第22回 核燃料物質の取扱いに関する技術
第22回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の取扱いに関する技術
第1問
軽水炉で使用済のUO2燃料をピューレックス法で再処理して得られる回収(または再生)UO3を再濃縮して原子炉へリサイクルする工程及び燃料の取扱いについて以下の問に答えよ。
(1)UO3を出発物質として,再濃縮を行うためにUF6へ転換する工業的な工程を記入例に従って示せ。
記入例
約250℃ | 300~400℃ | |||
---|---|---|---|---|
U | → | UH3 | → | UCl3 |
H2 | Cl2 |
解答例
[600℃] | 500~600℃ | 300~400℃ | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
UO3 | → | [UO2] | → | [UF4] | → | UF6 |
H2 | [HF] | F2 |
(2)UF6ガスが湿気を含んだ空気と接触した場合どんな現象が起こるか。
UF6 + 2H2O → [UO2F2] + [4HF]
(3)所定の濃度まで235Uを濃縮したUF6をUO2ヘ再転換する工程を2つ以上,(1)の記入例に従って示せ。
([ADU]法)
常温 | 常温 | 820℃ | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
UF6 | → | [UO2F2] | → | [(NH4)2U2O7] | → | UO2 |
H2O | NH3 | H2 |
常温 | 500℃ | |||
---|---|---|---|---|
UF6 | → | [(NH4)4UO2(CO3)3] | → | UO2 |
CO2, NH3 | H2, H2O |
([IDR]法)
[600]℃ | ||
---|---|---|
UF6 | → | UO2 |
[H2, H2O] |
(4)回収ウラン中には,天然ウラン同位体のほかに微量の232U及び236Uが含有されている。これらの同位体は,燃料の取扱い及び同位体組成にどのような影響を与えるか。
236Uは半減期が[2.3x107]年であり、アルファ放射性はあまり大きくないが、再加工燃料に利用した場合、中性子の[寄生吸収]が問題になる。
232Uは236Puの娘核種であり、半減期[72]年で[228Th]に変わるが、これ以後天然崩壊系列の1つであるトリウム系列をたどって崩壊を繰り返す。 トリウム系列は末端付近 (212Bi, 208Tl) で[高エネルギーのガンマ]線の放出が大きいことで知られており、取扱上の障害になる。
(参考文献)この問題の(1)、(3)は、工程の概要はどの本にもあるが、温度の記述は一般的なテキストのレベルを超えている。 ここでは
- F.J. Rahn et al, "A Guide to Nuclear Power Technology", Krieger Publishing Co., 1992
- 原子力化学工学第II分冊「核燃料と材料の化学工学」日刊工業新聞社
- Gmelin Handbook, U
等からとった。 (4)については - 火原協会講座「原子燃料サイクルと廃棄物処理」火力原子力発電技術協会
第2問
高速炉用ウラン・プルトニウム混合酸化物 (MOX) 燃料ペレットの確性試験 (Characterization) に関して以下の問に答えよ。
(1)次の項目について分析法(名称)を示せ。
(イ)U, Pu
解答例:[湿式分析(滴定)]
(ロ)Al, Co, W等の金属不純物
解答例:[発光分光分析]
(ハ)Co, H2等蒸発性不純物ガス
解答例:[ガスクロマトグラフィ]
(ニ)U及びPuの同位体組成
解答例:[質量分析]
(2)上記の試験項目及びフッ素,水分等の化学分析を除いたその他の確性試験項目とその方法(名称)または使用する装置名を4つ以上示せ。
第3問
ウラン燃料を中性子照射することにより,燃料中に生成される次の4つの超ウラン核種に関連して,以下の問に答えよ。
4つの超ウラン核種:237Np, 239Pu, 241Am, 242Cm
(1)これらの核種が,235U及び238Uから生成される主な反応について簡単に説明せよ。
235Uを出発点とする生成過程
- 235U(n,γ)236U(n,γ)237U(β崩壊)237Np
238Uを出発点とする生成過程
- 238U(n,γ)239U(β崩壊)239Np(β崩壊)239Pu
- 239Pu(n,γ)240Pu(n,γ)241Pu(β崩壊)241Am
- 241Am(n,γ)242Am(β崩壊)242Cm
(2)これらの核種の核的及び放射能的な特徴について簡単に説明せよ。
これらの核種はすべて[α放射性]である。
- 237Np: 半減期が[2x106]年と非常に[長]いので、高レベル廃棄物中で[最後にのこる]核種として問題にされる。
- 239Pu: [核分裂断面積]が大きい。プルトニウム燃料の主要構成核種である。
- 241Am: 241Amの親核種である[241Pu]は、239Puに次いで重要な核分裂性プルトニウムであるが半減期が[13.2年と短い]。 一方、241Amは中性子吸収断面積は[大きい]が、核分裂断面積は[小さい]。 そこで原子炉装荷までの期間が長くなると、プルトニウム燃料の核分裂性の[減少]と寄生吸収の[増加]という二重のペナルティーが生じる。
