第48回 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

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第48回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第1問

以下の2つの図は、加圧水型原子炉(PWR)と沸騰水型原子炉(BWR)の燃料集合体の構造を表したものである。 図中の空欄に入る適切な語句又は数値を番号とともに記せ。 なお、同じ番号の空欄には、同じ語句又は数値が入る。

PWRの燃料集合体は、制御棒クラスタ、制御棒、[①上部ノズル]、[②支持格子]、燃料棒、[③下部ノズル]から構成される。 全長は、約[④4.2]メートルである。 燃料棒は、ペレット、スプリング、燃料被覆管から構成されており、ペレットは直径約[⑤8]ミリメートル、高さ約[⑥10]ミリメートルである。

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図1 PWRの燃料集合体の構造(出典:原子力・エネルギー図面集)

BWRの燃料集合体は、ハンドル、外部スプリング、燃料棒、[②支持格子]、[⑦チャンネルボックス]、[⑧タイプレート]、[⑨ウォーターロッド]から構成される。 全長は、約[⑩4.5]メートルである。 燃料棒は、ペレット、スプリング、燃料被覆管から構成されており、ペレットの直径と高さはいずれも約[⑥10]ミリメートルである。

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図2 BWRの燃料集合体の構造(出典:原子力・エネルギー図面集)

参考文献:原子力・エネルギー図面集【5-1-7】燃料集合体の構造と制御棒

第2問

照射に伴って発生する燃料ペレットの様々な変化のうち、「焼きしまり」と「スエリング」について、①それらがどのような現象か、 ②それらの発生する原因、 ③それらの現象が顕著にあらわれる時期、 ④それらが燃料ふるまいに与える影響 の4点を答えよ。解答は、次の表の空欄に記載されている記号とともに述べよ。

焼きしまりについて、 ①どのような現象か。 [中性子]照射により燃料ペレットが[収縮]する現象である。 ②発生する原因。 [核分裂]のために燃料中の[格子欠陥]が増大し、燃料構成原子の[自己拡散]の促進およびそれに伴う焼結の[促進]、[気孔]の収縮・消滅などが起き、これらが焼きしまりの原因と考えられている。 ③現象が顕著にあらわれる時期。 約10メガワットデイ毎キログラムウランの燃焼度(原子炉内での約1年の照射に相当)までの運転[初期]。 ④燃料ふるまいに与える影響。 以前は、この焼きしまりによって、燃料棒内の[軸方向ギャップ]の形成とギャップ部での被覆管のつぶれ(特にPWR燃料で発生)および径方向ギャップの増加による[燃料温度上昇]などの問題が生じた。 (現在では、ペレットの高密度化(理論密度の95%以上)と焼結温度の改良、予加圧型PWR燃料棒の採用などにより、焼きしまりに伴う問題は解決されている。)

スエリングについて、 ①どのような現象か。 燃料の体積が[増大]するのをスエリングという。 ②発生する原因。 核分裂によって生じる気体状や固体状の核分裂生成物がペレット中に[蓄積]することによって、ペレットが[膨張]する現象である。 ③現象が顕著にあらわれる時期。 [高燃焼度]で観察される。 ④燃料ふるまいに与える影響。 燃焼が進むと、ペレットのスエリングや被覆管のクリープダウン等でギャップが[減少]する。 もしペレットが[被覆管]に接触すると、それを押し広げる力が働く。 ジルカロイ被覆管はこのような応力(または歪み)が存在する場合、腐食性の核分裂生成物(よう素等)によって[応力腐食割れ]を起こす性質があり、上記の条件いかんによっては燃料棒にクラックを生じることがある。

参考文献:第50回 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質、 atomica 燃料ペレットの照射挙動に関する研究原子力発電と原子燃料、岡島安二郎

第3問

ウランの酸化物には種々の化学形態がある。 図3は、横軸を温度の逆数、縦軸を雰囲気中の酸素分圧の対数とし、酸素/ウラン比の異なるウラン酸化物がそれぞれ安定に存在する領域の境界を曲線で示したものである。 これに関して以下の問いに答えよ。

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図3 ウラン酸化物の相境界 (データ出典

(1) 図中の領域(ⅰ)、(ⅱ)、(ⅲ)は、それぞれUO2+x、U4O9-y、U3O8-z のどれに該当するか記せ。

  • 領域(ⅰ)低温、高酸素分圧の領域は、U3O8-zに該当する。
  • 領域(ⅱ)高温、低酸素分圧の領域は、UO2+xに該当する。
  • 領域(ⅲ)低温、低酸素分圧の限定的な領域は、U4O9-yに該当する。

(2) UO2+x で表される酸素の不定比組成領域において、x 値の増大とともに格子定数と理論密度はそれぞれどのように変化するか述べよ。

未回答

(3) 二酸化ウラン燃料ペレットを図中の点Aの条件で保持し、温度一定のまま、点Bへ徐々に酸素分圧を変化させて長時間保持した場合、ペレットの寸法と重量はどのように変化するか、理由とともに述べよ。

