第26回 放射線

第26回 核燃料取扱主任者試験 放射線の測定及び放射線障害の防止に関する技術

第1問 次の各問について,答えを1つだけ選べ。

(1)気体の電離作用を利用した検出器の印加電圧とその特性に関する次の記述のうち,正しいものはどれか。

  1. 印加電圧が再結合領域にあるときは,電離作用によって生じた陽イオンはすべて再結合するため,電極に到達することはない。
  2. 印加電圧が電離箱領域にあるときは,エネルギーが同じα線β線では同じ電離電流値が得られる。
  3. 印加電圧が比例計数管領域にあるときは,入射放射線のエネルギーに比例した出力が得られる。
  4. 印加電圧がGM計数管領域にあるときは,電離放射線の種類やエネルギーに係わらず同じ大きさの出カパルスが得られる。
  5. 印加電圧が連続放電領域にあるときは,入射放射線による電離電流に比例した電流出力が継続して得られる。

解答例:4.

検出器の印加電圧を順に上げていくと、再結合領域,電離箱領域,比例領域,GM領域放電領域となり、比例領域は最初に発生した電子-イオン対数に比例するが、GM領域では無開係になる。

(2)GM計数管の回復時間\tau_r,不感時間\tau_d及びGM計数装置の分解時間\tauとの関係について,次のうち正しいものはどれか。

  1. \tau _ {r} \lt \tau _ {d} \lt \tau
  2. \tau _ r \lt \tau \lt \tau _ d
  3. \tau _ d \lt \tau _ r \lt \tau
  4. \tau \lt \tau _ d \lt \tau _ r
  5. \tau _ d \lt \tau \lt \tau _ r

解答例:5. \tau _ d \lt \tau \lt \tau _ r

  • 不感時間;パルスが生じない時間、
  • 分解時間;パルスは生じるが検出できない時間、
  • 回復時間;出カパルスが最初の大きさに戻るまでの時間

(3)次のシンチレータのうち,131mBaのガンマ線測定に適さないものはどれか。

  1. NaI(Tl)
  2. BGO
  3. ZnS(Ag)
  4. CaF2(Eu)
  5. プラスチックシンチレータ

解答例:3.

ZnS(Ag)はα線

(4)次の半導体検出器とその特性に関する記述のうち,誤っているものはどれか。

  1. CdTeやGaAsなどの化合物半導体検出器は,常温での保存や使用が可能で,検出効率が良いなどの多くの利点がある。
  2. 高純度Ge半導体検出器は,低温では電気抵抗がきわめて大きく,高いバイアス電圧がかけられるので,常温で保存や使用が可能である。
  3. 表面障壁型Si半導体検出器は,入射面でのエネルギー損失が小さく,エネルギー分解能が非常に良いため,α線などのエネルギー測定に使用される。
  4. p-n接合型半導体検出器は,構造的には丈夫であるが,入射面でのエネルギー損失による分解能の低下が問題となる。
  5. Liドリフト型Ge半導体検出器は,有効領域が100cm3以上のものが製作されており,γ線のエネルギー測定に有効であるが,常時液体窒素で冷却する必要がある。

解答例:2.

高純度Ge半導体検出器でも常温での使用は出来ない。

(5)次の線量計のうち,個人線量計として適切でないものはどれか。

  1. フィルムバッジ
  2. ポケット線量計
  3. 熱ルミネッセンス線量計
  4. 蛍光ガラス線量計
  5. 線量計

解答例:5. 鉄線量計は数百Svまでの高線量を測定する測定器で、個人線量計としては適切でない。

(参考文献)

  • 放射線概論,石川友清編,通商産業研究社
  • 放射線用語辞典,飯田博美編,通商産業研究社

第2問 周辺監視区域外の水中の濃度限度に近い放射能濃度の237Np, 137Cs及び3Hを含む混合溶液がある。この溶液中の核種毎の放射能濃度の測定法について,測定試料の作製方法及びその試料の測定に適した測定器の種類について知るところを核種毎に150字程度で要点のみを簡明に記せ。ただし,測定器の校正方法及びバックグランドの低減方法については記載する必要はない。なお,それぞれの核種に対する周辺監視区域外の水中の濃度限度の値は次のように定められているものとする。

