第23回 核燃料物質の取扱いに関する技術

第23回 核燃料取扱主任者試験 核燃料物質の取扱いに関する技術

第1問

高温ガス炉用被覆粒子燃料の照射挙動及び製造法について以下の問に答えよ。

(1)被覆粒子燃料は,UO2燃料核を低密度のバッファ (Buffer) 熱分解炭素 (Pyrolytic Carbon: PyC) 層,内部PyC層,炭化ケイ素(SiC)層及び外部PyC層で4重に被覆している。照射時における核分裂生成物の燃料粒子内保持 (Retention) の観点から,各々の被覆層の機能について述べよ。

(2)UO2燃料核の製造は,工業的には現在湿式法で行われており,幾つかの方法が開発されている。出発物質をUO2(NO3)2水溶液として,高密度UO2燃料核を生産する工程を記入例(軽水炉UO2粉末製造)に従って一つ以上示せ。また,その方法の名称を記せ。

記入例 二ウラン酸アンモニウム (ADU) 法

UF6
←H2O
加水分解
UO2F2
←NH4OH
沈澱・ろ過
ADU
ばい焼,約700℃
U3O8
←H2
UO2粉末

第1問解答例

(1)

  • バッファPyC層:気体核分裂生成物のガス溜めとなるとともに内部PyCを核分裂生成物の生成時エネルギー及び反跳エネルギーによる衝撃から守る。
  • 内部PyC層:気体核分裂生成物の拡散障壁
  • SiC層:Cs, Sr, Baの拡散障壁
  • 外部PyC層:気体核分裂生成物の拡散障壁となるとともに照射による収縮の結果生ずるSiC層に対する圧縮応力によってSiC層の内圧破損を防ぐ。

(2)外部ゲル化法

UO2(NO3)2 添加物
────┬────
混合
←NH4OH
ADU
ばい焼,約450℃
UO3
←H2
焼結,約1300℃
UO2

原子炉研修所講義テキスト、核燃料工学短期講座No.19

第2問

ウラン濃縮技術及び施設について次の問に答えよ。

(1)実用化されている遠心分離法について,その原理及び分離する二つの気体の分子量M1及びM2と分離係数の関係を述べよ。

(2)遠心分離法によるウラン濃縮施設における核燃料物質の閉じ込め機能に関して,考慮すべき事項をあげて簡単に説明せよ。

(3)次世代のウラン濃縮技術として,レーザ法及び化学交換法の開発が進められている。前者は原子法と分子法に区分される。これら三つの濃縮法のうち,二つを選んでその原理を記せ。

第2問解答例

(1)遠心分離法とは、回転ドラムに分子量の違う2種類の気体を充填して高速で回転させると、ドラムの中心部と周辺部のあいだに圧力の勾配が生じ、中心部で軽い気体の濃度が、周辺部で重い気体の濃度が高くなる現象を利用した分離法である。 中心と周辺での分圧の比を平衡分離係数と称し、次の式で与えられる。


{\displaystyle
(\alpha \beta) = \frac{P _ 1(0)}{P _ 2(0)} / \frac{P _ 1(a)}{P _ 2(a)}
}


{\displaystyle
 = \exp {\huge(} \frac{(M _ 2-M _ 1) \omega^ 2 a^ 2}{2RT}  {\huge)}
}

ここで Piはそれぞれの気体の分圧、aは回転ドラムの半径、ωは回転の角速度、Tは絶対温度、Rは気体定数である。

(2)遠心分離法は気体(UF6)を用いる点では、気体拡散法と共通であり、気体の閉じこめ、とくに出口でのトラップを入念に行わなければならない。 遠心分離法特有の問題として、高速回転するドラムの軸封部のシールの問題がある。 きわめて多数のドラムを連結してカスケードを構成するので、一般工業用コンプレッサーの1万倍以上の気密度が要求される。 ラビリンス・シール、メカニカル・シール、スパイラル・シール等が使われる。

(3)

(a)レーザ法(原子法)

原子法では、235Uと238Uの電子エネルギーのわずかな差とレーザ光の単色性を利用する。 ウラン金属から発生した蒸気にきわめて狭い波長幅のレーザ光を照射し、235U原子のみを選択励起して235U+イオンにする。 イオンは電磁気的に分離・捕集する。

