第36回 放射線の測定及び放射線障害の防止に関する技術

放射線の測定及び放射線障害の防止に関する技術

第1問

次の文章の空欄に入る適切な語句又は数値を番号とともに記せ。 なお,同じ番号の空欄には同じ語句又は数値が入る。

(1) 中性子は電気的に[①電荷]を持たないため[②直接]電離は起こさないことから [①]を持つ粒子とは異なった方法で測定される。 検出効率は一般的に[③]く,[①]を持たないことにより [④電場(クーロン力]の影響を受けないので,低エネルギーであっても[⑤原子核] の近くにまで接近することが[⑥可能]である。 よって[⑤]との反応が起こる確率は[⑦大き]いことになる。 [⑧]い中性子と[⑨]い中性子はその特徴が大きく異なり, 反跳粒子のエネルギーが[⑩]すぎると陽子反跳法が利用できない [⑨]い中性子原子核の近くにいる時間が[⑪]くなるので [⑤]反応の確率は一般的に[⑦]くなり,[⑤]反応を利用する方法が主体となっている。

(2) 作業環境中の中性子は一般に[⑫中性子から[⑬14]MeV程度の [⑧]い中性子まで広いエネルギーの分布を持っている。 また粒子フルエンスからの線量当量への換算係数は中性子エネルギーにより [⑦]く変化する。 人体に対して[⑧]い中性子が入射した場合は主に[⑭水素]原子との [⑮弾性散乱]反応によって,そのエネルギーを失い,[⑫]中性子となる。 この[⑫]中性子の測定にはB-10との[⑯10B(n,α)7Li]反応を利用した検出器が良く使われる。

(3) 今,ここに標準状態の組織等価気体が封入された1 mm厚の人体組織等価物質からなる 内径10 cmの球形をした電離箱がある。 この電離箱に対して数MeVの中性子による荷電粒子平衡が成り立つとしたとき, 電離による電流値がQ(A)を示した場合における組織に対する吸収線量率を求める場合は, 電離箱に封入されている気体が組織等価物質であることから 吸収線量率は組織吸収線量率と同一と考えて,まず, 充填されている気体の質量としてM(g)を求め, このときの組織等価気体に対するW値を34(eV), 電子の電荷を1.6×10-19(C)とすると, 電離箱に示された電流値Q(A)から単位時間当たりに吸収するエネルギー量を求める。 これらの関係から,求めるべき吸収線量率X(Gy・s-1)は[⑰3.4×104 Q/M(Gy・s-1)]となる。

解説: Q(A)の電流は、1秒間当たりQ/(1.6×1019)個のイオン対が生成していることである。 1個のイオン対をつくるに要する平均のエネルギーは、W×1.6×10-19(J)である。
したがって、組織等価物質の単位質量当たりエネルギー吸収率、すなわち、吸収線量率D(Gy/s)は、


D=\frac{ Q/1.6\times10 ^ {-19}\times W\times 1.6\times 10 ^ {-19} \textrm{ [J/s} }{ 10 ^ {-3}M \textrm{ [kg]}} =10 ^ {3} WQ/M =34\times10 ^ {3}Q/M \textrm{ [Gy/s]} ] すなわち..

D = 3.4×104 Q/M (Gy・s-1)

なお、ここでは組織等価気体の種類が示されていないので気体の質量Mは計算できない。 この種の気体としては、CH4 64.4%、CO2 32.4%、N2 3.2%などがある。

第2問

次の(1)から(10)までの問の   印で示した語句が文章中で正しく使われている場合は ○印を,違っている場合は×印を付け適切な語句又は数値を番号とともに記せ。

(1) 線量計α線の測定としてn型シリコンの表面に金を蒸着した表面障壁型が使われている。

解答例:× アルファ線スペクトロメータ(適当な名前がないが、強いて書けば)

(2) 放射性液体廃棄物の処理法の一つに溶液中の放射性物質を溶媒と分離させ, 廃棄物の容積を減容する濃縮法がある。

解答例:

(3) 電離箱の両極に電圧を加えていくと電離イオンのために回路に電流が流れる。 この電離電流は両極に加えた電圧が低い場合は再結合する。

解答例:× 電子-イオン対 (電流が再結合する事はなく、電子とイオンが再結合する)

