第24回 核燃料取扱主任者試験 放射線の測定および放射線障害の防止に関する技術

第1問

次の各文章について,正しいものには○印を,誤っているものには×印をつけ,誤っている理由を簡単に説明せよ。

(1) 作業環境の1センチメートル線量当量率 (Sv/h) を測定するには, 空気吸収線量率に対してエネルギー特性のよい電離箱サーベイメータの測定値 (Gy/h) をそのまま使用するとよい。

解答例: × 1 cm線量当量率表示の電離箱式サーベイメーターを用いる。 1 cm線量当量対応型という。新しいものは、すべてそのようになっている。

註:空気吸収線量率ではなく、照射線量率の測定において、竜離箱のエネルギー特性がよいのは事実であるが、 低エネルギー領域で、1 cm線量当量率との対応に若干のずれがある。 空気吸収線量率が必要になるのは、β線による被曝の場合であり、70 μm線量当量 (H70μm) が問題になる。 辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.147、日刊工業新聞社、東京(1989)

(2) 1.02 MeV以上のエネルギーを有するγ線のエネルギースペクトル分析を行うと, 所定のエネルギーの光電ピーク以外に0.511 MeVだけエネルギーの低い位置にも光電ピークが現れる。 これは,γ線と物質との相互作用のうち電子対生成の影響によるものであり,エスケープピークと呼ばれる。

解答例:

註:電子対生成で発生した+β線が電子と結合して消滅するときに、0.511 MeVのγ線を2本放出する。 2本のγ線がいずれも検出器外に逃れた場合には、1.022 MeV、2本のうち1本が検出器外に逃れ、 一本が検出器内でエネルギーを失った場合には0.511 MeVだけエネルギーの低いところで、全エネルギー吸収ピークが現れる。 それぞれダブルおよびシングル・エスケープ・ピークという。 日本アイソトープ協会編、“ラジオアイソトープ講義と実習"、p.70、丸善、東京(1975)

(3) 照射線量 C/kg はγ線の空気に対する線エネルギー減弱係数 (cm-1) と線源からの距離の2乗に反比例し, 放射能強度 (Bq) に比例する。

解答例: ×

γ線のエネルギー、γ線の空気に対する線エネルギー吸収係数、線源の放射能強度 (Bq) に比例し、 線源からの距離の2乗に反比例する。 註:日本アイソトープ協会編、“ラジオアイソトープ講義と実習”、p.87、丸善、東京(1975)

(4) γ線の遮へい計算においてビルドアップ係数は重要である。 このピルドアップ係数は,γ線のエネルギーには関係なく,線源の照射野の広さ,遮へい体の厚さ,遮へい体の密度などに関係する。

解答例: ×

γ線のエネルギーに関係なく→“に関係なく”を取る。

ビルドアップ係数は、X線γ線の散乱による影響を補正するための係数で、 放射線のエネルギー、放射線の広がり(ビーム状であるかないか)、透過した物質の厚さや密度などに関係する。 理論的に求めるのは困難である。

註: 
I = I _ 0 B e^ {-\mu x}

I0:入射X線γ線の強さ、 I:同じく遮蔽体厚さ x におけるX線γ線(一次放射線+散乱放射線)の強さ、 μ:線減弱係数、 B:ビルドアップ係数

ビルドアップ係数=(一次放射線+散乱放射線)の線量/一次放射線の線量

(一次放射線とは散乱していない成分をいう)

(5) γ線のエネルギー分析にはGe半導体検出器が使用され,α線のエネルギー分析には表面障壁型Si半導体検出器が使用される。 また,β線のエネルギー分析には4πガス比例計数管が使用される。

解答例: × 4πガス比例計数管→Liドリフト型Si検出器

4πガス比例計数管は、原理的にβ線エネルギーの測定はできない。

註:Al吸収板のセットを用いても、β線の最大エネルギー推定は可能である。 β線は連続スペクトルで最大エネルギーが、放出核種の特性を示すものとして測定される。 比例計数管ではスペクトル測定はできない。 液体シンチレーション・スペクトロメーターでもスペクトル測定はできるが、 クエンチングの影響があるので、エネルギーの確定は難しい。 木村、阪井訳、KNOLL著“放射線計測ハンドブック、第2版”p.497、日刊工業新聞社、東京(1991)

