第23回 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第23回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の化学的性質及び物理的性質

第1問

次の文章中の空欄に入れるべき適当な語句等を記せ。

(1) [アクチノイド] 系列の元素は,周期表ではIIIa族(第3族)に位置し,原子番号順の配列は次のようになっている。

Ac, [Th], Pa, U, [Np], Pu, [Am], Cm, Bk, ......, Lr

この系列では,外殻電子の構造が殆ど変らないまま,5f軌道の電子が順次充填されるので,この系列に属する化合物の物理的・化学的性質は,原子番号の順に次第に変わるが,共通点も多い。酸化物の種類としてAcに近いものは二酸化物MO2(ここでMは金属)が代表的であるが,原子番号が大きくなると [M2O3] が代表的酸化物になる。化学的性質は,一般に [ランタノイド] 系列のそれと対比される。

(2)ウラン-235が中性子を吸収,分裂したときの分裂収率と質量数との関係は,縦軸に分裂収率の対数値を,横軸に質量数をとると質量数 [95] 付近と [140] 付近に最大値を持つM字形の曲線になる。分裂収率の比較的大きい主な核分裂生成物を,周期表に従って分類すると,0族(第18族)の希ガスでは [Kr] と [Xe],Ia族(第1族,アルカリ金属)ではRb [Cs] ,IIa族(第2族,アルカリ土類金属)では [Sr] とBa,IIIa族(第3族,希土類元素)では [Y],La, Ce, Pr, Nd, IVa族(第4族,チタン族) では [Zr],VIa族(第6族,クロム族)のMo,VIIa族(第7族,マンガン族)のTc,VIII族(第8族,第9族,第10族)のRu, Pdなどである。これらの分裂生成物の中で最も半減期の長い核種は [87Rb] と [144Nd] である。

(3)ウランは,水溶液中では6価が安定であって黄色を呈し, [UO22+] イオンとして存在する。緑色の [4] 価イオンは,適当な還元剤を用いて得られるが,赤色の [3] 価イオンは,アルミニウムのような強力な還元剤を用いなければ得られない。6価イオンは多くの陰イオンと錯塩を作りやすく,イオン交換樹脂を用いて精製する場合には, [陰イオン] 交換樹脂を用いる必要がある。

(注)(2)の⑮と⑯(分裂生成物の中で最も半減期の長い核種)は、出題意図が不明瞭である。最も半減期の長い核種は1つのはずである。ここでは、上に列挙された元素の中から、収率が極端 に小さくない核種を2つ、半減期の長い順に2つ挙げることにした。

(newclears注)87Rbの半減期は4.88x1010年,144Ndの半減期は2.29x1015年であり、どちらも天然に少なくない量存在する同位体である。これらの放射能が問題になる場面は通常無い。

(参考文献)FPに関する基礎的なデータは、たとえば 日本アイソトープ協会アイソトープ手帳」

第2問

次の文章の記載には誤りがある。誤りを指摘するとともに,それがなぜ誤りであるかを簡単に説明せよ。

(1)ウラン-酸素系の代表的化合物には,UO2, U4O9及びU3O8の3種類がある。硝酸ウラニル,あるいは重ウラン酸アンモニウムを空気中,500℃以下の温度で熱分解するとU3O8が得られる。

(2)二酸化ウランUO2は,空気中において1000℃に加熱しても変化しない。

(3)二酸化ウランUO2を水素中において1000℃に加熱すると,還元されて金属ウランになる。

(4)二酸化ウランUO2は,沸騰水中では水と徐々に反応して水酸化ウランU(OH)4に変わる。

(5)二酸化ウランUO2は,室温において無機系の強酸(塩酸,硫酸,硝酸)に容易に溶けてウラニルイオンになる。

(6)二酸化ウランUO2は,500℃付近においてフッ化水素HFと反応して六フッ化ウランUF6になる。

(7)二酸化ウランUO2は,1000℃程度の高温において金属ナトリウムと反応してウラン酸ナトリウムNa2UO3が生成する。

(8)プルトニウム-酸素系には,PuO, Pu2O3, PuO2, Pu3O8の化合物がある。硝酸プルトニウムを空気中において加熱・熱分解するとPu3O8が生成する。

