法令を学習する際の注意事項

法令を学習する際の注意事項

法令は頻繁に改正されるので、古い試験問題を使って学習しても現行のものには対応していないおそれがあります。 そうはいっても、主旨は変わることがないので、ある程度は学習効果があるだろうと考えて このブログでは法令の古い試験問題も転載していますが、最新の法令を把握するのが一番です。 特に古いものと現行のものとでは、原子力規制委員会が設置される前か後かというのが大きな違いになっています。

原子力規制委員会の設置

2011年の東京電力福島第一原子力発電所で発生した事故を契機に、 原子力規制に係る体制が改変され、2012年に原子力規制委員会が設置されることとなりました。

これにより、関連法令で「経済産業大臣」「経済産業省令」などだった箇所は 「原子力規制委員会」「原子力規制委員会規則」などに置き換わる形になっています。 ただし、全てが綺麗に置き換わったわけではありません。

原子力規制委員会ウェブサイト https://www.nsr.go.jp/

原子力規制委員会パンフレット https://www.nsr.go.jp/data/000069304.pdf

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原子力規制の改革

第35回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質に関する法令

第35回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質に関する法令

第1問

次の文章は,「原子力基本法」及びその関係政令並びに「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」 (以下,本問において「原子炉等規制法」という。)の条文の一部である。 文章中の空欄にあてはまる適切な語句を番号とともに記せ。 (なお,同じ番号の空欄には同じ語句が入る。)

(1) 原子力基本法
(目的)
第一条 この法律は,原子力の研究,開発及び利用を推進することによって,将来における[①エネルギー資源]を確保し, 学術の進歩と産業の振興とを図り,もつて[②人類社会の福祉]と国民生活の水準向上とに寄与することを目的とする。

(基本方針)
第二条 原子力の研究,開発及び利用は,[③平和]の目的に限り,安全の確保を旨として, [④民主的な運営]の下に,[⑤自主的]にこれを行うものとし,その成果を公開し,進んで国際協力に資するものとする。

(定義)
第三条 この法律において次に掲げる用語は,次の定義に従うものとする。
一 「原子力」とは,[⑥原子核変換]の過程において[⑦原子核]から放出されるすべての種類の[⑧エネルギー]をいう。
二 「核燃料物質」とは,ウラン,トリウム等[⑨原子核分裂]の過程において[⑩高エネルギー]を放出する物質であつて,政令で定めるものをいう。
三 「核原料物質」とは,ウラン鉱,トリウム鉱その他[⑪核燃料物質]の原料となる物質であつて,政令で定めるものをいう。
四 「原子炉」とは,核燃料物質を燃料として使用する装置をいう。ただし,政令で定めるものを除く。
五 「放射線」とは,[⑫電磁波]又は粒子線のうち,直接又は間接に空気を[⑬電離]する能力をもつもので,政令で定めるものをいう。

(2) 核燃料物質,核原料物質,原子炉及び放射線の定義に関する政令
(核燃料物質)
第一条 原子力基本法第三条第二号の核燃料物質は,次に掲げる物質とする。
一 ウラン二三五のウラン二三八に対する比率が[⑭天然の混合率]であるウラン及びその化合物
二 ウラン二三五のウラン二三八に対する比率が[⑭天然の混合率]に達しないウラン及びその化合物
三 トリウム及びその化合物
四 前三号の物質の一又は二以上を含む物質で原子炉において燃料として使用できるもの
五 ウラン二三五のウラン二三八に対する比率が[⑭天然の混合率]をこえるウラン及びその化合物
六 [⑮プルトニウム]及びその化合物
七 ウラン二三三及びその化合物
八 前三号の物質の一又は二以上を含む物質

放射線
第四条 原子力基本法第三条第五号の放射線は,次に掲げる[⑫電磁波]又は粒子線とする。
一 アルフア線,重陽子線,陽子線その他の重荷電粒子線及びベータ線
二 [⑯中性子
三 ガンマ線及び特性エックス線(軌道電子捕獲に伴つて発生する特性エックス線に限る。)
四 一メガ電子ボルト以上のエネルギーを有する電子線及びエックス線

(3) 原子炉等規制法
(目的)
第一条 この法律は,[⑰原子力基本法]の精神にのつとり,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の利用が[③平和]の目的に限られ, かつ,これらの利用が[⑱計画的]に行われることを確保するとともに, これらによる[⑲災害]を防止し,及び核燃料物質を[⑳防護]して,公共の安全を図るために, 製錬,加工,貯蔵,再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関する必要な規制等を行うほか, 原子力の研究,開発及び利用に関する条約その他の国際約束を実施するために, 国際規制物資の使用等に関する必要な規制等を行うことを目的とする。

備考

第2問

次の問に答えよ。

(1) 次の(ア)から(ス)は,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律に基づく 核燃料物質の加工の事業に関する規則に規定された保安規定に定めるべき事項である。 文章中の空欄にあてはまる適切な語句を番号とともに記せ。

(ア)加工施設の操作及び管理を行う者の職務及び組織に関すること。
(イ)加工施設の放射線業務従事者に対する[①保安教育]に関すること。
(ウ)[②保安上特に管理を必要とする設備]の操作に関すること。
(エ)[③管理区域及び周辺監視区域の設定]並びにこれらの区域に係る立入制限等に関すること。
(オ)線量,線量当量,放射性物質の濃度及び放射性物質によつて汚染された物の表面の放射性物質の密度の監視並びに[④汚染の除去]に関すること。
(カ)放射線測定器の管理及び放射線の測定の方法に関すること。
(キ)加工施設の[⑤巡視、点検及び検査]並びにこれらに伴う処置に関すること。
(ク)加工施設の[⑥施設定期自主検査]に関すること。
(ケ)核燃料物質の受渡し,運搬,貯蔵その他の取扱いに関すること。
(コ)放射性廃棄物の廃棄に関すること。
(サ)[⑦非常の場合採るべき]処置に関すること。
(シ)加工施設に係る保安([⑧保安規定の遵守状況]を含む。)に関する記録に関すること。
(ス)その他加工施設に係る保安に関し必要な事項

(2) 核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律に基づき,地震,火災その他の災害が起こつたことにより, 核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物又は原子炉による災害が発生するおそれがあり,又は発生した場合においては 危険時の措置として応急の措置をとらなければならないとされているが,次の(セ)から(テ)は,そのような措置として, 核燃料物質の加工の事業に関する規則に規定されている事項である。 文章中の空欄にあてはまる適切な語句を番号とともに記せ。

(セ)加工施設に火災が起こり,又はこれらの施設に延焼するおそれがある場合には, 消火又は延焼の防止に努めるとともに直ちにその旨を消防吏員に通報すること。
(ソ)核燃料物質を他の場所に移す余裕がある場合には,必要に応じてこれを安全な場所に移し, その場所の周囲には,なわ張り,標識等を設け,かつ,見張人をつけることにより,[⑨関係者以外のものが立入ること]を禁止すること。
(タ)放射線障害の発生を防止するため必要がある場合には,加工施設の内部にいる者及び附近にいる者に[⑩避難するよう警告]すること。
(チ)核燃料物質による汚染が生じた場合には,すみやかに,その[⑪広がりの防止及び除去]を行なうこと。
(ツ)[⑫放射線障害を受けた者]又は[⑬受けたおそれのある者]がいる場合には,すみやかに救出し,避難させる等緊急の措置を講ずること。
(テ)その他放射線障害を防止するために必要な措置を講ずること。

(3) 加工の事業に関する規制に関する以下の(卜)から(ノ)の文章について, 文章中の空欄にあてはまる適切な語句又は数値を番号とともに記せ。
(ト)加工事業者は,保安規定を定め,[⑭事業開始前]に経済産業大臣の認可を受けなければならない。
(ナ)加工事業者は,周辺監視区域を定め,同区域については,[⑮人の居住]を禁止する措置を講じなければならない。
(ニ)加工事業者は,保安規定の遵守の状況について,毎年[⑯]回,経済産業大臣が定期に行う検査を受けなければならない。
(ヌ)加工事業者は,[⑰毎日]一回以上,従業者に,加工施設について巡視及び点検を行わせなければならない。
(ネ)加工事業者は,警報装置,非常用動力装置その他の非常用装置については, 当該装置の各部分ごとの当該作動のための性能検査を[⑱1月]ごとに, 当該装置全体の当該作動のための総合検査を[⑲1年]ごとに行うこと。
(ノ)加工事業者は,核燃料物質等が異常に漏えいしたとき,その旨を直ちに, その状況及びそれに対する処置を[⑳10日]以内に経済産業大臣に報告しなければならない。

備考

  • 加工規則第8条
  • 加工規則第11条
  • 法律第22条
  • 加工規則第7条の2の2
  • 加工規則第8条の2
  • 加工規則第7条の4の2
  • 加工規則第10条

第3問

次の(1)から(10)は,「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」及びこれに関連する法令に関するものである。 文章中の下線部の記述について,その内容が正しいものには○印を,誤っているものには×印を番号とともに記せ。 また,×印を記したものについては,その理由を記せ。

(1) 加工事業者は,核燃料物質の取扱いに関して保安の監督を行なわせるため, 核燃料取扱主任者免状を有する者のうちから,核燃料取扱主任者を選任しなければならない。
解答例:○ 備考:法律第22条の2

(2) 核燃料取扱主任者の選任は,工場又は事業所ごとに行なうものとする。
解答例:○ 備考:加工規則第8条の2

(3) 加工事業者は,核燃料取扱主任者を選任したときは,選任した日から2週間以内に,その旨を経済産業大臣に届け出なければならない。
解答例:× 訂正:30日以内に。 備考:法律第22条の2の2

(4) 加工事業者は,核燃料取扱主任者を解任したときは,ただちに,その旨を経済産業大臣に届け出なければならない
解答例:× 訂正:解任した日から30日以内に届け出る。 備考:法律第22条の2の2

(5) 経済産業大臣は,この法律又はこの法律に基づく命令の規定に違反し,罰金以上の刑に処せられ,その執行を終わり, 又は執行を受けることがなくなつた後,一年を経過していない者に対しては,核燃料取扱主任者免状の交付を行なわないことができる。
解答例:× 訂正:二年を経過していない者に対しては。 備考:法律第22条の3

(6) 経済産業大臣は,核燃料取扱主任者免状の交付を受けた者がこの法律又はこの法律に基づく命令の規定に違反したときは, その核燃料取扱主任者免状の返納を命ずることができる
解答例:○ 備考:法律第22条の3

(7) 加工事業者により選任された核燃料取扱主任者は,加工の事業における核燃料物質の取扱いに関し, 誠実にその職務を遂行しなければならない
解答例:○ 備考:法律第22条の4

(8) 加工の事業において核燃料物質の取扱いに従事する者は, 核燃料取扱主任者がその取扱いに関して保安のためにする指示に従わなければならない。
解答例:○ 備考:法律第22条の5

(9) 経済産業大臣は,加工事業者により選任された核燃料取扱主任者がこの法律又はこの法律に基づく命令の規定に違反したときは, 加工事業者に対し,核燃料取扱主任者の解任を命ずることができる
解答例:○ 備考:法律第22条の5

(10) 加工事業者は,特定核燃料物質の防護に関する業務を統一的に管理させるため,核燃料取扱主任者免状を有する者のうちから, 核物質防護管理者を選任しなければならない。 解答例:× 訂正:総理府令で定めるところにより、特定核燃料物質の取扱い等の知識等について総理府令で定める用件を備える者。 備考:法律第22条の7

第4問

次の文章は,「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」及びこれに関連する法令において定められている 核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物の廃棄に関するものである。 文章中の空欄にあてはまる適切な語句を番号とともに記せ。

加工事業者は,核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物(以下,本問において「核燃料物質等」という。)を, 加工施設を設置した工場又は事業所において廃棄する場合には, [①保安]のために必要な措置を講じなければならない。 当該措置には以下の措置が含まれる。

(1) 核燃料物質等で廃棄しようとするもの(以下,本問において「放射性廃棄物」という。)の廃棄は, 廃棄及び廃棄に係る[②放射線防護]について必要な知識を有する者の監督の下に行わせること。

(2) 気体状の放射性廃棄物を排気施設によって排出する場合は,排気施設において,[③ろ過], 放射能の時間による[④減衰],多量の空気による[⑤希釈等] その他の方法によって排気中における放射性物質の[⑥濃度]をできるだけ低下させること。