(b)レーザ法(分子法)

分子法では、UF6ガスに赤外領域のレーザ光を照射して235UF6分子の振動工ネルギーを選択励起する。 ついで紫外レーザ光により、235UF5(固体)とフッ素ガスに分離する。 235UF5は粉末として238UF6気体から分離することができる。

(c)化学交換法

化学交換法は同位体問の化学平衡や反応速度のわずかの違いを利用して分離する方法である。 化学交換法として最も有望なイオン交換法では、4価のウランと6価のウランを共存させると、235Uのほうがわずかに6価になりやすい性質を利用する。 6価のイオンを吸着するイオン交換樹脂を充填した吸着塔に溶液を流し込むと235Uが選択的に吸着される。

(参考文献) 火原協会講座「原子燃料サイクルと廃棄物処理」火力原子力発電技術協会

第3問

核燃料施設の臨界安全に関する次の各問について,簡単に答えよ。

(1)核燃料施設における単一ユニットの臨界を防止するための管理方法について,5つ記せ。

(2)核燃料施設における複数ユニットの臨界を防止するための基本的な方法について,2つ記せ。

(3)溶液系における臨界事故の反応停止機構は,原子炉の制御で用いられている負の反応度係数に類似しているが,溶接系での臨界状態の停止につながる現象について,3つ記せ。

第3問解答例

(1)単一ユニットの臨界防止手段

(この設問は、「管理方法」として抽象的なレベルの記述を求めているのか、具体的な技術手段を求めているのか不明確である。 安全審査指針から、前者の例が次のように読み取れる。)

  • 核燃料物質の質量管理
  • 核燃料物質および減速材の濃度および均一性の管理
  • 核燃料物質中の減速材および吸収材の割合の変動
  • 中性子吸収材の管理
  • 壁等からの中性子反射効果の考慮
  • 臨界されていない機器への核燃料物質の流入の防止

(2)複数ユニットの臨界防止

複数ユニットの臨界防止手段とは、「相互干渉効果を考慮すること」として要約することができる。さらに具体的に述べれば、

  • 幾何学的位置開係(立体角)
  • 単一ユニット間に存在する物質による中性子減速、吸収効果
  • 機器の落下、転倒などによる位置関係の変化

などの要素を考慮することが挙げられる。

(3)

  • ドプラー効果:原子炉の場合と同様に温度の上昇により238Uによる共嗚吸収が増大して反応度を下げる。
  • ボイド効果:蒸発や化学反応により気泡ができると、減速効果が低下して反応度を下げる。
  • 溶液の飛散:沸騰などにより液滴が飛散すると、反応度が低下する。

(参考文献) 実務テキストシリーズ「核燃料の臨界安全」原子力安全研究協会 があるが、やや詳しすぎる。

  • 昭和55年「ウラン加工施設安全審査指針について」
  • 昭和61年「再処理施設安全審査指針について」 (原子力安全審査指針集、大成出版社)

には、指針と解説がのっている。

第4問

軽水炉(LWR)燃料及び液体金属冷却高速増殖炉(LMFBR)燃料の湿式再処理について,主要な相違点を4つあげ説明せよ。 その際,必要ならぼ再処理に用いる機器について両者の違いを例示しながら説明せよ。

第4問解答例

一般にLMFBR燃料の湿式再処理は、軽水炉燃料の再処理より困難である。それは次のような理由による。

  1. 放射能の相違: 高速炉燃料の燃焼度は軽水炉燃料の場合の2-3倍大きい。 したがってある期間冷却した後の放射能は、ほぼこの比だけ大きい。 放射能が大きいことは、作業を困難にするだけでなく、溶媒の寿命を短くする。
  2. 核分裂性物質濃度の相違: 高速炉燃料は軽水炉燃料にくらべて、(特に照射後は)核分裂性物質濃度が格段に大きい。 このために臨界管理上の要求が厳しくなる。
  3. 付着ナトリウムの問題: 取り出し後の高速炉燃料にはナトリウムが付着している。 これをそのまま酸溶解しようとすると、激しく反応する。 したがってあらかじめナトリウムを除去しなければならない。
  4. 溶解の困難性: 軽水炉燃料でも、燃焼度が高くなると、Pd, Rhのような貴金属FPが合金介在物を形成し、酸溶解が困難になる。 高速炉燃料では燃焼度が高い上にプルトニウム核分裂では貴金属FPの生成割合が大きいので、溶解はさらに困難になる。
  5. 冷却期間の問題: 軽水炉燃料にも共通する問題であるが、冷却期間を長くとると核分裂性物質である241Puが崩壊して、241Amに変わり燃料としての価値を下げる。 高速炉燃料では 1. の理由により、より長期の冷却が要求されるうえにプルトニウム中の241Pu割合が大きい。

