第35回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第35回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第1問

次の問に答えよ。

(1) アクチノイド元素とランタノイド元素の化学的性質の相違点について簡単に説明せよ。

解答例。
アクチノイド元素は、6dと5f電子軌道のエネルギー準位の差が非常に小さく、 この点がランタノイド元素の4f電子軌道と大きく異なっている。 このため、ランタノイド元素の場合水溶液中での主な酸化が3価であるのに対して、 アクチノイド元素、特に軽アクチノイド元素は様々な価数をとる。
ウランは3価、4価、6価、ネプツニウムは4価、5価、6価、プルトニウムは3価、4価、5価、6価の酸化状態を示す。 3価の他に、4価の酸化状態を示すセリウム、2価の酸化状態を示す、サマリウムユーロピウムイッテルビウムと取りうる酸化状態が大いに異なる。

Ln。「ランドセルにプリンなど、午後のサマーに優雅で、旅路でホエールを釣りに行ってるって」 La, Ce, Pr, Nd, Pm, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Lu。
An。「灰汁取りパスタが売らんナポリのプルッとアメリカできゅうりをバクリと狩り、愛してる不満でノーロール」 Ac, Th, Pa, U, Np, Pu, Am, Cm, Bk, Cf, Es, Fm, Md, No, Lr。

(2) トリウム,ウラン,プルトニウムの空気に接触した硝酸水溶液中における酸化状態をそれぞれ示せ。

解答例。
トリウム4価,ウラン6価,プルトニウム4価、6価

(3) プルトニウム金属の融点は640℃と比較的低く,室温から融点まで5回相変化するなどの特徴をもつ。この原因を簡単に説明せよ。

解答例。
この原因については理論計算に基づき以下のような考え方も提案されている。 トリウムからプルトニウムにかけてのアクチノイド軽元素では、5f電子が重なり合って狭い伝導バンドを形成する。 このような狭い伝導バンドを持つ物質は、伝導バンドをスプリットさせることで結晶の全エネルギーを低下させる傾向がある。 軽アクチノイド元素においては、伝導バンド内でスプリットした5f電子エネルギー準位が内殻のs, p, d電子のエネルギー準位とも重なり合うので、 軽アクチノイド元素の伝導バンド内では多数の電子エネルギー準位が非常に近接して存在しているものと考えられる。 結晶の相状態を決定する一つの因子として、(価)電子の存在する最高エネルギー準位(いわゆるフェルミ準位)が考えられており、 軽アクチノイド元素においては伝導バンド内でフェルミ準位が位置する電子エネルギー準位(の数)に応じて結晶の相構造が複雑に変化すると考えられる。 プルトニウムは特に電子エネルギー準位が複雑になっているために5回の相変態と低融点を有していると思われる。

(4) UF6よりUO2への転換方法の一つにADUプロセスがある。 これはUF6を水溶液に溶解後アンモニア水を加え,ADUの沈殿物を作り, ろ過後,ばい焼してU3O8の粉末を作り, 次に,水素により還元してUO2の粉末にするものである。 これらについて,化学反応式を示せ。

解答例。

  • UF6 + 2 H2O → UO2F2 + 4 HF
  • 2 UO2F2 + 6 NH4OH → (NH4)2U2O7 + 4 NH4F + 3 H2O
  • 3 (NH4)2U2O7 + 1/2 O2 → 2 U3O8 + 3 N2 + 6 H2O
  • U3O8 + 2 H2 → 3 UO2 + 2 H2O

(5) 軽水炉において核分裂生成物の燃料中での存在状態は,酸化物等の化合物の作りやすさ,蒸発しやすさ等によって決まる。 Nd,Pd,Iの燃料中における存在状態をそれぞれ述べよ。

解答例。
Nd:Nd2O3
Pd:Pd(合金)。
I:CsI

第2問

核燃料の使用中での破損防止に関する次の問に答えよ。

(1) 核燃料を原子力発電所で使用するとき,様々な原因により燃料が破損する可能性があり,それを防ぐための対策がとられている。 次の破損について簡単に説明するとともに,その破損を防ぐためにとられている対策について,説明せよ。

① サンバースト破損。
PCI破損。
③ フレッティング破損。

解答例。
① サンバースト破損。
燃料棒の製造段階で、燃料棒内に湿分が混入していると、照射時に水分が被覆管内表面と局部的に反応して ジルコニウム水素化物を形成するが、この水素化物は非常に脆く、また水素化物形成によって体積が増加すること等により、 被覆管が破損することがある。この破損を水分破損、または、水素化物の形状が日の出に似ているのでサンバースト破損という。 この破損の防止策としては、ペレット密度を上げて吸蔵水分を低減すること、被覆管にペレットを充填するとき乾燥を十分に行うこと、 水分と反応し易いジルコニウム合金をゲッターとして燃料棒上部のプレナム部に封入することなどの対策が採られており、 現在はほとんどこの種の破損は起こっていない。

