第22回 放射線の測定および放射線障害の防止に関する技術

第22回 核燃料取扱主任者試験 放射線の測定および放射線障害の防止に関する技術

第1問 下記の各問について,(イ)~(ホ)の中から該当するものを1つ選び,その記号を記せ。

(1)次の放射性物質の組合せのうち,自然放射性核種であって,内部被ばくの原因となるものの組合せはどれか。

(イ)32P, 87Rb

(ロ)60Co, 137Cs

(ハ)40K, 45Ca

(ニ)90Sr, 222Rn

(ホ)40K, 222Rn

解答例 (ホ)

註:自然放射性核種は、40K, 222Rn, 87Rbである。 40Kは食物、大地などに広く存在し、人体内にも存在する。 222Rnは大気中に存在し呼吸により吸入される。 87Rbも天然放射性核種であるが、ルビジウム自身存在量のきわめて少ない元素であるので、 被曝量は微少である(第23回第1問解答参照)。

(2)外部被ばく管理において,眼の水晶体に対する線量当量は,次のどの値で管理されているか。

(イ)30マイクロメートル線量当量

(ロ)70マイクロメートル線量当量

(ハ)1ミリメートル線量当量

(ニ)3ミリメートル線量当量

(ホ)1センチメートル線量当量

解答例 (ニ)

註:わが国の法令では、このように定められている。 なお(ロ)70マイクロメートル線量当量は皮膚に対する線量当量、1センチメートル線量当量は実効線量当量に用いる。 辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.54、日刊工業新聞社、東京(1989)

(3)放射性気体廃棄物の放出による公衆の線量当量に直接影響しない要因は,次のうちのどれか。

(イ)放出口の高さ

(ロ)風向

(ハ)風速

(ニ)気圧

(ホ)大気安定度

解答例 (ニ)

註:拡散の基本式や図で、気圧は含まれない。それ以外はすぺて、気体放射性物質の放出と公衆の線量当量に関係する。 環境放射線モニタリングテキスト編集委員会、“環境放射線モニタリング”p.273、原子力安全協会、東京(1987)

(4)ある試料を,分解時間200μsのGM計数管で計測した結果,計数率が500 s-1であった。 この場合,分解時間による数え落としを補正した真の計数率は,次のうちのどれに最も近いか。

(イ)550 s-1

(ロ)600 s-1

(ハ)650 s-1

(ニ)700 s-1

(ホ)750 s-1

解答例 (イ)


N_0 = \frac{n}{1-n\tau} = \frac{500}{1-500\times200\times10^{-6}}=555.5

N0 真の計数率、n 計数率測定値、τ 分解時間

(5)次に示す放射性核種と,その測定に用いる放射線検出器との組合せのうち,正しいものの組合せはどれか。

A 3H -- 液体シンチレータ

B 14C -- NaI(Tl)シンチレーション検出器

C 60Co -- ZnS(Ag)シンチレーション検出器

D 85Kr -- BF3比例計数管

E 239Pu -- 表面障壁型Si半導体検出器

解答例 AとE

註:

  • B→低エネルギーβ線放出核種とγ線用検出器の組合せ
  • C→β,γ線放出核種とα線用検出器の組合せ
  • D→β線放出核種と中性子線用検出器の組合せ

第2問 次の文章中の,空欄の部分に記入すべき語句又は数式を,記号とともに記せ。

(1) ある試料のT分間の計数値がNカウント,Tb分間のバックグラウンドの計数値がNbカウントであった。 計数装置の計数効率〔計数率(s-1)/壊変率(Bq)〕をεとすると, この試料の放射能Aは,次の式によって計算される。

A(Bq) = [(1)] ×〔 [(2)] ± [(3)] 〕

ただし,装置の分解時間による数え落しは,無視するものとする。

解答例

  • [(1)]  \frac{1}{60\epsilon}
  • [(2)]  \frac{N}{T} - \frac{Nb}{Tb}
  • [(3)]  \left( \frac{N}{T^ 2} + \frac{Nb}{Tb^ 2} \right)^ {1/2}

註:AはBq単位、N/Tはmin単位なので、60で除する。 日本アイソトープ協会、“アイソトープ手帳”、p.9、丸善、東京(1989)

(2) 放射線防護の目的から,すべての放射線の被ばくの影響を共通の尺度で評価するために用いられる [線量当量] Hは,

H = D・Q・N

で表され,単位はSvである。 ここで,Dは [吸収線量] を表し,単位は [Gy] である。 また,Qは,線エネルギー付与のちがいを考慮した係数であり,[線質係数] といわれる。 Nは修正係数といわれ,現在のところ1とされている。

註:辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.35~41、日刊工業新聞社、東京(1989)

