第26回 核燃料物質の化学的・物理的性質

第26回核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第1問

次の(イ),(ロ),(ハ)についてそれぞれの指示に従って答えよ。

(イ)以下の反応の空欄の部分に記入すべき化学式を係数を含めて記号とともに記せ。

二酸化ウランをグラファイトと混合し,真空中で1300℃以上の高温に加熱すれば

UO2+[3C]=UC+[2CO]

のような反応が起こってウランは一炭化物になる。この炭化物を空気中800℃に加熱すれば,下に示すような反応が生じる。

UC+[7/3 O2]=[1/3 U3O8]+[CO2]

(ロ)次の文章中の空欄の部分に記入すべき語句,あるいは数値を記号とともに記せ。

水溶液中において6価のウランのイオンは[]色を示す。この6価ウランは実際には[2]価のウラニルイオンとして存在している。一方,4価ウランイオンは[]色,3価ウランイオンは[]色を呈する。6,4,3価のうち最も安定なウランの酸化状態は[6]価である。

(ハ)次の文章中の空欄の部分に記入すべき融点,あるいは密度の値を下に列記したうちから選び,記号とともに記せ。ただし,これらの測定値には誤差があることを考慮すること。また,密度は室温の値である。

金属トリウムは銀白色の鉛に似て軟らかい金属で.その融点は[1750]℃,密度は[11.72]Mg/m3である。金属ウランは銀白色の金属であるが,通常,僅かに酸化されて黄色味を帯びている。その融点は[1132]℃,密度は[19.06]Mg/m3と測定されている。金属プルトニウムの融点は[640]℃である。 二酸化ウラン(UO2)の融点は[2865]℃,密度は[10.96]Mg/m3である。二酸化プルトニウム(PuO2)の融点は[2390]℃である。また,炭化ウラン(UC),二ケイ化三ウラン(U3Si2)の融点は,それぞれ[2490],[1665]℃と報告されている。

[参考書の紹介] ・極限燃料技術研究専門委員会(編集)、“核燃料工学 ―現状と展望―”((社)日本原子力学会、1993) ・菅野昌義、“原子炉燃料”(東京大学出版会、1976) ・長谷川正義、三島良績(監修)、“原子炉材料ハンドブック”(日刊工業新聞社、1977)

第2問

次の文章の下線部には誤った記述がある。その語句あるいは文を正しいものに直せ。ただし,否定記述は正答としない。 空欄の部分に適切な語句を示せ。

(1)鉱石からウランを浸出するには,ふつう[硫酸]が用いられる。 鉱石が酸を多量に消費するようなものである場合には,ウランの錯体形成反応を利用したアルカリ浸出も採用される。 アルカリ浸出剤としては[炭酸ナトリウム]が使われる。

(2)UF6を水蒸気と加熱すればUO2F2と [HF]と[を生成]する。 UCl6の蒸気圧は室温でUF6よりも高いが,[吸湿性]が大きいため, ウラン濃縮には使われない。

(3)プルトニウム-酸素系でよく知られている固体化合物はPu2O3, [PuO2]である。 PuO2UO2と固溶体をつくる。 PuO2の固溶範囲は0~[100]モルパーセントである。

(4)ウランの水素化物には[α-UH3], [β-UH3]の2相が存在する。 プルトニウムの水素化物にもPuH2, PuH3の2相が存在する。 UH3相とPuH3相の結晶構造は異なり, UH3相が[立方]晶系であるのに対し, PuH3相は[六方]晶系である。

(5)UO2は立方晶系の[面心]構造をとる。 同じ結晶構造をもった固体化合物としてはCaF2, [ThO2], [PuO2]のような例をあげることができる。

(6)二酸化ウランには不定比性UO2-xUO2+xとがある。 UO2-xは[低温]では不安定で, [1300]℃[以上]でのみ存在する。 一方,UO2+xの結晶構造についてみると, [ウラン]はUO2格子の中で欠陥のない状態で存在し, [酸素]原子のみが [クラスター(欠陥複合体)]を[形成]して存在している。

(7)UO2の熱伝導率はおおよそ1800℃まで温度の上昇とともに[減少]し, この温度で[極小]を示した後は, 温度の上昇とともに[増加]する。 UCの熱伝導率は室温から温度の上昇とともにやや減少し,300~400℃で緩やかな最小を示した後,僅かに増加する。 UCの熱伝導率は例えば1000℃で UO2の[7]倍ほども高い。