(3) 液体状の放射性廃棄物を排水施設によって排出する場合は,排水施設において, [⑦ろ過],[⑧蒸発],イオン交換樹脂法等による[⑨吸着], 放射能の時間による[⑩減衰],多量の水による[⑪希釈] その他の方法によって排水中における放射性物質の[⑫濃度]をできるだけ低下させること。

(4) 液体状の放射性廃棄物を[⑬放射線障害防止]の効果を持った廃液槽に保管廃棄する場合は, 保管廃棄される放射性廃棄物の[⑭崩壊熱]等により著しい[⑮加熱]が生じる恐れがあるときは, [⑯冷却]について必要な措置を採ること。

(5) 液体状の放射性廃棄物を容器に封入して[⑰放射線障害]の効果を持った保管廃棄施設に保管廃棄する場合において, 当該容器は,[⑱]が浸透しにくく,[⑲腐食]に耐え,及び[⑳放射性廃棄物]が漏れにくい構造でなければならないこと。

備考

  • 法律第21条の2
  • 加工規則第7条の8

第5問

「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(以下,本問において「原子炉等規制法」という。)に基づき, 核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物(以下,本問において「核燃料物質等」という。)を 工場等の外において運搬する場合,次の文章の空欄にあてはまる適切な語句又は数値(必要に応じて単位を付すこと。)を番号とともに記せ。 (なお,同じ番号の空欄には同じ語句又は数値が入る。)

【運搬に関する確認等】

使用者,製錬事業者,加工事業者,原子炉設置者,外国原子力船運航者,使用済燃料貯蔵事業者, 再処理事業者及び廃棄事業者並びにこれらの者から運搬を委託された者(以下「使用者等」という。)は, 核燃料物質等を工場等の外で運搬する場合において,原子炉等規制法に基づき主務省令で定める[①技術上の標準]に従って [②保安]のために必要な措置を講じなければならない。

運搬する核燃料物質に,政令で定める[③特定核燃料物質]を含む場合は, [②保安]及び[③特定核燃料物質]の防護のために必要な措置を講じなければならない。

核燃料物質等による災害の防止及び[③特定核燃料物質]の防護のため特に必要がある場合として政令で定める場合 ([④]型輸送物及び,[⑤核分裂]輸送物及び0.1 kg以上の[⑥六フッ化ウラン]を収納する輸送物を運搬する場合)に該当するときは, 使用者等は,その運搬に関する措置が主務省令の[①技術上の標準]に適合することについて, 主務省令で定めるところにより主務大臣の[⑦確認]を受けなければならない。

使用者等は,運搬に使用する容器について,あらかじめ,主務省令で定めるところにより,主務大臣の承認を受けることができる。 この場合において,主務大臣の承認を受けた容器(「[⑧承認容器]」という。)については, [①技術上の標準]のうち容器に関する基準は,満たされたものとする。

使用者等は,[③特定核燃料物質]等を運搬する場合,当該運搬の経路のある区域を管轄する[⑨都道府県委員会]に届け出て, 届出を証明する文書(「[⑩運搬証明書]」という。)の交付を受けなければならない。

【輸送物の区分】

放射能放射能の量,線量当量率を基準として,核燃料物質等を以下のような輸送物に区分している。 更に,[⑪未臨界性]の確保が必要な輸送物は,[⑤核分裂]輸送物とされる。

(a) [⑫放射能],[⑬線量当量率]が極めて小さく(表面における[⑬線量当量率]が[⑭5 μSv]を超えない), かつ,危険性が極めて少ない核燃料物質として主務大臣の定めるもの
…………[⑮]型輸送物

(b) 主務大臣の定める量を超えない[⑫放射能]を有する核燃料物質等
…………A型輸送物

(c) 主務大臣の定める量を超える[⑫放射能]を有する核燃料物質等
…………[④]型輸送物
なお,[④]型輸送物のうち,[⑯BM]型輸送物は国際輸送において関係する全ての国の承認が必要となる輸送物である。

(d) 放射能濃度が低い核燃料物質等であって危険性が少ないもの(「[⑰低比放射性物質]」という。)及び 核燃料物質等によって表面が汚染された物であって危険性が少ないもの(「表面汚染物」という。)は, 主務大臣の定める区分に応じ,[⑱IP]型輸送物として運搬することができる。

【輸送時の放射線被ばく及び臨界安全性の管理】

従来,輸送物等(オーパーバック,貨物コンテナ,非梱包のLSA-1, SCO-1を含む)について, 臨界安全性及び輸送中の放射線被ばくの両方を管理する指数として[⑲輸送指数]が用いられていたが, IAEA安全輸送規則の改訂に伴い,平成13年の「核燃料物質等の工場又は事業所の外における運搬に関する規則」等の改正において, 核分裂性物質を含む輸送物等の集積の臨界安全性を管理するために[⑳臨界安全指数]が新たに定義され, 放射線被ばくの管理に用いられる指数は,従来の呼称である[⑲輸送指数]として再定義されている。

備考

  • 法律第59条の2
  • 外運搬規則第11条の2
  • 外運搬規則第11条の2
  • 外運搬規則第3条
  • 放射性物質安全輸送規則

newclears注: ④は、⑯が「BM」で正しいとすると、「BU」ではなく「B」が正答の可能性が高い。
⑤は自信がないが、⑥が「六フッ化ウラン」で正しいとすると、同じく六フッ化ウランでは誤りで、 別のくくりの輸送物の方が適切と思われる。そこで、核分裂性輸送物が候補になる。 その場合、核分裂性輸送物といえば特に臨界管理が必要になるから、⑪は「負圧」ではなく「未臨界性」が適切だと考えられる。 参考画像(出典:原子力規制委員会/輸送物の分類と運搬物確認対象範囲

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輸送物の分類及び具体例

出典

谷内 茂康; 佐藤 忠; 須賀 新一; 小室 雄一; 内田 正明; 中島 邦久; 中村 仁一; 雨澤 博男; 大村 英昭; 湊 和生; 武田 常夫; 櫛田 浩平; 傍島 眞 核燃料取扱主任者試験問題・解答例集,1999~2003年, JAERI-Review 2003-025,https://doi.org/10.11484/jaeri-review-2003-025

第35回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第35回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第1問

次の問に答えよ。

(1) アクチノイド元素とランタノイド元素の化学的性質の相違点について簡単に説明せよ。

解答例。
アクチノイド元素は、6dと5f電子軌道のエネルギー準位の差が非常に小さく、 この点がランタノイド元素の4f電子軌道と大きく異なっている。 このため、ランタノイド元素の場合水溶液中での主な酸化が3価であるのに対して、 アクチノイド元素、特に軽アクチノイド元素は様々な価数をとる。
ウランは3価、4価、6価、ネプツニウムは4価、5価、6価、プルトニウムは3価、4価、5価、6価の酸化状態を示す。 3価の他に、4価の酸化状態を示すセリウム、2価の酸化状態を示す、サマリウムユーロピウムイッテルビウムと取りうる酸化状態が大いに異なる。

Ln。「ランドセルにプリンなど、午後のサマーに優雅で、旅路でホエールを釣りに行ってるって」 La, Ce, Pr, Nd, Pm, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Lu。
An。「灰汁取りパスタが売らんナポリのプルッとアメリカできゅうりをバクリと狩り、愛してる不満でノーロール」 Ac, Th, Pa, U, Np, Pu, Am, Cm, Bk, Cf, Es, Fm, Md, No, Lr。

(2) トリウム,ウラン,プルトニウムの空気に接触した硝酸水溶液中における酸化状態をそれぞれ示せ。

解答例。
トリウム4価,ウラン6価,プルトニウム4価、6価

(3) プルトニウム金属の融点は640℃と比較的低く,室温から融点まで5回相変化するなどの特徴をもつ。この原因を簡単に説明せよ。

解答例。
この原因については理論計算に基づき以下のような考え方も提案されている。 トリウムからプルトニウムにかけてのアクチノイド軽元素では、5f電子が重なり合って狭い伝導バンドを形成する。 このような狭い伝導バンドを持つ物質は、伝導バンドをスプリットさせることで結晶の全エネルギーを低下させる傾向がある。 軽アクチノイド元素においては、伝導バンド内でスプリットした5f電子エネルギー準位が内殻のs, p, d電子のエネルギー準位とも重なり合うので、 軽アクチノイド元素の伝導バンド内では多数の電子エネルギー準位が非常に近接して存在しているものと考えられる。 結晶の相状態を決定する一つの因子として、(価)電子の存在する最高エネルギー準位(いわゆるフェルミ準位)が考えられており、 軽アクチノイド元素においては伝導バンド内でフェルミ準位が位置する電子エネルギー準位(の数)に応じて結晶の相構造が複雑に変化すると考えられる。 プルトニウムは特に電子エネルギー準位が複雑になっているために5回の相変態と低融点を有していると思われる。

(4) UF6よりUO2への転換方法の一つにADUプロセスがある。 これはUF6を水溶液に溶解後アンモニア水を加え,ADUの沈殿物を作り, ろ過後,ばい焼してU3O8の粉末を作り, 次に,水素により還元してUO2の粉末にするものである。 これらについて,化学反応式を示せ。

解答例。

  • UF6 + 2 H2O → UO2F2 + 4 HF
  • 2 UO2F2 + 6 NH4OH → (NH4)2U2O7 + 4 NH4F + 3 H2O
  • 3 (NH4)2U2O7 + 1/2 O2 → 2 U3O8 + 3 N2 + 6 H2O
  • U3O8 + 2 H2 → 3 UO2 + 2 H2O

(5) 軽水炉において核分裂生成物の燃料中での存在状態は,酸化物等の化合物の作りやすさ,蒸発しやすさ等によって決まる。 Nd,Pd,Iの燃料中における存在状態をそれぞれ述べよ。

解答例。
Nd:Nd2O3
Pd:Pd(合金)。
I:CsI

第2問

核燃料の使用中での破損防止に関する次の問に答えよ。

(1) 核燃料を原子力発電所で使用するとき,様々な原因により燃料が破損する可能性があり,それを防ぐための対策がとられている。 次の破損について簡単に説明するとともに,その破損を防ぐためにとられている対策について,説明せよ。

① サンバースト破損。
PCI破損。
③ フレッティング破損。

解答例。
① サンバースト破損。
燃料棒の製造段階で、燃料棒内に湿分が混入していると、照射時に水分が被覆管内表面と局部的に反応して ジルコニウム水素化物を形成するが、この水素化物は非常に脆く、また水素化物形成によって体積が増加すること等により、 被覆管が破損することがある。この破損を水分破損、または、水素化物の形状が日の出に似ているのでサンバースト破損という。 この破損の防止策としては、ペレット密度を上げて吸蔵水分を低減すること、被覆管にペレットを充填するとき乾燥を十分に行うこと、 水分と反応し易いジルコニウム合金をゲッターとして燃料棒上部のプレナム部に封入することなどの対策が採られており、 現在はほとんどこの種の破損は起こっていない。

PCI破損。
燃料の燃焼度が10 MWd/kgU程度以上の腐食性のFPが蓄積した状態で燃料棒の出力を上昇させると、 強いペレット-被覆管力学的相互作用(PCMI※)が発生する。 その結果、腐食性物質などの作用により被覆管の脆性割れが発生し、燃料棒が破損する場合がありこれをPCI破損という。 この破損機構は、ヨウ素等による被覆管の応力腐食割れ(SCC)であると考えられている。 PCI破損の防止対策として、燃料の改良(燃料棒の細径化による線出力の低減、 チャンファあるいはディッシュなどのペレット形状の改良、ジルコニウムライナー付き被覆管の採用など) と原子炉運転手順の改良(ならし運転)などが実施された。

※newclears注: ペレット-被覆機械的相互作用、 PCMI、 Pellet-Clad Mechanical Interaction。
ペレット-被覆化学的相互作用、 PCCI、 Pellet-Clad Chemical Interaction。
単に「PCI破損」と言ったときは、機械的相互作用に限定していないはずなので、 あえてPCMIだけを取り上げるのはあまり適切な解答ではないように思われる。