(3) 放射性液体廃棄物の処理は,廃液の性状によってイオン交換樹脂法,凝集沈澱法,[蒸発法] などを用いて処理される。 これらの処理における放射能の除去性能は,[放射性液体廃棄物の処理前濃度] を [放射性液体廃棄物の処理後濃度] で除した, 除染係数(DF)で表される。

註:辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.219、日刊工業新聞社、東京(1989)

第3問 239PuO2取扱施設における放射線管理に関して,次の問に答えよ。

(1)床,器具の表面などの汚染を検査する方法を2つあげ,それらについて簡単に述べよ。

解答例

1: 間接測定法(スミヤ法、拭き取り検査法)

JISに決められている。 規定の濾紙で放射性汚染の可能性のあるものの表面を拭き取ったあと、通常の方法で放射能を測定する。 単位面積あたりのdpsになおして表面汚染を表す。 遊離性(とれやすい)の汚染の測定法である。 註:日本工業標準調査会 審議、JIS Z 4504 “放射性表面汚染の測定方法”、日本規格協会(1993)、 江藤ほか、“放射線の防護”p.328、丸善、東京(1972)

2: 直接測定法(サーベイ法)

表面汚染検査用のα線サーベイメーター(ZnS(Ag)シンチレーションカウンターまたはガス充填型ポータブル比例計数管式)で表面を測る。 α線用は、α壊変核種の比放射能が一般に低いこと、およびバックグラウンドを含めてα汚染検出の場合計数率が低いことから、 時間をかけて測るのが肝要である。 またα線検出器の窓は、α線の吸収が大きくならないように薄い材料で作ってあるので、取扱注意である。 α線の飛程(約5 MeVのα線に対して約4 cm)も考慮して、汚染源からの距離を短くとる必要がある。 註:原子力安全技術センター、“放射性表面汚染の測定・評価マニュアル”、原子力安全技術センター、東京(1988)

(2)床汚染の早期発見のために効果的な,定期汚染検査の検査箇所について述べよ。

解答例

①絶対に汚染があってはいけない場所;管理区域出入口、

②正常な使用状態では汚染のない場所;廊下、汚染検査室、

③汚染しやすい場所;管理区域内作業室床、貯蔵室床

④汚染レベル変化の激しい場所;更衣室床、作業台上など

註:日本アイソトープ協会、“放射線管理実務マニュアルII”、日本アイソトープ協会、東京(1991)

(3)作業者の放射線防護及び放射性物質の環境への放出を低減するために必要な設備,器具類,及び放射線管理上特に留意すべき点について述べよ。

解答例

閉じ込めのための設備、器具:グローブボックスとグローブやフード、ケーブ;ピンセットや簡単な遠隔操作用の器具。 排気、排水のフィルター、モニター、衣服検査用のモニターおよび除染設備、作業衣等の交換、除染場所。 排気、排水の管理設備。

注意事項:241Amに伴うγ線等の遮蔽、線量率の測定。 グローブボックス負圧、フード風速の検査、管理、グローブのピンホール検査。 排気、排水のモニター管理。

註:日本アイソトープ協会、“放射線管理マニュアルII”、p.62、日本アイソトープ協会、東京(1991)

第4問 次の文章中の空欄の部分に記入すべき語句を記せ。

放射性物質の体内への侵入経路には,[経口],[経気道],[経皮膚] がある。 [経口] により摂取されたトリチウム水は,[胃腸管] からただちに吸収され,体内の [体液] に均等に分布する。

[経気道] より不溶性の239Puが摂取された場合は,その大部分が [肺] に長時間とどまるので, 239Puからのエネルギーの [低] い [X] 線を体外から検出して摂取量の評価を行うことができる。 また,体外へ排出される量の大部分は短期間に [ふん] として排泄されるので,これを採取し, [バイオアッセイ] 法による摂取量の評価の試料とすることができる。

可溶性の239Puが [経皮膚] により体内に侵入した場合には,体液により [肝臓] 及び [骨] に移行するが, その残留期間は [骨] の方が長い。 この過程では,一部が [尿] として体外へ排泄されるので,これを採取し,[バイオアッセイ] 法の試料とすることができる。

239Puの体内摂取による晩発障害の主なものとして,不溶性のものについては [肺ガン],可溶性のものは [骨腫瘍] がある。

註:トリチウムは、水蒸気(気体の水)の形で空気中に存在する場合、吸入量のほぼ半分の量が皮膚から人体内にはいる。 一方、吸入されたHTOは、ほぽ全量が肺から吸収される。 摂取されたHTOはまもなく全身にゆきわたり、血液、尿、呼気のトリチウムレベルは等しくなる。

