第25回 核燃料取扱主任者試験 放射線の測定および放射線障害の防止に関する技術

第1問

次の各問について.それぞれ正しい答えを1つだけ選べ。

(1) 次の用語のうち,バイオアッセイ法による内部被ばく線量の評価に直接関係のない用語はどれか。

  1. 残留関数
  2. 排泄率
  3. 呼吸率
  4. 崩壊定数
  5. 摂取経路

解答例 ③呼吸率

註:1回の摂取で単位量あたり、1日あたり、全排せつ系を通じて排せつされる割合を排せつ率、全身に残留する割合を残留関数という。 原子力安全技術センター、“内部被曝における線羹当量の測定・評価マニュアル”、p.105、原子力安全技術センター、東京(1988)

(2) 液体シンチレーションカウンタにより測定する場合に問題となるクエンチングについて,クエンチャーに該当しないものはどれか。

  1. 化学薬品
  2. 温度
  3. 酸素
  4. 着色
  5. 溶質濃度

解答例 ②温度

註:クエンチングには、濃度クエンチング、酸素クエンチング、化学クエンチング、着色クエンチングがある。 石河寛明、“最新液体シンチレーション測定法”、南山堂、東京(1992)

(3) 次の自然放射牲核種のうち実効線量当量に最も大きく寄与するものはどれか。

  1. 14C
  2. 40K
  3. 87Rb
  4. 232Th系列核種
  5. 238U系列核種

解答例 ⑤238U系列核種

註:第23回第1問解答参照 ・草間朋子、別所遊子、太田勝正、甲斐倫明、“放射線防護の考え方”、p.89、日刊工業新聞社、東京(1990) ・日本アイソトープ協会、“アイソトープ手帳”、p.131、丸善、東京(1989)

(4) 次の測定対象と検出器の組み合わせのうち,適切でないものはどれか。

  1. アルファ線エネルギー測定 -- グリッド電離箱
  2. ガンマ線スペクトル測定 -- Ge(Li)半導体
  3. 医療診断用ガンマカメラ -- ビスマスゲルマネート (BGO)
  4. トリチウム表面汚染測定 -- 端窓型GM計数管
  5. 低エネルギーガンマ線スペクトル測定 -- Si(Li)半導体

解答例 ④トリチウム表面汚染測定 -- 端窓型GM計数管

註:トリチウムβ線はエネルギーがきわめて低い(約19 keV)ため、GM管の窓で吸収され、測定できない。 BGOは、NaIの進歩したもの、と思えばよい。

(5) 次の量と次元の組み合わせのうち,誤りのあるものはどれか。 ただし,Eはエネルギー,Mは質量,Lは長さ,Tは時間の次元を表すものとする。

  1. エネルギーフルエンス率 -- E・L-2・T-1
  2. 質量吸収係数 -- M-1・L-2
  3. LET -- E・L-1
  4. 吸収線量 -- E・M-1
  5. 崩壊定数 -- T-1

解答例 ②質量吸収係数 -- M-1・L-2

註: 
質量吸収係数 = \frac{線吸収係数 (cm^ {-1})}{密度 (g/cm^ {-3})} = L^ {-1}\times L^ 3\cdot M^ {-1} = L^ 2\cdot M^ {-1}

第2問

作業室床をスミア法により汚染検査したところ,全域にわたって137Csによる一様な汚染が検出された。 採取したスミア試料を計数効率10%,自然計数率が0.6 cpsGM検出器でベータ線測定したところ,55.6 cpsであった。 スミア試料の拭き取り面積100 cm2,拭き取り効率50 %及びスミア試料の自己吸収率を50 %としたとき, 次の問について計算過程を示して答えよ。

(1) 作業室床の表面密度 (Bq/cm2) を求めよ。ただし,数え落としの補正は必要ない。

解答例


表面汚染密度 (Bq/cm^ 2) = \frac{ 計数率(cpm)-自然計数率(cpm) }{ 100\times拭き取り効率\times計数効率\times自己吸収率 }

\frac{ 55.6(cpm)-0.6(cpm) }{ 100\times0.5\times0.1\times0.5 } = 22(Bq/cm^ 2)

(2) 作業室床を除染しようとするとき,作業室内の空気中放射能濃度を求めよ。 ただし,除染作業による再浮遊係数を5×10-5 cm-1とする。

解答例


表面汚染密度(Bq/cm^ 2)\times再浮遊係数 = 22(Bq/cm^ 2)\times(5\times10^ {-5} cm^ {-1})