(9)高速炉燃料として用いるウラン-プルトニウム混合酸化物は,UO2とPuO2機械的に混合した物質である。

(10)トリウムの固体酸化物には,ThOとThO2がある。ThOはThO2を水素還元すると得られる。

第2問解答例

(1)低温での最も代表的な酸化物はUO3である。硝酸ウラニルやADUの熱分解で得られるのはUO3である。

(2)UO2を空気中で1000℃に加熱すると、U3O8になる。

(3)水素中で1000℃に加熱しても、化学量論的組成のUO2.00以下には還元されない。UO2ペレットの焼結は水素中で行われる。

(4)UO2の沸騰水中での酸化は非常に遅い。生成物はUO3・0.8H2Oだといわれている。

(5)室温では溶けない。ピュレックス法再処理では、UO2燃料は沸点に近い濃硝酸中で溶解される。

(6)HFとの反応では、UF4が得られる。UF6を得るには、さらにF2と反応させる。

(7)ウラン酸ナトリウムの化学式はNa2UO4である。

(8)プルトニウムの最終酸化物はPuO2である(最大4価)。硝酸プルトニウムを熱分解すると、PuO2が得られる。

(9)高速炉用MOX燃料は、以前は機械的混合法が用いられたが、現在では共沈法で混合するのがふつうである。

(10)トリウム固体酸化物で存在が確実に知られているのはThO2のみである。

(参考文献)菅野昌義「原子力工学シリーズ、2 原子炉燃料」東大出版会

第3問

次の文章の空欄に適当な語句,文字あるいは数字を入れよ。

(1)金属ウランの結晶構造は,1132℃~774℃の温度範囲のγ相は [体心立方晶],774℃~668℃の [β] 相は, [正方晶],668℃以下の [α] 相は [斜方晶]である。この中で,特に [α] 相は三軸方向の [異方性] があるため,熱サイクルや [照射] を受けると変形する。金属燃料に共通する一般的欠点として [異方性] があり,低融点でかつ相変態があることやスエリングが大きいことがあげられる。一方長所は熱導度, [密度] が高い,加工性がよく再処理が容易であることなどである。研究用原子炉では,使用温度が商用炉ほど高くないため,中性子経済性,加工性等から,これまではアルミニウム被覆をした高濃縮ウランを含むウラン・アルミニウム合金燃料などが用いられたが,核拡散防止上の配慮から中濃縮の燃料への移行が必要となり,燃料芯材中の [密度] が高い [シリサイド燃料] などの使用が検討されている。

(2)現在広く用いられている二酸化ウラン燃料は,未照射の場合,その融点が,約 [2850] ℃と高く,低温から融点までの温度範囲の結晶構造は [立方晶] 系で対称性が高く,こうした点では金属系燃料の欠点を克服するものである。しかしながら室温での熱伝導度は約 [8 W/m/K] で,昇温していくと約 [1500] ℃あたりまでの温度範囲で [熱振動] の寄与により [2 W/m/K] 程度まで [減少] する。さらに昇温を続けると熱伝導度は [電子伝導] の寄与により [増大] する。なお高温では [化学量論組成、または格子欠陥濃度] の変化があり,熱伝導度の不確定性が大きい。

(参考文献)三島良績編著「核燃料工学」同文書院

第4問

核燃料の燃焼によって核分裂生成物および熱の発生がある。軽水炉,高速炉では,燃料の形状として一般に円筒状ペレットを使うので,核発熱と燃料特性により半径方向に急激な温度勾配が発生する。こうした照射場の下での燃料ふるまいに関して,以下の項目の中から4項目選び,その概要を述べよ。

  1. 燃料組織の変化とその影響
  2. ペレット形状の変化とその影響
  3. 核分裂生成物の挙動
  4. 酸素ポテンシャルの効果
  5. サーマルフィードバック
  6. 線出力密度の効果

第4問解答例

(1)燃料組織の変化とその影轡

出力の上昇と共に、燃料ペレットの内奥部に高温領域ができる。酸化物燃料の場合、約1200℃以上の領域では、等方的な結晶粒成長が起こる(等軸晶成長)。体積変化(とくにスエリング)、FPガス放出等の現象はこの温度領域で急激に大きくなる。さらに1700℃以上の高温領域では、温度勾配の直接的な効果として、半径方向に長い結晶粒成長が起こる(柱状晶)。しかし、最近の燃料では燃料温度は低く抑えられるので、柱状晶成長は高速炉燃料においてさえ重要ではない。

(注) 設問は「組織の変化とその影響」である。しかし実際に観察されているのは、上に示したような同時進行的な諸現象であり、組織変化が先行し、それが何かに影響したという確実な観察事実は少ない。(照射初期に高出力下で結晶粒成長が起こると、その後のFPガス放出が小さくなることはある。)

(2)ペレット形状の変化とその影響

温度勾配による熱応力のために、ペレットは割れて断片が被覆管と接触する。(リロケーション)。この現象は燃料温度を下げる半面でペレット被覆相互作用を促進する。

ペレット中心部は熱膨張が大きいので、ディッシュが設けられている楊合にはその空間がつぶされることになる。さらにペレットは有限の長さをもち、中心と外周で熱膨張が違うので、ペレットは多少とも鼓型の変形をすることになる。これは燃料棒の設計(ギャップ幅)や運転条件によっては、被覆管の竹の節状の変形(リッジング)の原因になることもある。

(3)核分裂生成物の挙動

核分裂生成物のうち、固体中の易動度が大きい元素は、低温または高温領域に再配置する。特に顕著なのはセシウムの移動であり、ペレット表面の低温領域での濃度が大きくなる。また、特に高出力、高温照射の場合には、クリプトン、キセノンの気泡が固体マトリックスと位置交換して高温側に移動する。