プルトニウムでは、休外からの計測が可能なのは、肺モニタだけであり、呼吸で吸入されたものの一部が測定される。 一旦肺に入ったプルトニウムは、繊毛運動で気管内をさかのぽり、咽喉から胃腸管に移動する。 胃腸管における吸収はほとんどなく、比較的短時間のうちに、ふんとともに排せつされる。 可溶性プルトニウム内部被曝は、再処理工場で可能性がある。 ウランとは異なり、胃腸管からの吸収はきわめて小さいが、零ではない。 創傷のない皮膚からの侵入はほとんどない。 皮膚からの侵入で問題になるのは創傷のある場合である。 吸入、経皮、経口いずれの場合でも一旦体液内に入ったプルトニウムは、おもに骨、肝臓に沈着し、長期間とどまる。 肝臓のプルトニウムは胆汁とともに胃腸管にはいり、胃腸管での再吸収がほとんどないから、そのまま排せつされる。 また量は少ないが、体内にプルトニウムがあるかぎり、腎臓をとおり尿中に排せつされる。

第5問 次の用語を簡単に説明せよ。

  1. しきい線量
  2. 倍加線量
  3. リスク係数
  4. ビルドアップ係数
  5. 生物学的半減期

第5問解答例

(1)しきい線量: 放射線の影響が発生する最低線量。 放射線影響には、しきい線量が存在するものと存在しないと仮定されているものがある。 前者を非確率的影響といい、しきい線量以上では、線量とともに放射線障害が重くなる(たとえば白内障)。 後者を確率的影響といい、遺伝的影響と発ガンがある。 この場合、しきい線量がないと考えられている。 また、放射線障害の発生確率は線量とともに増すが、発生する障害の重さは線量と関係がない。

註:辻本忠、草間朋子、“放射線防護の甚礎”、p.66、日刊工業新聞社、東京(1989)、 飯田博美ほか編、“詳解放射線取扱技術”、p.306、日本原子力産業会議、東京(1990)

(2)倍加線量: 遺伝的障害の自然発生率を2倍にするような線量をいう。 単位線量あたりの遺伝的リスクを算定するために用いることができる。 ヒトの場合、約1 Gyである。

註:辻本忠、草間朋子、“放射線防護の甚礎”、p.84、日刊工業新聞社、東京(1989)、 飯田博美ほか編、“詳解放射線取扱技術”、p.306、日本原子力産業会議、東京(1990)

(3)リスク係数: 確率的影響のリスクを表す係数で、Svあたりの数値である。 ICRPが、放射線防護の目的で用いる遺伝的影響およびガンのリスク係数を勧告している。 全身均等被曝では、生殖腺、肺、甲状腺、腸など、各組織や器官における確率的影響(遺伝的影饗やガンの誘発)に差があるが、 それぞれの確率的影響の発生割合を各器官等のリスク係数という。 個体において確率的影響の現れる確率は、このような各リスク係数の総和になる。

註:飯田博美ほか編、“詳解放射線取扱技術”、p.306、日本原子力産業会議、東京(1990)、 辻本忠、草間朋子、“放射線防護の甚礎”、p.75、日刊工業新聞社、東京(1989)

(4)ビルドアップ係数: X線γ線を放出する線源の遮蔽で、放射線の減衰に対して用いる指数法則の式にはいる補正。 X線γ線の散乱による影響を補正するための係数。 放射線のエネルギー、放射線の広がり(ビーム状であるかないか)、透過した物質の厚さや密度などに関係する。 理論的に求めるのは困難である。

註:

I = I0B e-μx

I0: 入射X線γ線の強さ、 I: 同じく遮蔽体厚さxにおけるX線γ線(一次放射線+散乱放射線の強さ)、 μ: 線源弱係数、 B: ビルドアップ係数

ビルドアップ係数=(一次放射線+散乱放射線)の線量/一次放射線の線量

(一次放射線とは散乱していない成分をいう)

飯田博美ほか編、“詳解放射線取扱技術”、p.45、日本原子力産業会議、東京(1990)、 江藤ほか、“放射線の防護”p.275,丸善、東京(1972)、 日本アイソトープ協会、“主任者のための放射線管理の実際”、p.145、日本アイソトープ協会、東京(1987)

(5)生物学的半減期: 生物個体および器官内にとりこまれた放射性物質が、体外への排出などの生物学的過程で系外に出て行くとき、 はじめに存在していた放射性物質の量の半分が排出されるまでの時間をいう。 系外への排出は、だいたい指数関数的におこなわれるので、この値があたえられる。

註:人体内放射性物質の減少は、同時に放射性核種自身の半減期(物理的半減期ともいう)によっても起こるから、 全体としては、次式で表される実効半滅期で滅少する。


\frac{1}{物理的半減期} + \frac{1}{生物学的半減期} = \frac{1}{実効半減期}

辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.104、日刊工業新聞社、東京(1989)