(4) γ線のスペクトル測定において複数のγ線が同時に全吸収されたとき, これらのγ線エネルギーの和に相当する位置に現れるピークをエスケープピークという。

解答例:× サムピーク

(5) 線源から計数管に遠ざかる方向に出た放射線が,線源の支持体と散乱を起こすことで, 計数管に入射する現象はフェーディクングである。

解答例:× バックスキャタリング

(6) β線のエネルギー測定に適しているNaI(Tl)を利用すると容量が大きいものが作製でき, 高い計数率を得ることができる。

解答例:× γ線

(7) アラニ線量計放射線照射によって生成されるラジカルについて 電子スピン共鳴を利用することで100 Gy以上を評価するのに適している。

解答例:

(8) 検出器で得られるパルス波高分布を検出器による中性子への応答関数を用いることで 中性子のエネルギースペクトルに変換する方法に放射化法がある。

解答例:× アンフォールディング (unfolding)

(9) Co-60のγ線をしゃへいする場合,しゃへい物の厚さと密度の積が同じで有れば, 鉛やコンクリートを用いてもしゃへい効果は変わらない。

解答例:× 半価層

(10) GM計数管の計数率が高くなると数え落としが生じる。 分解時間を0.2 msecの場合に毎秒1000カウントを計測すると10%の数え落としとなる。

解答例:× 20
newclears注: 真の計数率をn0、 分解時間をτとすると、 計測された計数率nは n = n0 / (1+n0τ) と書ける。数値を代入すると n = 1000 / (1+1000×0.2×10-3) = 833.3 となり、16.67%の数え落としとなる。これを有効数字1桁に丸めると20%となる。

第3問

次の文章の空欄に入る適切な語句又は数値を番号とともに記せ。 なお,同じ番号の空欄には同じ語句又は数値が入る。 また説明を求めている問については200文字以内で答えよ。

(1) トリチウム水は摂取後に人体の[①内水(または自由水)]に取り込まれることにより人体の[②軟組織]に均ーに分布する。 この体内に取り込まれたトリチウム水の一部は組織内で[③有機結合(または有機化)]し, 体内組織の[④代謝]にもよるが,内部被ばくをもたらす寄与分は大凡10%と仮定される。 それ以外のトリチウム水については,成人の実効半減期は約[⑤10]日であり,[⑥全身※]に残留する。 ※⑥は「体内」でも正解かもしれない。

(2) ある放射線業務従事者が放射線作業中にトリチウム水蒸気を吸入摂取した場合の摂取量と実効線量の評価は, [⑦バイオアッセイ(または排泄物モニタリング)]法により尿試料を用いて測定される。 この他,簡便な線量評価の方法としては,[⑧呼気]を用いる推定法がある。 放射線業務従事者がトリチウムを含む水蒸気を吸入摂取した場合等に, [⑧]中に含まれるトリチウム濃度を測定することで体内量を推定することが可能である。 この方法としてはバブラー又は[⑨コールドトラップ(または冷却凝縮捕集)]法等により,[⑧]を捕集する。 捕集した[⑧]水はバイアル瓶に入れ,水量を測定した後,[⑩液体シンチレーションカウンタ]で測定される。

(3) トリチウム雰囲気で作業を行う場合の有効な防護服の特徴について記せ。

解答例:

  • トリチウムの吸入摂取を防止し、清浄な空気を呼吸できるようにエアラインあるいは自給式呼吸器を備えていること。
  • トリチウムの経皮摂取を防止するため、全身を覆う構造であること。
  • 防護服の材質はトリチウム水に対する透過が少ないこと。
  • トリチウムの侵入を防止するため、防護服内が加圧できること。
  • 空気冷却ができること。
  • 通信機能がついていること。
  • 着脱が容易であること。
  • 耐久性があること。
  • 除染あるいは洗浄が可能であること。

第4問

次の文章中の空欄に入る適当な語句を下欄から選び,番号とともに記せ。 なお,同じ番号の空柵には同じ語句が入る。

放射線障害の感受性は組織によって異なるが,一般的に次の原則が成り立っている。 この原則は発見者の名前からベルゴニー・トリボンドーの法則と呼ばれている。
・細胞は分裂頻度が高いほど放射線感受性が[①高い]。
・将来[②長期にわたって]分裂する細胞は放射線感受性が高い。
・形態的あるいは機能的に[③未分化な]細胞は放射線感受性が高い。