未回答

(4) 二酸化ウラン燃料ペレットを図中の点Bの条件で保持し、酸素分圧一定のまま、点Cへ徐々に温度を変化させて長時間保持した場合、ペレットの外観にどのような物理的変化が起こるか、理由とともに述べよ。

未回答

(5) 二酸化ウラン燃料ペレットをある条件下で長時間保持して均質なUO2+x とした。 x 値を正確に評価する手法を条件とともに述べよ。

未回答

参考文献:酸素分圧の制御・測定と熱力学的性質、辻利秀

第4問

核燃料物質の物性に関して、以下の問いに答えよ。

(1) 図4のグラフAからEは、二酸化ウラン燃料ペレットの物性値の温度依存性を示したものである。 各グラフは以下の選択肢に示す物性値のうち、それぞれどれに該当するか、簡潔な根拠とともに記せ。

【選択肢】: 「定圧比熱」、「熱伝導率」、「線熱膨張係数」、「破壊強度」、「ヤング率」、 「電気伝導率(対数値)」、「UO2上のUO2(g)の平衡蒸気圧(対数値)」、 「UO2中の酸素の自己拡散係数(対数値)」

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図4 二酸化ウラン燃料ペレットの物性値の温度依存性

◆ A: [ヤング率

応力σと歪みεの間には比例限界内でフィックの法則が成り立ち

σ=Eε

の比例関係が成り立つ。このEをヤング率という。 室温では約200ギガパスカル、すなわち2×1011ニュートン毎平方メートル。 ヤング率は、結晶格子の結合力に比例する。温度の上昇とともに結晶の結合力は減少する。

従って、ヤング率は、温度の上昇とともに減少する。

◆ B: [熱伝導率

熱伝導率kは次式で定義される。

Q=-k(dT/dx)

ここで、Qは単位時間に単位面積を過ぎる熱量を表し、dT/dxは温度勾配である。 室温での熱伝導率は10ワット毎メートル毎ケルビン程度である。 2000ケルビン以下の温度範囲では、UO2フォノンによる熱伝導が主であり、1/(AT+B)の依存性で温度が上がるにつれて熱伝導率は低下するが、2000ケルビン以上では、電子の寄与が大きくなり増加する。

従って、熱伝導率は、2000ケルビン程度までは低下し、それ以上では増加する。

◆ C: 不明。。。

◆ D: [定圧モル熱容量(Cp)

Cp=(dH/dT)

ここで、Cpは定圧モル熱容量、Hはエンタルピー、Tは温度。 室温では14カロリー毎モル毎ケルビンUO2はイオン結晶であり、格子熱容量が主である。 このうち調和項の寄与は室温よりやや高温で飽和するが、膨張項とショットキー熱容量の寄与によりその後もやや増大する。 さらに高温では、格子欠陥生成、電子・ホール対生成の寄与により熱容量が増大する。

従って、定圧モル熱容量は、温度が400から500ケルビン程度に上昇するまでは共に増大するが、まもなく飽和し、2000ケルビン程度以上で再び増大する。

◆ E: [線熱膨張係数

α=(1/L0)(dL/dT)

Lは試料長さ、L0は初期長さ、Tは温度。 線熱膨張係数は、温度依存性が小さい。 ただし、高温では格子欠陥生成によりやや増加する。 (一般には、グリュナイゼンの式により、(線)熱膨張係数は熱容量に比例する。このため、熱容量と同様に高温で飽和する。)

従って、線熱膨張係数は、室温から1000ケルビン程度まではおよそ一定で、2000から3000ケルビン程度ではゆるやかに増大する。

参考文献:第33回 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

(2) 二酸化ウラン燃料ペレットの室温における以下の4つの物性のおよその値を単位とともに記せ。 ①「格子定数」、②「熱伝導率」、③「線熱膨張係数」、④「ヤング率」

格子定数は、[0.547ナノメートルセラミックスアーカイブズ

②熱伝導率は、室温では[10]ワット毎メートル毎ケルビン

③線熱膨張係数は、[10かける10のマイナス6乗]毎ケルビン

④ヤング率は、約[200]ギガパスカル

トリウム燃料の基礎物性、牟田浩明他

(3) 二酸化ウラン燃料とウラン-ジルコニウム金属燃料を比較した際に、熱伝導機構の相違と熱伝導率の温度依存性の相違をそれぞれ述べよ。

(ブログ著者注:U-Zr金属燃料については不明なので、代わりにUC燃料について述べる)

二酸化ウランはイオン結晶で、その熱伝導率は低温側では主に[フォノン]伝導であり1/(AT+B)の依存性で温度が上がるにつれて熱伝導率は[低下]する。一方、2000ケルビン以上では、電子の寄与が大きくなり[増加]する。