③ フレッティング破損。
燃料ピンが振動してグリッド等と接触を繰り返し、磨耗破損する。 グリッドを改良してピンの磨耗を軽減する、また水流がピンを振動させなよう設計する、異物の混入を防ぐ等の対策をとる。 (以下、atomicaより) 機械的な振動により金属同士がこすれて、一方がえぐれる現象をフレッティング(擦過)という。 これに腐食が重畳したものをフレッティング腐食(擦過腐食)という。 燃料棒とフレッティングを起こす相手は、他の燃料棒、異物(デブリ)等であり、異物フレッティングが燃料破損の主な原因の一つになっている。 この場合の異物は、主に機器補修の際に1次冷却材に持ち込まれた小さな金属異物であり、燃料集合体最下部の支持格子に捕獲され、 ここでフレッティングを起こす。このため、異物混入の防止や下部タイプレートの形状改良等の対策を行っている。 ワイヤーによるフレッティングとしては、1960年代後半の西ドイツKRB炉の初期運転で生じた被覆管の損傷が代表的な例である。 この炉の「気水分離器」では湿分除去のためにワイヤー網が使われ、その一部が欠損して燃料集合体中に侵入し、被覆管を機械的に傷つけてしまった。 また、被覆管とスペーサーとの間で、フレッティングが生じる可能性があるが、これはスペーサーの接触圧に依存する。 現在のBWR集合体では適切な接触圧が設定されており、これによる問題は発生していない。

(2) 高燃焼度化に伴う燃料の破損を防止するためにとられている対策を説明せよ。

解答例。
高燃焼度化に伴う燃料の破損としては、PCI破損、水側腐食による破損等がある。 高燃焼度では、クリープダウンにより、ギャップが閉じるとともに、スエリングやボンディングが生じて、PCIが大きくなる。 このPCI破損を防ぐため、半径方向にc軸を集積させた集合組織調整管が採用されている。 また、結晶粒界までの距離を大きくするとともに、流界に滑りやすい物質を析出させるペレットの改良も行われている。 水側腐食については、冷却水温度が高いPWR燃料で腐食破損を起こす可能性があり、新被覆管材料の開発が行われている。

第3問

以下のU-O系の状態図から次の(1)~(3)の組成を持つ化合物の場合について, それぞれ500℃から3000℃までゆっくりと平衡状態を保ちながら昇温させた時の相変化を, 存在する相と相変化をする転移温度の概数値を用いて簡単に説明せよ。

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U-O系の状態図

(1) O/U原子比 = 1.60
(2) O/U原子比 = 2.00
(3) O/U原子比 = 2.10

解答例 (1) O/U原子比 = 1.60

500~670℃ UO2+α-U
670~780℃ UO2+β-U
780~1110℃ UO2+γ-U
1110~2440℃ UO2-x+Uliq.
2440~2600℃ UO2-x+U2-x-y liq.
2600~3000℃ UO1.6 liq.

(2) O/U原子比 = 2.00

500~2880℃ UO2
2880~3000℃ UO2 liq.

(3) O/U原子比 = 2.10

500~550℃ UO2+U4O9-y
550~2750℃ UO2.1
2750~2860℃ UO2+x+U2+x+y liq.
2860~3000℃ UO2.1 liq.

第4問

軽水炉用燃料として使用されているUO2燃料のO/U原子比は,温度,酸素雰囲気等によって2.00からずれる。 このO/U原子比の変化は,UO2燃料の種々の物性に影響を与えることがわかっている。 次の(1)~(5)の物性について,500-1500℃の温度範囲でO/U原子比が2.00より大きくなるとどのように変わるか,その理由を付けて簡単に説明せよ。

(1) UO2燃料の熱伝導率
(2) UO2燃料の酸素の拡散係数
(3) UO2燃料中のウランの拡散係数
(4) UO2燃料中の核分裂生成ガス(Xe, Kr等)の拡散係数
(5) UO2燃料のクリープ速度

解答例

(1) UO2燃料の熱伝導率。
O/U比が増加すると過剰酸素がフォノン伝導に対する不純物散乱中心としてはたらくため、熱伝導率は急激に減少する。

(2) UO2燃料中の酸素の拡散係数。
酸素の拡散は格子間酸素を介して起こるためO/U比が増加するにつれて酸素の格子間酸素が増加し拡散係数は著しく増加する。

(3) UO2燃料中のウランの拡散係数。
ウランの拡散はウランの空格子を介して起こると考えられるが、O/U比が増加するにつれてウランの空格子も増加し、酸素の拡散係数は増加する。

(4) UO2燃料中の核分裂生成ガス(Xe, Kr等)の拡散係数。
Xe, Kr等のFPガスは、空孔クラスターを介してUO2中を拡散する。 定比組成からのわずかなずれが大きな拡散係数の増大をもたらすが、不定比組成では、拡散係数は組成にあまり大きな影響を受けない。

(5) UO2燃料のクリープ速度。
O/U比が増大するとU空格子点が増大し、U原子の拡散が促進されるため、クリープ速度は増大する。

第5問

核燃料に関連して,次の事項を簡単に説明せよ。

(1) クリープダウン。
(2) ギャップ熱伝達率。
(3) 窒化物燃料。
(4) リム効果。
(5) ガドリニア入り燃料。

解答例

(1) クリープダウン。
被覆管が照射中に、燃料棒の内外圧差により、ペレットとのギャップを埋めるように直径が減少していくクリープ変形をクリープダウンという。 この変形により、ペレットと被覆管のギャップ熱伝達が変化し、また、ペレットと被覆管の接触により力学的相互作用(PCMI)が生じる等燃料挙動に影響を与える。

(2) ギャップ熱伝達率。
被覆管内面とペレット表面間のギャップでの熱伝達率をギャップ熱伝達率(ギャップコンダクタンス)という。 熱伝達の機構としては、ガス熱伝導が支配的であるが、ペレットと被覆管が接触する場合は、さらに固体の接触熱伝達が追加される。 しかし、ボンディングをおこした場合は、固相を通しての直接的な熱伝導となる。 照射を受けたペレットにおいて、核分裂性ガス等が燃料棒内のギャップ等の空間に放出されると製造時に封入されたヘリウムガスと混合し、 この結果、ギャップ熱伝達率は低下し、ペレット温度が上昇する。

(3) 窒化物燃料。
ウラン、プルトニウムアメリシウム等の窒化物はNaCl構造を持ち金属的性質を示す。 従って、電気伝導度、熱伝導度が良く、燃料ペレットの中心温度を低く保つことが出来る。 また、重金属密度が高く高速炉燃料として優れている。 電気伝導度が良いことは、高温化学法における再処理に電解溶解法が使える等の利点がある。 しかし、窒素14からの炭素14の生成が問題であり、窒素15濃縮同位体を使用する必要があり、コスト面で不利である。

(4) リム効果。
軽水炉燃料で燃焼度が進むと燃料ペレット周辺部(リム部)に燃焼度とポロシティ率の高い領域が出現する現象をリム効果と呼ぶ。 これは、U-238の共鳴吸収によりプルトニウムが蓄積し、局所的に燃焼度が高くなるためであり、 組織変化としては、UO2結晶が細粒化して、高圧のFPガスを含む粗大化した気泡を取り囲み高いポロシティ率を持つリム組織が生じる。 リム組織は、ポーラスな構造から熱伝導率が小さいと推定され、また多量のFPガスを含むため、 その熱特性やFPガス放出挙動が高燃焼度燃料挙動に大きな影響を与える可能性があり、注目されている。

(5) ガドリニア入り燃料。
U-235の燃焼に伴う反応度変化を小さく抑えるために、バーナブルポイズン(可燃性吸収体) として熱中性子吸収断面積の大きいガドリニウムの酸化物(ガドリニア)を添加した燃料が用いられており、 これにより燃料集合体の運転初期の余剰反応度を調整している。 ガドリニア入り燃料は、熱伝導率がUO2燃料に比べて小さいため、U-235の濃縮度を低くする設計がなされている。

出典

谷内 茂康; 佐藤 忠; 須賀 新一; 小室 雄一; 内田 正明; 中島 邦久; 中村 仁一; 雨澤 博男; 大村 英昭; 湊 和生; 武田 常夫; 櫛田 浩平; 傍島 眞 核燃料取扱主任者試験問題・解答例集,1999~2003年, JAERI-Review 2003-025,https://doi.org/10.11484/jaeri-review-2003-025

第35回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の取扱いに関する技術

第35回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の取扱いに関する技術

第1問

核燃料施設における核燃料物質の取扱いに関し,以下の問に答えよ。

(1) 次の文章の空欄にあてはまる適切な語句を番号とともに記せ。

「核燃料施設における単一ユニットは,技術的にみて想定されるいかなる場合でも, 単一ユニットの形状寸法,質量,[①容積],[②溶液濃度]の制限及び[③中性子吸収材の使用]等並びにこれらの組み合わせによって核的に制限することにより 臨界を防止する対策が講じられていることが要求されている。

核燃料施設における複数ユニットの配列については,技術的にみて想定されるいかなる場合でも, [④ユニット相互間における間隔の維持],[⑤ユニット相互間における中性子遮蔽材の使用]等により臨界を防止する対策が講じられていることが要求されている。」

解説:「ウラン加工施設安全審査指針」の指針10及び指針11からの出題である。

(2) 質量管理を行っている単一ユニット間の核燃料物質の移動に関して,臨界防止のために講ずべき措置について説明せよ。

解答例
[1] 誤搬送の防止:信頼性の高いインターロック、ダブルチェック、収納した容器の識別番号の管理、搬送経路の限定。
[2] 在庫量、異動量の確認:秤量値の信頼性確保、秤量器定期的校正、秤量データのクロスチェック。
[3] 核的制限値の設定条件を満足することの確認:臨界管理条件の確認(減速条件の異なるユニット間の移動の場合)。
[4] 移動時の相互干渉の防止:バードケージの使用。
上記4項目が必要、他に、二重装荷の防止(安全係数との関係)や臨界管理チェックフローを記述しても可。

(3) ウラン加工施設の耐震重要度分類について,次の文章の空欄にあてはまる適切な語句を番号とともに記せ。(なお,同じ番号の空欄には同じ語句が入る。)

「第1類の設備・機器とは,[①非密封ウラン]を取り扱う設備・機器及び[①非密封ウラン]を[②閉じ込める]ための設備・機器 並びに[③臨界安全上の核的制限値]を有する設備・機器及び[③臨界安全上の核的制限値]を維持するための設備・機器であって,その機能を失うことによる影響,効果の大きいもの。

第2類の設備・機器とは[①非密封ウラン]を取り扱う設備・機器及び[①非密封ウラン]を[②閉じ込める]ための設備・機器 並びに[③臨界安全上の核的制限値]を有する設備・機器及び[③臨界安全上の核的制限値]を維持するための設備・機器であって,その機能を失うことによる,影響,効果の小さいもの 及び[④化学的制限値]又は[⑤熱的制限値]を有する設備・機器。」

参考文献:「ウラン加工施設安全審査指針」の指針13

(4) ウラン加工施設において,停電等の外部電源系の機能喪失時にも,十分な容量及び信頼性のある非常用電源系を有することにより, 作動できるようにする必要のある設備を挙げよ。

解答例
1. 第1種管理区域の排気設備、
2. 放射線監視設備、
3. 火災、臨界等の警報設備、緊急通信・連絡設備、非常用照明灯等、安全上必要な設備・機器。
参考文献:「ウラン加工施設安全審査指針」の指針16

(5) MOX燃料製造では,ウラン燃料と異なり,プルトニウム及びその娘核種に起因する発熱の燃料製造への影響を考慮する必要がある。
① 発熱源として支配的なプルトニウム同位体を1つ挙げよ。

解答例、 Pu-238。

MOX粉末を空気雰囲気中で取扱いや保管をする場合,発熱によるMOX燃料製造への影響について説明し, 併せて発熱の影響を軽減するための対応策について説明せよ。

解答例、
MOX粉末は熱伝導率が低いため多量のMOX粉末を扱う場合には、保管容器中で局所的な温度上昇をもたらし、空気に曝されている原料粉末は酸化する。 したがって、同一ロットの粉末組成の均一性に問題が生じ、計量データの信頼性に影響する恐れがある。 また、局所的な温度上昇は、ポアフォーマの溶融や分解、バインダー、潤滑剤の分解といったことが起こり、 成型不良や焼結密度においてばらつきが生じ、ペレットの均一性に影響する。
対応策としては、放熱性能の良い保管容器(材質、構造)の採用や貯蔵設備の冷却能力の強化、あるいは取扱量を制限して局所的な温度上昇を抑える。 また、耐熱性のある添加剤を使用することでペレットの均一性を改善する。