ベルゴニー・トリボンドーの法則から予測される通り, 血液中の成熟した(即ち分化しきった)血球細胞の放射線感受性は[④低い]。 しかし成熟した血球細胞であっても[⑤リンパ球]だけは例外的にベルゴニー・トリボンドーの法則に反する感受性を示す。 一方,[⑥骨髄]に存在し,あらゆる血球細胞に分化しうる[⑦多能性幹細胞]は, [③]細胞であることからベルゴニー・トリボンドーの法則から予測される通り放射線感受性が高い。 従って[⑥]が照射されるとすべての血球細胞が減少し[⑧再生不良性貧血]になることがある。 [⑧]になると血小板の減少により[⑨出血]を引き起こし, また白血球の減少により[⑩感染症]をともなう危険が生ずる。

(イ)感染症 (ロ)肝臓 (ハ)再生不良性貧血 (ニ)低血圧 (ホ)未分化な (ヘ)短期間だけ (卜)リンパ球 (チ)赤血球 (リ)骨髄 (ヌ)高い (ル)多能性幹細胞 (ヲ)低い (ワ)出血 (カ)長期にわたって (ヨ)分化した (タ)白血病

第5問

次の事項について簡単に説明せよ。

(1) 10日則 (10-day rule)
(2) 決定器官
(3) 腺窩(クリプト)
(4) 放射線宿酔
(5) 確定的影響

解答例:

(1) 10日則 (10-day rule)
過去に「妊娠が可能な年齢の女性の下腹部や骨盤を含むX線検査は、月経開始後10日間に限って行なう」 とされていた規則。現在この規則は守る必要はないことが分かっている。

解説: かつて、妊娠初期(特に着床前期)の胎児が放射線被曝に高感受性であると考えられたため、 「妊娠が可能な年齢の女性の下腹部や骨盤を含むX線検査は、月経開始後10日間に限って行なう」 ことを1962年の国際放射線防護委員会(ICRP)勧告に取り入れられた。 しかし、その後の研究で、受胎後3週以内の胚については線量にかかわらず奇形発生の心配がないこと、 それ以降の時期でも奇形の発生には閾値(ICRP1990勧告では、100 mGy)があることが分かり、 心配のし過ぎであるとして1980年代半ばには事実上取り消された。 現在でも、胎児への無用の被曝を避けるという理由で10日則が正当化されることがあるが、 奇形児が生まれることを恐れて必要なX線検査を受けるのを躊躇したり、 人工妊娠中絶を選択させる圧力となる弊害が大きい。.

(2) 決定器官
全身が外部被曝した場合に、放射線によって影響を受けやすく、また身体機能上重要なために、 放射線防護上特に注目する必要のある臓器。 決定臓器ともいう。 造血器官、生殖腺、目の水晶体、肺、甲状腺、皮膚などがこれに相当する。

(3) 腺窩(クリプト)
小腸で栄養などを吸収する役割を担う絨毛(じゅうもう)細胞が作られる場所。 絨毛細胞は、小腸粘膜の絨毛の基底にある腺窩で幹細胞から作られ、絨毛壁に沿って上部へ移行し、 2~3日後に先端で脱落して寿命を終える。 小腸が放射線を浴びると腺窩の幹細胞の細胞分裂が停止し、新たな絨毛細胞が供給されないのに、 脱落は継続するため、被曝後2~3日で下痢が始まる。

(4) 放射線宿酔
全身、あるいは身体の広い範囲に比較的短時間に高い線量の放射線を被曝した場合に 自律神経系の反応によって起こると考えられる神経症状の一種で、 嘔気、食欲不振、全身倦怠感などの二日酔いに似た症状。 現れるまでの時間や程度は被曝線量に依存する。 放射線治療の副作用として見られるほか、致死線量の被曝では例外なく起こるとされている。

(5) 確定的影響
放射線の人体影響のうち、ある程度の線量を浴びないと現れない影響。 非確率的影響ともいう。 発癌以外の全ての身体的影響、すなわち放射線火傷、白内障不妊症、 胎児への被曝による奇形発生や精神発達遅れなどが含まれる。 それぞれの影響が現れるのに必要な最低線量を閾値という。 閾値は影響の種類によって異なり、閾値を越えると線量に比例して影響が現れる頻度や症状の程度が大きくなる。

谷内 茂康; 中村 仁一; 天谷 政樹; 中島 邦久; 小室 雄一; 中島 勝昭; 小林 泰彦; 佐藤 忠; 須賀 新一; 野口 宏; 笹本 宣雄; 櫛田 浩平 第36回核燃料取扱主任者試験問題・解答例集,2004年, JAERI-Review 2004-020, https://doi.org/10.11484/jaeri-review-2004-020