= 1.1 \times 10^ {-3} (Bq/cm^ 3)

(3) 除染作業を行う者の呼吸する空気中の放射能濃度を空気中濃度限度の100分の1以下にするためには, 防護係数(=作業環境中放射能濃度/吸気中放射能濃度)いくつ以上の呼吸保護具を着用させる必要があるか。 ただし,137Csの空気中濃度限度は2×10-3 Bq/cm3とする。

解答例


防護計数 = 空気中放射能濃度 (Bq/cm^ 3) \div 呼気中放射能濃度 (Bq/cm^ 3)

= (1.1\times10^ {-3} (Bq/cm^ 3)) \div (2\times10^ {-3} (Bq/cm^ 3)\times10^ {-2})

註:日本工業標準調査会 審議、JIS Z 4504“放射性表面汚染の測定方法”、日本規格協会(1993)

第3問

次の各文章には1箇所ずつ誤りがある。誤りを含む下線部の番号を指摘してその理由を簡単に記せ。

(1) 個人線量計の基本測定器としてフィルムバッチ,熱蛍光線量計(TLD),蛍光ガラス線量計がある。 これらの線量計はいずれも数ヵ月間の積算線量当量の測定が可能であり,線量当量の繰り返し読み取りも可能である。

解答例

TLDは、読み取り1回かぎりである。読み取りの際、データが消去されて再使用に供される。 フィルムバッジ、蛍光ガラス線量計は、保存可能であり、繰り返し読み取りができる。当然、再使用はできない。

(2) フード,グローブボックス及びセルはいずれも放射性物質の封じ込め設備である。 フードの前面窓の半開時における風速は5 m/s以上必要であり,グローブボックスは気密性を維持するため常に負圧を保つ必要があり, セルは大量の放射性物質を取り扱うので,マニプレータホール等からの放射線漏洩に注意する必要がある。

解答例

×5 m/s → ○ 0.5 m/s

この風速では、フード床面上の物体が吹き飛ぶものもあり、作業ができない。かえって危険である。

(3) 低バックグラウンド用測定器の遮へい体として,外側に10 cm厚程度の鉛,その内側にカドミウム板, 銅板及びアクリル板を順次内張りしたものがある。 これらの構造材の役割は,鉛が外部からのガンマ線の遮へい,カドミウム板が主に中性子線の遮へい, 銅板がカドミウムのKX線の遮へい,アクリル板が銅のKX線の遮へい,2次電子の遮へい及び汚染の防止である。

カドミウムまたは銅板を、鉛のKX線 (75 keV) の遮蔽に用いる

註:KX線のエネルギーは,鉛約75 keV,カドミウム約23 keV,銅約8 keVである。 カドミウム板は,熱中性子線の遮蔽にも有効である。

註:科学技術庁、“ゲルマニウム半導体検出器を用いた機器分析法”、日本分析センター、千葉(1979) ・飯田博美ほか編、“詳解放射線取扱技術”、日本原子力産業会議、東京(1990)

(4) 大気中に放出された放射性物質による環境影響を監視するため,農作物,土壌,牛乳,牛肉,飲料水,河川水,湖沼水などの 環境試料中の放射能調査が定期的に実施されている。

牛肉、河川水、湖沼水は指針にない。 代わりに、大気中浮遊塵、指標生物(松葉、よもぎなど)があるが、問題中“など"に含めることはできる。

註:原子力安全委員会“環境モニタリングに関する指針” ・科学技術庁原子力局監修、“原子力ポケットブック”、日本原子力産業会議、東京(毎年発行) ・山県登監修、“環境放射線ハンドブック”、情報センター出版会、東京(1985)

第4問

内部被ばくに関する次の文章中の空欄の部分に入る適当な語句を記せ。

放射性物質が体内に取り込まれる主な経路には,[①経口],[②経皮膚],[③経気道]がある。 職業上体内汚染を生じる可能性の高い経路は3Hの場合を除き[③経気道]摂取である。 粒子状の放射性物質による汚染空気を[③経気道]摂取した場合,口または鼻腔に入った放射能の総量を[④摂取量]という。 このうちの一部は呼気とともに排出されるが,吸入直後に呼吸気道内に沈着した量を[⑤負荷量]という。

