第24回 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第24回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第1問

以下の(1)~(5)に示す項目群は,それぞれ核燃料に関係した特性値,パラメータ及びそれを算出するためのデータ項目である。 例にならい,不足している項目があれば適宜それを定義して補い同様の整理をせよ。

(例)全核反応断面積σt:散乱断面積σs

(答)

  • 項目名 全核反応断面積
  • 関数関係 σt=σs+σa
  • 説明 中性子原子核との相互作用の確率は全核反応断面積σtにより表現される。 σtは,さらに核反応の種類によって散乱と吸収とに分類され,その関数関係は, それぞれの断面積,散乱断面積σsおよび吸収断面積σaの和で表現される。

(1)吸収断面積σa:捕獲断面積σc,分裂断面積σf

解答例

  • 吸収断面積
  • σa=σc+σf+σ(n,p)+σ(n,α)
  • 中性子原子核に散乱されずに吸収される核反応断面積σaは、捕獲されてγ線を放出する(n,γ)反応の捕獲断面積σc、 核分裂を起こす(n,f)反応の分裂断面積σf、陽子を放出する(n,p)反応の断面積σ(n,p)及びα粒子を放出する(n,α)反応の断面積σ(n,α)の和で表現される。 熱中性子の場合には、(n,p)反応及び(n,α)反応の断面積は無視できる。 また、1核分裂中性子発生数νと、1熱中性子吸収当たりの中性子発生数ηとの間には、 η=ν(σf/σa)の関係がある。

[註:炉修講義テキスト,核燃料工学短期講座No.4,原子炉燃料照射挙動の基礎]

(2)無限大炉の中性子増倍率k∞:中性子再生率η,高速中性子核分裂効果ε

  • 無限大炉の中性子増倍率
  • k∞=ηεpf
  • 無限大炉の中性子増倍率k∞は、無限に広い媒質の中で、ある1世代に吸収される熱中性子の総数と、その1世代前に吸収された熱中性子の総数の比で定義される。 上の関数関係は四因子公式と呼ばれ、ηは中性子再生率、εは高速中性子核分裂効果、pは共鳴をのがれる確率、fは熱中性子利用率を表す。

(3)燃料棒の線出力密度q:熱伝導度k,温度T

燃料の線出力密度


\int _ {T _ s}^ {T _ c} k dt = QR^ 2/4 = q/4\pi

燃料の単位体積当たりの発熱をQ(W/m3)とすると、燃料棒内の温度分布は、 燃料ペレットで発生した熱が径方向のみに流れるとした定常1次元の熱伝導の式 
\pi r^ 2 Q = - 2 \pi r k dT / dr
を解くことによって求められる。 上の関数関係は上の式を積分したものであり、Ts,Tcはそれぞれ燃料表面温度、燃料中心温度、Rはペレット半径である。 なお、核熱設計では単位長さ当たりの出力、線出力q(W/m)を用いて表すのが便利である。 ただし、実際の燃料中では発熱量が径方向で一様でないので、右辺に補正因子Fを導入する必要がある。

[註:核燃料工学,三島良績編著,同文書院

(4)酸素ポテンシャル\Delta\bar{G_{O2}}:平衡酸素圧PO2

酸素ポテンシャル


\Delta\bar{G _ {O2}} = RT \ln  P _ {O2}

酸素ポテンシャル、あるいは酸素部分モル自由エネルギーは、気相の平衡酸素圧PO2(atm.)と上の関数関係で結び付けられる。 ここでRは気体定数、Tは絶対温度である。 酸素ポテンシャルは、任意の温度における非化学量論的酸化物の定比性を特性づける。 二酸化物の酸素ポテンシャルはO/M比2.00を境にして大きく変化している。 言い変えれば、O/M比の僅かな変化が、酸素ポテンシャルすなわち酸化能力の大きな変化に結びつく。

[註:炉修講義テキスト,核燃料工学短期講座No.3,原子炉燃料の物性]

