第23回 放射線の測定および放射線障害の防止に関する技術

第23回 核燃料取扱主任者試験 放射線の測定および放射線障害の防止に関する技術

第1問 次の各問に答えよ。

(1)自然放射線による平均的な年間の実効線量当量として最も近い値のものはどれか。

ア 1.0 mSv

イ 2.0 mSv

ウ 3.0 mSv

エ 4.0 mSv

オ 5.0 mSv

解答例 イ

自然放射線源からの1人あたりの年間実効線量当量の評価 (UNSCEAR, 1988)

線源 外部被ばく 内部被ばく 合計 (mSv)
宇宙線 電離成分 0.30 -- 0.30
宇宙線 中性子成分 0.055 -- 0.055
宇宙線生成核種 -- 0.015 0.015
原始放射性核種
40K 0.15 0.18 0.33
87Rb -- 0.006 0.006
238U系列 0.1 1.24 1.34
232Th系列 0.16 0.18 0.34
-- -- -- --
合計 0.8 1.6 2.4

註:国連科学委員会報告(1988)によると、合計2.4 mSv(上表参照)、 草間朋子、別所遊子、太田勝正、甲斐倫明、“放射線防護の考え方”、p.89、日刊工業新聞社、東京(1990)、 日本アイソトープ協会、“アイソトープ手帳”、p.131、丸善、東京(1989)

(2)分解時間τ秒の測定器で計数率 n cpsが得られた。 この場合,真の計数率N0 cpsを求める補正式で正しいものはどれか。

ア N0 = n×(1+τ)

イ N0 = n/(1+τn)

ウ N0 = n/(1-τn)

エ N0 = n/(1-τ)

オ N0 = n/(1+τ)

解答例 ウ

註:時間τnの間計数していないので、こうなる。

(3)放射線のエネルギー測定において,放射線の種類と検出器の組み合わせで間違っているものはどれか。

ガンマ線 -- Ge(Li)半導体検出器

ベータ線 -- プラスチックシンチレーション検出器

アルファ線 -- 表面障壁型Si半導体検出器

ガンマ線 -- NaI(Tl)シンチレーションソ検出器

中性子線 -- BF3検出器

解答例 オ

註:BF3検出器では、エネルギーを測ることができない。

(4)放射線の線質係数Qについて,Qの大きいものから又は小さいものから順に正しく並べられている組み合わせのものはどれか。

ガンマ線 -- 陽子線 -- 熱中性子線 -- ベータ線

アルファ線 -- 速中性子線 -- 陽子線 -- ガンマ線

ウ 陽子線 -- 熱中性子線 -- アルファ線 -- ベータ線

アルファ線 -- ベータ線 -- ガンマ線 -- 陽子線

オ 速中性子線 -- 熱中性子線 -- アルファ線 -- X線

解答例 イ

註:ICRPによる。(下表参照)、 日本アイソトープ協会、“アイソトープ手帳”、p.114、丸善、東京(1989)、 日本アイソトープ協会編、“ラジオアイソトープ講義と実習”、p.210、丸善、東京(1975)、 江藤ほか、“放射線の防護”p.39、丸善、東京(1972)

線質係数 (quality factor) Qの値(ICRP Publication 26による)

水中におけるL (keV/μm) Q
3.5以下 1
7 2
23 5
53 10
175以上 20

放射線のL分布が、問題とする体積中のすべての点ではわかっていない場合、 右に示すそれぞれの一次放射線に対する \bar{Q}の近似値を体外および体内放射線のいずれについても使用してよい。

一次放射線 \bar{Q}
X線γ線,電子 1
エネルギー不明の中性子,陽子,静止質量が1 uより大きい電荷1の粒子 10
エネルギー不明のα粒子,多重電荷の粒子,電荷不明の粒子 20

Q値を当分の間2倍にすることが勧告された(1985年 ICRPパリ声明)

(5)ろ紙捕集法により空気中の放射性塵挨濃度を測定する場合,捕集後のろ紙を3日問程度放置したあとで放射線計測することが多い。 この理由として最も適切なものはどれか。

ア 自然放射性核種の40Kを減衰させるため

イ 静電気や有害化学物質を放散させるため

ウ 自然放射性核種のラドン及びトロンの娘核種を減衰させるため

エ ろ紙の損傷の程度を確認するため

オ 自然放射性核種と目的核種を自然分離させるため

解答例 ウ

日本アイソトープ協会編、“ラジオアイソトープ講義と実習”、p.543、丸善、東京(1975)

