第34回 核燃料取扱主任者試験 放射線の測定及び放射線障害の防止に関する技術
第34回 核燃料取扱主任者試験 放射線の測定及び放射線障害の防止に関する技術
第1問
バイオアッセイ法による線量評価について下記の設問イの空白の部分に適切な語句,数値又は記号を番号とともに記せ。 また設問ロについては計算過程とともにその数値を示せ。
イ. Sr-90は最大エネルギー545 keVの[①β]線を100%放出する。 また,Sr-90の[②娘]核種であるY-90の[③半減期]は64.1時間であり,最大エネルギー[④2.279]MeVのβ線を100%放出する。 Sr-90を吸入摂取してから3日後に尿を採取して,Sr-90を[⑤発煙硝酸]分離した後,[⑥放射平衡]に達したY-90を[⑦共沈]分離して, Y-90の[⑧β]線を測定するため,放射能測定器として[⑨GM計数管]を用いて1日当たりの尿中のストロンチウム濃度を算定してから, [⑩摂取量]を求めて実効線量を算出する。
ロ.
チタン酸ストロンチウムを吸入摂取した場合のSr-90核種における尿中の排泄量による評価において,
Sr-90核種を吸入摂取3日後に尿分析した結果,1日当たり尿中のSr-90を44 Bq算出した場合の実効線量を評価せよ。
ただし,Sr-90の吸入摂取3日後に対する尿中放射能を示す排泄率を2.2×10-4とし,実効線量係数は7.7×10-5 (mSv/Bq)とする。
解答例
摂取量=44 Bq/(2.2×10-4)=2×105 Bq
実効線量=7.7×10-5 mSv/Bq ×2×105 Bq=15.4 mSv
第2問
ある原子炉内において,熱中性子束密度1.0×1014 cm2・s-1の照射場で
塩化コバルト(CoCl2)5.0 gの試料を連続168時間照射したとき,
照射直後に得られたCo-60試料0.10 gによって床汚染を生じさせた。
汚染した床面積を100 m2として,このときの表面密度(Bq/cm2)はどのくらいか。
計算過程を示して答えよ。
ただし,照射直後Co-60の放射能の生成は59Co(n,γ)60Co反応であり,
生成したCo-60の半減期は5.27年,放射化断面積は37バーン,原子量は58.9,Co-59同位体存在度は1とし,Clの原子量は35.5とする。
またCo-60で汚染した床面は均ーに汚染したとする。
解答例
試料中コバルト-59の初期の原子数をM0とする。 また、φ [cm-2 s-1]を熱中性子束密度、σ [cm2]を放射化断面積とする。 コバルト-60の時刻tにおける原子数をn(t)とすれば、
ここに、λ [s-1]はコバルト-60の壊変定数である。または、
この式を(例えば、n(t)=z(t)e-λtとおいてz(t)をはじめ求めるなどして)解くと、Cを積分定数として、
t=0のとき、n(t)=0であるから、
したがって、
コバルト-60の原子数は、
コバルト-60の放射能A(t)[Bq]は、
汚染放射能A(t)は(2)に代入して計算すると
汚染物になった放射能は、
汚染物になったコバルト-60の表面密度は、
(答) 約4×103 Bq/cm2
別解(より厳密な解)
試料中コバルト-59の初期の原子数をM0とする。 また、コバルト-59の時刻tにおける原子数をm(t)とする。
ここに、φ [cm-2s-1]は熱中性子束密度、σ [cm2]は放射化断面積とする。 (1)を解くと
コバルト-60の時刻tにおける原子数をn(t)とすれば、
(2)に(1')を代入して、
ここに、λ [s-1]はコバルト-60の壊変定数である。 この式を(例えば、とおいて z(t)をはじめ求めるなどして)解くと、Cを積分定数として、
t=0のとき、n(t)=0であるから、
したがって、
コバルト-60の原子数は、
コバルト-60の放射能A(t) [Bq]は、
M0,λ,φσ,tを(3)に代入して計算すると、汚染放射能A(t)=2.16×1011 [Bq]となり、 汚染物になった放射能は、0.10 g/5.0 g×A(t)=4.32×109 [Bq]、 汚染物になったコバルト-60の表面密度は、
(答)約4×103 Bq/cm2
第3問
次の文章の空欄の部分に入る適切な語句,数値又は記号を番号とともに記せ。 なお,同じ番号の空欄には同じ数値又は記号が入る。
