第22回 核燃料物質の化学的・物理的性質

第22回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第1問

セラミック燃料及び金属燃料について,核燃料として重要な物理的・化学的性質としてどのようなものがあるか,箇条的に少なくとも5項目を上げよ。

第1問解答例

ウラン密度]: [ウラン密度]が高くなければならない。研究炉燃料では、他の性質以上にこの性質が重視され、金属ウラン、[U3Si2]などが使用される。

融点]: [融点]はできるだけ高いことが望ましい。セラミックス燃料は一般に[融点]が高い。

熱伝導度]: 燃料温度を[下げ]て[溶融]までの余裕を確保するため、[熱伝導度]はできるだけ大きいことが望ましい。[熱伝導度]が高いのは金属燃料および[炭化物]燃料であり、[酸化物]燃料は低い。

熱膨張率]: 一般に燃料は被覆材より高温になるため、被覆材に[過大な応力を及ぼさない]ため、[熱膨張率]は小さい方がよい。

寸法安定性(相転移]:[ 相転移]があると、一般に体積が変化するので、室温から融点まで[相転移]がないことが望ましい。金属ウランはこの要求に[合致しない]。

寸法安定性(異方性)]:[ 異方性]の大きい結晶構造をもつ物質は、巨視的にも[異方性]をもちやすい。[寸法安定性]を確保するためには、[立方晶]系の等方性の大きい物質が望ましい。金属ウランは常温で[斜方晶]であり、[異方性]が大きい。

加工性]: [寸法精度]を満たすため、圧延、研削等の加工が容易に行えることが望ましい。[炭化物]燃料はこの点で問題がある。

空気との反応性]: 加工を容易に行うため、[空気(特に湿分を含む空気)との反応]性が低いことが望ましい。炭化物は[反応しやすい]。また金属ウランも[反応性が高い]。

被覆管との両立性]: 使用温度において[被覆管]材料と[固体化学]反応を起こさないことが必要である。

(参考文献)この問題にぴったりあてはまる記述はないが、たとえば三島良績編著「核燃料工学」同文書院

第2問

核燃料は照射中に体積変化を起こす。その理由と,体積変化が引き起こす効果について述べよ。

第2問解答例

体積変化を起こす理由

1)[熱膨張]: 燃料は高温になるので、[熱膨張]が大きい。

2)[相転移]: 金属ウランは室温から融点までの間に[2回相転移がある]。それぞれにおいて[不連続な体積]膨張をする。

3)[焼きしまり]: [セラミックス]燃料は、一般に理論密度より[低い]密度まで[焼結]された状態で装荷される。照射中に高温と照射損傷のために[焼結]過程が再開されて、体積が[減少]することがある。照射初期に起こる。

4)[スエリング]: 固体FPの[生成]により、また高温では気体FPによる[気泡の成長]により、燃料の体積が増大するのを[スエリング]という。燃焼度が[高く]なるほど顕著になる。

体積変化がひきおこす効果

燃料と被覆材のギャップ幅は、[伝熱]と[過大な応力の防止]という相反する要求のバランスによって決められている。一般に燃料の体積増加は[被覆管におよぼす過大な応力]の発生につながる要因であり、体積減少は[ギャップ幅の増大によって燃料温度を上昇]させる要因である。このほか特殊な例として、焼きしまりが非常に大きくなった結果、軸方向にペレット間ギャップが生じ、被覆管のつぶれによる破損や局所出カピーキングが起こったこともある。 安全上問題となる体積増加をもたらす主たる要因はスエリングであるが、軽水炉燃料においては、実際には問題になるようなスエリングはこれまでほとんど観測されていない。

(参考文献)三島良績編著「核燃料工学」同文書院原子力安全研究協会「軽水炉燃料のふるまい」

第3問

次の文章中の空欄の部分に記入すべき語句または数値を記せ。元素名は元素記号を用いて解答してもよい。

(1)ピュレックス法は,湿式法再処理方式のうち[溶媒抽出]法に属しており,抽出溶媒に[TBP]を,また塩析剤に[硝酸]を用いる。抽出溶媒としては,核分裂性物質に対する[分配係数(分配比)]が高く,[FP]に対する[分配係数]の低いことが要求される。[TBP]の希釈剤としては[炭化水素]が最も広く用いられる。ただし,芳香族の[炭化水素]は爆発性化合物を生成するおそれがあるので,[脂肪]族の化合物,例えばドデカンなどが用いられる。

(2)応力腐食割れ(SCC)とは,材料に応力がかかっている場合に,[降伏]限界内の低い応カレベルで[脆性]割れを起こす現象を言い,その[雰囲気]に特定の物質が含まれている場合に発生する。軽水炉では[ジルカロイ]被覆管がFPのうち[ヨウ素]あるいは[臭素]などによってSCCを起こす可能性があると言われている。

(3)二酸化ウランUO2の融点は[2850]℃,理論密度は[10.96]g/cm3であるが,混合酸化物(U, Pu)O2ではUO2に比べて融点は[低下]し,理論密度は,[増大]する。ウラン水溶液中では,普通は[6]価が安定で[UO22+]イオンとして存在する。プルトニウムは水溶液中で[4]種類の酸化状態をとり,それらの酸化還元電位は比較的近接している。

(注)軽水炉燃料の出力急昇破損がSCCによるという説は、設問の文体からも察せられるように、確証があるわけではない。SCCが起こるとすれば、腐食性元素としてはヨウ素が最も可能性が大きいが、⑬(ヨウ素の次点となる元素)で出題者が何を期待しているのか明かでない。テルルという説が唱えられたこともあるが、ヨウ素SCCでさえ仮説であるのだからこれは全く推測の域をでない。解答例の「臭素」は、たぶん出題者の求める答ではない。しかしヨウ素SCCを認めるならば臭素を誤答とはできない。臭素の収率はヨウ素の約1/10であるが、同じハロゲン元素であり、ハロゲンとしての性質はヨウ素より強いからである。

