第31回 核燃料取扱主任者試験 放射線の測定及び放射線障害の防止に関する技術

第1問

作業室の床面全域が137Csで一様に汚染した。 表面密度は200 Bq/cm2で遊離性汚染である。 この場合次の問に計算過程を示して答えよ。

(1) 表面密度と表面密度限度との比はいくらか。

解答例

137Csはβγ放射体で、α線は放出しないから表面密度限度は40 Bq/cm2である。 問題の表面密度と表面密度限度との比は、

200 Bq/cm2 ÷ 40 Bq/cm2 = 5

答 5

(2) 全面マスクを着用して除染作業を行ったとき、作業者の吸入する空気中の137Cs放射能濃度はいくらか。 但し、全面マスクの防護係数を50、除染作業による再浮遊係数を5×10-5 cm-1とする。

解答例

再浮遊係数を表面密度に乗ずると再浮遊による空気中濃度が算定できる。

200 (Bq/cm2) × 5 × 10-5 (cm-1) = 0.01 Bq/cc

マスクを着けた作業者が吸入する空気中濃度は、

0.01 Bq/cc ÷ 50 = 2 × 10-4 Bq/cc

答 2 × 10-4 Bq/cc

(注)マスクの防護係数は、作業環境空気中の放射性核種濃度が装着したマスク中の濃度の何倍になるか、その倍数である。

(3) 除染作業を1時間40分行った場合、作業者の137Csの体内摂取量はいくらか。 但し、作業者の呼吸率は毎分0.02 m3、作業中の空気中の放射性濃度は一定とし、吸入した137Csはすべて体内にとどまるものとする。

解答例

作業者が吸入する空気中濃度に作業者が吸入した空気の容積を乗ずれば体内摂取量が算定できる。 作業者が吸入した空気の容積は、

0.02 m3/min × (60+40) min = 2 m3 = 2 × 106 cc

であるので、体内摂取量は

2 × 10-4 Bq/cc × 2 × 106 cc = 4 × 102 Bq

答 4 × 102 Bq

第2問

次の文章の空欄に入る適切な語句、数値又は記号を番号とともに記せ。

(1) 226Ra-Be線源、124Sb-Be線源の遮へいには、[①中性子]線とγ線に対する考慮が必要である。

(2) β+線の飛程は[②β]線とほぼ同じであるが、最終的には[③電子]と結合して[④0.511]MeVの消滅放射線を[⑤2]本放出するので、 これに対する遮へいが必要である。

(3) ある放射性核種の物理的半減期をTp、生物学的半減期をTbとすると、[⑥実効半減期TeはTe=[⑦TpTb/(Tp+Tb)]で求められる。

(4) ある放射性核種の現時点における原子数をNo、半減期をT(s)とすると、崩壊定数λはλ=[⑧ln2/T]で、 t秒経過後の原子数Nと放射能Aは、それぞれN=[⑨No exp(-λt)]、A=[⑩λN]で求められる。

(5) シンチレーション検出器は、放射線を感じて光に変換する[⑪シンチレータ]と、その光を検出する[⑫光電子増倍管]とから構成される。

(6) 60Coは[⑬β]線と2本のγ線を放出し、このγ線のエネルギーは[⑭1.173]MeVと[⑮1.333]MeVである。

(7) 吸収線量の単位として、[⑯グレイ]が用いられる。1[⑯グレイ]は、放射線によって照射された物質[⑰1 kg]が 放射線から[⑱1ジュール]のエネルギーを吸収したときの吸収線量である。

(8) 自然放射線による被ばくは、年間約[⑲2.4]mSvで、原子力施設周辺の一般公衆に対する線量限度の約[⑳20※]倍である。

原子力安全委員会指針の軽水炉に対するALARAの線量目標値である年間50 μSvを“原子力施設周辺の一般公衆に対する線量限度”と解釈。

第3問

次に①から⑤に示す放射性核種の空気中濃度の測定において、採取に用いる捕集材及び測定に用いる検出器として適切なものを、 イに示す捕集材及びロに示す検出器の中からそれぞれ選択せよ。

〔解答例〕⑥235U -- 水 -- TLD

90Sr(粒子状)、 ② 239Pu(粒子状)、 ③ 3H(水蒸気状)、 ④ 131I(ガス状)、 ⑤ 60Co(粒子状)

