第33回 核燃料取扱主任者試験 放射線の測定及び放射線障害の防止に関する技術

第33回 核燃料取扱主任者試験 放射線の測定及び放射線障害の防止に関する技術

第1問

次の各問に計算過程を示して答えよ。

(1) 13.7 gのCs-137がある。半減期の2倍の時間が経過した後のCs-137の原子数はおよそいくらか。

解答例

137Cs 137 gは、アボガドロ数(6.02×1023)の原子数を有する。 137Cs 13.7 gの原子数は、半減期の2倍の時間が経過すると1/4に減少するので、そのときの原子数は比例計算によって、


13.7 \times \frac{1}{4} \times \frac{6.02\times10 ^ 23}{137} = 1.51\times 10 ^ {22}

(2) 放射能測定装置で自然計数値を10分間測定したところ18カウントであった。 この装置で試料を10分間測定したときの検出下限計数率(cpm)はおよそいくらか。 自然計数率の標準偏差(σ)の3倍として計算せよ。

解答例

自然計数率の標準偏差は、√(18)/10=√(1.8/10)=0.42である。 検出下限計数率は、試料を測定した計数率が自然計数率に変わりなかった(正味0の差の標準偏差)で、 
3 \sqrt{ 1.8/10 + 1.8/10 } = 3 \sqrt{2} \times \sqrt{1.8/10} = 3\times 1.4\times 0.42 = 1.8 \textrm{ cpm}

(3) アルミニウム吸収板を用いてβ線の最大飛程を測定したところ,950 mg/cm2であった。 このβ線の最大エネルギーはおよそいくらか。

解答例

最大エネルギーが0.8 MeV以上のβ線の飛程(mg/cm2)は、RAl=542E-133で表される。 この、Eの単位は、MeVである。したがって、 
E=\frac{ R _ {\textrm{Al}} + 133}{ 542 } = (950+133)/542 = 2.0 \textrm{ MeV}

解説:近似式 R (g/cm2) = 0.5 E (MeV)を用いて、E=2R=2×0.95=1.9 MeVとしても良いと思われる。

(4) 分解時間180 μsecの放射能測定装置で試料を測定したところ30,000 cpmであった。 数え落としに対する補正をした真の計数率(cpm)はおよそいくらか。

解答例

分解時間をτ(s)とし、測定して得られたままの計数率(cps)をnaとし、 数え落しに対する補正をした計数率(cps)をnとすれば、 
n = \frac{ n _ a }{ 1-\tau n _ a }
の関係がある。この式に分解時間180 μs=1.8×10-4 s、na=30,000/60=500を代入すると、 
n = \frac{500}{ 1-1.8\times10 ^ {-4} \times 500 } = 549 \textrm{ cps} = 33,000 \textrm{ cpm}

第2問

次の各問の解答として,最も適切なものを1つ選び,番号とともに記せ。

(1) 次のうち,プルトニウムの測定に用いられない測定方法はどれか。
① α-β消去方法
② α-βコインシデンス方法
α線スペクトル分析方法
X線スペクトル分析方法
β線スペクトル分析方法

解答例⑤ 例えば、労働省安全衛生部労働衛生課編、“作業環境測定ガイドブック(4)─電離放射線関係─”、54-55頁、(財)作業環境測定士試験協会

(2) 次のうち,個人被ばく線量の測定に用いられない線量計はどれか。
① ポケット線量計
② 化学線量計
③ 熱ルミネッセンス線量計
④ フィルムバッジ
⑤ 蛍光ガラス線量計

解答例②

newclears注:化学線量計は大線量測定に用いられるので個人被ばく線量の測定には不向きである。 フリッケ線量計・セリウム線量計 γ線などの放射線の吸収による化学反応を利用した線量計である。 フリッケ線量計では硫酸第1鉄を主成分とする水溶液を用いる。 放射線照射による酸化で第1鉄イオン(Fe2+)が第2鉄イオン(Fe3+)になる量を分光光度計で計測し、吸光度から線量を求める。 第2鉄イオンの吸収ピークがある304 nmで測定を行い、20~400 Gyの範囲で用いられる。 セリウム線量計は還元反応(Ce4+→Ce3+)を利用する。 第2セリウムイオンの320 nmにおける吸収ピークを分光光度計により測定する。 用いられる線量の範囲は500 Gy~100 kGyである。 (出典:齋藤則夫 電子情報通信学会『知識の森』放射線放射能計測)

(3) 次のうち,外部被ばくに係る線量当量と測定部位について正しいものはどれか。
① 3mm線量当量──皮膚
② 3mm線量当量──眼の水晶体
③ 70μm線量当量──眼の水晶体
④ 70μm線量当量──体幹
⑤ 1cm線量当量──手,足

解答例②

newclears注: 1cm線量当量は目と皮膚以外の臓器および組織に対する線量当量、 3mm線量当量は目の水晶体に対する線量当量、 70μm線量当量は皮膚に対する線量当量。 (出典:柴田徳思 放射線概論 通商産業研究社)