(参考文献)

基礎から製造、再処理まで、化学を中心にまとめた本としては, 菅野昌義「原子力工学シリーズ、2 原子炉燃料」東大出版会アクチノイドの水溶液中の原子価については、岩波「理化学事典」の「アクチノイド」の項に一覧表がある。

再処理についてはたとえば, 山本寛原子力化学工学」日刊工業新聞社原子力化学工学シリーズ(第IV分冊)日刊工業新聞社, 鈴木篤之「核燃料サイクル工学」日刊工業新聞社

軽水炉燃料については, 原子力安全研究協会「軽水炉燃料のふるまい」。

第4問

二酸化ウランペレットを製造する工業的方法について,ウラン精鉱以後の工程の概略を述べよ。ただし,ウラン濃縮工程は省略してよい。

第4問解答例

ウラン精鉱以後の工程は、いくつかの異なったものがある。以下に述べるのはガス拡散法で濃縮する堀合の、最も一般的な工程である。

[1][精製錬]: ウラン精鉱([イエローケーキ])は粗製錬製品であり、純度を高めるために精製錬を行う。通常、[湿式]法として再処理工程と同様な[TBP(燐酸トリブチル)]を用いた溶媒抽出法が使われる。製品は[ADU(重ウラン酸アンモン)]または[硝酸ウラニ]であるが、これを分解して[UO3]が、さらに還元して[UO2]が得られる。

[2][転換]: ウランを気体にするために、[UO2]とHFを反応させて[UF4]に、さらにF2と反応させて[UF6]ガスを得る。

[3] 濃縮: 省略

[4][再転換]: UF6を[UO2]に転換するプロセスである。いくつかの方法があるが、[ADU]法が最も優れているとされている。これはUF6加水分解により[UO2F2]とし、さらに[アンモニア]を加えてADU(重ウラン酸アンモン、[(NH4)2U2O7])を得る。これを精製練と同様に[熱分解]、[還元]してUO2粉末を得るものである。

[5][プレス、成形]: UO2粉末の粒径をそろえる等の前処理の後、金型に入れ、コールドプレスして成形する。できた圧縮体を[グリーンペレット]といい、[50-60]%程度の密度をもつ。

[6][焼結]: [グリーンペレット]を電気炉に入れ、[還元]性雰囲気中で[1700]℃以上の高温で数時間焼結する。

[7][研削]: [焼結]されたUO2ペレットは、センターレス・グラインダー等で所定の直径まで研削する。

(参考文献)菅野昌義「原子力工学シリーズ、2 原子炉燃料」東大出版会

第5問

次の用語を簡単に説明せよ。

(1)レキ青ウラン鉱 (2)不定比性(非化学量論性) (3)被覆管ライニング (4)電解精製再処理 (5)減損ウラン

第5問解答例

(1)レキ青ウラン鉱: [ピッチブレンド]とよばれ、最も[一般的な]ウラン鉱石である。UO2UO3の化合物で、ウラン含有率は[50-80]%、[]色の鉱物である。

(2)不定比性(非化学量論性): 一般に無機化合物は高温になると、MmXn(m, nは整数)という簡単な組成からのずれが顕著になり、MXxのような非整数比の組成をもつようになる。核燃料物質では二酸化ウランの非化学量論性が、特に酸素過剰側で顕著であり、UO2+xと表記される。非化学量論性は[結晶格子の乱れ(格子欠陥)]によってもたらされるものであり、化学量論的な化合物に比べて融点や熱伝導度が[低下]する一方、クリープ速度などの欠陥濃度依存の動的な性質は[大きく]なる。

(3)被覆管ライニング: [応力集中の緩和]や[燃料、FPとの反応防止]の目的で、被覆管の内側に異種の物質の層を設けることをいう。ジルカロイ被覆管について、銅、ジルコニウムのライニングが試みられ、後者はジルコニウムライナー被覆管として、BWR燃料で標準的に採用されている。

(4)電解精製再処理: 高速炉用金属燃料のために考案された代表的な[乾式再処理]法である。電解槽は下半部が[溶融カドミウム]で満たされ、その上に[LiCl-KCl溶融塩]の層が乗っている。切断された燃料棒は[溶融カドミウム]層中に投入され、被覆管と貴金属FPが溶けないことでまず分離される。さらに一部のFPを残して燃料物質が[溶融塩]層に移行することで分離が行われ、最後に[溶融塩]中に設置された電極により、[塩化物の電解度]の差によって陰極にウラン、陽極に主としてプルトニウム、溶融塩中にFPという形で分離が行われる。

(5)減損ウラン: 濃縮工程で[濃縮ウラン]を得るかわりに発生する、235U濃度が天然ウラン([0.71]%)より低いウランをいう。ウラン燃料サイクルでは単なる廃棄物であるが、[プルトニウム混合]燃料ではウランマトリックスとして使用することができる。また高速炉では[ブランケット]燃料として使用できる。

(参考文献)特別記事「乾式再処理プロセスと廃棄物処理原子力工業 vol. 35, No. 9, p43 (1989)

出典:

内田 正明; 吾勝 永子; 荒井 康夫; 湊 和生; 末武 雅晴; 高田 和夫; 井川 勝市, 核燃料取扱主任者試験問題解答例集, JAERI-Review 94-001, 1994年, http://dx.doi.org/10.11484/jaeri-review-94-001