第2問 次の各問の空欄を適切な用語又は数値でうめよ。

(1)速中性子線を遮へいするときは,まず [減速材] を使用して速中性子を熱中性子化し, その後,[吸収材] を使用して熱中性子を [捕獲、吸収] する。 このとき,使用する [吸収材] の種類によってはエネルギーの強い中性子 [捕獲γ線] が発生するので, この遮へいを考慮しておかなければならない。

註:減速材では、原子番号の大きい元素(鉄など)との非弾性衝突、 つづいて軽い元素(パラフィン、水など)との弾性衝突を、吸収材では、カドミウムなどを利用する。 辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.120、日刊工業新聞社、東京(1989)、 飯田博美ほか編、“詳解放射線取扱技術”、p.59、日本原子力産業会議、東京(1990)、 江藤ほか、“放射線の防護”p.278, 丸善、東京(1972)、 飯田博美、“放射線管理技術”、p.62、通商産業研究社、東京(1985)、 山県登、“放射線取扱主任者必携実務編”、p.216、産業図書、東京(1978)

(2)ガンマ線エネルギーが200 KeV-1.5 MeVの範囲にあるときは, 物質のガンマ線エネルギーの吸収が主として [光電効果] によることとなるため, 遮へいの効果は物質中の [原子] の数に比例する。 物質を構成する元素の [原子番号] と [質量数] の比はほぼ1/2であるため, 単位重量物質中の [原子] の数は物質の種類によらずほぽ一定となる。 このため,前記エネルギー範囲にあるガンマ線の遮へい効果は,遮へい材の厚さが同じである場合,遮へい材の [密度] に比例する。

(3)ベータ線を遮へいするときは,[制動X線] の発生を少なくするため, ベータ線の [飛程] を幾分超える厚さの原子番号の [小さい] 物質で遮へいし,さらに,発生した [制動X線] を鉛板や鉄板で遮へいする。

註:江藤ほか、“放射線の防護”p.272, 丸善、東京(1972)、 辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.116、日刊工業新聞社、東京(1989)

(4)人間の皮ふ表面には,平均して [ 7 ] mg/cm2の [角質層] が存在し, さらに,空気層や線源の自己吸収などにより,アルファ線による外部被ばくが問題となることは極めて少ない。 しかしながら,アルファ線の [線質] 係数が大きいため,組織内に取り込まれたアルファ核種による線量当量への寄与は大きい。

註:辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.40, 94、日刊工業新聞社、東京(1989)

第3問 次の各問に答えよ。

(1)239Puの酸化物粉末を取扱中,作業時間1時間でアルファ線用ダストモニタが警報を発した。 直ちに作業を中止させ,ダストモニタの集塵用ろ紙を取り外して239Puのα線を計測したところ,正味計数率3600 cpmであった。 このモニタの集塵流量率は100 NL/min, 検出器の計数効率を10%としたとき, この作業者の内部被ばくによるおおよその実効線量当量及び骨表面の組織線量当量を計算の過程とともに有効数字2桁で示せ。 ただし,ダストモニタは作業域の空気中放射能濃度を代表する位置に設置されているものとし, 集塵用ろ紙の集塵効率は100%,試料の自己吸収及び数え落としはないものとする。 239Puの酸化物粉末の吸入による実効線量当量に対する年摂取限度は6.1×102 Bq, 骨表面の組織線量当量に対する年摂取限度は5.9×102 Bqとする。 また,作業者の呼吸率は1.2 m3/hとする。

解答例

摂取量=濃度(Bq/cc)×呼吸率{2×104(cc/min)} ×作業時間(min)×F÷防護マスクの防護係数

ここでは、F=作業場所の放射性物質量/モニター場所の放射性物質量=1とする

防護マスクの防護係数:使っていなかったので省略

濃度=3600(cpm)÷[計数効率×流量率(L/min)×作業時間(min)]

=3600(cpm)÷[0.10×100(L/min)×60(min)]

=6(dpm/L)

=1×10-4(Bq/cc)

したがって、

摂取量=1×10-4(Bq/cc)×{2×104(cc/min)} ×60(min)=120(Bq)

実効線量当量=50×120(Bq)÷{6.1×102(Bq)}=9.8 mSv

骨表面の組織線量当量=500×120(Bq)÷{5.9×102(Bq)}=100 mSv

註:NL/minのNは、圧力補正係数を1としてよいことを示す。 原子力安全技術センター、“内部被曝における線量当量の測定・評価マニュアル”、原子力安全技術センター、東京(1988)