第2問

核燃料加工施設における閉じ込め及びしゃへいに関して,以下の問に答えよ。

(1) ウラン加工施設の管理区域は,第1種管理区域と第2種管理区域に区分されるが, 第1種管理区域について説明し,併せて当該区域に対して周辺環境の汚染防止のために講ずべき措置について説明せよ。

解答例

ウラン加工施設の管理区域は、ウランを密封して取扱い又は、貯蔵し、汚染の発生するおそれのない区域(第2種管理区域)と そうでない区域(第1種管理区域)とに区分して管理されている。 したがって、第1種管理区域では空気または物の表面がウランで汚染する恐れがある。
周辺環境への汚染防止には、第1種管理区域は漏洩の少ない構造とするとともに、 当該区域の外から当該区域に向かって空気が流れるように給排気のバランスをとる。 また、汚染の恐れのある空気を排気する系統には、周辺環境の汚染を合理的に達成できる限り少なくするため、 高性能エアフィルタ等適切なウラン除去設備を設けること。 事故時においてウランの飛散のおそれのある部屋は漏洩の少ない構造であること。

参考文献:「ウラン加工施設安全審査指針」の指針4

(2) ウラン加工施設における六フッ化ウランの取扱いに関して,六フッ化ウランを収納したシリンダーから工程へ供給する際の環境への漏洩防止, 及び作業者の安全上注意すべき点について,六フッ化ウランの物理的,化学的性質と併せて説明せよ。

解答例

UF6は、常温・常圧下では無色透明の固体であるが、低圧にしたり温度を高めると容易に気化し、高温・高圧化では液体となる。 UF6は、三重点(64℃、1138 mmHg)以上の温度と圧力下で液化し、UF6シリンダーに充填されてウラン濃縮工場に出荷される。
UF6シリンダーなどの容器に充填されたUF6を加熱液化する場合には35%程度の体積膨張があるので 液圧破裂を避けるためには、過充填を避けるように注意する。
UF6は液化してUF6シリンダーに充填されるが、シリンダー運搬時にはシリンダー内のUF6は固体となっており、 重心位置が空シリンダーと大きくズレている場合が多いので、転倒防止に注意する。
UF6は、水とは烈しく反応する。このとき

UF6+2H2O→UO2F2+4HF

の反応によって有害なフッ化水素を発生するので取り扱いには注意する。
ガラスに対しては、水分が存在すれば次の反応によって

UF6+2H2O→UO2F2+4HF
SiO2+4HF→SiF4+2H2O

SiF4UO2F2が生成する。 また、UF6は金属と反応してUF4を生成するが、純金属ではAl, Ni, Cuなどが比較的耐食性が高い。 通常の有機溶媒に対して激しく反応し、また、通常のゴムは気体UF6によって火を発して作用する場合があるので パッキングとしてはフッ素樹脂系あるいは金属系のものが用いられる。

参考文献:「燃料サイクル フロントエンドI ウラン資源・ウラン精錬およびウラン濃縮 教育資料1 PNC TN8420 91-009」p.26、27

(3) MOX燃料加工施設において,MOXを取り扱う設備・機器を収納するグローブボックスを常時負圧に維持するために講ずべき措置について説明せよ。

解答例

グローブボックス負圧機器、
[1]グローブボックス自体の気密性、HEPAフィルタの性能(給気系、排気系)
[2]専用の排気系(ダクト、排風機)の設置、給気と排気のバランス、
[3]負圧維持のための排風機の多重化(故障により停止した場合に自動切り替え)、
[4]排風機電源の多重化、
[5]負圧警報設備の設置、点検、
[6]フィルタ目詰まりによる排気風量の低下に伴う負圧低下、フィルタ前後圧の監視、フィルタ交換。

(4) MOX燃料加工施設において,作業環境の汚染及びその拡大を防止するために, 作業者がMOXを取り扱うグローブボックスでのグローブ作業中及び作業終了後に行うべき事項について説明せよ。

解答例

作業中
1. グローブ操作中、グローブから手を引き抜くときは、負圧計の指示値を確認しながら負圧が急激に上がらないようゆっくり行う。
2. グローブを損傷させないよう、突起物及び無理な力が加わらないように注意する。
3. グローブを損傷する恐れがあるような作業を行う場合には、保護具を着けたり、養生をする。
4. グローブから手を引く抜いた際、αサーベイメータで腕部を入念に検査し、汚染のないことを確認する。
5. 汚染が確認された場合、そのレベルによらず汚染源を特定し、除染を行う。

作業終了後
1. グローブボックス内の機器及び物品が、安全な状態及び整理整頓されていることを確認する。
2. グローブ等に汚染または損傷がないことを確認する。
3. グローブボックスの表面及びその周辺の床に汚染がないことを確認する。
4. グローブボックス負圧計の指示値が、所定の範囲内であることを確認する。
5. 工程室から退出する際、各室の出入り口にてαサーベイメータにて全身や靴底を検査し、汚染のないことを確認する。

(5) 核燃料施設の被ばく管理について,次の文章の空欄にあてはまる適切な語句を番号とともに記せ。(なお,同じ番号の空欄には同じ語句が入る。)

「使用済燃料の再処理により回収されたプルトニウムは,長期間保管する場合には,核分裂性核種である[①Pu-241]の壊変(半減期約14年)により, プルトニウム燃料としての価値の減損が起こる。
プルトニウム取扱い作業においては,[①Pu-241]を親核種として,[②β]壊変により生成される[③Am-241]の壊変に伴うγ線, 及び比率は低いものの[④α]壊変により生成される[⑤U-237]の壊変に伴うγ線に対するしゃへい対策が必要である。
プルトニウムから放出される中性子としては,[⑥自発核分裂]によるものと,共存する酸素などの軽元素との[⑦(α、n)反応]によるものがある。」

参考文献:清瀬量平訳、「使用済燃料とプルトニウムの化学工学」、p.75-81、p.112-118、日刊工業新聞社(1984)

第3問

ウラン加工施設における火災・爆発対策に関して,以下の問に答えよ。

(1) 文章中の空欄にあてはまる適切な語句を番号とともに記せ。(なお,同じ番号の空欄には同じ語句が入る。)

ウラン加工施設の建家は,建築基準法等関連法令で定める[①耐火構造]又は[②不燃性材料]で造られたものである。 また,設備・機器は実用上可能な限り[②不燃性材料]又は[③難燃性材料]を使用する設計であることが求められる。
施設において[④有機溶媒など可燃性]の物質又は[⑤水素ガスなど爆発性]の物質を使用する設備・機器は火災・爆発の発生を防止するため, [⑥発火・温度上昇の防止対策],[⑦水素ガス漏洩],[⑧空気の混入防止対策]等適切な対策を講じなければならない。
万一火災・爆発が発生した場合にも,その拡大を防止するための適切な[⑨検知、警報設備]及び[⑩消火設備]等が設けられているとともに, 汚染が発生した部屋以外に著しく拡大しないよう適切な対策を講じなければならない。

(2) 火災・爆発を防止するための対策について,具体例を3つ挙げよ。

解答例

  1. 難燃性溶剤の使用、
  2. 爆発限界以下のガス使用、
  3. 使用温度の限定と加熱源遮断、
  4. 最小限の可燃物。

(3) 火災・爆発の拡大を防止するための対策について,具体例を2つ挙げよ。

解答例

  1. 各種消火器の設置、
  2. 隔壁などの設置。

第4問

核燃料物質の取扱いに関して述べた以下の文章の下線部には誤った記述がある。 誤りの理由又は根拠を簡単に述べ,下線部を正しいものに直せ。

〔解答例〕
問題(11) 鉄の安定な酸化物はFe2O3だけである。
解答(11) 鉄は2価と3価の酸化状態を取りうるため,安定な酸化物としてはFeOやFe3O4などが知られている。 従って正しくは、Fe2O3の他にFeO, Fe3O4などがある。

(1) 採鉱されたばかりの天然ウランは放射平衡に達しており,比放射能から考えるとU-235及びその娘核種による放射線に留意したしゃへいを行う。

解答例、
U-238系列の比放射能は1.2×1010 Bq/ton、U-235系列は0.056×1010 Bq/tonであり、約22倍U-238系列のものが大きい。 従って正しくは、U-238及びその娘核種による放射線に留意したしゃへいを行う必要がある。 参考文献:清瀬量平訳、「核燃料・材料の化学工学」、p.77-80、日刊工業新聞社(1984)

(2) プルトニウムから放出される中性子線は,そのエネルギーが比較的低いため炭化ホウ素などの吸収材だけで容易にしゃへいできる。

解答例、
自発核分裂や軽元素との(α、n)反応により発生する中性子は数MeVのエネルギーを有するため、 パラフィンや水などで減速しなければ、中性子吸収材でしゃへいができない。 従って正しくは、エネルギーが高いため水、パラフィンなどで減速した後、炭化ホウ素などの吸収材でしゃへいを行う。

(3) 金属ウランの切削くずは空気中に放置すると自然酸化から燃焼にいたるため,水中に保管する。

解答例、 金属ウランは水と徐々に反応して水素を発生し、爆発の危険性が高い。従って正しくは、難燃性の油中に保管する。

(4) 低濃縮二酸化ウランペレット焼結工程で火災が発生した場合,放水により消火を行う。

解答例、
多量の低濃縮ウランに放水すると臨界のおそれが生ずる。従って正しくは、粉末消化器などの金属火災対応消火器で消火を行う。

(5) 粉末状の酸化ウランは,フードや局所排気が可能なカバーを設けた機器・設備内で取り扱う。 汚染空気の逆流を防止するため,フードに流入する風速は0.1 m/s以上とする。

解答例、
フード開口部の風速は0.5 m/s以上で運用されている。 また、速すぎる風速では粉末状ウランの飛散が大きくなるためダンパーの使用などで適度の風速とする必要がある。 従って正しくは、0.5 m/s程度とする。

(6) 使用済燃料を再処理して得られる回収ウランは,精製した天然ウラン取扱設備と同様なしゃへいを備えた設備で取り扱える。

解答例、
回収ウランには微量ではあるがFPや超ウラン元素が含まれているため、γ線線量が高い。 従って正しくは、天然ウラン取扱設備よりも厳重なしゃへいを備えた設備が必要である。

(7) 濃縮ウランを溶液系で取り扱う設備・機器の臨界防止対策において,まず考慮すべきは質量制限による管理である。

解答例、
指針では、可能な限り形状・寸法制限を行い、この適用が困難な場合、質量制限、濃度制限の他、 中性子吸収材の配置により臨界防止を行うこととなっている。 従って正しくは、まず考慮すべきは形状・寸法制限による管理である。

(8) 核燃料取扱施設内に設置した臨界モニタの3個の検出端のうち1つでも設定値を超えれば,臨界警報が発報する。

解答例、
検出装置の誤作動による誤報の発生の頻発を防ぐため、臨界モニタの3個の検出端のうち最低2つが設定値を超えれば、臨界警報が発報する。 参考文献:日本原子力学会誌、No.8、Vol.7、1975 臨界警報装置

(9) 六フッ化ウラン(UF6)を取り出した後の貯蔵容器は,放射線被ばくの観点からは無害である。

解答例、
貯蔵中にウランのα壊変により生成したThがThF4として容器内に残存し、これからの放射線が無視できない。 従って正しくは、貯蔵容器は有害である。取扱いに注意を要する。

(10) U-235の最小臨界質量は,Pu-239のそれよりも小さいためより厳重な臨界管理が必要である。

解答例、
たとえば水溶液系での最小臨界質量はU-235が0.82 kg(金属では22.8 kg)で、 Pu-239が0.50 kg(金属では5.6 kg)であるので、U-235のほうが1.6倍(金属では4倍)程大きい。 従って正しくは、U-235の最小臨界質量大きいため臨界管理は緩やかになる。