(5)はじき出し損傷量dpa中性子フラックスφ(E, t),中性子エネルギーE,時間t

はじき出し損傷量


\textrm{dpa} = \sigma_d t \int_0^ {\infty} \phi (E, t) dE

照射によるはじき出し総数を議論する上では、標的原子当たりのはじき出し数 dpa (displacement per atom) を用いると便利な場合が多い。 はじき出し断面積をσd、エネルギーEとE+dEの間の入射中性子フラックスをφ(E, t)dE、照射時間をtとすると、上の関数関係がある。 はじき出し断面積σdは、格子原子が反跳エネルギーTを得る微分断面積をdσ(E, T)、はじき出し損傷関数をν(T)、しきいエネルギーをTd、 標的原子が得る最大エネルギーをTmとすると、 
\sigma _ d = \int _ {T _ d}^{T _ m} \nu(T) d\sigma (E,t)
で定義される。dpaは粒子によって誘起される理論的はじき出し数であるから、これを用いることにより、異なった粒子による照射効果を同一の基準で比較できる。

[註:原子力材料,講座・現代の金属学 材料編8,日本金属学会]

第2問

燃料の高燃焼度化に伴い各種物性が変化することが予測されるが, 重要と考えられる物性を2つ以上選び,その予測される変化と燃料ふるまいへの主な影響を200~300字程度で概説せよ。

解答例

①酸素ポテンシャルの増加

燃料の高燃焼度に伴い、Puの核分裂の寄与の増加とも相まって、余剰酸素量が増加してくる。 従って燃料のO/U比が増加し、酸素ポテンシャルも増加する。 これに伴い、PCI破損の要因となる被覆管の内面腐食に対する留意が必要となる。

②FPガス放出率の増加

燃料の高燃焼度に伴い、燃料内に保持されるFPガスの相対的な比率が低下して、FPガス放出率が増加する。 その結果、熱伝導度の低いKrやXeがギャップ中に放出され、燃料-被覆管のギャップコンダクタンスが低下し、燃料温度の上昇をもたらす。 また、FPガス放出率の増加は燃料棒内の内圧上昇をもたらす。

③熱伝導度の低下

燃料の高燃焼度に伴い、FPガスの蓄積のみならず、固体状FPの蓄積が燃料の熱伝導度に与える影響も無視できなくなり、熱伝導度は徐々に低下する。 その結果、ペレット内の温度勾配がきつくなると共に、燃料中心温度も上昇する。 従ってペレットは組織再編を一層起こし易くなり、FPガス放出率の増加にもつながる。

④スエリング

燃料の高燃焼度に伴い、FPガスの蓄積のみならず、固体状FPの蓄積によるスエリングも無視できなくなる。 その結果、当初存在していた燃料-被覆管のギャップが消失し、機械的相互作用 (PCMI) が始まる。 これにペレットから放出されたFPの化学作用が加わると、PCI破損にもつながる。

[註:炉修講義テキスト,核燃料工学短期講座No.3, 原子炉燃料の物性, 核燃料工学短期講座No.4, 原子炉燃料照射挙動の基礎]

第3問

次の文章中の空欄にいれるべき適当な語句等を記せ。

(1)水溶液中でトリウムの4価イオンは [無] 色である。 ウランは水溶液中で3価イオンは [赤] 色,4価イオンは [緑] 色,6価イオンは [黄] 色を呈する。 この6価イオンはウランに酸素が配位してUO22+として存在するが,これを [ウラニル] イオンという。 一方,水溶液中においてプルトニウムは,3価イオンは [青] 色,4価イオンは [黄褐] 色を呈する。

[註:炉修講義テキスト,核燃料工学短期講座No.2, 原子炉燃料の化学]