  • 237Npに対して1x10-3 Bq/cm3
  • 137Csに対して7x10-2 Bq/cm3
  • 3Hに対して6x101 Bq/cm3

第2問解答例

  • 237Npはα線γ線放出核種である。237Npの娘核種である233Uの半減期が十分長いことから全α測定が可能である。試料水を蒸発乾固させガスフロー式比例計数管により全アルファ測定を行う。この時、試料量、測定時間で検出下限濃度が濃度限度を下回るよう注意する。なお、蒸発乾固試料のα線の自己吸収にも注意する。
  • 137Csはβ線γ線放出核種である。500 ml程度の試料量を採取後、直接γ線波高分析装置で測定し、237Npのγ線を分離して137Csのγ線ピークの0.662 MeVのみを選択計算することにより定量する。
  • 3Hは軟β線放出核種である。試料水を蒸留し、冷却凝縮した水試料5~10 mlをバイアル瓶で液体シンチレータと混合して、液体シンチレーションカウンターで測定、定量する。蒸留、凝縮することにより137Cs, 237Npによる影響及びクエンチングを取り除ける。

(参考文献)

第3問 次の文章の空欄の部分に適切な語句又は数値を番号とともに記せ。

放射線業務従事者の体内摂取量を評価する方法には,[体外計測法], [バイオアッセイ法]及び計算法がある。[体外計測法]は,[ヒューマンカウンター]又は肺モニタ等の測定装置を用い,[摂取]した放射能を体外から測定する方法である。[バイオアッセイ法]は主に[尿], [糞]を測定試料として体内に残留する放射能を評価する。その他の測定試料としては,痰,唾液,呼気などがある。計算法は,作業者の呼吸域の[空気中放射性物質の平均濃度],使用した防護具の防護係数,呼吸率及び[作業時間]などから,作業者の吸入量を評価する方法である。これらの方法により体内摂取量を評価し,その値と[年摂取限度]とを比較して預託線量当量を計算する。外部被ばくによる線量当量が過去の線量を求めるのに対して,内部被ばくによる線量当量は,摂取後[50]年間の将来の線量を評価するものである。

(参考文献)

第4問 放射線の生物学的影響に関する次の問に番号で答えなさい。

(1)急性障害の指標であるLD50/30の30とは,次のどれを意味するか。

  1. 30 個体
  2. 30 週
  3. 30 Gy
  4. 30 %
  5. 30 日

5; LD50/30は一群の被照射動物が30日間内に半数 (50%) が死亡する線量をいう。

(2)血液中のリンパ球が減少する最小線量と言われている線量は次のどれか。

  1. 50 mSv
  2. 100 mSv
  3. 250 mSv
  4. 500 mSv
  5. 1500 mSv

3; リンパ球の減少が検出できる最小線量は0.25 Sv

(3)体内に摂取され,血中に入ったとき骨内表面の線量が問題となる核種は次のうちのどれか。

  1. 137Cs
  2. 239Pu
  3. 90Sr
  4. 131I
  5. 45Ca

2; 向骨性元素はPu, Sr, Caで、これなのなかでも239Puはα線放出核種である。

(4)同じ線量当量 (Sv) の放射線被ばくにおいて,長期間にわたって被ばくする場合と短時間被ばくの場合を比較したとき,正しいものを選びなさい。

  1. 長期間被ばくの方が生物学的効果は小さい。
  2. 長期間被ばくの方が生物学的効果は大きい。
  3. どちらも生物学的効果は変わらない。
  4. 放射線の種類によって生物学的効果は異なる。
  5. 放射線のエネルギーによって生物学的効果は異なる。

1; 生体の回復作用、線量率効果参照

(5)次の放射線障害のうち,非確率的影響の正しい組み合せを選びなさい。

①白血球の減少 ②白血病 ③肝臓ガン ④放射線宿酔 ⑤甲状腺ガン

  1. ①と②
  2. ②と③
  3. ①と④
  4. ③と④
  5. ③と⑤

3; 確率的影響,ガン及び遺伝的影響、しきい値なし。非確率的影響,しきい値がある。この中では、白血病は血液のガンであるため、白血球の減少及び放射線宿酔が非確率的影響にあげられる。

