第26回 核燃料物質の取扱いに関する技術

第26回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の取扱いに関する技術

第1問 次の文は,MOX(混合酸化物)燃料ペレットの製造について述べたものである。下の問に答えよ。

MOX燃料のペレット製造において,原料UO2粉末とPuO2粉末を混合するのに[ポールミル]を使った粉砕混合法を用いる。これは,混合特性を良くし,焼結時の[固溶化]をはかるためである。原料として[MIMAS]法で製造したMOX粉末を使う場合もある。また,粉末混合法のほか ,[AUPuC]法により製造した共沈粉を使う場合があるが,ここでは,Pu割合が約[40]%にマスター混合したあと,UO2粉末を添加し,所定の富化度に調整する。ペレット型MOX燃料のほか,溶液の[ゲル化]により製造した微小球粒子を被覆管に[振動充填]法で詰めたスフェアパック燃料も試験されている。

MOX燃料ペレットの検査では,UO2ペレットと同様な検査のほか,[Pu富化度分析]及びPuスポット検査が行われる。Puスポットの検出法として[αオートラジオグラフィ]が使われる。

製造及び検査における外部被曝管理では,Pu同位体中の[238Pu]及び[240Pu]による中性子線,並びに241Puからベータ崩壊で生成する[241Am]のガンマ線による外部被曝に注意する必要がある。

(1)文中の[ (x) ]内に最適な語句,記号を記入せよ。

(2)下線(イ)のスフェアパック燃料の製造利点を簡単に説明せよ。

スフェアパック燃料の製造においては、粉末を取り扱わないで済むという利点がある。 粉末を取り扱う製造工程では、製造設備の各所にプルトニウムの微粒子が蓄積してしまい、線量率が高くなる大きな原因の1つになっている。

(3)下線(ロ)のPuスポットが照射挙動に与える影響を簡単に記せ。

Puスポットでは局所的な発熱が生じるため、それにより局所的な高温部ができるとともに、局所的な高燃焼度領域となる。その結果、均一分布の場合に比べて、FPガスの放出率が高くなる。

[参考書の紹介]

・極限燃料技術研究専門委員会(編集)、“核燃料工学 ―現状と展望―”((社)日本原子力学会、1993)

軽水炉燃料のふるまい編集委員会(編集)、“軽水炉燃料のふるまい”((財)原子力安全研究協会、1990)

第2問 照射後試験において,次の現象を調べるための試験法を簡単に述べよ。

〔解答例〕 (5)軽水炉燃料のペレット・被覆管ギャップ:機械的圧縮法により燃料棒の径方向に荷重をかけ,荷重・変位曲線によりペレットと被覆管ギャップを測定する

(1)軽水炉燃料ペレットの組織変質(リム効果): ペレットを研磨し、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡により、組織を観察する。 ペレットの破面を走査型電子顕微鏡により観察する。

(2)高温ガス炉被覆粒子燃料のアメーバ効果: 燃料コンパクト(または被覆燃料粒子)を研磨し、光学顕微鏡により、燃料核の移動を観察する。被覆燃料粒子のX線ラジオグラフィにより、燃料核の移動を観察する。

(3)MOX(混合酸化物)燃料ペレットのプルトニウム再分布: ペレットを研磨し、EPMA (Electron Probe Micro-Analyzer) により、プルトニウム分布を測定する。

(4)燃料ペレットの融点: 燃料ペレットを徐々に加熱していき、融解熱のために、温度上昇が一時的にとまり温度が一定になるところを測定する。

[参考書の紹介]

・極限燃料技術研究専門委員会(編集)、“核燃料工学 ―現状と展望―”((社)日本原子力学会、1993)

軽水炉燃料のふるまい編集委員会(編集)、“軽水炉燃料のふるまい”((財)原子力安全研究協会、1990)

・長谷川正義、三島良績(監修)、“原子炉材料ハンドプック”(日刊工業新聞社、1977)

第3問 核燃料施設における作業員の被ばく低減化のために,どのような方策を講ずべきか,以下の例について答えよ。

(1)プルトニウム燃料ペレットの表面を研削する装置の据え付けられたグローブボックスにおいて,研削粉末に起因する作業員の被ばくが考えられる。その低減を図るために,どのような対策を講ずべきか,その対策について2つあげて説明せよ。

作業員の被曝としては、ガンマ線中性子による外部被曝が考えられる。ガンマ線被曝に関しては、グローブボックス内や機器に付着した粉末の管理が重要であることはもちろんであるが、空間線量率を下げるために鉛による遮蔽をすべきである。中性子被曝に関しては、被曝防止上、工程の自動化、遠隔化を行うぺきである。

(2)運転員が誤ってバルブを操作したために,放射性廃液が貯槽から流れ出て床を汚染してしまった。その後の復旧作業における作業員の被ばくの低減を図るために,どのような対策を講ずべきか,その対策について2つあげて説明せよ。

作業員の被曝としては、内部被曝と外部被曝が考えられる。内部被曝を防止するために、空気中の放射能濃度を測定するとともに、必要に応じて防護マスク等の着用をすべきである。外部被曝の低減を図るためには、遮蔽の設置作業の遠隔化作業時間の管理を行うべきである。

[参考書の紹介]

・極限燃料技術研究専門委員会(編集)、“核燃料工学 ―現状と展望―”((社)日本原子力学会、1993)

・江藤秀雄、他、“放射線の防護”(丸善、1972)