(4) 次のうち,熱中性子線の遮へいに最も適しているものはどれか。
① 鉛
② 鉄
③ コンクリート
カドミウム
⑤ アルミニウム

解答例④

newclears注: 熱中性子(速度2200 m/sec)の吸収断面積は、 Pb 0.170 b, Fe 2.53 b, H2O 0.644 b, Cd 2450 b, Al 0.230 b であり、この中ではカドミウムの吸収断面積が飛びぬけて大きい。 参考として、BNCTに用いられるホウ素では755 b、 加速器施設の放射化で問題になるユーロピウムは4300 bである。 (参考文献:大友正一、更田豊治郎、熱中性子吸収断面積及び散乱断面積(表)、JAERI 6010、1962年)

(5) 次のうち,測定対象と検出器の組み合わせで適切でないものはどれか。
① 低エネルギーγ線スペクトル測定──Si(Li)半導体検出器
α線エネルギー測定──グリッド電離箱
トリチウム表面汚染測定──GM計数管
γ線スペクトル測定──NaI(Tl)シンチレータ
⑤ 速中性子線──BF3検出器(パラフィン付)

解答例③

newclears注: トリチウムβ線は最大18 keVであるため、液体シンチレーション検出器など低エネルギーβ線を検出できる測定器を用いる必要がある。 (出典:第63回第1種放射線取扱主任者試験問題と解答例 日本アイソトープ協会

(6) ろ過捕集法により空気中の放射性物質濃度を正しく評価する場合, 自然放射性核種のラドン及びトロンの娘核種を減衰させるため,捕集したろ紙を一定時間放置した後に計測する。 次のうち,娘核種を減衰させるための適切な時間はどれか。
① 30分
② 1時間
③ 1日
④ 3日
⑤ 10日

解答例④ 例えば、労働省安全衛生部労働衛生課編、“作業環境測定ガイドブック(4)─電離放射線関係─”、50頁、(財)作業環境測定士試験協会

(7) 次のうち,フードの窓面の半開時における面速として適切なものはどれか。
① 5 cm/s
② 50 cm/s
③ 5 m/s
④ 10 m/s
⑤ 50 m/s

解答例②

(参考文献:高放射性物質取扱施設 設計マニュアル 第Ⅳ章 閉じ込め機構 第1節 フード より抜粋 1.3 設計上の留意点 開口部の流入風速は、一般に30 m/min以上90 m/min未満(すなわち、0.5 m/s以上1.5 m/s未満)とされている。)

(8) 次のうち,空気中の放射性物質と捕集材の組み合わせで適切でないものはどれか。
① Co-60──活性炭含浸ろ紙
② I-131──活性炭カートリッジ
③ P-32──活性炭含浸ろ紙
④ H-3──シリカゲル
⑤ Pu-239──ろ紙

解答例①

newclears注:Co-60に適した補修材は、ろ紙である。 (参考文献:安全衛生情報センター、主な放射性核種及びその性状に応じた試料採取方法

(9) 次のうち,内部被ばく線量への寄与が最も大きい自然放射性核種はどれか。
① H-3
② C-14
③ K-40
④ Rb-87
⑤ Th-232

解答例③

newclears注: 各核種由来の実効線量(ミリシーベルト/年)は、 H-3 8.2×10-6, C-14 0.01, K-40 0.18である。 Rb-87は、通常の物質中にIAEA基準値(1 Bq/g)を超える割合で含まれている可能性はあまりない。 Th-232は天然の土壌岩石に(必ず)含まれる。 ……が、RbやThは通常の食品や空気中には含まれていないから内部被ばくへの寄与は小さい、ということでよいのか。

参考文献:環境省、身の回りの放射線 放射線医学総合研究所、自然起源放射性物質データベース用語集

(10) 次のうち,α線に対する放射線荷重係数(線質係数)の実効的な値はどれか。
① 1
② 3
③ 5
④ 10
⑤ 20

解答例⑤

(参考文献:柴田徳思 放射線概論 通商産業研究社)

第3問

次の各問に答えよ。

(1) 放射性廃液の処理の方法について3つあげ,それぞれの長所と短所を簡単に説明せよ。

(2) 放射性物質の体内への摂取の仕方について3つあげ,説明せよ。

第3問解答例

(1)放射性廃液の処理の方法

1) 蒸発法

廃液を蒸発して濃縮する。
・長所:①除染効果が高い(104-106)。②塩濃度の高い廃液でも処理できる。
・短所:①I-131など揮発性のRIを含む廃液には使えない。②処理能力が小さい。

2) イオン交換法

イオン交換体により廃液中のRIを除去する。 イオン交換体として、有機のイオン交換樹脂を使う方法と無機イオン交換体(例えば、バーミキュライト)を使う方法がある。
・長所:①イオン交換樹脂法は、除染係数が比較的大きい(102-104)。 ②無機イオン交換体を用いる方法の長所は、a)交換体の値段が安く使い捨てできること、 b)塩濃度の高い溶液中の特定のRIを選択的に吸着すること。
・短所:①イオン交換樹脂法では、a)樹脂の値段が高い。再生利用するときに高放射能の廃液が生じる。 b)樹脂の交換容量には限度があり、塩濃度の高い廃液処理には適さない。 ②無機イオン交換体では、a)使った後、交換体を捨てるとき、大量の不燃性廃棄物が生じる。 b)有機のイオン交換樹脂より除染係数が低い(10-103)。