(6)次の放射線のうち,酸素効果が無いか,または極めて少ないものの正しい組み合せを選びなさい。

α線β線γ線中性子線 ⑤X線

  1. ①と②
  2. ①と④
  3. ②と④
  4. ③と⑤
  5. ④と⑤

2; 酸素分圧が照射時に生物学的最終効果に影響を与える、この効果を酸素効果という。酸素効果は、α及び中性子線では効果が無くなるか減少する。

(7)天然ウランによる体内汚染が生じたとき,最も問題となる臓器を次の中から選びなさい。

  1. 甲状腺
  2. 脾臓
  3. 胆嚢
  4. 生殖腺
  5. 腎臓

5; ウランは腎臓に沈着

(8) 239Puを多量に吸入摂取した時,障害がほとんど問題にならない臓器を次の中から選びなさい。

  1. リンパ節
  2. 骨組織
  3. 脾臓
  4. 肝臓

4; 吸入摂取の場合、肺,リンパ節に沈着、体内に吸収された場合、Puは骨組織,肝臓に沈着する。

(9)放射線感受性の最も低い臓器・組織を次の中から選びなさい。 1. 眼 2. 骨髄 3. 血管 4. 腸 5. 皮膚

3; 組織の放射線感受性は「放射線に対する細胞の感受性は増殖の活動力の程度に比例し、分化の程度に逆比例する。」というベルゴニー・トリボンドーの法則がある。感受性により組織を分類すると、感受性の高いものとして、生殖腺,骨髄,リンパ組織,脾臓,胸腺,胎児の組織、中程度のものとして、皮膚,腸,眼、低いものとして、肝,筋組織,結合組織,血管,脂肪組織,神経組織,骨,唾液腺があげられる。

(10)線質係数が依存するものを次の中から選びなさい。

  1. RBE
  2. LET
  3. LD50
  4. 物理的半減期
  5. G値

2; 線質係数は同一線量でも放射線の種類及びエネルギーにより人に与える効果が異なることから、放射線防護上、この効果の程度を示している。放射線のLETのみに関連している。

(参考文献)

  • 放射線概論,石川友清編,通商産業研究社
  • 核燃料取扱技術,日本原子力産業会議
  • 放射線用語辞典,飯田博美編,通商産業研究社

第5問 放射線防護における次の語句について簡単に説明せよ。

(1)実効線量当量と荷重係数の関係

(2)線量-効果関係

(3)鼻腔スミア

(4)誘導実用限度

(5)骨の晩発障害

第5問解答例

(1)実効線量当量と荷重係数の関係

放射線を受けたときのリスクは人体の各組織ごとに異なるため、単位線量当量当たりのリスクに比例し、全組織についての合計が1となるように各組織ごとに荷重係数が決められた。各組織の荷重係数と各組織の線量当量との積の合計が実効線量当量となる。このことから均等照射、不均等照射にかかわらず、同じ尺度で確率的影響の防護が図れることになる。荷重係数はICRPの勧告によるもので、1990年勧告では、新たに結腸,胃,膀胱,肝臓,食道,皮膚が項目が加えられた。

(2)線量-効果関係

放射線量と生物学的効果との関係で、線量と効果の間にしきい値がなく直線関係が成り立つ影響(確率的影響)と低線量では効果が無いように見え、ある線量(しきい値)から影響が出始め、それ以上に線量がふえると、その症状の重篤度と線量との関係がシグモイド曲線で示される影響(非確率的影響)がある。

(3)鼻腔スミア

内部被ばくの有無をチェックする簡便な方法。ろ紙付の綿棒で鼻腔内をスミア採取し、ろ紙上の放射能を測定する。放射性物質を吸入した恐れのある場合できるだけ早期に鼻腔スミアを取ることが大切。経気道摂取では、鼻孔粘膜に粒子経の大きい放射性物質がとらえられることによる。

(4)誘導実用限度

誘導作業限度 (DWL) とも言う。放射線管理の実務を容易にするために定められた線量当量限度や年摂取限度に対応したモニタリングの測定値。被ばく経路のモデルを用いることにより算出される。誘導実用限度の例としては、線量当量率,表面密度,食品中の放射性物質の濃度などの限度がある。

(5)骨の晩発障害

骨の晩発障害は骨腫瘍が挙げられる。この骨腫瘍は癌の一種であり、また、骨に集まる性質のPu, Ra, Sr等は体内摂取した場合、骨の部分照射となり骨腫瘍発生の原因となる。この他に骨自体の障害ではないが、白血病も赤色骨髄の被ばくに起因している。

(参考文献)

出典:

作田 孝; 湊 和生; 森田 泰治; 西座 雅弘; 吾勝 永子, 核燃料取扱主任者試験問題解答例集,2, JAERI-Review 95-018, 1995年, http://dx.doi.org/10.11484/jaeri-review-95-018