プルトニウム(Pu)の場合,[⑤負荷量]のうち,気管,上部気管支の内壁に沈着したPu粒子は内壁の[⑥繊毛]の活動によって気管上部に運ばれ, 大部分が数日以内に[⑦胃腸管]に送り込まれる。 [⑦胃腸管]に入ったPuはほとんど吸収されずに[⑧ふん]に排泄されるが,[⑨]に沈着したPu粒子は徐々に吸収され,[⑩肺胞壁]を経て血中に移行する。 移行する速度は[⑪化学形]によって異なり,[⑨]からPuが消失する速度は硝酸Puの方が酸化Puより[⑫]い。 血中に移行したPuは主として[⑬肝臓]と[⑭]に沈着する。

Puは[⑮放射能]が高く、[⑯エネルギー]の大きな[⑰α線]を放出するため,組織の受ける線量は[⑱β線]放出核種と比較すると大きい。 一方,同じ[⑰α線]放出物質である天然ウランの場合,[⑲放射線放射能]毒性よりも[⑳化学的]毒性が中心的である。 その理由は[⑮放射能]の差による。

註:ウランは、腸管内で可溶性で、消化管吸収がある点に差がある(可溶性ウランの吸収率は5%)。 化学的毒性については、比放射能の高さのため、比較のしようがない。 また、肺に沈着したプルトニウムには、リンパ節を通って血中に移行するものもある。 松岡理、“プルトニウムの安全性評価”、日刊工業新聞社、東京(1993) ・辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.42, 103、日刊工業新聞社、東京(1989)

第5問

放射線防護における次の用語について簡単に説明せよ。

(1)組織線量当量、 (2)酸素効果、 (3)年摂取限度 (ALI)、 (4)呼吸器モデル、 (5)線量率効果

解答例 (1)組織線量当量: 一般の組織(器官)の線量当量をいう。 非確率的影響の発生を防止するために年間500 mSvの被曝限度が与えられている。 外部被曝の評価では、皮膚および水晶体の線量当量を70 μm線量当量および3 mm線量当量で近似するのに対し、実効線量当量を同様に1 cm線量当量で近似する。 註:原子力安全技術センター、“内部被曝における線量当量の測定・評価マニュアル”、p.75、原子力安全技術センター、東京(1988)

(2)酸素効果: 放射線を受けて細胞死が起こるとき、照射中に細胞周囲の酸素分圧が高いほうが放射線感受性が高い。この効果をいう。

註:酸素分圧の差による細胞の感受性をあらわす指標がある。

OER=酸素増感比=無酸素状態である効果を生じるのに必要な線量/有酸素状態で同一効果を生じるのに必要な線量

辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.63、日刊工業新聞社、東京、(1989)

(3)年摂取限度 (ALI): 放射性核種の摂取による預託線量当量が年限度(実効線量当量50 mSvあるいは紐織線量当量500 mSv)を生じるような量(摂取量)をいう。 核種、化学形、摂取経路の違いにより異なった値をとる。 数値が告示別表に与えられているので、内部被曝評価において、摂取量から線量当量を計算するのに用いることができる。 註:辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.42, 150、日刊工業新聞社、東京(1989)

(4)呼吸器モデル: 内部被曝線量を評価する目的で、吸入された放射性核種の呼吸器系内における挙動(沈着および排除)を記述したモデル。 ICRPが与えた。 このモデルによれば、呼吸器系は、(1)鼻、咽喉、(2)気管、気管支、(3)肺胞部の3領城に区分され、吸入化合物は、肺胞部における残留の程度に応じて、 クラスD,クラスW,クラスYに区分される。 註:原子力安全技術センター、“内部被曝における線量当量の測定・評価マニュアル”、p.94、原子力安全技術センター、東京(1988)

(5)線量率効果: 単位線量あたりの生物学的影響は、一般に線量率が低くなると小さくなる。 このように、線量率により影響量が変化することを、線量率効果という。 低線量率下で影響量が減少するのは、回復効果が起こるためといわれる。 註:辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.40、日刊工業新聞社、東京(1989)

出典: 内田 正明; 吾勝 永子; 荒井 康夫; 湊 和生; 末武 雅晴; 高田 和夫; 井川 勝市, 核燃料取扱主任者試験問題解答例集, JAERI-Review 94-001, 1994年, http://dx.doi.org/10.11484/jaeri-review-94-001