3) 凝集沈殿法

凝集沈殿剤(リン酸カルシウム、水酸化鉄など)を加えて生成する沈殿にRIを吸着捕集させ分離する。
・長所:①大量の廃液が処理可能。②固形物や塩濃度の高い廃液でも処理できる。
・短所:①除染係数が低い(10-102程度)。②凝集沈殿物が大量の不燃性廃棄物となる。

(2)放射性物質の体内への摂取の仕方

1)吸入

空気中にガス、ダストなどのかたちで浮遊する放射性物質が呼吸とともに体内に入ることをいう。 放射性物質は一部呼吸とともにはき出され、一部は肺から出て胃腸管に入るが、 一部は呼吸器系内に止まり、物理・化学的性状によって程度が決まる溶けやすさで血液中へ取り込まれる。 血液中に取り込まれた放射性核種は、体内を循環していろいろな臓器に沈着する。

2)経口摂取

水や食物に含まれ、あるいは、汚染した指をなめるなどして、放射性物質が口から飲み込まれることをいう。 放射性物質の一部は、その化学形で決まる割合で胃腸管から血液中に取り込まれる。

3)経皮吸収

正常な皮膚あるいは傷口から放射性物質が体内(血液中)に取り込まれる。

第4問

次の文章中の空欄に入る適当な語句又は数値を下欄から選び,番号とともに記号で記せ。

放射線被ばくにより個体に発現する障害は,その線量依存性により2種類に分類できる。

一方は,[①閾値線量]と呼ばれるある一定の線量以下では障害が生ずる確率は[②0]%だが,それ以上では線量が増すにつれて高くなる。 そして障害の[③重篤]も線量につれて増加する。 これは臓器において,ある一定数の細胞が照射により失われて初めて障害が生ずる場合に見られる。 このような障害は以前は[④非確率的障害]と呼ばれていたが,現在では[⑤確定的障害]と呼んでいる。 [⑥放射線誘発白内障]がその一例である。

もう一方は,被ばく線量の増加とともに障害が生ずる確率が増加するが,[①閾値線量]は[⑦ない]と考えられる障害である。 その[③重篤]は被ばく線量の増加によって[⑧変化しない]。 このような障害は[⑨確率的障害]と呼んでいる。 [⑩放射線発がん]がその一例である。

第5問

次の事項について簡単に説明せよ。

(1) 細胞に対する放射線の間接効果
(2) 倍加線量
(3) 自然放射線源としてのラドン
(4) ベルゴニー・トリボンドーの法則
(5) 半価層

解答例

(1) 細胞に対する放射線の間接効果

放射線が細胞中の水の分子を電離あるいは励起し、その結果生じたOH・(OHラジカル)、 H・(Hラジカル)などのフリーラジカルが細胞内高分子に作用して障害を起こすことをいう。

(2) 倍加線量

自然突然変異率の2倍を発生させるに要する放射線量を倍加線量という。 ヒトの場合、低線量率の被ばくでは1 Gyとされ、重篤な遺伝的影響のリスクの評価に用いられる。

(3) 自然放射線源としてのラドン

ラドンには、ウラン(U-238)系列のRn-222(半減期3.8 d)とトリウム(Th-232)系列のRn-220(半減期55.6 s)がある。 天然の放射線源からの被ばく年間2.4 mSvの半分の実効線量約1.2 mSvはラドンとその娘核種を呼吸することによる肺の内部被ばくである。 Rn-222とその娘核種からの被ばくは、Rn-220とその娘核種からの被ばくに比べ、約20倍大きい。 屋外のラドン濃度はおおよそ1 Bq/m3から10 Bq/m3であるが、屋内のラドン濃度は建築物の構造と材料によってはるかに高い濃度になることがある。

(4) ベルゴニー・トリボンドーの法則

生物の細胞あるいは組織の一般的な放射線感受性についての法則で、“ ①細胞分裂の頻度が高いものほど感受性が高い。 ②将来行う細胞分裂の多いものほど感受性が高い。 ③形態及び機能において未分化のものほど感受性が高い。 ”とするものである。ラットの睾丸によって研究された。 解説:ベルゴニーとトリボンドーによって1906年に発表された説。

(5) 半価層

放射線の線量率を1/2に減少させるに必要な吸収体の厚さをいう。 X線またはγ線の場合には、線減弱係数μとの間に、半価層=0.693/μの関係がある。

出典

谷内 茂康; 佐藤 忠; 須賀 新一; 小室 雄一; 内田 正明; 中島 邦久; 中村 仁一; 雨澤 博男; 大村 英昭; 湊 和生; 武田 常夫; 櫛田 浩平; 傍島 眞 核燃料取扱主任者試験問題・解答例集,1999~2003年, JAERI-Review 2003-025,https://doi.org/10.11484/jaeri-review-2003-025