PCI破損。
燃料の燃焼度が10 MWd/kgU程度以上の腐食性のFPが蓄積した状態で燃料棒の出力を上昇させると、 強いペレット-被覆管力学的相互作用(PCMI※)が発生する。 その結果、腐食性物質などの作用により被覆管の脆性割れが発生し、燃料棒が破損する場合がありこれをPCI破損という。 この破損機構は、ヨウ素等による被覆管の応力腐食割れ(SCC)であると考えられている。 PCI破損の防止対策として、燃料の改良(燃料棒の細径化による線出力の低減、 チャンファあるいはディッシュなどのペレット形状の改良、ジルコニウムライナー付き被覆管の採用など) と原子炉運転手順の改良(ならし運転)などが実施された。

※newclears注: ペレット-被覆機械的相互作用、 PCMI、 Pellet-Clad Mechanical Interaction。
ペレット-被覆化学的相互作用、 PCCI、 Pellet-Clad Chemical Interaction。
単に「PCI破損」と言ったときは、機械的相互作用に限定していないはずなので、 あえてPCMIだけを取り上げるのはあまり適切な解答ではないように思われる。

③ フレッティング破損。
燃料ピンが振動してグリッド等と接触を繰り返し、磨耗破損する。 グリッドを改良してピンの磨耗を軽減する、また水流がピンを振動させなよう設計する、異物の混入を防ぐ等の対策をとる。 (以下、atomicaより) 機械的な振動により金属同士がこすれて、一方がえぐれる現象をフレッティング(擦過)という。 これに腐食が重畳したものをフレッティング腐食(擦過腐食)という。 燃料棒とフレッティングを起こす相手は、他の燃料棒、異物(デブリ)等であり、異物フレッティングが燃料破損の主な原因の一つになっている。 この場合の異物は、主に機器補修の際に1次冷却材に持ち込まれた小さな金属異物であり、燃料集合体最下部の支持格子に捕獲され、 ここでフレッティングを起こす。このため、異物混入の防止や下部タイプレートの形状改良等の対策を行っている。 ワイヤーによるフレッティングとしては、1960年代後半の西ドイツKRB炉の初期運転で生じた被覆管の損傷が代表的な例である。 この炉の「気水分離器」では湿分除去のためにワイヤー網が使われ、その一部が欠損して燃料集合体中に侵入し、被覆管を機械的に傷つけてしまった。 また、被覆管とスペーサーとの間で、フレッティングが生じる可能性があるが、これはスペーサーの接触圧に依存する。 現在のBWR集合体では適切な接触圧が設定されており、これによる問題は発生していない。

(2) 高燃焼度化に伴う燃料の破損を防止するためにとられている対策を説明せよ。

解答例。
高燃焼度化に伴う燃料の破損としては、PCI破損、水側腐食による破損等がある。 高燃焼度では、クリープダウンにより、ギャップが閉じるとともに、スエリングやボンディングが生じて、PCIが大きくなる。 このPCI破損を防ぐため、半径方向にc軸を集積させた集合組織調整管が採用されている。 また、結晶粒界までの距離を大きくするとともに、流界に滑りやすい物質を析出させるペレットの改良も行われている。 水側腐食については、冷却水温度が高いPWR燃料で腐食破損を起こす可能性があり、新被覆管材料の開発が行われている。

第3問

以下のU-O系の状態図から次の(1)~(3)の組成を持つ化合物の場合について, それぞれ500℃から3000℃までゆっくりと平衡状態を保ちながら昇温させた時の相変化を, 存在する相と相変化をする転移温度の概数値を用いて簡単に説明せよ。

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U-O系の状態図

(1) O/U原子比 = 1.60
(2) O/U原子比 = 2.00
(3) O/U原子比 = 2.10

解答例 (1) O/U原子比 = 1.60

500~670℃ UO2+α-U
670~780℃ UO2+β-U
780~1110℃ UO2+γ-U
1110~2440℃ UO2-x+Uliq.
2440~2600℃ UO2-x+U2-x-y liq.
2600~3000℃ UO1.6 liq.

(2) O/U原子比 = 2.00

500~2880℃ UO2
2880~3000℃ UO2 liq.

(3) O/U原子比 = 2.10

500~550℃ UO2+U4O9-y
550~2750℃ UO2.1
2750~2860℃ UO2+x+U2+x+y liq.
2860~3000℃ UO2.1 liq.