第5問

核燃料物質の取扱いに関して,次の事項を簡単に説明せよ。

(1) 多重防護の考え方、
(2) 使用済燃料輸送容器の臨界防止対策、
(3) 四因子公式、
(4) MOX燃料ペレットのプルトニウムスポット、
(5) 遠心分離法とガス拡散法。

解答例

(1) 多重防護の考え方、
事故に対して施設の安全性を確保し、一般公衆に著しい放射線被ばくのリスクを与えないための考え方。 多重防護は次の3段階からなっている。
第一段階として異常発生を防止するため、安全上余裕のある設計、誤操作や誤動作を防止する設計、自然災害に対処できる設計が採用されている。
第二段階として異常拡大を防止するため、異常を早く発見し、正常な状態にすぐに戻れるような設計がなされている。
第三段階として放射性物質の異常放出を防止するため、密閉空間を設け、負圧管理を行う。

解説:多重防護とは、一般に、原子力施設の安全対策を何段階にも構成して安全性を高めることを指す。 核燃料の取扱いに閑する多重防護の一例として、プルトニウムの利用における包蔵性管理が挙げられる。 詳細は、第31回問題(核燃料物質の取扱いに関する技術)の第5問の(5)の解答例を参照。 この他に、臨界安全の分野における「二重偶発の原則」も多重防護の一つと考えられる。 すなわち、核的制限値の維持・管理や核的に安全な配置の維持については、 起こるとは考えられない独立した二つ以上の異常が同時に起こらない限り、 臨界に達しないようにしなければならない。 すなわち、工程/設備の臨界管理を行う上で、第1の管理項目が何らかの異常で逸脱した場合においても、 第2の障壁により臨界となる事態を未然に防止する設計/管理がなされることが必要である。 参考文献:「特定のウラン加工施設のための安全審査指針」、指針10、指針11、解説

(2) 使用済燃料輸送容器の臨界防止対策、
容器内に収納できる燃料集合体の数の制限、燃料バスケットの格子間隔を十分に確保する。 格子間隔の調節だけで臨界安全が維持できなければ、容器内に収納できる燃料集合体の数を制限したり、 収納用バスケットに中性子吸収材(ボロン)入りステンレス鋼を採用する。 参考文献:「動力炉燃料・材料ガイドブック」、p.362、日本原子力産業会議(1998)

(3) 四因子公式、
原子炉において、核分裂中性子が発生してから減速し、それがまた核分裂を起こす過程で、 中性子がどのように増減するか、それを計算するのに最初に用いられたのが四因子公式である。 燃料と減速材を含む無限に大きい原子炉内で十分に熱中性子化された体系では、n個の中性子が発生し、 1世代の中性子寿命の時間が経つと、nεpfη個の中性子数になる。 この2つの数の比は無限増倍係数kと呼ばれ、k=εpfηと表現できる。 ここで、εは高速中性子核分裂効果、pは共鳴吸収を逃れる確率、fは熱中性子利用率、ηは再生率である。 参考文献:石森富太郎編、「原子炉工学講座1 原子核工学基礎」、p.44-45、培風館(1972)

newclears注: 上記は出典では文字化けしてしまっており正しく読み取れないので適当に修正している。
4因子公式... 無限大の体系における中性子増倍率を表す公式。 核分裂で生まれた中性子が再び核分裂を起こして次の中性子を生み出すまでを世代といい、 世代間の中性子の数の比を中性子増倍率と呼ぶ。 無限大の体系では中性子の漏れが無視できるので、中性子増倍率は以下に示す公式で表される。
k=εpfη
ここで、εはU-238による高速中性子核分裂効果(fast fission factor)、 pはU-238の共鳴吸収を逃れる確率(resonance escape probability)、 fは熱中性子利用率(燃料に吸収される熱中性子の割合;thermal utilization factor)、 ηは再生率(燃料が中性子1個を吸収したときに核分裂で生まれる次の世代の中性子の平均個数)であり、 これらの4つの因子の積で表されることから4因子公式と呼ばれる。 仮想的な無限大原子炉では、kが1のときに臨界、1を超えるときに臨界超過、1に満たないときに臨界未満となる。 現実の原子炉では必ず中性子の漏れがあるため、kが1を超えていなければ臨界にはなり得ない。 出典:atomica

(4) MOX燃料ペレットのプルトニウムスポット、
MOX燃料製造工程の説明:MOX粉末またはPuO2粉末とUO2粉末を混合し、MOX燃料ができる。 その際、混合が不十分であるとPuの富化度が高い部分が残る。これをプルトニウムスポットという。
・不均一性の問題(原子炉への影響):局所的な発熱が起こり燃料温度の上昇やペレット表面近くにある場合には、 部分的な被覆管温度上昇等の悪影響を及ぼす。また、FPガス放出が大きくなる問題に発展する。
・不均一性の問題(再処理への影響):ウラン酸化物とくらベプルトニウム酸化物は硝酸に溶け難いため 再処理時ペレットの難溶性につながる。 ・測定法:αオートラジオグラフィ、プルトニウムからのα線によるフィルム黒化度でPu濃度を測定
解説:PuO2UO2粉末の混合が不十分な場合には、 ペレット内にPuO2濃度の高い部分(プルトニウムスポット)が生じ、ペレット内のプルトニウム分布が不均ーになる。 この場合、プルトニウムスポットでの核分裂が選択的に進行するため、FPガス放出が大きくなる等の問題が生じる。
参考文献:「動力炉燃料・材料ガイドブック」、p.274、日本原子力産業会議(1998)

(5) 遠心分離法とガス拡散法、
・ウラン濃縮の方法:六フッ化ウランガスを使用。
・遠心分離法の原理と特徴:遠心分離器の回転道の外よりでは重成分、内よりでは軽成分の存在比が増加、 分離係数は分子量差と周速に依存、回転胴の高速化のために軽くて強い材料が必要、 回転胴の共振現象を避ける回転技術やバランシング技術が重要、遠心分離法のほうが濃縮効率は良い。
・ガス拡散法の原理と特徴:隔膜の細孔を通過するウラン同位体の速度の違いを利用、 低圧側にU-235がわずかに濃縮、最大分離係数は分子量比の平方根に逆比例、 分離能力の向上のためには隔膜の穴径を小さく、単位面積あたりの穴数を多く、高圧側の圧力を高くすることが必要。
・それぞれの方法の実績:遠心分離法については、1960年代頃から開発が始まり、英国、オランダ、ドイツ 3カ国で結成したURENCO社が、1990年現在、2500 tSWU/y規模のプラントを有している。 日本でも、1958年に理化学研究所で基礎研究が始められ、 1961年には、サイクル機構(当時、原子燃料公社)が引継ぎ研究開発が行われ200 tSWU/y規模の原型プラントが10年以上運転されてきた。 そして、現在は、サイクル機構から技術移管された日本原燃(株)が六ヶ所で1998年現在、約1050 tSWU/y規模のプラントを稼動させている。 ガス拡散法については、米国で1940年代前半から数千tSWU/y規模の工場の建設が始まり、 1990年現在では、米国の3工場(Oak Ridge, Paducah, Portsmouth)の総規模は27300 tSWU/yに達している。 そして、この3工場と仏国、イタリア、スペイン、ベルギー、イランの5カ国共同事業体EURODIFが所有している 10800 tSWU/y規模のガス拡散工場が、世界の濃縮ウランの大半(70%以上)を生産している。 参考文献:「燃料サイクルフロントエンドI ウラン資源・ウラン精錬およびウラン濃縮 教育資料1 PNC TN8420 91-009」p.56-79

出典

谷内 茂康; 佐藤 忠; 須賀 新一; 小室 雄一; 内田 正明; 中島 邦久; 中村 仁一; 雨澤 博男; 大村 英昭; 湊 和生; 武田 常夫; 櫛田 浩平; 傍島 眞 核燃料取扱主任者試験問題・解答例集,1999~2003年, JAERI-Review 2003-025,https://doi.org/10.11484/jaeri-review-2003-025

第34回 核燃料取扱主任者試験 放射線の測定及び放射線障害の防止に関する技術

第34回 核燃料取扱主任者試験 放射線の測定及び放射線障害の防止に関する技術

第1問

バイオアッセイ法による線量評価について下記の設問イの空白の部分に適切な語句,数値又は記号を番号とともに記せ。 また設問ロについては計算過程とともにその数値を示せ。

イ. Sr-90は最大エネルギー545 keVの[①β]線を100%放出する。 また,Sr-90の[②]核種であるY-90の[③半減期]は64.1時間であり,最大エネルギー[④2.279]MeVのβ線を100%放出する。 Sr-90を吸入摂取してから3日後に尿を採取して,Sr-90を[⑤発煙硝酸]分離した後,[⑥放射平衡]に達したY-90を[⑦共沈]分離して, Y-90の[⑧β]線を測定するため,放射能測定器として[⑨GM計数管]を用いて1日当たりの尿中のストロンチウム濃度を算定してから, [⑩摂取量]を求めて実効線量を算出する。

ロ. チタン酸ストロンチウムを吸入摂取した場合のSr-90核種における尿中の排泄量による評価において, Sr-90核種を吸入摂取3日後に尿分析した結果,1日当たり尿中のSr-90を44 Bq算出した場合の実効線量を評価せよ。
ただし,Sr-90の吸入摂取3日後に対する尿中放射能を示す排泄率を2.2×10-4とし,実効線量係数は7.7×10-5 (mSv/Bq)とする。

解答例

摂取量=44 Bq/(2.2×10-4)=2×105 Bq

実効線量=7.7×10-5 mSv/Bq ×2×105 Bq=15.4 mSv

第2問

ある原子炉内において,熱中性子束密度1.0×1014 cm2・s-1の照射場で 塩化コバルト(CoCl2)5.0 gの試料を連続168時間照射したとき, 照射直後に得られたCo-60試料0.10 gによって床汚染を生じさせた。 汚染した床面積を100 m2として,このときの表面密度(Bq/cm2)はどのくらいか。 計算過程を示して答えよ。
ただし,照射直後Co-60の放射能の生成は59Co(n,γ)60Co反応であり, 生成したCo-60の半減期は5.27年,放射化断面積は37バーン,原子量は58.9,Co-59同位体存在度は1とし,Clの原子量は35.5とする。 またCo-60で汚染した床面は均ーに汚染したとする。

解答例

試料中コバルト-59の初期の原子数をM0とする。 また、φ [cm-2 s-1]を熱中性子束密度、σ [cm2]を放射化断面積とする。 コバルト-60の時刻tにおける原子数をn(t)とすれば、


\frac{ dn(t) }{ dt }= \phi \sigma M _ 0 - \lambda n(t) ...... (1)

ここに、λ [s-1]はコバルト-60の壊変定数である。または、


\frac{ dn(t) }{ dt } + \lambda n(t) = M _ 0 \phi \sigma

この式を(例えば、n(t)=z(t)e-λtとおいてz(t)をはじめ求めるなどして)解くと、Cを積分定数として、


n(t) = \frac{ M _ 0 \phi \sigma }{ \lambda } + C e ^ {-\lambda t}

t=0のとき、n(t)=0であるから、


\frac{ M _ 0 \phi \sigma }{ \lambda } + C = 0
したがって、 
C = \frac{ -M _ 0 \phi \sigma }{ \lambda }

コバルト-60の原子数は、 
n(t) = \frac{ M _ 0 \phi \sigma }{ \lambda } ( 1 - e ^ {-\lambda t} )

コバルト-60の放射能A(t)[Bq]は、 
A(t) = \lambda n(t) = M _ 0 \phi \sigma (1 - e ^ {-\lambda t}) ...... (2)


M _ 0 = 5.0 \textrm{ g} \times \frac{58.9}{58.9+2\times 35.5} \times \frac{6.02 \times 10 ^ {23}}{58.9} = 2.32 \times 10 ^ {22} \textrm{ atoms}


\lambda = \frac{0.6931}{T} = \frac{0.6931}{5.27 \times 365 \times 24 \times 3600} = 4.17 \times 10 ^ {-9} \textrm{ s} ^ {-1}