第4問 核燃料施設の臨界に関する以下の各問について,(イ),(ロ),(ハ)のうちから正しいと思われるものを解答例に従って選べ。

(1)臨界安全評価における燃焼度クレジットとは,燃焼による核燃料物質の反応度の,(イ)減少,(ロ)不変,(ハ)増加を考慮することである。

解答例:(イ)

(2)臨界安全評価における二重偶発性の原理とは,独立した(イ)1つ,(ロ)2つ,(ハ)3つの事象が同時に生じることで,臨界が発生することをさす。

解答例:(ロ)

(3)臨界警報装置において,同じ場所に3系統の検知装置を設けた場合には,信頼性の観点からその3系統のうち(イ)1つ,(ロ)2つ,(ハ)3つが同時に信号を検知したときのみに,警報を発するようにする。

解答例:(ロ)

(4)水溶液系における臨界事故では,初期バースト(スパイク部)における核分裂数は,全核分裂数の半分よりも(イ)小さい,(ロ)等しい,(ハ)大きい。

解答例:(ハ)

(5)再処理施設における立地評価事故として想定する臨界事故においては,全核分裂数を約10の(イ)15乗,(ロ)20乗,(ハ)25乗として評価を行う。

解答例:(ロ)

[参考書の紹介]

・核燃料施設臨界安全管理編集委員会、“核燃料の臨界安全”((財)原子力安全研究協会、1984

・ISU原子力情報リサーチグループ(編集)、“核燃料再処理”(アイ・エス・ユー株式会社、1977)

第5問 核燃料物質の取扱いに関連して次の事項を簡単に説明せよ。

(1)多重防護

原子炉施設及び核燃料施設の安全確保の基本的な考え方である。多重防護の考え方とは、つぎのような3つのレベルの考え方にしたがって、プラントの運転員さらには周辺公衆に対して放射線災害を引き起こさないように、安全性を確保するものである。第1のレベルは、異常の発生が防止されること。第2のレベルは、仮に異常が発生したとしてもその波及、拡大が抑制されること。第3のレベルは、さらに異常が拡大すると仮定してもその影響が緩和されること。

[参考書の紹介]

・浅田忠一、他(監修)、“新版原子カハンドブック”(オーム社、1989)

(2)再処理における遠心清澄機

溶解工程後の清澄工程において、使用済み燃料溶解液中に含まれる核分裂生成物の貴金属元素やジルカロイ被覆管の微粉などの不溶解残渣を除去し、抽出工程における界面でのクラッド形成を防ぐためのものである。清澄する溶解液の放射能レベルか極めて高いので各種の技術的工夫がなされており、遠心清澄機の駆動部・軸受部は、放射線遮蔽スラブによってボウル(遠心回転器)部と隔離されている。不溶解残渣は、ボウル内部壁面へ沈降分離される。

[参考書の紹介]

・内藤奎爾(監訳)、“燃料サイクル[下]”(筑摩書房、1987)

(3)エア・リフト・ポンプ

圧縮空気により液体をあるレベルからより高いレベルまで上げるためのもので、細い管内に加圧した空気を注入することにより、液体が気泡の上昇にともなって上昇する。エア・リフト・ポンプは、機械式ポンプのような保守管理を必要としないので、ホットセル内などでの液移送システムに組み込まれることがある。

[参考書の紹介]

清瀬量平(訳)、“燃料再処理と放射性廃棄物管理の化学工学”(日刊工業新聞社、1983)

・内藤奎爾(監訳)、“燃料サイクル[下]”(筑摩書房、1987)

(4)モジュール型ホットラボ

コンクリートセル内に、遠隔操作で搬入・搬出が可能なモジュール化(標準化)された閉じ込めボックスを設置したものであり、英国のハーウエル研究所の放射化学セルがこのタイプである。モジュール型ホットラボの特長は、照射後試験内容の変更に容易に対応できる柔軟性があること、閉じ込めボックスによりアクチニドを取り扱えること、除染、メインテナンス作業時の被曝の低減化が図られていること、将来の施設の解体法が予め検討された構造であること、などである。

[参考書の紹介]

・極限燃料技術研究専門委員会(編集)、“核燃料工学 ―現状と展望―”((社)日本原子力学会、1993)

(5)レーザーウラン濃縮

レーザーウラン濃縮は、原料により、分子法と原子法に大別される。分子法の場合には、原料としてUF6を用い、UF6→UF5+Fの光解離反応における同位体シフトを利用し、235UF6を選択的に光解離させ、微粉体の235UF5を捕集する。原子法の場合には、金属ウランを蒸発させ、電子励起に係わる光吸収スペクトルの同位体シフトを利用して、235Uを選択的に光電離させ、電極面に回収する。レーザーウラン濃縮は、他の方法に比べ分離係数が大き1回の分離操作で低濃縮ウランを生産でき、また、回収ウランのように232236Uなどを含むものからの235Uの濃縮も可能である。

[参考書の紹介]

・浅田忠一、他(監修)、“新版原子カハンドプック”(オーム社、1989)

・内藤奎爾(監訳)、“燃料サイクル[下]”(筑摩書房、1987)

清瀬量平(訳)、“燃料再処理と放射性廃棄物管理の化学工学”(日刊工業新聞社、1983)

出典:

作田 孝; 湊 和生; 森田 泰治; 西座 雅弘; 吾勝 永子, 核燃料取扱主任者試験問題解答例集,2, JAERI-Review 95-018, 1995年, http://dx.doi.org/10.11484/jaeri-review-95-018