応式を書け。

【解答例】
①[ウラン濃縮]。
②UF6は沸点が低く([56]℃)、処理の開始から完了まで[気体]の状態を維持するのが容易であること、フッ素が[単核種元素]であり、六フッ化ウランの式量の差は[全てウランの質量]の差に由来すること。
③UF6 + 2H2O → [UO2F2 + 4HF] (加水分解によるフッ化ウラニルとフッ化水素の生成)

(5) 高燃焼度を経験した高速炉燃料中に形成される中心空孔と柱状組織について答えよ。 ①それぞれどのようなものか。 ②これらの組織はどのようにして形成されるか。

【解答例】

①中心空孔:ペレット中心に形成される、[燃料が存在しない]領域。 柱状組織:中心空孔の外側に形成される、[径方向に長い結晶粒を持つ]領域。
②柱状晶の領域は,ペレットの気孔内でのUO2の[蒸発-凝縮機構]で形成される。大きな温度勾配下で気孔内面のUO2は[高温]側で蒸発し,[低温]側で凝縮する。これに伴い,気孔は温度勾配と逆方向に移動して,その後に柱状晶が生成される。一方、燃料中心空孔は,[気孔が中心部に集結する]ことにより形成されると言われている。軽水炉燃料の通常運転出力では[等軸晶]までで,[柱状晶]は生成しないと考えられている。 (第36回 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質)

(6) 研究炉用板状燃料について答えよ。 ①どのような構造を有しているか。 ②燃料部分と被覆部分の材料はそれぞれ何か。

【解答例】

①フランス原子力庁によって開発され、研究用原子炉や原子力潜水艦等に用いられる「キャラメル燃料」と呼ばれるタイプの板状燃料は、各個の燃料体を[(材質)二酸化ウラン]を縦横が[20mm]、高さが[5mm]の直方体に成型している。[ジルカロイ]製の[格子]状の枠に[キャラメル]燃料体を並べ、さらに[2枚のジルカロイの薄い被覆板で表裏から挟み込む]ようにしたものを一つの燃料板としている。それぞれの[キャラメル]燃料体はこの格子状の枠によって[独立]している。 ②燃料は[二酸化ウラン]、被覆部分は[ジルカロイ]。

Space&Nuclear 板状核燃料「キャラメル」