(6) プルトニウム用肺モニタにはホスウイッチ検出器が有効である。

解答例:

註:100 keV以下の低エネルギーX, γ線を検出する肺モニター用ホスウイッチ検出器は、 NaI(Tl) と CsI(Tl) を組合せ、それぞれのシンチレータによる波形の違いを利用してバックグラウンドを減らすようにしたものである。 239Puからは約13 keV (15%)、241Puの娘核種241Amからは約90 keVのγ線が放出される。

第2問

次の問に答えよ。

(1) 個人被ばく管理用測定器のフィルムバッジとTLDバッジについて,それぞれ長所を3つ,短所を2つずつ記せ。

解答例

  • フィルムバッジ長所:データの保存性がよい、こわれにくい、小型軽量、フィルターで放射線の種類とエネルギーを判別できる、安価。 集積線量測定用。
  • フィルムバッジ短所:繰り返し使用はできない、退行、カブリがある,方向性あり、現像に手間がかかる。
  • TLD長所:繰り返し使用ができる温度に注意すれば退行は少ない、線質特性がよい。 生体等価のものは(低エネルギーでも過大なレスポンスがなく)個人線量計として適する。 高感度のものは数10 μSvから100 Svの広範囲で直線性が保たれる。
  • TLD短所:データの保存性がない、加熱の影響を受ける、素子ごとの感度が一定しない、ガラス封入素子はこわれやすい。

辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.158、日刊工業新聞社、東京(1989)

(2) 床や器具の表面汚染検査の方法について記し,併せて当該検査法に使用できる測定器の種類をα線用とβ線用について1種類ずつ記せ。

解答例

間接法(スミヤ法)と直接法(サーベイ)がある。

スミヤ法は、直径約2.5 cmのおたまじゃくし形の濾紙で検査対象を拭き取り、濾紙に付着した、遊離性の放射性汚染を測る。

註:日本工業標準調査会 審議、JIS Z 4504“放射性表面汚染の測定方法”、日本規格協会(1993)、 江藤ほか、“放射線の防護”p.328,丸善、東京(1972)

直接測定法(サーベイ法)では、表面汚染検査用のα線サーベイメーターで表面を測る。 α線用は、一般に計数率が低く、バックグラウンドも低いので、時間をかけて測るのが肝要である。 またα線検出器の窓は、α線の吸収が大きくならないように薄い材料で作ってあるので、取扱注意である。 α線の飛程も考慮して、汚染源からの距離を短くとる必要がある。 サーベイ法は汚染検査用のサーベイメーターで、遊離性および固着性の汚染を同時に測る。

α線用測定器:ZnSシンチレーションサーベイメーター、ガス充填型比例計数管式汚染検査計

β線用測定器:大口径GM式表面汚染測定用サーベイメーター、ガス充填型比例計数管式汚染検査計

第3問

放射性廃棄物に関し,次の各文章のカッコ内に適切な語句を当てはめ文を完成せよ。

(1) 気体廃棄物の処理には,粒子状放射性物質に対して(①HEPAフィルター),放射性よう素に対して(②活性炭フィルター)を使用してろ過,吸着捕集し, 浄気して処理する。浄気後の排気は環境への影響をできるだけ少なくするため,(③モニターしながら)排気塔から放出される。

(2) 液体廃棄物の処理法には,(④蒸発濃縮法),(⑤イオン交換法),(⑥凝集沈殿法),希釈法などがある。 (④蒸発濃縮法)は除染係数が104~108程度と高いが,設備費や処理費が高い。 (⑤イオン交換法)は除染係数が102~104程度得られ,装置の取扱も簡単であるが, 非放射性の塩濃度の高いものは処理できない。 (⑥凝集沈殿法)は除染係数が10~102程度と低いが,大量の廃液処理が可能である。

(3) 固体廃棄物は,可燃性廃棄物と不燃性廃棄物にわけ,可燃性廃棄物は(⑦焼却)して減容するが, 揮発性の放射性物質を含むものは不燃性廃棄物と同じ扱いとなる。不燃性廃棄物は(⑧圧縮処理)して減容する。

(4) 使用済燃料の再処理から発生する高レベル廃棄物は現在最も確実な方法として(⑨ガラス固化)が試験されている。 また,超ウラン元素等の長半減期核種の処理法として,原子炉,粒子加速器などを使用した(⑩消滅処理)が検討されている。 この方法は,長半減期核種を短半減期核種または安定核種にしようという試みである。