(1) 熱ルミネセンス線量計は,LiF, CaF2, CaSO4等の物質に放射線があたるとイオン化した[①電子]が格子欠落に捕捉され, これを解放するため[②熱]を加えると[③光]を出すことを利用している。
(2) 液体シンチレーション計測装置では[④分解]時間は約0.1μ秒なので,計数効率10,000 cpmでは数え落としは問題がない。 しかしC-14やS-35の分別測定は[⑤β]線エネルギーが[⑥ほとんど等しい]ためむかない。
(3) プラスチックシンチレータは加工が容易であるが[⑦軽元素]のため[⑧光電]効果の確率が低いため,[⑨γ]線スペクトルにむかない。
(4) 中性子線が照射されると多くの物質は核反応により放射化する。 これは物質が中性子に対する[⑩散乱]及び[⑪捕獲]に依存するためで,中性子照射後に誘導された放射能を測定することができるので [⑫中性子]モニタとして利用される。
(5) GM計数管は円筒状の計数管の中にアルゴン等の[⑬不活性ガス]とハロゲン化合物又はアルコールの蒸気を封入し, 密封され中心に一本の[⑭陽]極,外側を[⑮陰]極として両極を約1,000ボルトの電圧を加える。 管内に放射線が入射すると,封入されているガスが[⑯電離]作用によって[⑰陽イオン]と[⑱電子]に分かれ, 負の電荷を持つ[⑱電子]は[⑭陽]極に移動しながら数が増し,[⑰陽イオン]は[⑮陰]極に移動し,瞬間的に大きな[⑲パルス]電流が流れるが, 放射線の種類や[⑳エネルギー]を判別することはできない。
第4問
次の文章中の空欄の部分に入る適当な語句又は数値を下欄から選び,番号とともに記号で記せ。
被ばく後比較的長い潜伏期間を経てから発症する障害を[①晩発障害]という。 これには放射線発がんや[②放射線誘発白内障]等が含まれる。 放射線発がんの潜伏期間は腫瘍の種類によって異なる。 固形腫瘍の潜伏期間は通常20年以上であるが,白血病のそれは[③約5年]である。 放射線発がんが発生する年齢は,その腫瘍が自然発生する年齢[④より早い]傾向を示す。 ヒトの放射線発がんに関する限られたデータに基づいて様々な年齢あるいは被ばく線量についてそのリスク評価を行うためには, [⑤過剰リスクモデル]を仮定することが必要である。 被ばく後,全年代に亘ってがんの自然発生率を一定因子で増加させると仮定しているのが[⑥相対リスクモデル]である。 現在入手可能なデータに基づいて科学的に放射線発がんのリスク評価を行っている国際的機関として, [⑦国連科学委員会(UNSCEAR)]と米国の国立科学アカデミーが設置した[⑧電離放射線生物効果に関する委員会(BEIR)]がある。 これらの分析に基づいて[⑨国際放射線防護委員会(ICRP)]は放射線防護上,就業年齢集団の放射線発がんによる死亡率を低線量・低線量率被ばくの場合 シーベルトあたり[⑩0.04]と推定するよう示唆している。
第5問
次の放射線生物学的略語について簡単に説明せよ。
(1) RBE
(2) DRF
(3) OER
(4) SCE
(5) LD50(30)
解答例
(1) RBE
標準の放射線(200 kVpのX線、水中のLETが3 keV/μm、線量率0.1 Gy/min)による吸収線量に対する、
これと同一の生物学的効果を与えるのに必要なある種の放射線の吸収線量との比の逆数を生物学的効果比(RBE)という。
主として放射線生物学において放射線に対する感受性の違いを表現するのに用いられる。
(2) DRF
線量減少率(Dose Reduction Factor)は、放射線の障害を少なくする目的で投与される防護剤の効果を表す指標である。
(3) OER
酸素効果比(Oxygen Enhancement Ratio)は、放射線照射部位の酸素分圧の高低による組織または細胞の放射線感受性の差を表す指標である。
(4) SCE
姉妹染色分体交換(Sister Chromatid Exchange)は、細胞分裂に際して、一本の染色体が複製によって二つの相同染色体になるとき、
同一箇所で切断し、相互に交換することをいう。放射線照射によっても生じる。
(5) LD50(30)
被ばくした個体の半数が一定期間(30日)内に死亡する線量を半致死線量LD50(30)と表す。