\phi \sigma =
 1.0 \times 10 ^ {14} \textrm{ cm} ^ {-2} \textrm{ s} ^ {-1} \times 37 \times 10 ^ {-24} \textrm{ cm} ^ {2}
 = 3.7 \times 10 ^ {-9} \textrm{ s} ^ {-1}


t = 168 \textrm{ hours} = 6.05 \times 10 ^ {5} \textrm{ s}

汚染放射能A(t)は(2)に代入して計算すると 
A(t) = 2.32 \times 10 ^ {22} \times 3.7 \times 10 ^ {-9} \textrm{ s} ^ {-1} \times (1- \exp( -4.17 \times 10 ^ {-9} \times 6.05 \times 10 ^ {5} ) = 2.16 \times 10 ^ {11} \textrm{ Bq}

汚染物になった放射能は、 
\frac{0.10 \textrm{ g}}{5.0 \textrm{ g}} \times A(t) = 0.02\times2.16\times10 ^ {11} = 4.32 \times 10 ^ {9} \textrm{ Bq}

汚染物になったコバルト-60の表面密度は、 
\frac{ 4.32\times10 ^ {9}\textrm{ Bq} }{ 100\textrm{ m} ^ {2} \times 10000 \textrm{ cm} ^ {2} / \textrm{m} ^ {2} } = 4.32 \times 10 ^ {3} \textrm{ Bq/cm} ^ {2}

(答) 約4×103 Bq/cm2

別解(より厳密な解)

試料中コバルト-59の初期の原子数をM0とする。 また、コバルト-59の時刻tにおける原子数をm(t)とする。 
\frac{dm(t)}{dt} = -\phi \sigma m(t) ...... (1)

ここに、φ [cm-2s-1]は熱中性子束密度、σ [cm2]は放射化断面積とする。 (1)を解くと 
m(t) = M _ 0 e ^ {-\phi \sigma t} ...... (1')

コバルト-60の時刻tにおける原子数をn(t)とすれば、 
\frac{dn(t)}{dt}=\phi \sigma m(t) - \lambda n(t) ...... (2)

(2)に(1')を代入して、 
\frac{dn(t)}{dt} + \lambda n(t) = M _ 0 \phi \sigma e ^ {-\phi \sigma t}

ここに、λ [s-1]はコバルト-60の壊変定数である。 この式を(例えば、 n(t)=z(t)e ^ {-\lambda t}とおいて z(t)をはじめ求めるなどして)解くと、Cを積分定数として、 
n(t) = \frac{ M _ 0 \phi \sigma }{ \lambda - \phi \sigma } e ^ {-\phi \sigma t} + C e ^ {-\lambda t}

t=0のとき、n(t)=0であるから、 
\frac{ M _ 0 \phi \sigma }{ \lambda - \phi \sigma } + C = 0

したがって、 
C = - \frac{ M _ 0 \phi \sigma }{ \lambda - \phi \sigma }

コバルト-60の原子数は、 
n(t)=\frac{ M _ 0 \phi \sigma }{ \lambda - \phi \sigma } \large( e ^ {-\phi \sigma t} - e ^ {-\lambda t}  \large)

コバルト-60の放射能A(t) [Bq]は、 
A(t)=\lambda n(t)=\frac{ \lambda M _ 0 \phi \sigma }{ \lambda - \phi \sigma } \large( e ^ {-\phi \sigma t} - e ^ {-\lambda t}  \large) ...... (3)

M0,λ,φσ,tを(3)に代入して計算すると、汚染放射能A(t)=2.16×1011 [Bq]となり、 汚染物になった放射能は、0.10 g/5.0 g×A(t)=4.32×109 [Bq]、 汚染物になったコバルト-60の表面密度は、 
\frac{ 4.32 \times 10 ^ 9 \textrm{ Bq} }{ 100 \textrm{ m} ^ 2 \times 10000 \textrm{ cm} ^ 2 /\textrm{m} ^ 2  } = 4.32\times 10 ^ 3 \textrm{ Bq/cm} ^ 2

(答)約4×103 Bq/cm2

第3問

次の文章の空欄の部分に入る適切な語句,数値又は記号を番号とともに記せ。 なお,同じ番号の空欄には同じ数値又は記号が入る。

(1) 熱ルミネセンス線量計は,LiF, CaF2, CaSO4等の物質に放射線があたるとイオン化した[①電子]が格子欠落に捕捉され, これを解放するため[②]を加えると[③]を出すことを利用している。

(2) 液体シンチレーション計測装置では[④分解]時間は約0.1μ秒なので,計数効率10,000 cpmでは数え落としは問題がない。 しかしC-14やS-35の分別測定は[⑤β]線エネルギーが[⑥ほとんど等しい]ためむかない。

(3) プラスチックシンチレータは加工が容易であるが[⑦軽元素]のため[⑧光電]効果の確率が低いため,[⑨γ]線スペクトルにむかない。

(4) 中性子線が照射されると多くの物質は核反応により放射化する。 これは物質が中性子に対する[⑩散乱]及び[⑪捕獲]に依存するためで,中性子照射後に誘導された放射能を測定することができるので [⑫中性子]モニタとして利用される。

(5) GM計数管は円筒状の計数管の中にアルゴン等の[⑬不活性ガス]とハロゲン化合物又はアルコールの蒸気を封入し, 密封され中心に一本の[⑭]極,外側を[⑮]極として両極を約1,000ボルトの電圧を加える。 管内に放射線が入射すると,封入されているガスが[⑯電離]作用によって[⑰陽イオン]と[⑱電子]に分かれ, 負の電荷を持つ[⑱電子]は[⑭]極に移動しながら数が増し,[⑰陽イオン]は[⑮]極に移動し,瞬間的に大きな[⑲パルス]電流が流れるが, 放射線の種類や[⑳エネルギー]を判別することはできない。

第4問

次の文章中の空欄の部分に入る適当な語句又は数値を下欄から選び,番号とともに記号で記せ。

被ばく後比較的長い潜伏期間を経てから発症する障害を[①晩発障害]という。 これには放射線発がんや[②放射線誘発白内障]等が含まれる。 放射線発がんの潜伏期間は腫瘍の種類によって異なる。 固形腫瘍の潜伏期間は通常20年以上であるが,白血病のそれは[③約5年]である。 放射線発がんが発生する年齢は,その腫瘍が自然発生する年齢[④より早い]傾向を示す。 ヒトの放射線発がんに関する限られたデータに基づいて様々な年齢あるいは被ばく線量についてそのリスク評価を行うためには, [⑤過剰リスクモデル]を仮定することが必要である。 被ばく後,全年代に亘ってがんの自然発生率を一定因子で増加させると仮定しているのが[⑥相対リスクモデル]である。 現在入手可能なデータに基づいて科学的に放射線発がんのリスク評価を行っている国際的機関として, [⑦国連科学委員会(UNSCEAR)]と米国の国立科学アカデミーが設置した[⑧電離放射線生物効果に関する委員会(BEIR)]がある。 これらの分析に基づいて[⑨国際放射線防護委員会(ICRP]は放射線防護上,就業年齢集団の放射線発がんによる死亡率を低線量・低線量率被ばくの場合 シーベルトあたり[⑩0.04]と推定するよう示唆している。

第5問

次の放射線生物学的略語について簡単に説明せよ。

(1) RBE
(2) DRF
(3) OER
(4) SCE
(5) LD50(30)

解答例

(1) RBE
標準の放射線(200 kVpのX線、水中のLETが3 keV/μm、線量率0.1 Gy/min)による吸収線量に対する、 これと同一の生物学的効果を与えるのに必要なある種の放射線の吸収線量との比の逆数を生物学的効果比(RBE)という。 主として放射線生物学において放射線に対する感受性の違いを表現するのに用いられる。


\textrm{RBE}=\frac{(ある効果を与える標準放射線量)}{(同一効果を与える試験放射線量)}

(2) DRF
線量減少率(Dose Reduction Factor)は、放射線の障害を少なくする目的で投与される防護剤の効果を表す指標である。


\textrm{DRF}=\frac{(防護剤投与で、ある効果に対する必要線量)}{(防護剤なしで、ある効果に対する必要線量)}

(3) OER
酸素効果比(Oxygen Enhancement Ratio)は、放射線照射部位の酸素分圧の高低による組織または細胞の放射線感受性の差を表す指標である。


\textrm{OER}=\frac{(無酸素状態である生物学的効果を得るに要する線量)}{(空気中で同一の生物学的効果を得るに要する線量)}

(4) SCE
姉妹染色分体交換(Sister Chromatid Exchange)は、細胞分裂に際して、一本の染色体が複製によって二つの相同染色体になるとき、 同一箇所で切断し、相互に交換することをいう。放射線照射によっても生じる。

(5) LD50(30)
被ばくした個体の半数が一定期間(30日)内に死亡する線量を半致死線量LD50(30)と表す。

第34回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第34回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第1問

H He
Li Be B C N O F Ne
Na Mg Al Si P S Cl Ar
K Ca Sc Ti V Cr Mn Fe Co Ni Cu Zn Ga Ge As Se Br Kr
Rb Sr Y Zr Nb Mo Tc Ru Rh Pd Ag Cd In Sn Sb Te I Xe
Cs Ba Hf Ta W Re Os Ir Pt Au Hg Tl Pb Bi Po At Rn
Fr Ra Rf Ha

1. 上記周期律表中のイおよびロの位置の元素系列に関する以下の問いに答えよ。

(1) イに入る元素の系列を何というか。また,この元素系列に含まれる元素はいくつあるか。

解答例

ランタニド、15個

(newclears注: 周期表において、原子番号57のランタンから原子番号71のルテチウムまでの15元素 (La, Ce, Pr, Nd, Pm, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Lu)をランタノイドという。 ランタノイドとはランタンもどきを意味する造語であるため、ランタン自身を含んだ呼称としては本来は不適切で、 ランタンを含んだ場合はランタニド、除いた場合はランタノイドと呼び分けられたことがあった。 現在では区別することなく「ランタノイド」が推奨されている。出典:wikipedia

(2) イの元素系列に属する元素を3個選び元素名と元素記号で示せ。 また,この系列では原子番号の増加とともに,主としてどの軌道に電子が入るか。

解答例

ランタン (La)、セリウム (Ce)、ネオジム (Nd)、4f軌道

(3) イの元素の系列の中で,中性子吸収断面積が大きくポイズンの役目をする元素を2個あげよ。

解答例

ガドリニウム (Gd)、ジスプロシウム (Dy)

newclears注:下表によれば、サマリウム (Sm)やユーロピウム (Eu)も解答候補になると思われる。

表:ランタノイドの熱中性子(速度2200 m/sec)の吸収断面積 (出典:大友正一、更田豊治郎、熱中性子吸収断面積及び散乱断面積(表)、JAERI 6010、1962年、 ※はhttps://www.nist.gov/ncnr/neutron-scattering-lengths-listより。)

La 9.3 b
Ce 0.73 b
Pr 11.6 b
Nd 46 b
Pm ※168 b
Sm 5,600 b
Eu 4,300 b
Gd 46,000 b
Tb 46 b
Dy 950 b
Ho 65 b
Er 173 b
Tm 127 b
Yb 37 b
Lu 112 b

ポイズン poison 中性子をよく吸収して核分裂連鎖反応を弱め、原子炉の反応度を低下させるような中性子吸収断面積の大きい物質をいう。 出典:atomica

(4) ロに入る元素の系列を何というか。また,この元素系列に含まれる元素はいくつあるか。

アクチニド、15個

(newclears注: 周期表において、原子番号89のアクチニウムから原子番号103のローレンシウムまでの15元素 (Ac, Th, Pa, U, Np, Pu, Am, Cm, Bk, Cf, Es, Fm, Md, No, Lr)をアクチノイドという。 アクチノイドのうち、アクチニウムを除く、原子番号90から103までの14元素をアクチニドと呼ぶ。 出典:日本原子力研究開発機構 地層処分技術に関する研究開発 用語集 ※ランタノイドの項で引用した説明(oidはもどきを意味する)と矛盾する。 いずれにしても、現在は区別せず「アクチノイド」が推奨されている。)

(5) ロの元素系列に属する元素を3個選び元素名と元素記号で示せ。 また,この系列では原子番号の増加とともに,主としてどの軌道に電子が入るか。

トリウム (Th)、ウラン (U)、プルトニウム (Pu)、5f軌道

(6) ロの元素の系列の中で,マイナーアクチニド(MA)と言われている元素を3個あげよ。

ネプツニウム (Np)、アメリシウム (Am)、キュリウム (Cm)