(2)UO2とUCの結晶構造は,ともに [面心立方] 晶系に属し,空間群も [Fm3m] であって同じであるが,結晶内の原子の配置は両化合物で異なっている。 すなわち,UO2は [CaF2] 型構造をとるのに対し,UCは [NaCl] 型構造をとる。 ウラン-炭素系の化合物にはUCの他に [U2C3] と [UC2] がある。

[註:原子炉材料ハンドブック,長谷川正義、三島良績監修,日刊工業新聞社

(3)燃料棒の中には,熟伝導度の [高] い [He] ガスが加圧して封入されている。 このガス圧が低いと,照射中UO2ペレットから [Xe],[Kr] のような核分裂ガスが放出され易くなる。 これらのガスは熱伝導度が [低] いので,放出されれば UO2のペレットの径方向表面に近い部分の温度が [高] くなり,核分裂ガスの放出量を [増加させる] ように作用する。

[註:核燃料工学,三島良績編著,同文書院

第4問

次の文には誤った記述が2箇所ずつある。その語句あるいは文を指摘するとともに,どのように間違っているかを述べよ。

(1)二酸化ウラン燃料の不定比性(非化学量論性ともいい,UO2±xと表わしたときのx)を定量する方法の一つに酸化重量法がある。 これは二酸化ウランを空気中または酸素中で1500℃に加熱し,生じた八酸化三ウラン(U3O8)との重量の違いから定量する方法である。 八酸化三ウランには不定比性が全く存在しないので,この方法が可能となっている。

解答例

  • 1500℃→750~850℃
  • 不定比性が全く存在しない→室温付近では不定比性がない

〔註:原子炉材料ハンドプック,長谷川正義,三島良績監修,日刊工業新聞社

(2)アクチノイドとはプロトアクチニウムに始まりローレンシウムに終る元素群の総称で,どの核種も放射性である。 アクチノイドでは一般的傾向として原子番号が増すとともに4f電子殻が次第に充填されていく。

解答例

〔註:無機化学全書 XVII-3 放射性同位元素,丸善(株)]

(3)蒸発凝縮機溝は見掛け密度の高い柱状晶が1400ないし1600℃以上1600ないし1700℃以上で生ずるのに対し, 見掛け密度の低い等軸晶が1700ないし1900℃以上1400~1700℃の温度領域で存在するために, この差が空洞となり,内面の高温部が蒸発し,低温部に凝縮して 燃料製造時のポアが急激な温度勾配下に置かれると、内面の高温部が蒸発し、低温部に凝縮するため中心側に移行して 空洞がペレット中心部に生ずることをいう。

[註:炉修講義テキスト, 核燃料工学短期講座No. 4, 原子炉燃料照射挙動の基礎]

(4)トリウムは4価以外の酸化状態はとり難いが,フッ化物の場合にはThF4の他にThF3が存在する ThF4以外の存在は知られていない。 一方,ウランではUF3は得られるが,UCl3の存在は知られていないも知られている。

[註:原子力化学工業 第II分冊 核燃料・材料の化学工学,清瀬量平訳,日刊工業新聞社

(5)二酸化ウラン燃料の酸素ポテンシャルは,照射の初期においては高い低い値をもつ。 (酸素ポテンシャルは通常,負の値をとるので,その表わし方としては0に近いほど高い値であるということにする。) また,この酸素ポテンシャルは燃料のO/U原子比によって変るが,この比が小さければ酸素ポテンシャルは高い低い。

[註:炉修講義テキスト,核燃料工学短期講座No.4,原子炉燃料照射挙動の基礎]

第5問

核燃料物質に関連して,次の事項を簡単に説明せよ。

  1. ガドリニア入り燃料
  2. 応力腐食割れ
  3. アメリシウム
  4. 理論密度
  5. 燃料ペレットのリム組織

解答例

(1)「ガドリニア入り燃料」 軽水炉用燃料の中で、可燃性毒物であるGdの酸化物ガドリニア(Gd2O3UO2中に含ませた燃料である。 ガドリニアの濃度は数wt%から10wt%程度が一般的であり、Gd原子がUO2の格子中に固溶して(U,Gd)O2固溶体を形成する。 Gdは中性子吸収断面積が大きいため、核燃料の燃焼に伴う反応度低下をGdの燃焼によって生じる正の反応度で補うことができ、同時に中性子束の平坦化も兼ねられる。 近年の燃料の高燃焼度化の傾向に伴い実炉においてもガドリニア入り燃料の採用がより一般的なものとなってきた。