イ.捕集材:ろ紙、シリカゲル、活性炭カートリッジ

ロ.検出器:GM検出器、NaI(Tl)シンチレーション検出器、液体シンチレーション検出器、ZnS(Ag)シンチレーション検出器

解答例

90Sr(粒子状) -- ろ紙 -- GM検出器 ② 239Pu(粒子状) -- ろ紙 -- ZnS(Ag)シンチレーション検出器 ③ 3H(水蒸気状) -- シリカゲル -- 液体シンチレーション検出器 ④ 131I(ガス状) -- 活性炭カートリッジ -- NaI(Tl)シンチレーション検出器 ⑤ 60Co(粒子状) -- ろ紙 -- NaI(Tl)シンチレーション検出器

第4問

放射線障害に関わる次の文章の中の空欄に最も適した語句を下から選び、その記号を番号とともに記せ。

照射された個体のうち、被ばく線量が少ない場合、あるいは局部照射された場合には急性死をまぬがれ、長期間生存を続ける。 このような個体では、[①被ばく]後、数年~数十年を経てから障害が現れることがある。 このような長期間の[②潜伏期]をもつ障害を晩発障害という。 放射線業務従事者では、[③急性]死を起こすような大線量被ばくをうける可能性は極めて[④まれ]なことである。 むしろ[③急性]障害を起こさないような小線量被ばくをうける機会のほうが多いと考えられ、晩発障害が問題となる。 晩発障害には次のようなものが考えられる。

(イ)[⑤悪性腫瘍

皮膚、造血器官、骨、肺、甲状腺などに[⑤悪性腫瘍]の発生がみとめられている。 種々の臓器・組織における致死性の[⑤悪性腫瘍]の発生確率を[⑥リスク係数]という。

(ロ)寿命の短縮

放射線照射をうけると、急性あるいは晩発性障害によって生存期間が短縮する。 このほかに放射線は[⑦非特異]的老化を促進させ、その結果、寿命を短縮させる。

(ハ)白内障

放射線によって目の[⑧水晶体]が照射されると、[⑧水晶体]の赤道付近の上皮細胞が障害をうけ、 長い[②潜伏期]をおいて[⑧水晶体]の混濁を起こす。これを放射線白内障という。 白内障に対する中性子線の[⑨生物学的効果比]は高く、X線γ線に比べて[⑩小線量]で発生する。

第5問

放射線防護に関連する次の用語について、簡単に説明せよ。

(1) 末しょう血液中の白血球像
(2) 線量率効果
(3) 軟ベータ核種
(4) ビルドアッブ係数
(5) 制動放射

解答例

(1) 末しょう血液中の白血球像

体内を流れる血液中の白血球について、質的、量的、形態的に検査した結果の記録をいう。 白血球像の主な項目は、白血球数及び白血球百分率である。 白血球は、(無色の有核の細胞で、)好中球(かん球、分葉球、その他)、好酸球、好塩基球、リンパ球及び単球に分けられる。 白血球は、1 mm3に約5,000~9,000個含まれている。

(2) 線量率効果

X線あるいはγ線など(低LET放射線)によって総線量を同じにして生物に1回照射を行ったとき、 線量率が異なると効果の大きさが異なる場合が多い。 一般に小さい線量率で照射すると同一効果を得るためには多くの総線量を必要とする。 これを線量率効果という。生体に回復作用があるために起こる。

(3) 軟ベータ核種

3H、14C、35Sなど低エネルギーのβ線だけを放出する放射性核種。

(4) ビルドアップ係数

広い線束(ビーム)のγ線またはX線が物質中を透過するとき散乱線が加わり、 細い線束の場合に適合する減衰の式 (I=Io exp(-μx)) からずれてくる。 ビルドアップ係数は、このずれを補正する係数であり、記号Bで通例表される。 Bは1より大きく、γ(X)線のエネルギー、物質の種類及び幾何学的状況などで異なった値となり、 減衰式は I=Io B exp (-μx) で表される。 ここに、xは物質の厚さ、μは線減弱係数、Ioは透過前の線量、Iは透過後の線量である。

(5)制動放射

高速の荷電粒子が原子核に接近すると原子核との間の強いクーロンカによって加速度を受けて運動エネルギーを失い、 電磁波を放射することを制動放射といい、放射されるX線制動放射線という。 電子は質量が小さいので原子核との間のクーロンカによって運動エネルギーを失いやすく、そのため制動放射線を発生しやすい。

出典

谷内 茂康; 佐藤 忠; 須賀 新一; 小室 雄一; 内田 正明; 中島 邦久; 中村 仁一; 雨澤 博男; 大村 英昭; 湊 和生; 武田 常夫; 櫛田 浩平; 傍島 眞 核燃料取扱主任者試験問題・解答例集,1999~2003年, JAERI-Review 2003-025,https://doi.org/10.11484/jaeri-review-2003-025