(newclears注:アクチノイドのうち、存在量が突出しているウランと核燃料など用途が確立されたプルトニウムを、メジャーアクチノイドと呼ぶ。 アクチノイドに属する超ウラン元素のうちプルトニウムを除いたものをマイナーアクチノイドと呼ぶ。出典:wikipedia

2. 上記周期律表を利用して酸化物燃料中に生成する核分裂生成物(FP)の存在状態について以下の問いに答えよ。

(1) 気体状又は揮発性FPとして存在する代表的な元素をそれぞれ3個ずつ挙げよ。

解答例:Kr, Xe, I, Br

(2) 金属折出物を作るFPとして存在する代表的な元素をそれぞれ3個ずつ挙げよ。

解答例:Ru, Rh, Pd

第2問

軽水炉燃料の被覆管のPCI破損が問題になって以降,燃料ペレットおよび被覆管の高性能化さらには高燃焼度化を目的として, 国内外で成されてきている種々の試みについて説明せよ。

解答例

PCI破損対策、および高燃焼度化のための対策で最大のものは、燃料棒を細径化することであった。 これは、同じ炉心出力密度の条件下で、細径化することによって線出力密度を下げることができ、 燃料温度を下げることができるからである。この他、PCI破損がとくに問題となったBWR燃料では、 ジルコニウム・ライナー被覆管の採用、ペレット端面形状の変更などの対策がとられた。
高燃焼度化に関連しては、被覆管の腐食と水素吸収を抑制するための新合金の開発、 FPガス放出率の低減化のための大粒径ペレットの採用、等が試みられている。

第3問

Purex法再処理工場での元素の化学挙動に関する次の問に答えよ。

(1) FPはU+Puからどのような方法により分離されるのか,それぞれの元素の化学的性質より説明せよ。

解答例

大部分のFP、1価のアルカリ元素、2価のアルカリ土類元素、3価の希土類元素等は 3M硝酸溶液から30%TBPドデカン溶媒に抽出されず、6価のウラン、4価のプルトニウムは抽出されるので、 ウラン、プルトニウムから分離される。

(2) PuとUの分離はどのようにして行われるのか,それぞれの元素の化学的性質より説明せよ。

解答例

6価のウラン、4価のプルトニウムを含む30%TBPドデカン溶媒をウラン4価またはFe 2価あるいはヒドラジンを含む3M硝酸溶液と接触させると プルトニウムは3価に還元され、硝酸溶液に逆抽出される。 ウラン4価は一部のものがウラン6価に酸化されるが、どちらも30%TBPドデカン溶媒に抽出され、プルトニウムから分離される。

(3) Cmはこれらの分離プロセスにおいてどのような挙動をするのか,Cmの化学的性質より説明せよ。

解答例

Cmは、主として3価の原子価で存在し、(5価以上の原子価を取らず)TBPとあまり強い錯形成を行わないために、 TBPと強い錯形成を行うU,Pu,Np等との溶媒抽出による分離が可能である。

第4問

UO2,UCの熱伝導度の概略を横軸に温度をとって図示せよ。 また,UO2とUCの熱伝導度の異なる理由を説明せよ。

解答例

(概略図省略。 UO2は、室温付近で熱伝導率が10 W/mK程度で、温度上昇に対して熱伝導率は低下し、1000 K程度で5 W/mK程度、 2000 K程度まではほぼ一定で、それ以上ではわずかに増加し3000 K手前では7 m/K程度になる。 UCは、室温付近で22 W/mK程度、温度上昇に対して、800 K程度まではわずかに減少して20 W/mK程度、それ以上では増加に転じ 2600 K程度では24 W/mK程度になる。)

UO2はイオン結晶で、その熱伝導率は低温側では主にフォノン伝導であり1/(AT+B)の依存性で温度が上がるにつれて熱伝導率は低下する。 一方、2000 K以上では、電子の寄与が大きくなり増加する。

一方、UCは高い電気伝導度を持ち金属的な性質を示し、熱伝導は電子伝導が主である。 このため、UCの熱伝導度はUO2に比べて高温側でほぼ一桁大きい。 電子伝導は温度に対してほぼ一定であるため、UCの熱伝導度の温度依存性は小さい。

第5問

核燃料および被覆管に関連して,次の事項を簡単に説明せよ。

(1) 被覆粒子燃料
(2) ラドン
(3) 不定比性
(4) 金属燃料
(5) 照射硬化と照射脆化

解答例

(1) 被覆粒子燃料
高温ガス炉用に開発されてきた燃料で、微小球の燃料核(通常UO2)を熱分解炭素や炭化ケイ素で多重に被覆したものである。

(2) ラドン
ラジウムの娘核種で気体元素である。アルファ放射性をもつ。

(3) 不定比性
無機化合物で構成元素のモル比が簡単な整数比にならない現象をいう。 一般にセラミックス燃料は高温で不定比性を示すが、これは格子欠陥濃度が増すためで、 格子欠陥に関連した物性値は不定比性によって変化する。

(4) 金属燃料
ウラン単体,U-Pu合金または、金属を加えた合金を用いた燃料。 原子力の初期には、動力炉でも使われたが化学反応性、寸法安定性などの問題から、現在では一部の研究炉でウラン・アルミ合金燃料等が使われている。 また、高速増殖炉燃料として、U-Pu-Zr合金の研究も実施されている。

(5) 照射硬化と照射脆化
一般に材料は中性子照射を受けることによって、強度が増す。これを照射硬化という。 同時に破断に至るまでの伸び量が減少する。これを照射脆化という。

出典

谷内 茂康; 佐藤 忠; 須賀 新一; 小室 雄一; 内田 正明; 中島 邦久; 中村 仁一; 雨澤 博男; 大村 英昭; 湊 和生; 武田 常夫; 櫛田 浩平; 傍島 眞 核燃料取扱主任者試験問題・解答例集,1999~2003年, JAERI-Review 2003-025,https://doi.org/10.11484/jaeri-review-2003-025

第34回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の取扱いに関する技術

第34回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の取扱いに関する技術

第1問

核燃料の加工に関して述べた次の文章の空欄の部分に適切な化学式又は語句を番号とともに記せ。 また,以下の問に答えよ。なお.同じ番号の空欄には同じ化学式又は語句が入る。

濃縮工場から供給された低濃縮ウランは[①UF6]の化学形を持ち,気体状であるので, 原子炉燃料とするために粉末状の[②UO2]に変換される。この工程を[③再転換]という。 [③再転換]プロセスは湿式法と乾式法に大別されるが,我が国では[④湿式法]が主流である。 湿式法のうち,ADU法は[①UF6]と水との加水分解反応により,[⑤ラニルイオンUO22+, UO2F2)]を含む水溶液とし,これにアンモニアを加え, [⑥重ウラン酸アンモニウム((NH4)2U2O7)]を沈殿させる。この沈殿を,ろ過,乾燥,ばい焼,還元し,[②UO2]粉末に変換する。 一方,乾式法は高温の反応炉において[①UF6]と水蒸気又は水素・酸素との気相反応により直接[⑦ウラン酸化物]を生成させ, さらに水素還元を行うことで[②UO2]とするプロセスである。いずれの方法においても,反応副産物である[⑧フッ化水素(HF)]に対する対策が重要である。

(1) 湿式法の長所及び短所をそれぞれ2点づつ挙げよ。

解答例
長所: 1.広範な実績がある。 2.高純度のウラン製品を得ることができる。

短所: 1.プロセスが複雑である。 2.各工程から廃液が出るため廃棄物量が多くなる。

(2) 乾式法の長所を2点挙げよ。

解答例
1.廃液発生量が少ない。
2.プロセスが単純なため大型設備を必要としない。
3.水を用いないため、臨界安全上の燃料取扱制限値を湿式法に較べて大きくできる。
参考文献「動力炉 燃料・材料ガイドブック」p.221、日本原子力産業会議(1998)

(3) 湿式法と乾式法共に,ばい焼・還元を行う過程で水蒸気を加える。この目的は何か。

解答例
高温加水分解によりフッ素の含有率を50ないし60 ppmまで減少させるため。
参考文献「原子力化学工学第II分冊、核燃料・材料の化学工学、清瀬量平訳、日刊工業、s59.3.30. p.158

(4) 水素還元を行う過程で,火災・爆発防止のために用いられるガスについて述べよ。

解答例
アルゴン、ヘリウム、窒素等の不活性ガスで水素による爆発限界濃度以下に希釈して用いる。

第2問

核燃料サイクルに関して,以下の問いに答えよ。

(1) 軽水炉使用済燃料を再処理して得られる回収ウランを再濃縮した低濃縮ウランの同位体組成例を下表に示す。これをもとに以下の問いに答えよ。

再濃縮ウラン
(μg/g全U)
232U 0.014
233U 0.034
234U 1350
235U 4.5×104
236U 2.1×104
238U 残り

ア) 天然ウランを濃縮した低濃縮ウランと比べ,放射線防護上最も注意しなければならない核種はどれか。その理由も簡単に述べよ。

解答例
U-232。U-232の娘核種であるTl-208の高エネルギーγ線(2.61 MeV)による外部被曝が問題となるため。
参考文献「回収ウランのUF6転換試験 公開資料 PNC TN6410 91-37」

イ) U-236の影響について簡単に述べよ。

解答例
中性子吸収効果がある他、回収ウランのα放射能にも寄与する。

(2) 使用済燃料を再処理して得られる回収プルトニウム同位体組成例を下表に示す。これをもとに以下の問いに答えよ。

回収プルトニウム
(重量%)
238U 0.7
239U 67.4
240U 22.2
241U 6.9
242U 2.8

ア) 核分裂プルトニウム量は何重量%か。

解答例
67.4wt%+6.9wt%=74.3wt%。

イ) Pu-238の影響について簡単に述べよ。

解答例
α線および崩壊熱の大部分はこの核種の寄与による。 (α,n)反応により、回収プルトニウム中性子発生に最も寄与する。

ウ) 分離後数年が経過した際,放射線防護上最も注意しなければならない核種はどれか。その理由及び対策を簡単に述べよ。

解答例
Pu-241。半減期14.9年でβ壊変した娘核種からのAm-241から60 keVのγ線が放出される。 対策は、含鉛アクリル等による遮へい。 多量のPuを扱う場合には前もってAmを化学分離で除去する。

エ) プルトニウム核種から放出される中性子線のしゃへい方法を述べよ。

解答例
パラフィン、水、グラファイトなど原子番号の小さい元素でできた物質を用いて、中性子を減速、炭化ホウ素等により遅中性子を吸収する。 減速遮蔽する。遮蔽材と中性子との主たる相互作用、すなわち(n,γ)反応、で生じた二次γ線の遮蔽には、原子番号の大きい物質である鉛や鉄を用いる。

(3) 実験室規模でウランやプルトニウムの精製を有機溶媒により行う場合,火災防止の観点から採られる対策を3点挙げよ。

解答例
1. 容器から溶媒が漏えいし難い構造をしている。
2. 漏えいが発生しても直ちにこれを検知する機器を設置する。
3. 溶媒を加熱使用する場合は、50℃以下に制御する。
4. 着火源となるような機器は近くに設置しないとともに静電放電を防止するため機器等を接地する。
5. 火災検知器を設置するとともに、流入する空気を遮断できる防火ダンパ及びガス消火装置を設置する。

第3問

以下の問に対して,それぞれ重要な項目を5種類記せ。

1) プルトニウムを取り扱うグローブボックスの包蔵性を確保,確認するために,製作据え付け時に行う試験・検査項目及び運転(供用)中に行う保守・点検項目

解答例
*製作・据付け時の試験・検査項目
配置・員数検査、寸法検査、負圧維持機能検査、気密検査、材料検査、外観検査、 安全機能検査(負圧破壊、負圧超過、温度上昇時の警報発信の確認)、系統検査(主要配管の系統を確認)

*保守項目
定期的にグローブ、HEPAフィルターの交換

*点検項目
グローブ等の汚染検査、線量当量率測定、外観検査、フィルターの差圧確認、 負圧警報作動試験、気密検査、温度上昇警報試験、換気風量測定

2) ウラン燃料加工施設の運転管理において,爆発事故を防止するために実施する管理項目及び点検項目

解答例
*管理項目
1. 爆発限界以下のガスを使用する。
2. 難燃性の溶剤を使用する。
3. 使用温度を限定する。
4. 可燃性ガスを使用する付近で電気部品などの着火源を置かない。
5. 静電放電を防止するため機器等を接地する。
6. 可燃物をできるだけ少なくする。