(8)酸化物燃料中のFPの存在状態には色々なものがあるが,Kr, [Xe], Br, Iなどは気体状,あるいは揮発性FPとして存在する (O2は揮発性FPとして存在しない)。 Rb, [Cs], Ba, [Sr], Zr, [Nb], Mo, (Te) などのFPは酸化物析出相をつくる。

(注)燃料の酸素ポテンシャル及び温度等によっては、Te, Cs及びRbは揮発性FP、また、Zr、Nb及びMoはUO2に固溶する酸化物も形成する。

(9)高出力運転をすると軽水炉燃料でも中心温度は[1600]℃以上の高温になり, 燃料ペレットに組織再編が起こる。組織再編後のペレット横断面をみると,中心から外周部に向かって,中心空孔, [柱状晶],[等軸晶], 不変領域の順になっている。

(10) FPガス放出率はふつう約700℃までは1%以下で温度[に依存しない]が, それより高温では温度とともに[増加]する。 これは[約700]℃以下ではFPガス原子の燃料中の拡散よりも燃料表面からの反跳と, はじき出しが大きく寄与するためである。

[参考書の紹介] ・極限燃料技術研究専門委員会(編集)、“核燃料工学 ―現状と展望―”((社)日本原子力学会、1993) ・菅野昌義、“原子炉燃料”(東京大学出版会、1976)

第3問

実験室において酸素ポテンシャルを測定する方法は幾つかあるが,そのうち二つを選び,原理と特徴について300字以内で説明せよ。

第3問解答例

熱重量]法: [酸素分圧]を制御した気流中において、 熱天秤により試料の[質量変化]を測定する。 酸素分圧の制御には、CO/CO2またはH2/H2O混合ガスによる [化学平衡]が用いられる。 試料のO/M比(あるいは定比からのずれ)は、[質量変化]から求められる。

固体電池EMF]法: 固体電解質により[電池]を形成し、 [起電力](EMF)を測定する。 [固体電解質]には、 ZrO2-CaO、ThO3-Y2O3などが用いられる。 固体電解質を試料と[酸素ポテンシャル]の基準にするNi-NiO混合体で挟み、 その間の[起電力]から酸素ポテンシャルが求められる。

[参考書の紹介] ・極限燃料技術研究専門委員会(編集)、“核燃料工学 ―現状と展望―”((社)日本原子力学会、1993)

第4問

物質の物理的性質,化学的性質に関する一般的知識を有する読者を想定して.原子炉内で固体の核分裂性物質を燃焼させると何が起きるか、核分裂現象から物質としての特性変化にいたる道筋の要点を400字以内でわかりやすく解説せよ。

第4問解答例

核分裂性物質が中性子を吸収し[励起]状態となり、これが2個の核分裂片に分裂し、 同時に[中性子]、ベータ線ガンマ線ニュートリノを放出する。 1回の核分裂で放出されるエネルギーは、約[200 MeV]である。 核分裂片は、安定な核に比べて中性子を[余分に]持っているので、 つぎつぎと一連の[ベータ]崩壊の系列をつくって、最後に安定な核になる。 核分裂のために、固体核分裂性物質中の[格子欠陥]は増大し、 物質の移動速度が[大きく]なり、 [焼きしまり]が起こる。 核分裂生成物 (FP) は、気体状と固体状のものに大別される。 気体状FPは、固体核分裂性物質内に気泡を形成し[体積増加](スエリング)を引き起こすか、 単原子の形で拡散し固体核分裂性物質外へ放出する。 固体状FPは、固体核分裂性物質内に蓄積し[スエリング]を引き起こす一因となるほか、 [熱伝導度]、クリープ特性、融点などの変化をもたらす。

[参考書の紹介] ・長谷川正義、三島良績(監修)、“原子炉材料ハンドブック”(日刊工業新聞社、1977) ・極限燃料技術研究専門委員会(編集)、“核燃料工学 ―現状と展望―”((社)日本原子力学会、1993)

第5問

核燃料に関連して次の事項を簡単に説明せよ。

(1)焼きしまり (2)リローケーション (3)PCI (4)核分裂収率 (5)合金燃料

第5問解答例

(1)焼きしまり 照射中に[燃料ペレット]が収縮する現象を焼きしまりという。 燃料を照射すると、[核分裂]のために燃料中の格子欠陥が [増大]し、 燃料構成原子の自己拡散の[促進]およびそれに伴う焼結の促進、 気孔の[収縮・消滅]などが起き、これらが焼きしまりの原因と考えられている。 焼きしまりにより、[線出力密度]の増大、 [軸方向ギャップ]の形成による出カスパイク、 [軸方向ギャップ]部での被覆管のつぶれ、 ペレット-被覆管ギャップの[増大]などが引き起こされる。 焼きしまりの程度は、[1700]℃、 [24]時間の炉外加熱による熱的焼きしまりの測定により評価できる。