一方、UCは高い電気伝導度を持ち金属的な性質を示し、熱伝導は[電子伝導]が主である。 このため、UCの熱伝導度は二酸化ウランに比べて高温側でほぼ一桁[大きい]。 電子伝導は温度に対してほぼ一定であるため、UCの熱伝導度の温度依存性は小さい。

参考:第34回 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

(4) 二酸化ウランや(U,Pu)O2等の高融点酸化物の融点測定では、通常の示差熱分析装置(DTA)を用いることができない。代わりにどのような手法が用いられているか説明せよ。

示差熱分析 (differential thermal analysis: DTA) とは、 試料及び基準物質の温度を一定のプログラムによって変化させながら、その試料と基準物質との温度差を温度の関数として測定する方法である。 示差熱分析では、基準物質との温度差を測定することで試料の温度を検出する。 転移、融解、反応等の吸発熱を伴う現象が測定対象となる。 例えば、加熱炉で昇温すると、それに追従して試料も基準物質も温度が上昇するが、試料に融解が生じたとすると、融解中は試料の温度が停滞し、融解が終了すると急速に元の温度上昇曲線に戻る。 温度差を時間に対してグラフにすると、試料が融解する点では吸熱ピークを示すなどするため、試料の熱物性変化を感度良く捉えることができる、というものである。

基準物質としては、通常はα-アルミナなどが用いられるが、α-アルミナの融点が[2053]℃に対し、二酸化ウランの融点は[2865]℃なので、適さない。

参考文献:示差熱分析 (DTA) の原理と応用、日本分析機器工業会

従来、核燃料の融点測定には、[サーマルアレスト(熱停留)]法が採用されている。 この方法は、測定試料を封入した耐熱カプセルを加熱炉内に設置し、該試料を温度計測しながら昇温していき、試料が溶融する際の潜熱(融解吸熱)により昇温が[停滞]する熱曲線の変化を読み取ることで試料の融点を求める方法である。

参考文献:高融点物質の融点測定方法、森本恭一他

第5問

核燃料に関する次の問いに答えよ。

(1) ハルとは何か。その発生場所、形状、主な材質、処理・処分方法について述べよ。

使用済核燃料被覆]の廃材をハルという。 【発生場所】使用済核燃料をピューレックス法により再処理する際、核燃料をチョッピングにより細断片とするが、その核燃料の被覆廃材をハルといい、核燃料の両端部の廃材をエンドピースと呼ぶ。 【形状】長さ数センチメートルの円筒。 【主な材質】ハルの典型的なものとしては、[ジルコニウム]製被覆廃材がある。 【処理・処分方法】[TRU]による汚染と放射化による放射能等を含むので通例これらは[TRU]固体廃棄物として処理、処分される。

参考文献:atomicaTRU廃棄物、資源エネルギー庁

(2) ウランのインシチュ・リーチングについて、その必要性と概要を述べよ。

【概要】 [ウラン採鉱法]の一つであり、鉱床から鉱石の採掘をせず鉱床そのものに直接溶媒を流し込み、有用金属成分を溶液中に溶出させて回収する採鉱技術。 【必要性】その[経済性や放射線被曝防護]の観点からも直接採鉱よりも有利とされている。

参考文献: atomica

(3) ウラン精錬におけるイエローケーキとは何か。その概要、その中に含まれる主成分の化学形、色、ウラン含有率等について述べよ。

【概要】 [ウラン精鉱]ともいい、ウランの精錬工程のうち山元で行う[粗製錬]の製品の総称である。 【主成分の化学形】 近年のイエローケーキは、通常重量比で70から90%の[八酸化三ウラン]を含む。 【色】 近年の機器で作ったイエローケーキは実際には[茶色か黒]色で、黄色ではない。この名前は、初期の採鉱法によるものの色から名付けられた。 【ウラン含有率】 [60]%程度である。

参考文献: atomica, wikipedia.

(4) 次の表は軽水炉MOX燃料と高速炉用MOX燃料(もんじゅタイプ)の違いについて整理したものである。適切な語句又は数値を用いて空欄を埋めよ。

軽水炉MOX燃料について。 燃料ペレットの外径は約[10]mm。 燃料ペレットの密度は約[95]%TD。 プルトニウム含有率は[4から9]wt%程度。 燃料被覆管の材質は[ジルカロイ]。通常の軽水炉と同様、BWRでは[ジルカロイ2]、PWRでは[ジルカロイ4]。

高速炉用MOX燃料について。 燃料ペレットの外径は約[5]mm。 燃料ペレットの密度は、常陽では[94]%TD、もんじゅでは[85]%TD。 プルトニウム含有率は約[20から30]wt%。 燃料被覆管の材質は[ステンレス鋼]。液体金属ナトリウムとの共存性に優れたオーステナイト系の[SUS316]等を用いる。

参考文献:atomica高速炉用燃料及びガス炉用燃料