*点検項目
1. 可燃性ガス検知器の作動試験
2. 温度上昇検知器の作動試験
3. 加熱源(電気炉等)の遮断試験
4. 流入する空気を遮断できる防火ダンパの作動試験
5. ガス消火装置の作動試験

3) 核燃料取扱施設において,施設者が実施すべき計量管理活動

解答例
Puの計量管理は「いつ、どこで、どういう状態で、どれだけの」Puが存在しているかを把握する「在庫管理」と、 このPuが「いつ、どこで、どういう状態で、どれだけ、何の目的で」移動したかを把握する「流れの管理」の2つからなる。

4) 使用済み燃料溶解液からPu,U及びFP等を分離精製する装置の名称とその特長

解答例

ミキサセトラ みきさせとら
mixer-settler。多段槽型抽出器のことである。溶媒抽出装置のひとつで、形状は箱型である。 再処理工程ではウランとプルトニウムの分離・精製工程で使用されることが多い。 有機相と水相を撹拌羽根によって撹拌・混合するミキサ部と、両相を静置して分離するセトラ部で1段が構成され、 これを水平方向に複数段並べることによりひとつの装置となる。 有機相と水相はミキサセトラの内部を逆方向に流れ、ミキサ部で溶媒抽出が行われる。 操作の安定性に優れ、再処理工場での使用実績も多いが、装置内での滞留時間が長いため溶媒が分解しやすい、処理容量を大きくすることが難しいという欠点がある。 atomica

パルスカラム ぱるすからむ
脈動抽出塔のことである。使用済核燃料の再処理工程で使用される溶媒抽出装置のひとつで、 形状は円筒状あるいは円環状で、高さは10 m以上になることもある。 内部は小孔の開いた目皿などを水平に配置することによって区切られ、上部から供給された水相は下方へ、下部から供給された有機相は上方へ移動する。 このときポンプなどで脈動を与えて両相の分散混合を図ることにより、溶媒抽出が行われる。 パルスカラムは、装置が単純なため保守が容易なこと、処理能力が大きいこと、滞留時間が短いため放射線による溶媒の分解が少ないことなどの利点がある。 atomica

遠心抽出器(えんしんちゅうしゅつき)
高速回転場を利用して油水を混合して微小な液滴を生成、二相間での物質移動を行わせ、 ついで遠心場を利用してエマルジョンの高速沈降を行わせる分離装置。 小型化・自動化が可能、インベントリーが小さい、接触時間が短く溶媒損傷を低減できる、等の特長から、 次世代の核燃料再処理用抽出装置として、各国で技術開発が進められている。 原子力委員会用語解説

多段向流接触器(向流接触 こうりゅうせっしょく)
ある放射性物質などを含む流体と他の抽出溶媒などの流体を接触させつつ互いに逆方向に流す (この操作により放射性物質を抽出する)方法を向流接触(抽出法)という。 ある流体と他の流体または流れの間に電熱や物質の移動を連続的に行わせるために、 両流体を直接または間接的に接触させつつ逆方向に流す場合を向流といい、同方向に流す場合を並流という。 並流の場合は装置の入口において流体の推進力が最大で徐々に減少し出口で最小となる。 これに対し、向流の場合は推進力の分布は装置の各部で比較的均ーとなる。 さらに装置出口の両流体の状態に関して、たとえば熱交換の場合に向流では低温流体の出口温度を高温流体の出口温度より高くすることが可能であるが、並流ではできない。 ウランの精錬、再処理などに利用される。 atomica

電解還元抽出接触器(電解採取法)
溶液中のイオンを分離する方法の一つ。金属の選鉱・精錬に用いられている。 溶液中に二つの電極を挿入し、通電することにより、イオンが還元され陰極(カソード)表面に析出する。 定電流電解法では基本的に標準酸化還元電位の貴なイオンが優先的に析出するので、他元素イオンから分離することができる。 高レベル廃液からは、硝酸酸性が高いにも拘らず、白金族(Pd、Ru、Rh)、Te、Se、Ag等のイオンが析出してくる。 硝酸溶液からはRe(VII)も析出するので同属のTc(VII)の分離も可能と考える。 本プロセスでは基本的に化学試薬は必要ないので、二次的廃棄物は発生しない。 原子力委員会用語解説

イオン交換カラム(イオン交換 いおんこうかん)
不溶のイオン結合化合物を含む固体を電解質溶液に触れさせるときに、固体内のイオンと溶液中のイオンとが入れ代わる現象をいう。 陽イオン交換と陰イオン交換の二通りある。この現象を利用すると、電解質中に存在する有用物質の捕捉や不要物質の除去が可能である。 原子力の分野でイオン交換反応は、原子炉冷却水中の放射性物質(イオン)の分離・除去、放射性廃棄物からの同位体の分離、 使用済核燃料再処理施設における分離・精製、ウランの採鉱などに用いられている。 放射性廃棄物の地下埋設・処分において、イオン交換反応は、人工的な施設(人工バリア)から漏れてくるかもしれないイオン (放射性物質を含む)の移動を、その周囲の岩盤・土壌が阻止する能力(天然バリア)の一つとして、期待されるものである。 atomica

第4問

以下は,臨界安全管理の基本的考え方を示す文章である。空欄の部分に適切な語句を番号とともに記せ。 なお,同じ番号の空欄には同じ語句が入る。

(1) 臨界安全管理の基本は,[①技術的に想定]されるいかなる場合でも臨界を防止することである。 このため,施設の臨界安全性を[②設計],製作,施工及び[③運転]の各段階で十分な安全裕度を見こんで確保する。 基本的には,[②設計]において臨界安全性を担保し,製作,施工において[④設計条件]が満たされていることを確認し, [③運転]において設計どおり臨界安全を維持できるように[⑤管理]する。

(2) [⑥単一ユニット]とは,一組の臨界管理因子について核的制限値が設定できる核燃料物質取り扱い上の1つの単位である。 二つ以上の[⑥単一ユニット]及び反射体,しゃへい体等からなる体系を複数ユニットという。 臨界安全確保のためには,[⑥単一ユニット]間の[⑦中性子相互干渉]を考慮し,[①技術的に想定]されるいかなる場合でも臨界にならないように [⑥単一ユニット]の配置及び中性子しゃへい材の配置等が決められなければならない。
[⑥単一ユニット]の臨界安全性は,ユニットに含まれる核燃料物質及びその他の物質の種類,量,[⑧物理的化学的形態]等を考慮し, 指定されたユニットの[⑨形状]や寸法のもとで核的に安全であることを平常時ばかりでなく[⑩異常]時をも含めて確認する。 複数ユニットの臨界安全性を確認するには,ユニット間の距離或いはしゃへい材厚さを考慮し, [⑦中性子相互干渉]効果を平常時ばかりでなく[⑩異常]時をも含めて評価する。

(3) 未臨界を計算により確認する場合には,計算に使用するデータ及び手法の[⑪信頼性]を考慮し十分に[⑫安全裕度]を見込んで評価する。 この場合,使用するデータ及び計算手法に関しては,評価対象系と類似の物理体系の[⑬実験データ]との比較によりその信頼性を十分確かめておくべきである。 なお,評価対象系と同一の物理体系について実施された[⑬実験データ]が入手できる場合は,その[⑬実験データ]により直接臨界安全性を評価してよい。

(4) [⑭核的制限値]とは,臨界安全管理を行う体系の未臨界確保のために臨界管理因子に対して設定する値である。 この値は具体的な機器の設計及び運転条件の妥当性の判断を容易かつ確実に行うための,寸法,濃度等, 直接的に計量可能な値または間接的に管理可能な値であり,最大許容限度以下に設定され, これを超えた機器の製作並びに平常時における運転条件の設定は許されない。 [⑭核的制限値]の例としては,[⑮質量]制限値,[⑯寸法]制限値,[⑰容積]制限値,濃度制限値,体数制限値,配列制限値,立体角制限値などがある。

(5) 臨界警報装置は,臨界事故が発生した場合に,従事者に[⑱警告]を発することにより, 迅速に退避させて[⑲被曝]を低減するために設置される。 臨界事故時に発生するガンマ線あるいは中性子を検出する測定系と臨界事故の発生を周知する[⑳警報機]からなる通報系からなり, 設置にあたっては設置区域,検知すべき臨界事故の特性,臨界警報装置の配置について検討する必要がある。

解説:①から⑰は、臨界安全ハンドブック第2版、JAERI 1340 (1999)のp.7-9からの出題である。 ⑱及び⑲は、おなじくp.173からの出題である。

第5問

核燃料物質の取扱いに関して次の事項を簡単に説明せよ。

(1) 溶融塩電解法
(2) 二重偶発性の原理
(3) 乾式貯蔵
(4) 可燃性放射性廃棄物を処分するまでの手順
(5) プルトニウム取扱施設の設計で考慮すべき核物質防護上の要件

解答例

(1) 溶融塩電解法
使用済金属燃料を陽極(+)、固体(鉄の棒)あるいは液体カドミウムを陰極(-)として、 溶融塩中で電気分解を行うことにより、陽極からU、TRUが溶融塩中に溶解し、陰極に析出する。 この際、各金属の還元されやすさの違いによって、固体陰極ではUが、液体カドミウム陰極ではU、TRUが、 夫々選択的に析出するために、FPと分離して回収することができる。 原子力委員会用語解説

(2) 二重偶発性の原理
臨界安全管理の手法の一つである。 この手法は、起こるとは考えられない独立した2つ以上の異常な事象が同時に発生しない限り臨界事故が発生しないような設計を要求する。

(3) 乾式貯蔵
使用済燃料の貯蔵法には湿式(水中)と乾式(気体中)がある。 湿式貯蔵は数十年の経験があり、安全に貯蔵する技術も確立されている。 しかし、運転経費がかさむ、放射性廃棄物が多い、などの理由により経済性に難点がある。 特に貯蔵期間が長くなればこの欠点がさらに大きくなる。 乾式貯蔵はこれらの欠点を解消するために開発された方式であるが、歴史が浅く、安全性、経済性が実証された方式であるか否かは議論が分かれるところである。
乾式貯蔵は不活性ガス・炭酸ガス・空気雰囲気で気体雰囲気中で使用済燃料を貯蔵する方式である。 貯蔵施設の形式で分類すると、キャスク貯蔵、サイロ貯蔵(コンクリートキャニスタ)、ボールト貯蔵、およびドライウェル貯蔵がある。 atomica

(4) 可燃性放射性廃棄物を処分するまでの手順
1. ポリ塩化ビニル(PVC)バックに溶封した後、指定容器に封入する。
2. 放射性廃棄物中に含まれる主要な核種及び放射性物質の量を測定又は推定する。
3. 容器表面の線量当量率を測定する。
4. 容器の表面密度を測定する。ただし、汚染されていないことが明らかなポリエチレン袋、 ポリエチレンシート等によって包装したものについては、表面密度測定を省略することができる。
5. 放射性廃棄物の表示(性状、内容物等)
6. 焼却処分するまでは、不燃性の材料による区画または不燃性の容器を設けている所定の廃棄物保管場所に保管する。

(5) プルトニウム取扱施設の設計で考慮すべき核物質防護上の要件
1. 核燃料物質の防護のための区域(防護区域)を定め、その区域をコンクリート等の堅固な障壁で区画する。
2. 防護区域の周辺に周辺防護区域を定め、その区域を柵等の堅固な障壁で区画する。
3. 上記2区域を巡視する。
4. 上記2区域への人、車両、物品等の出入りを管理する。
5. 防護区域の核燃料物質を管理する。

解説「原子力関係規制法令集」の各事業規則の(防護措置)の条項を参照した。 実際には全部で15の要件が記載されているが、常識的には上の5項目程度で十分と考える。

出典

谷内 茂康; 佐藤 忠; 須賀 新一; 小室 雄一; 内田 正明; 中島 邦久; 中村 仁一; 雨澤 博男; 大村 英昭; 湊 和生; 武田 常夫; 櫛田 浩平; 傍島 眞 核燃料取扱主任者試験問題・解答例集,1999~2003年, JAERI-Review 2003-025,https://doi.org/10.11484/jaeri-review-2003-025