第4問

軽水炉用燃料として使用されているUO2燃料のO/U原子比は,温度,酸素雰囲気等によって2.00からずれる。 このO/U原子比の変化は,UO2燃料の種々の物性に影響を与えることがわかっている。 次の(1)~(5)の物性について,500-1500℃の温度範囲でO/U原子比が2.00より大きくなるとどのように変わるか,その理由を付けて簡単に説明せよ。

(1) UO2燃料の熱伝導率
(2) UO2燃料の酸素の拡散係数
(3) UO2燃料中のウランの拡散係数
(4) UO2燃料中の核分裂生成ガス(Xe, Kr等)の拡散係数
(5) UO2燃料のクリープ速度

解答例

(1) UO2燃料の熱伝導率。
O/U比が増加すると過剰酸素がフォノン伝導に対する不純物散乱中心としてはたらくため、熱伝導率は急激に減少する。

(2) UO2燃料中の酸素の拡散係数。
酸素の拡散は格子間酸素を介して起こるためO/U比が増加するにつれて酸素の格子間酸素が増加し拡散係数は著しく増加する。

(3) UO2燃料中のウランの拡散係数。
ウランの拡散はウランの空格子を介して起こると考えられるが、O/U比が増加するにつれてウランの空格子も増加し、酸素の拡散係数は増加する。

(4) UO2燃料中の核分裂生成ガス(Xe, Kr等)の拡散係数。
Xe, Kr等のFPガスは、空孔クラスターを介してUO2中を拡散する。 定比組成からのわずかなずれが大きな拡散係数の増大をもたらすが、不定比組成では、拡散係数は組成にあまり大きな影響を受けない。

(5) UO2燃料のクリープ速度。
O/U比が増大するとU空格子点が増大し、U原子の拡散が促進されるため、クリープ速度は増大する。

第5問

核燃料に関連して,次の事項を簡単に説明せよ。

(1) クリープダウン。
(2) ギャップ熱伝達率。
(3) 窒化物燃料。
(4) リム効果。
(5) ガドリニア入り燃料。

解答例

(1) クリープダウン。
被覆管が照射中に、燃料棒の内外圧差により、ペレットとのギャップを埋めるように直径が減少していくクリープ変形をクリープダウンという。 この変形により、ペレットと被覆管のギャップ熱伝達が変化し、また、ペレットと被覆管の接触により力学的相互作用(PCMI)が生じる等燃料挙動に影響を与える。

(2) ギャップ熱伝達率。
被覆管内面とペレット表面間のギャップでの熱伝達率をギャップ熱伝達率(ギャップコンダクタンス)という。 熱伝達の機構としては、ガス熱伝導が支配的であるが、ペレットと被覆管が接触する場合は、さらに固体の接触熱伝達が追加される。 しかし、ボンディングをおこした場合は、固相を通しての直接的な熱伝導となる。 照射を受けたペレットにおいて、核分裂性ガス等が燃料棒内のギャップ等の空間に放出されると製造時に封入されたヘリウムガスと混合し、 この結果、ギャップ熱伝達率は低下し、ペレット温度が上昇する。

(3) 窒化物燃料。
ウラン、プルトニウムアメリシウム等の窒化物はNaCl構造を持ち金属的性質を示す。 従って、電気伝導度、熱伝導度が良く、燃料ペレットの中心温度を低く保つことが出来る。 また、重金属密度が高く高速炉燃料として優れている。 電気伝導度が良いことは、高温化学法における再処理に電解溶解法が使える等の利点がある。 しかし、窒素14からの炭素14の生成が問題であり、窒素15濃縮同位体を使用する必要があり、コスト面で不利である。

(4) リム効果。
軽水炉燃料で燃焼度が進むと燃料ペレット周辺部(リム部)に燃焼度とポロシティ率の高い領域が出現する現象をリム効果と呼ぶ。 これは、U-238の共鳴吸収によりプルトニウムが蓄積し、局所的に燃焼度が高くなるためであり、 組織変化としては、UO2結晶が細粒化して、高圧のFPガスを含む粗大化した気泡を取り囲み高いポロシティ率を持つリム組織が生じる。 リム組織は、ポーラスな構造から熱伝導率が小さいと推定され、また多量のFPガスを含むため、 その熱特性やFPガス放出挙動が高燃焼度燃料挙動に大きな影響を与える可能性があり、注目されている。

(5) ガドリニア入り燃料。
U-235の燃焼に伴う反応度変化を小さく抑えるために、バーナブルポイズン(可燃性吸収体) として熱中性子吸収断面積の大きいガドリニウムの酸化物(ガドリニア)を添加した燃料が用いられており、 これにより燃料集合体の運転初期の余剰反応度を調整している。 ガドリニア入り燃料は、熱伝導率がUO2燃料に比べて小さいため、U-235の濃縮度を低くする設計がなされている。

出典

谷内 茂康; 佐藤 忠; 須賀 新一; 小室 雄一; 内田 正明; 中島 邦久; 中村 仁一; 雨澤 博男; 大村 英昭; 湊 和生; 武田 常夫; 櫛田 浩平; 傍島 眞 核燃料取扱主任者試験問題・解答例集,1999~2003年, JAERI-Review 2003-025,https://doi.org/10.11484/jaeri-review-2003-025