(4)酸素ポテンシャルの効果

一般に酸化物燃料では、ウランの核分裂とともにウランと結合していた酸素が結合相手を失い、酸素が過剰になる(酸素ポテンシャルの上昇)傾向がある。プルトニウム核分裂では、貴金属FPの生成率が大きいので特にこの傾向が大きい。また一般に高温領域では酸素が過剰傾向であり、遊離した酸素が低温側に移動する。過剰酸素は燃料-被覆材-FPの錯酸化物の形成により、燃料-被覆材化学的相互作用を促進する一要因となる。軽水炉用ウラン燃料ではこの効果はあまり大きくなく、高出力や高燃焼度下でのみ観察される。

(5)サーマルフィードバック

FPガスがギャップ空間に放出されると、ガスの熱伝導度が低下するのでギャップ熱伝達率が低下し、燃料温度が上昇する。燃料温度の上昇はさらにFPガスの放出を促進するので、一種の正のフィードバック・ループが形成されることになる。これをサーマルフィードバックという。しかしFPガスの放出には時間遅れがあり、また燃料温度が上昇すればペレットの熱膨張により接触熱伝達が増大するので、この正のフィードバックが無限に続くことはない。

(6)線出力密度の効果

(「線出力密度」は出力を規定する変数のひとつに過ぎない。「出力の効果」というべきであろう。) 出力は人問が制御し得る要因であり、(1)から(5)までの「効果」とは性格が異なる。出力が増大すると燃料温度が上昇し、温度勾配も大きくなる。したがって(1)から(5)までの効果はすべて出力の増大と共に促進されることになる。

(参考文献)実務テキストシリーズ「軽水炉燃料のふるまい」原子力安全研究協会

第5問

核燃料物質に関連して,次の事項を簡単に説明せよ。

  1. 窒化物燃料
  2. 燃料と被覆管の両立性
  3. 蒸発凝縮機構
  4. Boothの等価球モデル
  5. FIMA

第5問解答例

(1)窒化物燃料

UN、PuNおよびその固溶体を窒化物燃料という。高速炉燃料で増殖率を高めるためには、軽元素をできるだけ含まない化合物が望ましい。この目的には炭化物、窒化物燃料が金属燃料に次いで適している。炭化物、窒化物は岩塩型構造をもち、熱伝導度が大きいなど、酸化物にくらべると金属的な特性をもっている。しかし炭化物が化学的に非常に活性なのに比べて、窒化物は物性がやや酸化物に近く安定性が高い。

(2)燃料と被覆管の両立性

二種の固体が接触しているとき、または同じ液体中におかれたとき、これらの間で固体化学反応が起こらないことを両立性があるという。軽水炉燃料と被覆管の間でも、高出力、高燃焼度下ではFPを介して若干の反応は起こるがほとんど問題にされていない。燃料と被覆管の両立性が問題にされたのは、高速炉燃料、とくに炭化物燃料とステンレスの組み合わせの場合である。

(3)蒸発凝縮機構

酸化物燃料を極端に高い出力で照射したとき、ギャップ封入ガス(一般にヘリウム)とFPガスが燃料中の高温領域にレンズ型をした気泡を形成する。この気泡の高温側壁面で燃料の蒸発、低温側で凝縮を繰り返す結果、気泡は燃料の中心に向かって移動し、その後ろに柱状の結晶粒を残すこと蒸発凝縮機構による柱状晶形成という。バイパック燃料で特に顕著であったが、超高出力、バイパック燃料ともに過去の問題である。

(4)Boothの等価球モデル

燃料ペレットからのFPガスの放出は、拡散型の時間依存を示し、結晶粒径依存性が大きいことが古くから知られていた。そこでBoothは、燃料をほぼひとつの結晶粒に対応する「等価球」で代表させ、その中で生成したFPガスがランダムに移動し、球の表面に達すると放出されたとして扱うモデルを提出した。もとの数学的モデルは単純な出力履歴の場合のみを考慮したものであったが、これをもとに任意の出力履歴を扱えるANS5.4その他の計算機モデルが作られた。

(5)FIMA

Fissions per Initial Metal Atoms (金属原子個数あたりの核分裂数)の頭文字をとったものであり、燃焼度の単位のひとつである。金属原子数とはウラン、プルトニウムのようなアクチノイド元素の原子数の合計であり、合金燃料の合金元素、ガドリニア入り燃料中のガドリニウム等は金属元素であっても含めないのがふつうである。

(参考文献)

出典:

内田 正明; 吾勝 永子; 荒井 康夫; 湊 和生; 末武 雅晴; 高田 和夫; 井川 勝市, 核燃料取扱主任者試験問題解答例集, JAERI-Review 94-001, 1994年, http://dx.doi.org/10.11484/jaeri-review-94-001