(2)上記作業において,骨表面の荷重係数を 0.03 としたとき,骨表面の線量当量の実効線量当量への寄与は何%となるか。

解答例

骨表面の線量当量=組織の預託線量当量×その組織の加重係数=100 mSv×0.03=3 mSv

実効線量当量への寄与は、(3 mSv/9.8 mSv)×100=31(%)

第4問 次の文章の空欄の部分に記入すべき最も適当な語句又は数値を記せ。

摂取された放射性物質による体内被ばくの危険性は,主要な組織,臓器に対する [親和] 性, [代謝] 及び放出する放射線の種類や [エネルギー] などによって左右される。 [代謝] に関与するものとして [(組織への)分布割合],[実効半減期]がある。 [実効半減期] はある組織や臓器中の放射性物質の [沈着量] が,[放射性壊変、物理的半減期],[生物学的半減期、排せつ] などのために最初の値の [2分の1] に減少するまでの [時間] で, この際 [時間] 的な変化は [指数関数的] に行われると仮定している。 体内被ばくの原因となる放射性物質の侵入経路としては [経気道],[経口] 及び [経皮膚] があるが, [経気道] による障害の危険性は放射性物質の種類のほか,物理的には [粒径] や [沈着率] など, 化学的には [化合物] の種類や溶解性などに関係する。 [経口] の場合に問題となるのは [可溶] 性の核種であり,[経皮膚] の場合には皮ふの [創傷] の有無によって放射性物質の [取り込み量]は異なってくる。

註:原子力安全技術センター、“内部被曝における線量当量の測定・評価マニュアル”、原子力安全技術センター、東京(1988)

第5問 次の事項について簡単に説明せよ。

  1. バイオアッセイ (Bioassay)
  2. 除染係数
  3. スミア法 (Smear Method)
  4. LET (Linear Energy Transfer)
  5. 放射線被ばくとリンパ球

第5問解答例

(1)バイオアッセイ: 内部被曝を評価するため排せつ物 (尿、 ふんなど)や皮膚、血液、毛髪などに含まれる放射性核種を同定したり、 その量を測定する方法。体内放射能の間接的な測定法。 摂取された放射性物質が人体の組織内に取り込まれたことを確認する上で重要である。

註:辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.164、日刊工業新聞社、東京(1989)、 原子力安全技術センター、“内部被曝における線量当量の測定・評価マニュアル”、p.21、原子力安全技術センター、東京(1988)

(2)除染係数: 放射性液体廃棄物の処理で、

DF=放射性液体廃棄物の処理前濃度÷放射性液体廃棄物の処理後濃度

をいう。DFが大きいほど、処理装置あるいは処理法の効率がよいことを示す。

註:辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.219、日刊工業新聞社、東京(1989)

(3)スミア法: 間接的表面汚染測定法。ふきとり試験法ともいう。100 cm2の表面を規定の濾紙片で拭き取り、 濾紙面に付着した放射性物質放射線を通常の方法で測定する。 JISに決められている。とれやすい放射性汚染の測定法である。

註:日本工業標準調査会 審議、JIS Z 4504 “放射性表面汚染の測定方法”、日本規格協会(1993)、 江藤ほか、“放射線の防護”p.328, 丸善、東京(1972)

(4)LET (linear energy transfer): 線エネルギー付与という。放射線が透過した物質単位長さ(1 µm)あたりに失う(物質に与える)エネルギー(keV)。 制動放射によるエネルギー損失は除外される。放射線の種類によって異なる。 生体に対する放射線の作用では、γ線よりも中性子線やα線の方が作用が大きいことを表す線質係数が用いられるが、 線質係数は、LETによって変化する。

(5)放射線被曝とリンパ球: リンパ球は白血球の一種で、放射線に対する感受性の大きな細胞である。 末梢血管内のリンパ球は、0.5 Gy以上の比較的低い急性全身照射で細胞死を起こしほかの血球にくらべて早い時期に減少が始まる。 このリンパ球の細胞死は、間期死(被曝した細胞が細胞分裂をせずに死ぬこと)の例として知られる。 リンパ球は中に核を有し、核の放射線障害によって染色体異常が見られる線量はさらに低く、0.05 Gyといわれている。

註:辻本忠、草間朋子、“放射線防護の基礎”、p.69、日刊工業新聞社、東京(1989)

出典:

内田 正明; 吾勝 永子; 荒井 康夫; 湊 和生; 末武 雅晴; 高田 和夫; 井川 勝市, 核燃料取扱主任者試験問題解答例集, JAERI-Review 94-001, 1994年, http://dx.doi.org/10.11484/jaeri-review-94-001