[参考書の紹介] ・軽水炉燃料のふるまい編集委員会(編集)、“軽水炉燃料のふるまい”((財)原子力安全研究協会、1990) ・長谷川正義、三島良績(監修)、“原子炉材料ハンドプック”(日刊工業新聞社、1977)

(2)リローケーション 発電炉で燃料の[装荷]が終わり、 炉の[出力上昇]が始まると、 ペレット内部に生じる大きな[温度勾配]による [熱応力]のために、 出力上昇の過程で[ペレット]は割れる。 割れた破片は径方向外側へ移行し、ペレット・被覆ギャップを[減少]させる。 この燃料ふるまいをリローケーション(relocation、リロケーション、ならびかえ)という。 この結果、ペレットが円柱状で存在する場合よりも[ギャップ熱伝達率]は改善され、 ペレット温度は[低く]なる。 ペレット内の割れ空間は、ペレットの再焼結や組織変化によって閉じ込められ空孔としてふるまうが、 [高温]になると中心部に移動して中心空孔を形成する。

[参考書の紹介] ・極限燃料技術研究専門委員会(編集)、“核燃料工学 ―現状と展望―((社)日本原子力学会、1993) ・軽水炉燃料のふるまい編集委員会(編集)、“軽水炉燃料のふるまい”((財)原子力安全研究協会、1990)

(3)PCI Pellet-Clad Interaction (ペレット-被覆相互作用)の略である。 UO2ペレットはジルカロイよりも熱膨張率が[大きい]こと、 ペレットのリロケーション及びスエリング、並びに被覆管のクリープダウンにより、 ペレット-被覆管ギャップは[消失]し、 ペレットと被覆管は相互作用をするようになる。 PCIは、PCMI (Pellet-Clad Mechanical Interaction、ペレット-被覆力学的(機械的)相互作用)と PCCI (Pellet-Clad Chemical Interaction、ペレット-被覆化学的相互作用)とに大別されることもある。 出力急昇時の破損は、力学的相互作用とFPの[ヨウ素]による [応力腐食]破損またはPCI破損とも呼ばれている。

[参考書の紹介] ・軽水炉燃料のふるまい編集委員会(編集)、“軽水炉燃料のふるまい”((財)原子力安全研究協会、1990)

(4)核分裂収率 1回の核分裂におけるそれぞれの核分裂生成物の生成確率のことを、核分裂収率 (fission yield) という。 核分裂収率は、核分裂核種及び中性子エネルギーによって異なる。 235Uの核分裂では、核分裂収率は、質量数が約[95]と 約[140]に2つのピークを示す。 239Puの場合は、低質量側のピーク位置が質量数で約4だけ高質量側へずれており、 貴金属元素 (Ru、Rh、Pd) の収率が235Uの場合よりも[高い]。 このことは、酸化物燃料では、235Uの核分裂よりも239Puの核分裂の方が 酸素の余剰度が[高い]ことを意味しており、 FPの化学形及び被覆管の腐食挙動に影響する。

[参考書の紹介] ・極限燃料技術研究専門委員会(編集)、“核燃料工学 ―現状と展望―((社)日本原子力学会、1993)

(5)合金燃料 合金燃料は、それぞれの金属燃料の欠点を是正する目的で、開発されてきている。 α-Uの結晶学的異方性による欠点を除くために、約10%のMoを加えUの[γ相]を安定化した γ合金ウラン燃料、微量のFe、Alなど添加してα-Uの[耐スエリング性]を改善した 調整ウラン燃料などが挙げられる。金属Puは、[913K]の融点までの間に 6種の変態を示すなど、このままでは実用困難であり、U-Pu-Zr合金などとして使用される。 TRU消滅処理のために、U-Pu-TRU-Zrなどの合金燃料も研究されている。 一般に、合金燃料は、重原子密度が[高く]、 熱伝導度が[高い]という特長をもっている。

[参考書の紹介] ・極限燃料技術研究専門委員会(編集)、“核燃料工学 ―現状と展望―((社)日本原子力学会、1993)

出典:作田 孝; 湊 和生; 森田 泰治; 西座 雅弘; 吾勝 永子, 核燃料取扱主任者試験問題解答例集,2, JAERI-Review 95-018, 1995年, http://dx.doi.org/10.11484/jaeri-review-95-018