[註:核燃料工学-現状と展望,「極限燃料技術」研究専門委員会,(社)日本原子力学会

(2)「応力腐食割れ」

機械的応力に腐食環境が作用して材料が結晶粒界割れを起こす現象であり、過去にはBWRの一次系配管のステンレス鋼等にしばしば見られた。 応力腐食割れは、材料因子、応力因子及び環境因子が相関関係を持って起きる現象であり、複雑な挙動を示す。 材料因子には、材料中に含まれる合金成分、溶接部近傍での偏析等が含まれ、中でもCは著しく有害であることが知られている。 応力因子には、システム構造上外部から加わる応力と溶接によって材料内部に生ずる残留応力がある。 環境因子の中で最も重要なのは高温高圧水中の溶存酸素であり、溶存酸素量を低減化することにより耐応力腐食割れ性は大きく向上する。 応力腐食割れは、しばしば英語の Stress Corrosion Cracking の頭文字をとってSCCと略される。

[註:新版原子力用語辞典,原子力用語研究会編,日刊工業新聞社

(3)「アメリシウム原子番号95、アクチニド系列に属し7番目に当たる元素である。 天然には存在せず、全て人工的に作られる放射性同位元素である。 原子力技術において重要な同位体は、241Am, 242Am, 243Am, 244Am等であるが、 アメリシウムに関する研究の大部分は241Am(半減期458年)を用いて行われている。 241Amは燃料加工のためリサイクルされるプルトニウム中で時間と共に蓄積されてゆき、 崩壊に伴うγ線は燃料加工施設における外部ひばくの要因となる。 また、241Amは実験用及び原子炉起動用の中性子源におけるα粒子の発生源であり、Beとの合金AmBe13の形で用いられ、 (α,n)反応によりエネルギーの高い中性子を発生する。

[註:原子力化学工業 第III分冊 使用済燃料とプルトニウムの化学工学,清瀬量平訳,日刊工業新聞社

(4)「理論密度」 格子定数、分子量、単位胞当たりの分子数、アボガドロ数等から理論的に求められたその物質の密度である。 セラミックス燃料の焼結体中には通常気孔が含まれているが、その密度を表す指標として、 絶対値の代わりに気孔率がゼロの時の密度すなわちこの理論密度に対する比率を用いることが多い。 UO2の理論密度は10.97 g/ccである。 理論密度は、しばしばT.D.と略される。

〔註:カリティX線解説要論,松村源太郎訳(株)アグネ〕

(5)「燃料ペレットのリム組織」 高燃焼度燃料の開発の進展に伴い、燃焼度が40,000 MWD/MTMを越えた軽水炉燃料の外周頷域で新たに発見された組織である。 軽水炉用燃料では、燃料の外周領域の局所燃焼度は中心部に比べて1.3~2倍程大きい。 リム組織はこの領域に発生し、燃料組織が多孔性になるとともに、結晶粒が数ミクロンに微細化する。 リム組織の微細構造の外観は“カリフラワー”状を呈する。 なお、リム組織の発生機構については、現在解明段階である。

[註:核燃料工学-現状と展望,「極限燃料技術」研究専門委員会,(社)日本原子力学会

出典:

内田 正明; 吾勝 永子; 荒井 康夫; 湊 和生; 末武 雅晴; 高田 和夫; 井川 勝市, 核燃料取扱主任者試験問題解答例集, JAERI-Review 94-001, 1994年, http://dx.doi.org/10.11484/jaeri-review-94-001