- 242Cm: 242Cmの半減期は[163日]である。半年程度の冷却後の[使用済燃料]においては、242Cmが最大の[α放射線]源となる。 また、娘核種である238Puは、[自発核分裂による中性子放出]が大きい。
(参考文献)プルトニウムを中心とするTRU元素の基礎をまとめたものとして、 原子力化学工学第III分冊「使用済燃料とプルトニウムの化学工学」日刊工業新聞社。 ただし生成と崩壊の概要は次頁の図表の半減期から大体の概念を得ることができる。
図表省略(Z=92-96, A=235-245の範囲の核図表)
第4問
次の文章中の空欄に入れるべき適当な語句等を番号とともに記せ。
(1)高レベル放射性廃棄物は,さらに安全な[貯蔵]や安全な廃棄処分を行うために固化される。 固化法として,種々な方法が検討されてきたが,現在のところ[ほう珪酸]ガラスを用いるガラス固化法が世界的に採用されている。 深地層処分されるガラス固化体に要求される特性は,大きな廃棄物[含有]率, [放射線照射]に対する安定性,ガラスの失透と関連する[熱力学]的安定性、 機械的衝撃による破砕に関連する機械的強度安定性及び放射能放出と関連する[侵出]率にからんだ化学的安定性である。
(参考文献)原子力化学工学シリーズ第IV分冊
(2)核燃料施設では,核燃料物質の臨界管理は安全上極めて重要な事項であり,施設の[設計]や運転にあたっては、特に考慮が必要である。 臨界特性に影響を及ぼす因子のうち,[設計]の際に考慮すべきものは,
- 核分裂性核種の種類
- 核分裂性物質の濃縮度,[核種]及び濃度
- 核分裂性物質を保持する領域の形状,[寸法]及び体積
- 中性子減速材の種類と濃度
- 中性子反射材の種類と厚さ
- 中性子[吸収材]の種類と濃度
- 核分裂性物質を含む2つのまたはそれ以上の領域の間の[相互干渉]の度合い等であり,これらの因子に[制限値]を設けることにより,未臨界を保証するようにしている。
(参考文献)実務テキストシリーズ「核燃料の臨界安全」、原子力安全研究協会
(3)再処理施設の設計の基本方針に[多重]防護の考え方が適切に採用されていることを確認するために,設計基準事象を選定し,評価することになっている。 設計基準事象はその発生の可能性との関連において「連転時の異常な過渡変化」と「運転時の異常な過度変化を[超える]事象」に分けられる。
「運転時の異常な過度変化」とは,再処理施設の寿命期間中に予想される機器の単一[故障]または誤動作もしくは連転員の単一[誤操作]などによって,再処理施設の平常運転を越えるような外乱が加えられるが,[多重]防護システムにより,核的,熱的,化学的に適切と認められる[許容]幅の中にある事象をいう。
「運転時の異常な過渡変化を[超える]事象」は,[多重]防護システムによりその発生の可能性は前者よりさらに小さいが,発生した場合には,環境への影響が「連転時の異常な過渡変化」よりは大きい事象で,施設の安全設計の[妥当]性を確認するために仮定して評価するものである。
また,一般公衆との離隔[距離]の妥当を判断するために[立地]評価事故を想定し評価することにもなっている。
(参考文献) - 松岡伸吾「6カ所村再処理施設の安全設計と安全評価」日本原子力学会誌、vol 35 (1993) No.10, p 864 - 原子力安全委員会安全審査指針集、大成出版社
第5問
核燃料物質の取扱いに関連して次の事項を簡単に説明せよ。
(1)炭素熱還元反応 (Carbothermic Reduction)
[炭化物]を製造するプロセスのひとつであり、[酸化物]と[黒鉛粉末]を混合して高温で加熱する。[酸化物]は還元されて[炭化物]となり、COまたはCO2[ガス]が発生する。
(2)天然放射性核種の壊変(または崩壊)系列 (Disintegration or Decay Series)
[アクチノイド]元素は代表的な天然放射性物質であるが、安定同位体になるまでアルファ壊変とベータ壊変を次々に繰り返す崩壊系列をなす。[ウラン-ラジウム]系列、[トリウム]系列、[アクチニウム]系列、[ネプツニウム]系列の4種がある。
(3)デコミッショニング (Decommissioning)
一般に、[施設を供用開始]することをコミッショニングといい、[解役]する事をデコミッショニングという。しかし原子力では、原子炉などを[解役後に解体]することをデコミッショニングといっている。
(4)保障措置 (Safeguards)
核物質の[軍事利用]を防止するためにとられる手段であって、第一議的には[国際機関]が[主権国家]にたいして行うものである。その中心は[計量管理]であるが、所在の検知のためのさまざまな[非破壊検査]手段も使われる。また盗難防止等のための [physical protection] も広義の保障措置に含まれる。
(5)燃焼度 (Burn-up)
燃料内の核燃料物質がどれだけ[核分裂]したかを示す尺度である。[装荷量]にたいする[分裂量]の割合で示す場合 (%FIMA) 、単位重量あたりの[累積発熱量]で表す場合 (MWd/t-U) 、単位体積あたりの[核分裂量]で表す場合 (fission/cc) 等がある。
出典:
内田 正明; 吾勝 永子; 荒井 康夫; 湊 和生; 末武 雅晴; 高田 和夫; 井川 勝市, 核燃料取扱主任者試験問題解答例集, JAERI-Review 94-001, 1994年, http://dx.doi.org/10.11484/jaeri-review-94-001