第4問

次の文章の空欄内に入る適当な語句を番号とともに記せ。

放射線損傷は,生体が放射線を受けたのち,経時的に物理的変化,化学的変化,そして生物学的変化の過程を経て発現する。

物理的変化の過程では,放射線を受けた系(生体の一部又は全部)内に[①励起]または[②電離]の状態の分子(又は原子)を生成する。

化学的変化の過程では,これらの生成物が他の分子と反応して活性[③化合物]やラジカル等を生じ, 分子的変化となって系は準安定な状態に達する。

生物学的変化の過程では,これらの分子的変化が損傷に進展するか,[④回復]するかは系の状態に左右されるが, 損傷としては細胞分裂の[⑤遅延]、細胞[⑥]、[⑦変異]細胞の発現等が挙げられ、ある期間を経て症状が現れることがある。 また、[⑧生殖]細胞に誘発された[⑨遺伝子損傷]は,次の世代に[⑩遺伝的]影響を与える可能性がある。

註:辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.57、日刊工業新聞社、東京(1989)

第5問

次の事項について簡単に説明せよ。

  1. 全身計数装置 (Whole-body Counter)
  2. 預託線量当量
  3. 実効半減期 (Effective Half-life)
  4. RBE (Relative Biological Effectiveness)
  5. 放射線による晩発障害

解答例

(1)全身計測装置: 大型放射線検出器と人体が入る遮蔽により、人体内の、γ線またはX線を放出する放射性物質を測る装置。 内部被曝線量評価のための体外測定法のひとつで、全身の残留放射能を測定する。 γ線放出核種に適する。体内分布の時間的変化も追跡できる。ただし、設備に費用がかかる。 体内、体外の汚染を区別するため、シャワー設備等が必要である。

註:辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.161、日刊工業新聞社、東京(1989)、 原子力安全技術センター、“内部被曝における線量当量の測定・評価マニュアル”、p.22、原子力安全技術センター、東京(1988)

(2)預託線量当量: 内部被曝において、ある量のある放射性物質を体内に1回摂取したとき、その後50年間に、 ある組織または器官が被曝する線量当量。

註:辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.43、日刊工業新聞社、東京(1989)、 原子力安全技術センター、“内部被曝における線量当量の測定・評価マニュアル”、p.73、原子力安全技術センター、東京(1988)

(3)実効半減期: 体内の器官に沈着した放射性核種が、物理的過程(放射性壊変)および生物的過程(排せつ)の両方によって最初の量の半分に減少するまでの時間。 3種の半減期の関係はつぎの式で与えられる。


\frac{1}{物理的半減期} + \frac{1}{生物学的半減期} = \frac{1}{実効半減期}

註:日本アイソトープ協会編、“ラジオアイソトープ講義と実習”、p.245、丸善、東京(1975)

有効半減期ともいう。 辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.104、日刊工業新聞社、東京(1989)、 日本アイソトープ協会、“アイソトープ手帳”、p.8、丸善、東京(1989)

(4)RBE: 生物学的効果比。線質係数とほぼ等しい。 吸収線量が同じでも、放射線の種類やLETによって生物学的効果に差があるので、これを区別するための数値。 LETが極端に大きくなければ、LETが大きい放射線ほどRBEは大きくなる。


\textrm{RBE} = \frac{ある効果を生じるのに必要な基準放射線の吸収線量}{同じ効果を生じるのに必要な試験放射線の吸収線量}

基準放射線は、X線またはγ線(水中のLET 3 keV/μm,線量率0.1 Gy/min)、効果とは生物学的効果(染色体異常など)である。

註:日本アイソトープ協会編、“ラジオアイソトープ講義と実習”、p.210、丸善、東京(1975)

(5)放射線による晩発障害: 主に確率的障害で、被曝ののち長い潜伏期を経てあらわれる放射線障害。白血病、固形ガン、白内障などがある。

註:辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.66、日刊工業新聞社、東京(1989)

出典: 内田 正明; 吾勝 永子; 荒井 康夫; 湊 和生; 末武 雅晴; 高田 和夫; 井川 勝市, 核燃料取扱主任者試験問題解答例集, JAERI-Review 94-001, 1994年, http://dx.doi.org/10.11484/jaeri-review-94-001