(参考文献)原子力化学工学シリーズ第IV分冊「燃料再処理と放射性廃棄物管理の化学工学」日刊工業新聞社

第5問

核燃料物質の取扱いに関連して 次の事項を簡単に説明せよ。

  1. EPMA (Electron Probe Microanalyzer, X線マイクロアナライザとも呼ばれている。)
  2. マイクロ波加熱直接脱硝法
  3. 129I
  4. 凝集沈澱処理法
  5. 高レベル放射性固体廃棄物処分のオーバーパック

第5問解答例

(1)EPMA

X線の分析装置の一種で、試料上に直径1ミクロン程度の細い電子ビームを集束し、被検物質から放出される特性X線の波長をX線分光器により測定し、定性・定量分折を行なう装置をいう。

(2)マイクロ波加熱直接脱硝法

プルトニウムを単体で取り出すことは核不拡散上好ましくないとの観点から、硝酸プルトニウム溶液を硝酸ウラニル溶液と混合して粉末に転換する方法が開発された。 具体的には、混合溶液をマイクロ波により直接加熱し、蒸発濃縮脱硝する。 この方法の長所は、①液調整、ろ過など複雑だった溶液工程が溶液の受入れだけになったこと、 ②プルトニウムとウランが均ーに混合されるとともに焼結性の良い粉末が得られること、 ③廃液量が少なく放射線管理が容易なこと、である。 (高速増殖炉FBR開発実用化データ集 Nuclear Industry Clearinghouse)

(3)129I

再処理廃棄物の放射能の主体は、アクチノイドのα放射能核分裂生成物のβ、γ放射能である。 前者は半減期が長く、後者は短い。 従って、前者と後者を化学処理によって分離し、前者を核分裂または核変換により消滅させることができれば、廃棄処分技術の観点から好都合である。しかし、核分裂生成物の中に例外的に長半減期の核種がある。それが129Iと99Tcである。 これらが処分技術上問題で、最近では、これらを更に他の核分裂生成物から分離し、核変換で消滅さることが考えられている。

(4)凝集沈澱処理法

低レベル液体廃棄物処理の最も安価な方法である。 その原理は、水溶液中のFe2O3またはリン酸カルシウムのような担体への放射性核種の吸着、あるいはCaCO3に伴うストロンチウムのようなある適当な結晶性沈澱物との同時晶出である。 生成したスラッジは沈降またはろ過によって捕集され、濃縮放射性廃棄物として取扱われる。 (原子力化学工学第IV分冊 燃料再処理と放射性廃棄物管理の化学工学)

(5)高レベル放射性固体廃棄物処理のオーバーパック

高レベル廃棄物処分において、地層処分というのは、万一漏れた時を仮定した場合での地質環境のバリヤ機能を評価のうえで取り込んだシステムであるので、放射性物質を精一杯外に漏らさないように工夫した廃棄物体の存在が前提になる。 廃棄物体は、再処理が組み入れられない場合は使用済燃料そのもの、再処理が組入れられている堪合は核分裂生成物等がガラス組織の中に混ざり込んだガラス固化体となる。 いずれも放射性物質を外に漏らさないための工夫として、さらに何らかの金属容器の存在をそれらの外側に想定している。 これをオーバーパックと呼ぶ。 (新版原子力ハンドブック オーム社

出典:

内田 正明; 吾勝 永子; 荒井 康夫; 湊 和生; 末武 雅晴; 高田 和夫; 井川 勝市, 核燃料取扱主任者試験問題解答例集, JAERI-Review 94-001, 1994年, http://dx.doi.org/10.11484/jaeri-review-94-001